天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
56
会議情報

遠隔不斉誘導反応の開発とポリプロピオネート類の合成研究
中村 竜也佐藤 友彦大塚 麻衣子奥村 真央家喜 高徳細川 誠二郎
著者情報
会議録・要旨集 フリー HTML

p. Oral2-

詳細
遠隔不斉誘導反応の開発とポリプロピオネート類の合成研究

我々の研究室では、ポリケチド類のあらゆる置換パターンを短工程で合成する迅速自在合成法の確立を目指し、方法論の開発研究と全合成研究を行っている。この一環として演者らは、不斉補助基を持つシリルジエノールエーテルを用いるビニロガス向山アルドール反応(遠隔不斉誘導反応、下図eq 1)を開発している。1 この反応は不斉炭素の導入とある程度の大きさの炭素官能基団を一挙に導入できることから、天然物の短工程合成を実現する方法として国内外の多くの全合成研究に用いられている。我々は、遠隔不斉誘導反応によって二重結合を含む生成物が得られることに注目し、これを酸化・還元することによって立体化学および酸化段階を自在かつ短工程で構築するポリケチド合成法の確立を目指して研究を行っている(eq 2)。本発表では、最近の演者らの遠隔不斉誘導反応の開発とそれらを用いたポリプロピオネート類の短工程合成について報告する。

・Syn選択的遠隔不斉誘導反応2

我々が初めに開発した遠隔不斉誘導反応 (上図eq 1) はanti型の生成物2を与えるものであった。最近、当研究室にて同じシリルジエノールエーテル1を用いてsyn選択的な遠隔不斉誘導反応の開発に成功した(下図eq 3および次ページeq 4)。2,3 すなわち、アルデヒドに対しシリルジエノールエーテルを1.5当量、TiCl4を4当量加えることにより、syn体4を高収率、高立体選択的に得た。これにより、同一の不斉素子1からルイス酸の当量を変えるだけでsyn体とanti体を作り分けることができるようになった。

・アセタールとのsyn選択的遠隔不斉誘導反応3

 一方、求電子剤としてアセタールを用いた場合、ルイス酸を1当量用いることでsyn体5が高収率、高立体選択的に得られることを見出した(eq 4)。この反応ではワンポットにてアルデヒドからアセタールへの変換と遠隔不斉誘導反応が行える上、R’にBnを用いることで、水酸基が保護されたsyn体を一挙に構築できることから(eq. 5)、有用性の高い方法であると考えている。

・還元型ポリプロピオネートの迅速自在合成と抗リーシュマニア物質セプトリアマイシンAの簡便合成4

遠隔不斉誘導反応は一挙にポリプロピオネート骨格を構築できる反応であるため、複数の二重結合を有する生成物9(下図1)のそれぞれの二重結合を位置および立体選択的に還元できれば速やかに還元型ポリプロピオネートを構築することが可能となる。我々は最近、9から数工程で2,4,6-トリメチルオクタン酸類のすべての立体異性体を数工程で合成することに成功した(図1)。まずアリルアルコール部の還元を

図1.遠隔不斉誘導反応と位置および立体選択的還元

行うが(step a)、この際、フリーの水酸基を持つ9に対して直接、Schrock-Osborn触媒存在下にて水素添加を行うと4,6-syn体10が高立体選択的に得られた。一方、9の水酸基をTBS化した後、白金触媒にて水素添加を行うと、4,6-anti体11が優先して得られた。さらに、a,b-不飽和イミドを還元する(step b)際に、Birch還元を行うと2,4-syn体が、水素添加反応

(View PDFfor the rest of the abstract.)

我々の研究室では、ポリケチド類のあらゆる置換パターンを短工程で合成する迅速自在合成法の確立を目指し、方法論の開発研究と全合成研究を行っている。この一環として演者らは、不斉補助基を持つシリルジエノールエーテルを用いるビニロガス向山アルドール反応(遠隔不斉誘導反応、下図eq 1)を開発している。1 この反応は不斉炭素の導入とある程度の大きさの炭素官能基団を一挙に導入できることから、天然物の短工程合成を実現する方法として国内外の多くの全合成研究に用いられている。我々は、遠隔不斉誘導反応によって二重結合を含む生成物が得られることに注目し、これを酸化・還元することによって立体化学および酸化段階を自在かつ短工程で構築するポリケチド合成法の確立を目指して研究を行っている(eq 2)。本発表では、最近の演者らの遠隔不斉誘導反応の開発とそれらを用いたポリプロピオネート類の短工程合成について報告する。

Syn選択的遠隔不斉誘導反応2

我々が初めに開発した遠隔不斉誘導反応 (上図eq 1) はanti型の生成物2を与えるものであった。最近、当研究室にて同じシリルジエノールエーテル1を用いてsyn選択的な遠隔不斉誘導反応の開発に成功した(下図eq 3および次ページeq 4)。2,3 すなわち、アルデヒドに対しシリルジエノールエーテルを1.5当量、TiCl4を4当量加えることにより、syn4を高収率、高立体選択的に得た。これにより、同一の不斉素子1からルイス酸の当量を変えるだけでsyn体とanti体を作り分けることができるようになった。

・アセタールとのsyn選択的遠隔不斉誘導反応3

 一方、求電子剤としてアセタールを用いた場合、ルイス酸を1当量用いることでsyn5が高収率、高立体選択的に得られることを見出した(eq 4)。この反応ではワンポットにてアルデヒドからアセタールへの変換と遠隔不斉誘導反応が行える上、R’にBnを用いることで、水酸基が保護されたsyn体を一挙に構築できることから(eq. 5)、有用性の高い方法であると考えている。

・還元型ポリプロピオネートの迅速自在合成と抗リーシュマニア物質セプトリアマイシンAの簡便合成4

遠隔不斉誘導反応は一挙にポリプロピオネート骨格を構築できる反応であるため、複数の二重結合を有する生成物9(下図1)のそれぞれの二重結合を位置および立体選択的に還元できれば速やかに還元型ポリプロピオネートを構築することが可能となる。我々は最近、9から数工程で2,4,6-トリメチルオクタン酸類のすべての立体異性体を数工程で合成することに成功した(図1)。まずアリルアルコール部の還元を

図1.遠隔不斉誘導反応と位置および立体選択的還元

行うが(step a)、この際、フリーの水酸基を持つ9に対して直接、Schrock-Osborn触媒存在下にて水素添加を行うと4,6-syn10が高立体選択的に得られた。一方、9の水酸基をTBS化した後、白金触媒にて水素添加を行うと、4,6-anti11が優先して得られた。さらに、a,b-不飽和イミドを還元する(step b)際に、Birch還元を行うと2,4-syn体が、水素添加反応を用いると2,4-anti体が優先して得られた。これらの立体異性体はカラムクロマトグラフィーにて分離可能であり、望みの立体化学を持つ還元型プロピオネート体が実用的な収率で得られた。

 次にこの方法論を使って抗リーシュマニア活性を持つセプトリアマイシンA5の合成研究を行った(図2)。図1で得られた不飽和イミド10に対してBirch還元を行い、生成物に酸を作用させてラクトン16を得た。16をラクトールへと還元した後、N-ヒドロキシピリドン18とKnovenergel反応を行い、セプトリアマイシンAの短工程合成に成功した。

図2.セプトリアマイシンAの合成.Reagents and conditions: a) Na, liq. NH3, THF, -78 oC; b) TsOH·H2O, PhMe, 78% (2 steps, dr = 16:1); c) DIBAL-H, CH2Cl2, -78 oC, 30 min,; d) amine 17, pyridone 18, 1,4-dioxane, reflux, 20 h, 79% (2 steps, dr = 8:1).

・遠隔不斉誘導型アシル化反応と抗生物質カフレフンジンの形式合成

最近我々は、シリルジエノールエーテル1をSnCl4存在下、飽和炭化水素鎖を持つ酸無水物と反応させることでアシル化体19を高立体選択的に得ることに成功した(eq 6)。本反応では生成物がケトンであることから、左側にも炭素鎖を伸長できる。一方、芳香族カルボン酸の酸無水物とは本反応が進行しないことが分かった。

本反応を使って抗生物質カフレフンジン6のポリプロピオネート鎖の短工程合成を達成した(図3)。デカナール20とプロピオンアルデヒドとの縮合7によって得られる21に対して遠隔不斉誘導反応を行った後、シリル化と水素添加、DIBAL還元によってアルデヒド23を合成した。不斉素子ent-1の遠隔不斉誘導型アシル化反応によりent-3を得た後、アルデヒド23とのアルドール縮合を行って、一挙にa,b,g,d-不飽和ケトン24へと導いた。24のイミド部分の加水分解を行って、エピ化を伴うことなく既知の合成中間体258を得た。これにより、市販の20より直線工程数が7工程でポリプロピオネート化合物25の合成に成功した。

図3.カフレフンジンの形式合成.Reagents and conditions: a) piperidine, AcOH, CH3CN, rt, 3 h 89%; b) TiCl4, CH2Cl2, -78 to -40 oC, 2 d, 81% (dr >20:1); c) TBSCl, imidazole, DMF, 40 oC, 12 h, 97%; d) H2, Pt/C, EtOH, -10 oC, 12 h, 60%; e) DIBAL-H, CH2Cl2, -78 oC, 20 min, 85%; f) SnCl4, CH2Cl2, -78 to -40 oC, 36 h, 84% (dr >20:1); g) SnCl4, Et3N, CH2Cl2, -40 oC, 25 min, then aldehyde 10, CH2Cl2, -40 oC, 23 h, 76%; h) LiOOH, THF, H2O, 0 oC to rt, 12 h, 85%.

・酸化型ポリプロピオネートの合成と抗生物質アキュレキシマイシンC25-C40セグメントの合成

遠隔不斉誘導反応の生成物の二重結合を酸素官能基化することによって短工程で酸化型ポリプロピオネートを構築できることが予想される。これを実践するにあたり、抗生物質アキュレキシマイシン9を標的化合物として合成研究を行っている(図4)。合成戦略としては、C25-C32セグメントとC33-C40セグメントをそれぞれ合成した後、両者を接続してC25-C40セグメントとする。ここで、どちらのセグメントも遠隔不斉誘導反応とエポキシドの転位反応を利用して合成することとした。まず、C25-C32セグメントの合成を行った。シリルジエノールエーテル26を用いて遠隔不斉誘導反応を行い27を得た後、これをエポキシド28へと導いた。28のセミピナコール転位10によって4つの不斉中心を持つアルデヒド29(C33-C40セグメント)を合成した。次にC25-C32セグメントの合成を行った。シリルジエノールエーテル30を用いて遠隔不斉誘導反応を行った後、2工程でこれをエポキシアルコール32へと変換した。32に対してルイス酸存在下、エポキシドの転位反応を行い、b-ヒドロキシケトン33を得た。33の水酸基を保護してC25-C32セグメント34とした。得られたアルデヒド29とMOM化体34とをアルドール反応によって接続し、C25-C40セグメント35を合成した。

図4.アキュレキシマイシンC25-C40セグメントの合成.

以上のように、我々は、キラルなシリルジエノールエーテルを用いるビニロガス向山アルドール反応(遠隔不斉誘導反応)を開発するとともに、これらを基軸としたポリケチド類の短工程合成を実践している。本講演では、遠隔不斉誘導反応のscope & limitationを含む詳細を報告する。

【参考文献】

1) S. Shirokawa, M. Kamiyama, T. Nakamura, M. Okada, A. Nakazaki, S. Hosokawa, S. Kobayashi, J. Am. Chem. Soc., 126(42), 13604-13605, (2004); 2) Y. Mukaeda, T. Kato, S. Hosokawa, Organic Letters, 14 (20), 5298-5301 (2012); 3) H. Tsukada, Y. Mukaeda, S. Hosokawa, Organic Letters, 15 (3), 678-681 (2013); 4) T. Nakamura, M. Harachi, T. Kano, Y. Mukaeda, S. Hosokawa, Organic Letters,15 (12), 3170-3173 (2013); 5) M. Kumarihamy, F. R. Fronczek, D. Ferreira, M. Jacob, S. I. Khan, N. P. D. Nanayakkara, J. Nat. Prod. 2010, 73, 1250–1253. 6) Mandala, S. M.; Thornton, R. A.; Rosenbach, M.; Milligan, J.; Garcia-Calvo, M.; Bull, H. G.; Kurtz, M. B. J. Biol. Chem. 1997, 272, 32709-32714; 7) Markert, T.; Pierik, T. T.; Faber, W. U.S. patent 0153485, 2003; 8) S. Shirokawa, M. Shinoyama, I. Ooi, S. Hosokawa, A. Nakazaki, S. Kobayashi, Org. Lett. 2007, 9, 849-852; 9) H. Murata , I. Ohama, K. Harada, M. Suzuki, T. lkemoto, T. Shibuya, T. Haneichi, A. Torikata, Y. Itezono, N. Nakayama, J. Antibiot. 1995, 48, 850-862; 10) M. E. Jung, D. C. D'Amico, J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 12208-12209.

 
© 2014 天然有機化合物討論会電子化委員会
feedback
Top