天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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  • 大澤 歩, 谷野 圭持, 難波 康祐
    p. Oral1-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1. 序論

    Kansuinine A (1) は1975年上村・平田によって、生薬甘遂として利用されている中国産トウダイグサ科植物Euphorbia kansui Liouの根から単離されたジテルペンである(1)。生物活性としてマウスL-M細胞における神経成長因子NGFの生産促進作用が知られており、アルツハイマー病をはじめとする神経変性疾患治療への利用が期待されている(2)。また、1は現在報告されている他のNGF生産促進物質に比べ非常に強力な促進活性を示す一方で、高濃度条件下においても細胞毒性をほとんど示さないことから作用機序の点からも興味が持たれている。構造上の特徴として高度に酸化されたjatrophane骨格中に5員環上の4つの不斉中心を含む7連続不斉中心とヘミケタール型架橋構造を含む12員環骨格を有することが挙げられる。我々は1の興味深い生物活性と化学構造に着目し、1の全合成研究に取り組んだ。

    2. 合成計画

    Kansuinine Aの逆合成解析をScheme 1に示す。1の12員環は触媒的NHKマクロ環化反応(3)を用いて2から構築するものとし、2はケトン3とアルデヒド4とのアルドール反応に続くヘミケタールの形成により導けるものとした。4はL-酒石酸ジメチル (5) の立体化学を利用した炭素鎖伸長反応によって導くことを計画した。一方、5員環上の4つの不斉点を備えた3はエポキシアルコール6のエポキシド部位の位置および立体選択的な還元的開環によって合成できるものとし、6はエノン7から導けるものとした。7は既知の光学活性シクロペンテノン誘導体8から立体選択的に合成できると考えた。全合成に向けた最初の課題は、連続する4つの置換基が全てcis に配置された光学活性シクロペンタン核の構築にあると考え、まず5員環フラグメント3の合成に着手した。

    3. 5員環フラグメント3の合成①

    既知のラセミ体のエノン8から出発し、メチル基の1,4-付加に続くtert-BuO基の脱離によりシクロペンテノン9とした。9は低沸点であったため粗生成物のままホルムアルデヒドとのBaylis-Hillman反応に付し、生じた水酸基を保護しエノン7とした。このエノンに対し、Grignard試薬を作用させアリルアルコール10へと変換後、5員環上のオレフィン部のみを立体選択的にエポキシ化し6aとした。次いで、種々の条件にてエポキシドの還元的開環を検討したが目的物11は得られなかった。一方、酸性条件下での開環を試みたところ、ビニル基が転位したケトン12を収率よく与えた。この結果を基に、基質を変更し開環反応の検討を行うこととした。すなわち、ビニル基を水素に置換した6bで同様のヒドリド転位反応が進行すれば、5員環上の3つの不斉点がcisに配置されたケトン13が得られると期待した。

    4. 5員環フラグメント3の合成②

    まずエポキシアルコール6bの合成を行った(Scheme 3)。すなわち光学活性エノン8より導いた7をLuche還元によりジアステレオ比5:1でアリルアルコール9へと変換したのち、mCPBAを作用させると、水酸基の配向によりb面からのみ反応が進行したエポキシアルコール6bが得られた。6bが得られたので種々のBronsted酸およびLewis酸を用いてヒドリド転位を検討した結果、シリルトリフラートを用いた

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  • 野川 俊彦, ジャン ジュンピル, 本郷 やよい, 清水 猛, 岡野 亜紀子, 二村 友史, 高橋 俊二, アン ジョンセオ, 長田 裕之
    p. Oral10-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    放線菌や糸状菌をはじめとする微生物は、多様な構造と活性を有する二次代謝産物を生産することで知られている。それら二次代謝産物は、医薬品や農薬またはそのリード化合物として利用されているものが多い。さらにケミカルバイオロジー研究における生命現象解明のための有用なツール、すなわちバイオプローブとして利用されているものもある。1これら代謝産物を効率よく探索・単離するために、我々の研究室ではフラクションライブラリーとスペクトルデータベースを用いる方法を構築し利用している。2フラクションライブラリーは、微生物培養液をHPLCや中圧液体クロマトグラフィー(MPLC)により系統的に分画することで作製し、得られたフラクションをPDA-LC/MSにより分析することでデータベースを構築している。データベースは、代謝産物の物性を二次元上の分布として表現したNPPlot(Natural Products Plot)を作成し利用している。今までに、このNPPlotを活用することで特徴的な構造を有する新規化合物を発見・単離してきた。3さらに昨年度の本大会において、複数の菌株より作成したNPPlotの分布パターンの比較による新規化合物の探索と単離について報告した。4今回、放線菌Streptomyces sp. RK85-270のフラクションライブラリーより作成したNPPlotの分布パターンから菌株特有の化合物群の探索を行い、2種の新規環状デプシペプチド1および2(図1)を見出すことができたので、それらの単離・構造決定について報告する。

    図1.新規環状デプシペプチド1および2の構造

    【微生物代謝産物フラクションライブラリーの作製】

    放線菌Streptomyces. sp. RK85-270の30 L培養液に等量のアセトンを加え撹拌抽出後、吸引ろ過により菌体を除去し含水アセトン抽出液を得た。減圧下でアセトンを留去し、残った水懸濁液を酢酸エチルにより分配することで有機溶媒可溶性画分と水溶性画分を調製した。有機溶媒画分を減圧濃縮することで抽出物37.2 gを得た。このうち28.7 gをシリカゲル順相MPLCにより、クロロホルム/メタノールのステップワイズ溶出を用いて8分画とした。それぞれを逆相HPLCにより移動相にアセトニトリル/0.05%ギ酸水のグラジエント溶出を用いて一定時間で分画することでフラクションを作製した。水溶性画分は、DIAION HP-20によりメタノールに可溶なものを抽出後、得られたメタノール可溶性画分を逆相MPLCによりメタノール/水を移動相として分画することでフラクションを作製した。以上の方法で約400フラクションを作製した。各フラクションをPDA-LC/MSにより分析し、含有成分のUV吸収およびマススペクトルの収集を行い、成分情報の付加したフラクションライブラリーとした。

    図2.放線菌RK85-270のNPPlotと特徴的分布を示した領域の拡大および

    それら化合物のUV吸収スペクトル

    【スペクトルデータベースNPPlot(Natural Products Plot)の作成】

    PDA-LC/MS分析より得られたUV吸収およびマススペクトルデータをもとに化合物探索に利用するためのスペクトルデータベースを作成した。一般的なスペクトルデータベースに加え、研究室オリジナルのデータベースNPPlot

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  • 尾仲 宏康, 林 昌平, 尾﨑 太郎, 浅水 俊平
    p. Oral11-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1.序論

     放線菌は放射状に菌糸を生やして生育する細菌の一群で多様な種を有している。主に土壌中に広く生息し、環境中では有機物の分解者としての役目を果たしているが、産業的には抗生物質を作る菌として知られている。結核の特効薬・ストレプトマイシンや抗生物質・エリスロマイシン、免疫抑制剤・タクロリムス、抗寄生虫薬・エバーメクチンなどは放線菌が作る有用な二次代謝産物であり、このことから放線菌は有用な天然有機化合物の宝庫であるといえる。しかしながら、放線菌を実験室で純粋培養しても、本来、菌が作ることの出来る二次代謝産物のほんの一部しか生産していないことが、近年のゲノム解析結果から明らかになっている。一例を挙げると、全ゲノム解析がなされた放線菌、Streptomyces avermitilisにおいては実に38種類の二次代謝生合成遺伝子クラスターが見出されているが、実際に生産が確認された二次代謝産物は16種類であり、残りの約6割にあたる二次代謝産物については、未知のままである。つまり、これまで見出されてきた放線菌二次代謝産物は二次代謝産物の中のほんの一部に過ぎず、放線菌ゲノムには確かに刻まれているが、未利用の天然物資源が依然として多数存在しているということを意味している。現在、これら未発現二次代謝産物生合成遺伝子群を何らかの方法で強制発現させ、その生産物を同定する研究に注目が集まってきている。

     このような未発現遺伝子群の発現手法の一つとして異種発現がある。これは、発現させたい遺伝子全長をコスミドベクターなどを使って、長距離クローニングし、別の放線菌宿主を形質転換して、代謝物を得る方法である。必ずしも全ての未発現生合成遺伝子群が異種発現によって発現するわけではないが、宿主特有の発現抑制等がかかっていた場合は、その制御が解除し、代謝物を蓄積するようになる例が幾つか報告されている。

     本研究では、プロテオソーム阻害剤・ラクタシスチンの生産菌として知られているStreptomyces lactacystinaeusのゲノム探索から、新規チオペプチド生合成遺伝子クラスターを見出し、異種発現により、遺伝子産物が新規チオペプチド・lactazole(ラクタゾール)であることを明らかにした。lactazolesは環状構造のサイズやアミノ酸の組成において、既知のチオペプチドとの類似性が低く、生合成に必要な遺伝子数も少ないため、遺伝子組換えなどの遺伝子操作に適していることが示唆された。また、今回の発見によって、チオペプチドの構造レパートリーが拡大したことにより、新たなチオペプチド系抗生物質の開発が期待できる。

    2.ゲノム探索による新規チオペプチド生合成遺伝子クラスターの発見

     放線菌Streptomyces lactacystinaeusのゲノム解読の結果、本ゲノム中には6個の遺伝子だけからなる、これまでに類を見ない最小単位のチオペプチド生合成遺伝子クラスターの存在を確認した。これは、少なくとも10個以上の遺伝子で構成されている従来のチオペプチド生合成遺伝子群と比較して、かなり単純な構成であった(図1)。このような単純な遺伝子構成は、簡便な遺伝子組換え操作ができるという利

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  • 岸本 真治, 西村 慎一, 服部 明, 波多野 和樹, 五十嵐 雅之, 掛谷 秀昭
    p. Oral12-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    鉄は酸化・還元酵素の活性中心として一次代謝に深く関わっており、生命にとって必須の元素である。しかし、自然界において鉄は水溶性の乏しいFe(III) として存在しているため、微生物はしばしば鉄の欠乏した環境にさらされる。そのような環境において、微生物はシデロフォアと呼ばれる低分子化合物を分泌し、水溶性の高いFe(III)-シデロフォア錯体を形成させ、この錯体を能動的に取り込むことで必要な鉄を得ている1。本発表では、天然物としては非常に稀なアシルグアニジン構造を有するシデロフォアchlorocatechelin A (1) およびその類縁化合物chlorocatechelin B (2) について、単離・構造解析と全合成、およびシデロフォア活性を報告し、これらシデロフォアの生物学的意義についても議論する。

    Chlorocatechelin A (1) およびB (2) の単離・構造決定

    我々はCAS (Chrome Azurol S) アッセイ2を用いて約1100株の微生物抽出液ライブラリーのスクリーニングを行い、強い鉄キレート活性を示すStreptomyces属放線菌ML93-86F2株を見出した。この放線菌株を大量培養後、各種クロマトグラフィーを用いて精製し、新規シデロフォアchlorocatechelin A (1, 75.6 mg) およびB (2, 12.4 mg) を単離することに成功した。

    高分解能ESIMSおよび一次元NMRスペクトルの解析から1の分子式をC26H30Cl2N6O11と決定した。続いてDQF-COSY、HMQC、HMBC解析から、1が二つの4-chloro-2,3-dihydroxybenzoic acid (CDB)、一つのArg、および一つのNδ-hydroxy-Nδ- formyl ornithine (hfOrn)から構成されていること、さらにこれら構成ユニットがCDB1-Arg-hfOrnの順で結合していることを明らかにした(Fig. 1a)。しかし、CDB2の結合位置はこれらNMR解析のみでは決定することができなかった。そこで、CDB2の結合位置を明らかにするためにMS/MS測定と重水素交換試験を行った。MSMS測定で1から(CDB)2-Arg相当のフラグメントイオンが生じたことからCDB2がhfOrnに結合している可能性を否定することができた(Fig. 1c)。一方、重水素交換試験においてCDB1の2位および3位が負の値を示したことからCDB2がCDB1に結合している可能性も否定することができた。これらの結果からCDB2の結合位置をArgのグアニジル基と決定した(Fig. 1d)。さらに、改良Marfey法3を用いてArgおよびhfOrnがD体であることを明らかにし、1の化学構造を決定することができた。

    2の分子式は高分解能ESIMSおよび一次元NMRスペクトルの解析よりC18H25ClN4O8と決定した。各種二次元NMRの解析により2はCDB、Orn、hfOrnがこの順に結合した化合物であることが明らかとなった(Fig. 1b)。続いて改良Marfey法3により構成アミノ酸の立体を決定することで2の化学構造を明らかにした。

    Chlorocatechelin A (1) の全合成

    今回見出したchlorocatechelin A (1) が特異な構造を有していたことから、合成によってその構造を演繹的に証明することとした。Argを含む左セグメント6とhfOrnを含む右セグメント10に分けて1の合成を行った。左セグメント6の合成では、Morieらの報告4をもとに出発原料であるo-vanillin (3) から3ステップで4位選択的にニトロ基を導入した化合物4を合成

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  • 安元 健, 伊藤 志保美, 浮穴 学宗, ツインゴーネ アドリアーナ, ロッシ ラケーレ, ソプラノ ビットリオ
    p. Oral13-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    腔腸動物スナギンチャク(Palythoa spp.)から発見されたパリトキシン(palytoxin,PLTx)と同族体は複雑な構造と強力な毒性を持つ1。演者ら(TY,TU))は底生渦鞭毛藻Ostreopsis siamensisから42-hydroxy-3,26-didemethyl-19,44-dideoxypalytoxinを単離決定し,最近,LC-QTOF を使用して伊計島産O. cf. ovata 中のovatoxin-a,-d,-e(IK2) の新規構造を推定した2,3。一方,Ciminielloらは地中海産Ostreopsis cf. ovata から単離したovatoxin-aの構造を42-hydroxy-17,44,64-trideoxypalytoxinと決定した4。本研究はLC-MSを用いてPLTx類縁体の高感度・迅速構造解析法を開発して化学構造と分布の多様性,生合成解明,安全性監視への端緒とすることを目的とした。

    [方法] スペクトル測定はLC(ESI)-TOFMS(Agilent Technology)を用いて正・負両モードで行い,質量100~3000の範囲のイオンを抽出した。本文中のm/zは小数点以下を省略してある。LCは移動相に0.1%ギ酸/MeCNによる勾配法を用いた。PLTxは市販品を使用し,混在するpalytoxin carboxylic acid(PLTxCOOH)とpalytoxin amide (PLTx-NH2)も対象とした。渦鞭毛試料はナポリ湾産O. cf. ovata (AZ株)の培養藻体をMeOHで抽出して使用した。誤差の許容値は10ppmとした。

    [パリトキシンの正イオンスペクトル] フラグメントイオンは生成機構に基づいて3型に分類された。第一は115-NH2に電荷を有し,チャージリモートフラグメンテーションで生じる(Fig.1)。C79-C81-triol周辺の開裂と脱水で生じるイオン(m/z744,726,708,804,798,768)はPLTx同族体に特徴的である。m/z916とその脱水イオンは73-OHの存在を示し,天然同族体73-deoxypalytoxinとの区別に役立つ。F環の開裂で生じるイオン群は,70-deoxy の推定構造を持つovatoxin-a-IK2との区別に役立つ。その他の主要なC-C結合の開裂位置も図中に示す。結合が切断されて生じる最初のモノエンのイオンは観測されず,共役が進行してトリエン以上になって観測される。水酸基の位置が適切でなければ脱水による共役は進行せず,イオンの確実な同定を可能とする。第二のグループはC1に結合した末端構造(A1+A2)中のアミド窒素が正電荷を担うと推定され,C8'からC11に至る部分構造の情報を与える(Fig.2)。末端の3-aminopropanol(A1)が脱落したm/z740のイオンは,dioxabicyclononane環の存在と位置を示す唯一のイオンである。開裂箇所のC28-C29結合の近傍に水酸基が存在しないので,脱水による共役化が進行せず,イオン強度が低い。第三のグループは炭素結合が2か所で同時に開裂し,その後の脱水によって生じた共役ポリエンである(Fig.3, 4)。A環とD環周辺の開裂の組み合わせによって多様なイオンが生成し,水酸基の情報を与える。例えば炭素数39の共役ポリエンでは水酸基5個の脱離で生成する。C41-C46間の水酸基は4個だけなので脱水は13-OHから20-OHに向けて進行している。

    [パリトキシンの負イオンスペクトル] 第一のグループはD環周辺の開裂によって生じ,C1に結合した末端アミド構造は保持されている。第二グループは115-NHを有し,鎖長が長くて水酸基(酸素原子)の数が増加すると観測される。第三グループのフラグメントm/z947ではC1-アミドが開裂してアルドヒドを生成したと推定さ

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  • 江越 脩祐, 山越 博幸, 闐闐 孝介, 岩下 利基, 石丸 泰寛, 袖岡 幹子, 上田 実
    p. Oral14-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    序論

     植物病原菌Pseudomonas syringaeから単離構造決定されたコロナチン (+)-1は、非アミノ酸部のコロナファシン酸 (+)-2と、アミノ酸部のコロナミン酸 (+)-3からなる植物毒素である1) 。コロナチン (+)-1は、植物ホルモンであるジャスモン酸 (–)-4にイソロイシンが縮合した、7-epi-ジャスモノイルイソロイシン (+)-5のミミックであり、ジャスモン酸 (–)-4による傷害応答シグナル伝達と同様の生理活性がある2)。さらに、コロナチン (+)-1は、ジャスモン酸 (–)-4 にはない植物の気孔を開口させる生理作用がある3) 。近年では、コロナチン(+)-1の気孔開口作用は、病原菌が感染する際の感染経路を確保するために必要であると考えられており4、植物病理学の観点からも大きな注目が集まっている。しかし、その詳しい作用機構は未だに解明されていない。そこで著者らは、コロナチン(+)-1 の気孔を開口させる作用メカニズムの解明を目指し研究を行った。

    Figure 1. コロナチン関連化合物とジャスモン酸の構造

    コロナチンの既知受容体と気孔開口作用の関連性

     コロナチン(+)-1は、植物生体内で7-epi-ジャスモノイルイソロイシン (+)-5のミミックとして、その既知受容体であるCOI1-JAZ複合体を介して様々な生理活性を示す5。著者らは、コロナチン(+)-1の気孔開口作用もCOI1-JAZ複合体を介した現象であるかを検証することにした。まず、コロナチンの構造異性体を3種類合成し (Figure 2A)、各種異性体の気孔開口活性(Figure 2B)6)とYeast Two Hybrid法によるCOI1-JAZ複合体形成能を比較した。その結果、コロナチン(+)-1は気孔開口活性とCOI1-JAZ複合体形成能を共に示した。また、COI1-JAZ受容体の制御下にあるジャスモン酸応答性遺伝子AOSの発現量もコロナチン投与によって増加した。しかし、興味深いことに、非アミノ酸部が天然型構造を持つ構造異性体 (+)-6 では、COI1-JAZ複合体を形成せず、AOS発現誘導がないにも関わらず、気孔開口活性を示した (論文未発表)。さらに、COI1タンパク質を遺伝学的に欠損した遺伝子変異植物体 (coi1-16s) を用いてコロナチン(+)-1の気孔開口活性試験を行ったところ、野生株と同様に気孔開口作用を誘導した(論文未発表)。これらの結果から、コロナチン(+)-1の気孔開口作用は既知受容体COI1-JAZ複合体とは異なる未知の受容体を介したものであることが示唆された。

    Figure 2. A,コロナチン異性体の構造; B, セイヨウアサガオの気孔開口活性試験(n = 80, Error bar: SEM, Dash line: control)

    蛍光基を導入したコロナチンプローブの開発

     続いて、孔辺細胞におけるコロナチン(+)-1の作用部位の解明するために、蛍光基を導入したコロナチンプローブの合成を行った。初めに、コロナミン酸エチル基末端にアジド基を導入し、コロナチン(+)-1と同程度の気孔開口活性を有するClick Chemistry型プローブ(+)-7を開発した7)。さらに、[3+2] Huisgen 付加環化反応により蛍光基を導入したコロナチンプローブ 8を合成したが、その気孔開口活性は著しく減少した。これは、合成したプローブの分子サイズが、元となるコロナチン(+)-1に比べ極端に大き

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  • 渡邉 瑞貴, 領田 優太, 浅野 理沙, Khamb Bilon, 薄田 晃佑, 飯田 圭介, 岩田 淳, 佐藤 慎一, 酒井 寿郎, 長澤 ...
    p. Oral15-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1. 背景

     現代人を悩ます生活習慣病の一つ、脂質異常症(高脂血症)は肥満など多くの疾病の起因となる。それら多数の疾病の予防・治療のためにも、脂質生合成機構の制御と解析は重要な課題である。

     脂質生合成において、転写調節因子SREBP(Sterol regulatory element- binding protein)は中心的な役割を担う(図1)1。小胞体膜貫通型タンパク質として存在する前駆体SREBPは、キャリアータンパク質SCAP(SREBP cleavage-activating protein)と複合体を形成している。この複合体は、脂質レベルが低下すると小胞体からゴルジ体に輸送される。ゴルジ体において前駆体SREBPは酵素による二度の切断を受けて活性型となる。活性型SREBPは核に移行し、転写因子として脂質生合成に関する遺伝子群の発現を亢進する。ステロールや脂肪酸などの脂質類が産生される。

     SREBPの活性化は内因性物質であるステロールによって厳密に制御されている。ステロール過多になると、ステロールはSCAPに直接作用し、SREBP/SCAP複合体の小胞体からゴルジ体への輸送を阻害する。脂質生合成は種々の複雑な制御を受けることが知られており、ステロール以外の内因性物質による直接的なSREBP活性化調節機構の存在が予想される。しかし、その詳細は未だ不明な点が残る。

     私たちの研究室が化合物ライブラリーから見出した合成小分子ファトスタチン(1, 図2)は、ヒト細胞内でSREBPの活性化を選択的に阻害して脂質生合成を抑制する2,3。ファトスタチンは、SREBP活性化を阻害する初めての非ステロール合成化合物となった。さらに私たちの研究室は、ファトスタチンを誘導体展開し、ファトスタチンよりも10倍阻害活性に優れ、経口投与可能なFGH10019(2)も報告した4。一連のケミカルバイオロジー研究によって、ファトスタチンはステロールと同じSCAPを直接の生体内標的とするが、ステロールとは異なる部位に作用することを示した。この結果は、ファトスタチン様に作用する、ステロール以外の内因性物質の存在の可能性を示唆する。

    2. 新たなSREBP制御天然化合物の発見

     以上をふまえ私たちは、SREBP活性化に関わる新規内因性物質の探索を目的に、280種の脂質化合物を新たにスクリーニングした。その結果、細胞内でSREBPの活性化を阻害する複数の内因性脂質化合物が見出された。これら見出された化合物類は、濃度依存的にSREBPの活性化を阻害することがわかった。さらに、ある一連の内因性天然脂質化合物類は、ステロールと同様にSREBPの小胞体からゴルジ体への輸送段階で活性化を阻害するが、その作用メカニズムはステロールと異なることが示唆された(図3)。CHO-K1細胞をステロールで処理すると活性型SREBPが消失し、前駆体SREBPが蓄積する。一方、内因性天然脂質化合物Aで処理すると、活性型および前駆体両方のSREBPが減少した。これら新たに見出した内因性脂質化合物類とSREBPとの直接的な関係について、現在のところ報告はない。これら脂質化合物はSREBP活性化を制御する新たな内因性物質の可能性がある。

    3. SREBP制御天然化合物の作用メカニズムの解明研究

     スクリーニング

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  • 工藤 史貴, 星 正太, Sucipto Hilda, 江口 正
    p. Oral16-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     アミノグリコシド抗生物質は、ストレプトマイシンやカナマイシンなどが有名であり、古くから臨床医学上重要な抗生物質として使用されてきた。聴覚障害や腎毒性など無視できない副作用もあり、その使用は制限されているものの、細菌のrRNAへの特異的結合による抗菌活性は極めて重要である。その化学構造は、アミノサイクリトールに様々なアミノ糖やデオキシ糖が連結した疑似オリゴアミノ糖であり、組み合わせにより多種多様なアミノグリコシド抗生物質が知られている(Fig. 1)。

     その生合成研究は、当研究グループをはじめ、イギリス、ドイツ、韓国の研究グループなどにより酵素遺伝子レベルで進められてきた1-3。2-デオキシストレプタミン(2DOS)をアミノサイクリトール部位に有するブチロシンとネオマイシンの生合成に関しては、現在までに、ほぼ全ての生合成酵素の機能解析がなされている4。すなわち、2DOS、パロマミン、ネアミン、リボスタマイシンなどの共通的生合成中間体は、類似骨格を有するアミノグリコシド抗生物質の遺伝子クラスターに保存されている酵素により構築されることが明らかとなっている(Fig. 1)。したがって、この抗生物質群のさらなる構造多様性は、それぞれの抗生物質の生合成遺伝子クラスターにコードされる特徴的な酵素により生じるはずである1。そのようなアミノグリコシド抗生物質の構造多様化に関わる酵素解析を進め、ネオマイシンとカナマイシンは、興味深いラジカル活性化を契機とする酵素反応により、成熟型へと変換されることが明らかとなったので報告する。

    Fig. 1. 2-デオキシストレプタミン(2DOS)含有型アミノグリコシド抗生物質の生合成経路。図中のKanJとNeoNがラジカル活性化を契機とした修飾反応を触媒する。

    <ネオマイシン生合成の最終段階>

     ネオマイシンは、5”’位のエピマーの関係にあるBとCの混合物として市販されているが、主成分はネオマイシンBである(Fig. 1)。本討論会でも既に報告したが、ネオマイシンCを構築するための全ての生合成酵素の機能解析に成功しており5、また、ネオマイシンCからネオマイシンBへのエピメリ化反応は、ネオマイシン生合成遺伝子クラスターに特徴的にコードされるラジカルSAM(S-アデノシルメチオニン)酵素NeoNにより触媒されることが分かっている6。ラジカルSAM酵素は、活性部位中の還元型の[4Fe-4S]1+がSAMを還元的に開裂させることで5’-デオキキシアデノシルラジカルを発生させて、様々なラジカル反応を触媒する酵素として知られている。この興味深いラジカル酵素反応機構を解明するために研究を進めた。

     本研究ではまず、NeoN反応における基質と生成物の化学量論を明らかにすることにした。生成物の定量分析の結果、ネオマイシンBと5’-デオキシアデノシンが等モル量生成することが明らかとなった。このことから、SAMから生じる5’-デオキシアデノシルラジカル(5’-dA•)が基質の水素を引き抜いて、ラジカル中間体が生成し、これを酵素内の何らかのアミノ酸残基が水素原子を供給してエピメリ化が進行

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  • 川添 嘉徳, 田中 陽子, 山本 啓太, 岩崎 有紘, 大野 修, 大村 幸和, 末永 聖武, 上村 大輔
    p. Oral17-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     肥満とは、BMI (Body Mass Index)値が25以上であると定義されており、平成24年度の厚生労働省による国民健康・栄養調査によると、日本人の肥満人口の割合は男性で29.1%、女性で19.4%と集計されている。また、ワシントン大学健康指標評価研究所の調査によれば、肥満は世界中で増加し続けており、2013年では21億人、実に世界人口の3分の1が肥満、或いは過体重である1。肥満は、糖尿病、心臓病、脳血管疾患といった生活習慣病の重大なリスク因子でもあるため、その解決に向けては世界的にも大きな関心が寄せられている。さらに、これらの生活習慣病の中でも糖尿病に関しては、日本の患者数は平成19年度の調査で2,210万人、また世界的に見ても2013年で3億8,200万人と推定されており、数年来増加の一途を辿っている。日本では年間1万4,000人が糖尿病で亡くなっており、また網膜症、腎障害、神経障害などの合併症を引き起こすことも大きな特徴の一つであり、このことから日常生活に不便を強いられる結果となる。

     このような状況を鑑み、私達はこれまでに肥満や糖尿病に対する医薬リードを提供することを目的として、脂質代謝を調節するような天然有機化合物の探索、及びそれらの作用機構の解明に関して研究を展開してきた。本発表では、二種類の天然物、即ちカワラタケより単離されたternatin、及び最近同定したyoshinone類に関するトピックスを紹介したい。

    Ternatin細胞内標的タンパク質の同定

     Ternatinは、当研究室においてカワラタケCoriolus versicolorより脂肪蓄積を阻害する活性を指標に単離・構造決定された化合物である2。Ternatinは異常アミノ酸を含む環状ヘプタペプチドであり、EC50=0.16 mg/mLの濃度で脂肪の蓄積を抑える強い活性を示す。さらに、2型糖尿病モデルマウスを用いた動物実験から、本化合物には血糖値を低下させる顕著な作用もあることが明らかとなった3。従ってこの天然物は、肥満や糖尿病に対する効果的な予防・治療薬として期待されるが、作用機構の詳細は明らかになっていない。そこで本研究では、開発研究への端緒を開く事を目的として、アフィニティーカラムを利用したternatinの細胞内標的タンパク質の同定を試みた。

     Ternatinアフィニティーカラム作成の戦略として私たちは、N-hydroxy succinimide (NHS)-ビーズに化合物を縮合させる方法を採用した。そのためには、遊離のアミノ基を有するternatin誘導体の作成が必要である。Ternatinに関するこれまでの構造活性相関研究から、6位のNMe-d-Ala残基は、他の残基に置換可能であることが示されている。そこで、この位置の側鎖から末端に一級アミンを有するリンカーを伸ばした化合物(1)を設計した。また、d-allo-Ile1、NMe-l-Ala5、NMe-d-Ala6残基をそれぞれ、d-Ile1、NMe-d-Ala5、NMe-l-Ala6残基に置換した立体異性体は、活性が大幅に低下することが明らかとなっている4。この知見をもとに、化合物1の立体異性体をnegative control(2)として設計した。

     化合物1及び2は、既に確立されているternatin合成にのっとって合成した。即ち、各々対応するアミノ酸を液相法で縮合して

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  • 上田 大次郎, 山鹿 宏彰, 岡本 渉, 遠塚 悠輔, 品田 哲郎, 星野 力, 佐藤 努
    p. Oral18-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    はじめに

    我々は、天然物探索から新規C35テルペンを発見して以来、C35テルペンに着目して研究を行っている1-6)。50,000種類を超えるテルペン類の中で、C35テルペンには長らく特別な分類名がなかったが、直鎖状C35イソプレノイドの環化を経る経路を酵素・遺伝子レベルで初めて証明し、「セスクアテルペン」と命名した2-5)。本経路には、1990年代から数多く見出されてきたテルペン環化酵素の一次構造と類似性をもたない「新型」テルペン環化酵素(テトラプレニル-β-クルクメン合成酵素:TS)が関わることを明らかにした(Scheme 1)2-5)。また、Bacillus megaterium由来のテトラプレニル-β-クルクメン環化酵素(TC)は、C35とC30の基質から各々4環と2環を形成する二機能性テルペン環化酵素であることを証明した2,3,6)。異なる2種類のテルペンを生体内で生合成する初めてのテルペン環化酵素であった(Scheme 1)2,3,6)

    今回、セスクアテルペン環化酵素であるTSおよびTCに関する研究をさらに展開し、テルペン創出経路を開拓したので報告する。

    1)TSホモログのゲノムマイニングによる新規セスタテルペン・新規トリテルペンの発見7)

    TSホモログは、様々なバクテリアにおいて機能未知遺伝子として存在している。今回、手始めに好アルカリ性のBacillus clausiiのもの(Bcl-TS)をターゲットにした。B. clausiiゲノムにおいてTSホモログが存在するにも関わらず、菌体から化合物1が検出されなかった。一方、テルペン類と考えられる未知脂質(5と6)がGC-MSによって検出されたため、それらを単離・構造決定した。その結果、新規非環状セスタテルペン(5)と新規非環状トリテルペン(6)であることが判明した。各々β-geranylfarneseneおよびβ-hexapreneと命名した。

    B. clausiiゲノムにおいてBcl-TS以外にテルペン合成酵素ホモログが存在しないことから、Bcl-TSが化合物5と6の生合成に寄与していることが考えられた。Bcl-TSの大腸菌発現系を構築後、精製Bcl-TSによってGFPP(C25)とHexPP(C30)から各々5と6が生成されることをin vitroで証明した(Scheme 2)。

    Table 1に示したように、化合物5と6は多くの好アルカリ性Bacillusに分布していた7)。以前、B. alcalophilusのような好アルカリ性Bacillusはスクアレン3やデヒドロスクアレンを生産することが報告されていたが8)、我々は化合物5と6が生産されていると訂正した。

    本研究によって、TSホモログがセスクアテルペン(C35)だけでなくC25やC30のような様々なテルペン合成酵素のファミリーであることが判明した。今後も、TSホモログのゲノムマイニングによって多くの新規テルペンを発見できるのではないかと期待している。

    2)TCによる

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  • 古徳 直之, 戸田 和成, 荒井 雅吉, 石田 良典, 松本 紘和, 村岡 修, 小林 資正
    p. Oral19-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    近年、がん細胞と周辺環境との相互作用が、がん細胞の増殖や生存に大きく関与していることが明らかになり、がん微小環境におけるがん細胞の応答や代謝が、がんに対する新しい薬剤標的として注目されている。特に固形がんでは、がん細胞が増殖するためのエネルギーを、主に新生血管から獲得すると考えられているが、急激に増殖するがん細胞に対し、血管新生は十分に伴わず、腫瘍内の新生血管から離れた場所では酸素や栄養の供給が滞り、低酸素、低グルコース状態となっている。このようなストレス下にあるがん細胞では、正常な立体構造と機能を失ったタンパク質が小胞体に蓄積され、小胞体ストレスと呼ばれる状態となるが、がん細胞は代謝経路を変化させ、小胞体ストレス耐性を獲得する。同時に、化学療法や放射線療法に対して抵抗性を示し、病態の悪化に寄与することが報告されている。1)

     こうした背景下、がん細胞の低酸素環境適応については研究が進んでおり、低酸素に対する生体反応の中心を担う転写因子として知られているHypoxia Inducible Factors (HIFs)については、その阻害剤の臨床開発が進められている。2) 著者の研究室においても、インドネシア産海綿Dactylospongia elegansから低酸素環境選択的ながん細胞増殖阻害活性を示すfurospinosulin-1 3)を見出しており、医薬リードとしての展開を進めるとともに、ごく最近、その標的分子の解明に成功している。4) 一方で、同時に引き起こされるグルコース飢餓環境に適応したがん細胞に関しては今まで注目されておらず、その阻害剤の開発研究も少ない。現在までに、グルコース飢餓環境のがん細胞選択的に細胞増殖阻害活性を示す化合物として、放線菌actinomycetesの二次代謝産物であるkigamicin D 5)や、生薬の牛蒡子由来のarctigenin 6)などが見出されているが、がん細胞のグルコース飢餓環境への適応機構の全容は未だ明らかにされていない。また、慢性的なグルコース飢餓環境は正常な組織には見られない、がん特有に観察される環境であることから、グルコース飢餓環境に適応したがん細胞選択的に細胞増殖阻害活性を示す化合物は、副作用の少ない新しい抗がん剤のリード化合物になることが期待される。

     そこで今回著者らは、新しい医薬シーズの創製を目指すとともに、得られた化合物をケミカルツールとしてがん細胞のグルコース飢餓環境に対する適応機構を解明することを目的に、保有する底生海洋生物の抽出エキスや海洋由来微生物の培養抽出物ライブラリーを対象にグルコース飢餓環境選択的ながん細胞増殖阻害物質の探索を行った。

    1. グルコース飢餓環境選択的ながん細胞増殖阻害物質のスクリーニング

     活性試験には、ヒト膵臓がん細胞 PANC-1 を用い、グルコース飢餓環境への適応が小胞体ストレス応答(UPR)の指標である78kDa glucose-regulated protein (GRP78)の発現上昇や、Aktのリン酸化が亢進することで確認された、グルコース非添加培地中での培養環境を用いた。各wellに被検サンプルを添加し、12 時間培養後、WST-8染色剤を用いた比色定量法により細胞増殖阻害率を算出するとともに、通常のグル

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  • 中村 竜也, 佐藤 友彦, 大塚 麻衣子, 奥村 真央, 家喜 高徳, 細川 誠二郎
    p. Oral2-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    我々の研究室では、ポリケチド類のあらゆる置換パターンを短工程で合成する迅速自在合成法の確立を目指し、方法論の開発研究と全合成研究を行っている。この一環として演者らは、不斉補助基を持つシリルジエノールエーテルを用いるビニロガス向山アルドール反応(遠隔不斉誘導反応、下図eq 1)を開発している。1 この反応は不斉炭素の導入とある程度の大きさの炭素官能基団を一挙に導入できることから、天然物の短工程合成を実現する方法として国内外の多くの全合成研究に用いられている。我々は、遠隔不斉誘導反応によって二重結合を含む生成物が得られることに注目し、これを酸化・還元することによって立体化学および酸化段階を自在かつ短工程で構築するポリケチド合成法の確立を目指して研究を行っている(eq 2)。本発表では、最近の演者らの遠隔不斉誘導反応の開発とそれらを用いたポリプロピオネート類の短工程合成について報告する。

    ・Syn選択的遠隔不斉誘導反応2

    我々が初めに開発した遠隔不斉誘導反応 (上図eq 1) はanti型の生成物2を与えるものであった。最近、当研究室にて同じシリルジエノールエーテル1を用いてsyn選択的な遠隔不斉誘導反応の開発に成功した(下図eq 3および次ページeq 4)。2,3 すなわち、アルデヒドに対しシリルジエノールエーテルを1.5当量、TiCl4を4当量加えることにより、syn体4を高収率、高立体選択的に得た。これにより、同一の不斉素子1からルイス酸の当量を変えるだけでsyn体とanti体を作り分けることができるようになった。

    ・アセタールとのsyn選択的遠隔不斉誘導反応3

     一方、求電子剤としてアセタールを用いた場合、ルイス酸を1当量用いることでsyn体5が高収率、高立体選択的に得られることを見出した(eq 4)。この反応ではワンポットにてアルデヒドからアセタールへの変換と遠隔不斉誘導反応が行える上、R’にBnを用いることで、水酸基が保護されたsyn体を一挙に構築できることから(eq. 5)、有用性の高い方法であると考えている。

    ・還元型ポリプロピオネートの迅速自在合成と抗リーシュマニア物質セプトリアマイシンAの簡便合成4

    遠隔不斉誘導反応は一挙にポリプロピオネート骨格を構築できる反応であるため、複数の二重結合を有する生成物9(下図1)のそれぞれの二重結合を位置および立体選択的に還元できれば速やかに還元型ポリプロピオネートを構築することが可能となる。我々は最近、9から数工程で2,4,6-トリメチルオクタン酸類のすべての立体異性体を数工程で合成することに成功した(図1)。まずアリルアルコール部の還元を

    図1.遠隔不斉誘導反応と位置および立体選択的還元

    行うが(step a)、この際、フリーの水酸基を持つ9に対して直接、Schrock-Osborn触媒存在下にて水素添加を行うと4,6-syn体10が高立体選択的に得られた。一方、9の水酸基をTBS化した後、白金触媒にて水素添加を行うと、4,6-anti体11が優先して得られた。さらに、a,b-不飽和イミドを還元する(step b)際に、Birch還元を行うと2,4-syn体が、水素添加反応

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  • 浅井 禎吾, 塚田 健人, 橋元 誠, 藤井 勲, 五味 勝也, 大島 吉輝
    p. Oral20-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     生物が作り出す二次代謝物、いわゆる天然物は、その化学構造の多様性は言うまでもなく、合成ライブラリーとは異なるケミカルスペースを占有していることから、依然として新規医薬品開発における魅力的な資源である。そのため、天然物をベースとした新しいケミカルスペースの開拓が重要な課題の一つとなっている。例えば、休眠遺伝子を活用した新規二次代謝物の創出に加え1,2、コンビナトリアル生合成3や天然物を起点とした多様性指向型合成4,5によるpseudo-natural productの創生などの研究も盛んに行われている。

     天然物の構造多様性は、一次代謝から供給される基本構成要素を原料とした骨格構築に始まり、続く多段階の修飾や転位反応を経る分岐的な生合成経路に起因する(図1)。すなわち、生合成上流の中間体が代謝過程で様々な構造へと変化していくことで、分子多様性が生み出されている。例えば、糸状菌のazaphilone類やmeroterpenoid類の生合成において、非還元型ポリケタイド合成酵素 (NR-PKS) が作る単環式の芳香族中間体は、実に様々な化合物へと変化する(図2)6,7。しかし、このような中間体 (multi-potent intermediate8)の活用は、もともとの生物資源での代謝だけでは、限定的なものにとどまる。そこで、生合成工学および化学反応を用いた人工的な手法により、multi-potent intermediateを多様なpseudo-natural productに変換できれば、新たなケミカルスペースの開拓に繋がると考えた (図1)。

     本発表では、”Chemical Epigenetics”を利用する天然物探索法を用いて取得した構造多様なchaetophenol類9の、生合成における最初の中間体であるPM-1をmulti-potent intermediateとして着目し、Aspergillus oryzaeでの異種発現系や簡便な化学反応を用いた、多様性に富んだ新規pseudo-natural productへの展開について報告する(図3)。

    ① Aspergillus oryzae異種発現系を用いたポリケタイドオリゴマーの作成

    これまで、Chaetomium indicumのドラフトゲノム解析およびAspergillus oryzaeでの異種発現により、 pksCH-2がPM-1の生合成NR-PKS遺伝子であることを明らかにしている9。A. oryzae−pksCH-2高発現株を各種条件にて培養し、培養液中の生成物を追跡したところ、PM-1からイソクロメン型環化体PM-2への変換が確認された。さらに、いくつかの条件では、二量化したPO-1およびPO-2の蓄積が認められた。PM-1とPM-2の野生型A. oryzae培養液への添加実験の結果、PM-1からPM-2への環化はA. oryzae内因性酵素により、PO-1およびPO-2はPM-2が非酵素的に二量化することで生成することがわかった。一方、ジアセチル化体PM-2aは二量化しなかった。また、PM-2からPO-1

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  • 西田 篤司, 中島 誠也, 星 真幸, 荒井 秀
    p. Oral21-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1.序

     南アジア及び東南アジアに生育しているキョウチクトウ(夾竹桃)科のKopsia属植物は凡そ30種からなる顕花植物であり、本属植物からは現在までに多数のアルカロイドが単離されている。Lundurine(ランドリン)類は、Kamらによってマレーシア領のボルネオ島北部に自生するKopsia tenuis Leenh. & Steenis (コプシア・テヌイス)の葉及び茎より1995年に単離構造決定された6環性インドリンアルカロイドである1。本基原植物からは、主塩基であるlundurine B (1)をはじめ、lundurine A (2)、C (3)、D (4)等、Kopsia lapidilectaアルカロイドに類似した環構造を有するアルカロイド(以後Kopsia tenuisアルカロイドと総称する)が単離構造決定された(Figure 1)。

    Figure 1 Lundurine Alkaloids

     Lundurine 類の構造決定には質量分析、紫外分光、1次元及び2次元NMRが用いられた。lundurine A (2)を例にとると、質量分析ではm/z 366 (C21H22N2O4)の分子イオンピークが観測され、紫外分光ではインドリンに特徴的な209、250、298 nmの吸収が観測された。COSY、HMQC、HMBCの解析により、γ―ラクタムとアザシクロオクタンを含有し、16位炭素はインドリン2,7位と結合してシクロプロパンを形成していると決定された。

    また、lundurine B (1)及びD (4)はB16 melanoma細胞に対して強力な殺細胞作用を示した(Table 1)。1b,1d

    さらに抗悪性腫瘍薬vincristineに抵抗性を示すヒト口腔類表皮癌細胞(KB細胞)に対し、lundurine類は耐性克服作用を示した。一方Lundurine B (1)のマウスに対する毒性は、抗腫瘍薬として用いられるvinctistine・vindesine・vinblastineに比べて低く(Table 2)、lundurine類は高活性・低毒性の新規抗腫瘍薬のシード化合物として有用性が期待される。しかしながら、lundurine類の自然界からの供給量が極めて微量(主塩基lundurine B(1)の単離量は基原植物重量の0.0037%)であることから、これ以上の活性評価は行われておらず、in vivoでの有効性の確認並びに他の生物活性に関する評価を行うためには化学合成による供給が必要であった。

     一方、シクロプロパン融合型インドリン骨格はそのひずみのために容易に骨格転位反応を起こすことが古くから知られてきた(Ciamician-Dennstedt転位、Scheme 1)2。近年ではその骨格転移を利用する全合成研究も展開されている。我々は上記のような不安定性を考慮し、多置換シクロプロパン融合型インドリン骨格構築法の確立とその反応性調査を行った後、lundurine類の全合成研究に着手した。

    Scheme 1

    2.モデル合成

     当初、我々は以下に示す多置換シクロプロパン誘導体の分子内芳香族アミノ化反応にてシクロプロパン融合型インドリン骨格の構築をモデル系にて検討した(Scheme 2)。

    Scheme 2

    Scheme 3

    マロン酸誘導体5に対しToke等により報告された反応条件3にて分子内シクロプロパン化反応を行うと、目的とする立体配置を有する閉環体6が収率65%、ジアステレオマー比13:1で得られた。続いて、エステルの加水分解、Curtius反応により得られたカルバメート7、8を、ヨウ化銅存

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  • 植田 浩史, 高田 晃宏, 藤原 広陽, 杉本 健士, 徳山 英利
    p. Oral22-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【背景】

     Isoschizogamine (1) は、1963年Rennerらによって東アフリカの熱帯に生息する低Schizozygia caffaeoidesから単離された、六環性アルカロイドである。1 1は単離当初、Nアシルインドール骨格を持つschizozyganeアルカロイドの7位における立体異性体1’とされていた。しかし、1998年、Hajicekらによって構造訂正が行われ、その高度に縮環したアミナール構造が明らかとされた。2 1はその特異な構造のため、合成標的化合物として広く興味を集め、PadwaやZhouらにより合成研究3が行われてきたが、全合成報告はHeathcockらによるラセミ合成4と福山らによる不斉合成5の2例のみである。

    1.逆合成解析

     合成上の課題は、三つの六員環とg-ラクタムが窓状に縮環した[5.6.6.6]- diazafenestrane骨格上にさらにもう一つの五員環が縮環した多環性骨格の構築と、隣接した四置換アミナール炭素と第四級不斉炭素中心を含む四連続不斉炭素中心の立体選択的な構築である。我々は、窒素原子a位の酸化を含む変換により特徴的なアミナール構造を合成の中盤から終盤に構築する合成戦略を立案した (Scheme 1)。

     (–)-Isoschizogamine (1) は、対応するジエン2の閉環メタセシスと第三級ヒドロキシ基の還元的除去を経て合成できると考え、ジエン2のアミナール構造は、3のヘミアミナール部位と窒素原子を有する側鎖との環化反応により構築できると考えた。ヘミアミナール3は、適切な酸化条件を見いだすことにより、ラクタム窒素の隣接位の位置選択的な酸化を経て合成することとした。本酸化反応の基質である4は、4環性ラクタム5のカルボニル基を足がかりに、ジアステレオ選択的な側鎖の導入を経て導くこととした。4環性ラクタム5は、鎖状基質6を用いた、Mannich反応と続くラクタム環形成からなるカスケード型反応により3つの環を形成し、迅速に合成できると考えた。カスケード環化の基質である6は、シクロヘキセン8の炭素-炭素二重結合の酸化的開裂後、立体的により空いたアルデヒドへのアリールアニオンの位置選択的な求核付加反応により得ることとした。不斉第四級炭素中心を有するシクロヘキセン8は、既知化合物であるシクロヘキセノンに対し、触媒的不斉1,2還元とその後のJohnson-Claisen転位反応により合成することとした。

    2. カスカード環化反応を用いた4環性ラクタムの迅速合成

     既知化合物であるエノン96を対応するベンジルエーテル10へと誘導し、碇屋によって開発されたルテニウム触媒を用いた不斉還元7により、光学活性なシクロヘキ

    Scheme 1

    セノール12を高収率かつ高エナンチオ選択的に得た(Scheme 2)。なお、この際得られたアルコールの絶対立体配置は、12を文献既知の化合物8へと誘導することでS体と決定した。続くJohnson-Claisen転位による第四級炭素中心の構築は、脂肪族カルボン酸を用いる弱酸性条件や中性条件下では目的のエステル13の収率は低収率であり、かつ、アリルカチオン中間体を経た生成物のラセミ化が進行した。詳細な検討の結果、Hunig塩基溶媒中マイクロ波照射下反応を行う

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  • 杵渕 政彦, 植松 遼平, 谷野 圭持
    p. Oral23-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1. はじめに

    Psiguadial B(1)は、2010年Shaoらによってフトモモ科の常緑灌木Psidium guajava L.から単離・構造決定されたメロテルペノイドである1)。1は、セスキテルペンに相当するトリシクロ[6.3.1.02,5]ドデカン骨格および2つの芳香環を合わせ持つハイブリッド型天然物であり、ヒト肝癌細胞に対する抗腫瘍活性(IC50 = 46 nM in HepG2 cells)や増殖抑制作用(IC50 = 25 μM in HepG2/ADM cells)を有する。今回我々は、アセチレンジコバルト錯体の二重環化反応を基軸とする1の全合成を達成したのでここに報告する。

    2. 多環性骨格構築法の設計および予備的検討

    1の逆合成解析を以下に示す。7員環に対してトランスに縮環したシクロブタン環は、中間体2の無水マレイン酸部位を足掛かりに形成可能と考え、2のベンゾピラン環は、2つの脱離基を有するビシクロ化合物3と置換フェノールを連結して構築することとした。3の無水マレイン酸部位は、環状アセチレンジコバルト錯体4の脱錯体化反応によって導入することとし、4のビシクロ[4.3.1]デカン骨格を、中間体5を経由する二重環化反応で鎖状コバルト錯体6から一挙に構築する計画である。

    最初に、鎖状コバルト錯体6の二重環化反応について、中間体5のモデル基質7を用いた予備的検討を行った(次頁表)。まず、ルイス酸として二塩化エチルアルミニウムを作用させたところ、7員環形成に伴い橋頭位にエチル基が導入された9が主に生成した。そこで、他の置換基を有するアルミニウム試薬を種々検討した結果、二塩化(2,4-ジクロロフェノキシ)アルミニウムを用いた場合に、橋頭位に塩素を有する環化体8が良好な収率で得られることを見出した。

    3. 二重環化反応によるビシクロ[4.3.1]デカン骨格の立体選択的構築

    上記の予備的知見を受けて、全合成の鍵工程となる二重環化反応の基質6の合成に着手した。δ−ヘキサノラクトンとベンズアルデヒドをアルドール縮合させた後、接触水素化条件で二重結合を還元した。得られたラクトン10をワインレブアミドの形で開環した後、生じたアルコールをケトン11へと酸化した。メチルプロバルギルエーテルから調製したアセチリドを11と反応させた後、ワンポットでシリル化してTMSエーテル12を合成した。12にメチルリチウムを作用させて得たケトン13を、エノールトリフラート化とTMS基の除去を経てアルコール14に変換した。シリルメチルGrignard試薬とのクロスカップリング反応でアリルシランとし、酢酸エステル15を経てアセチレンジコバルト錯体6を合成した。このものに、先に見出したルイス酸をone-potで作用させた結果、望みとする二重環化体4が一挙に得られた。

    二重環化体4は単一の立体異性体として得られ、橋頭位四級炭素とベンジル基の相対配置は天然物1に対応することが判明した。この立体化学は6員環形成の際に決定されるが、ベンジル基がエカトリアル位にあるイス型遷移状態モデルを想定すると、メチル基よりもはるかに嵩高いコバルト錯体がアキシアルに配向することになる。そこで、この遷移状態モデルを計算化学的2)

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  • 伊藤 勇次, 原地 美緒, 大森 建, 鈴木 啓介
    p. Oral24-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     植物の組織に多量に含まれるフラボノイドの中には、フラバン-3-オール(カテキン)を構成単位とするポリフェノールが多種多様に存在する。その中で最近、複数のカテキン単位からなるオリゴマーが、通常の抗酸化作用以外にも多様な生理作用を示すことが明らかとなり、注目されている。

     これらカテキンオリゴマーは、構成単位であるフラバン骨格の連結様式の違いにより、二つに分類される。一つは、二つのフラバン単位がC–C単結合のみを介して連結しているものであり(直鎖型オリゴマー)、もう一つは、カテキン単位同士がC–C結合とC–O結合で連結され、特異なジオキサビシクロ[3.3.1]ノナン構造を形成しているものである(二重連結型オリゴマー)。前者に関しては、すでに合成例も多く、最近ではそれを基盤とした構造活性相関研究も進みつつある。一方、後者の合成に関しては、生合成的視点に基づく検討がなされているのみである。しかし、この二重連結型オリゴマーには、これまでにない注目すべき生理作用(インスリン様作用、抗炎症作用等)や特性(強い甘味)が見出されていることから、魅力的な研究対象である。

     今回、我々はこの二重架橋型カテキンオリゴマーの合成の鍵となるビシクロ骨格の効率的かつ立体選択的な構築法を見出し、それを用いて二重架橋型オリゴマーの一つである (+)-プロシアニジンA2 (1)、および複合型オリゴマーである (+)-シンナムタンニンB1 (2)の初の選択的全合成に成功したので報告する。

     まず、従来提唱された生合成仮説を紹介する。その一つは、直鎖型オリゴマーの2位の位置選択的酸化、およびフェノールの分子内関与により環が形成される、という経路である(酸化的環化経路)。もう一つは、アントシアニンに代表されるフラビリウムイオンが求電子成分となり、求核的なカテキン単位とアヌレーションを起こし、一挙にビシクロ構造が形成されるという経路である。

     本研究では、これらを参考に、独自のアプローチを考案した。すなわち、フラバン骨格の2位と4位に予め脱離基を導入した求電子単位を合成する。続いてこれを求核単位と反応させ、アヌレーションを行うことを計画した。前述のフラビリウムイオンが関与するアヌレーションでは不斉要素がないため、立体制御が困難であるが、今回設計したIには3位の不斉炭素原子を足掛かりとして立体制御が可能であると考えた。ここで懸念されることは、Iが活性化された際、脱プロトンをきっかけとしてフラビリウムイオンへ変換されてしまわないか、ということである。また求核的カテキン単位との反応においても、その位置制御が可能か否かという点も懸念材料となる。これらを念頭に置き、実際の検討を行った。

    1.DDQ酸化による 2,4-ジオキシ体の調製

     まず、鍵となる求電子単位Iの合成を行った。一般にフラバン誘導体をアルコール共存下、DDQを用いて酸化するとフラバン骨格の4位が位置選択的にアルコキシ化される。ところが、この反応を長時間継続

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  • 枡田 健吾, 長友 優典, 小清水 正樹, 萩原 幸司, 田渕 俊樹, 占部 大介, 井上 将行
    p. Oral25-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【序】

     (+)-リアノジン(1)は、イイギリ科の低木Ryania speciosaから単離された植物アルカロイドである1)。1は細胞内カルシウム放出チャネルの一種であるリアノジン受容体と選択的に結合し、濃度依存的にチャネルの開閉を制御する。1は複雑に縮環した5環性骨格上に、5個のヒドロキシ基、ヘミアセタール、ピロールカルボン酸エステルを有する。さらに11個の連続した不斉中心が存在し、その内8個が四置換炭素である。この極度に官能基が密集した構造のため、その全合成は有機合成化学上、極めて挑戦的な課題である。類縁天然物の唯一の全合成例として、Deslongchampsらが1の加水分解体であるリアノドール(2)の全合成を報告した2)。しかしながら、2の3位ヒドロキシ基に対するピロールカルボン酸エステル化による、1の合成は未だ実現されていない3)。我々は類縁天然物の網羅的合成を見据えた1の効率的合成経路の確立を目指し、その全合成研究を行った。今回、世界初となる1の不斉全合成を達成したので以下報告する。

    【合成計画】

    1の合成計画をScheme 1に示した。我々は、1に内在する対称性に着目し、ヒドロキノン3と無水マレイン酸(4)とのDiels-Alder反応、続く二方向同時官能基変換反応によって効率的に合成できる、C2対称3環性化合物5を鍵中間体に設定した4)。5のオレフィン部位の酸化的非対称化とDE環形成、橋頭位ラジカルを用いたC11位四置換炭素の構築を経て、4環性化合物6へと導く。C6位への位置・立体選択的炭素鎖導入に続く、閉環メタセシス反応を用いたC環形成を経て、7とする。ヒドロホウ素化-酸化によるC10位ヒドロキシ基の導入、C2位へのイソプロペニル基の導入によって、1の全ての炭素骨格を有する8へと導く。8のC3位ケトンの立体選択的還元後、現状困難とされるC3位へのピロールカルボン酸エステル導入によって、1を合成できると予想した。

    Scheme 1. Synthetic plan of 1

    【光学活性C2対称3環性化合物5の合成】

     まず不斉メタノリシス反応を用いた速度論的分割を経て、光学活性ビシクロ[2.2.2]オクテン(+)-12を合成した(Scheme 2)。3と4を無溶媒条件下、210 °Cに加熱することで、脱芳香環化を伴うDiels-Alder反応が進行し、環状酸無水物9をラセミ体として得た。ラセミ体9を、キニーネ誘導体Aを触媒とした不斉メタノリシス反応5)に付し、10aと10bをジアステレオマー混合物として得た。10aと10bの混合物をメタノール溶媒中、酸処理することで、10bのみを選択的に5員環アセタール11へと変換した。10aと11は、分液操作によって容易に分離可能であった。望みの絶対立体化学を有する10aから、エステル加水分解、電解反応による脱炭酸を経て、C2対称性を有する光学活性ビシクロ[2.2.2]オクテン(+)-12へと導いた。さらに再結晶を行うことで、光学的に純粋な(+)-12を得た。本速度論的分割経路では、光学分割を含む5工程の変換を一度のシリカゲルカラム精製のみで実現し、光学的に純粋な(+)-12を50グラム合成することができた。

    Scheme 2. Synthesis of optically active bicyclo[2.2.2]octene (+)-12

     続いてビシクロ[2.2.2]オクテン(

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  • 藤間 達哉, Matthew Logan, Justin Du Bois
    p. Oral26-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【研究背景】

     Batrachotoxin(1)はコロンビア産矢毒蛙から単離されたステロイドアルカロイドであり、電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)に選択的に作用する強力な神経毒である(Figure 1)1)。Navは興奮性神経細胞における活動電位の発生と伝導において中心的な役割を果たし、てんかん、不整脈、無痛覚症等の疾患にも関わりが深いことから、Navを標的分子に含む医薬品が数多く開発されてきた。しかし、巨大な膜タンパク質であるNavと小分子との相互作用はX線結晶構造が解明されていない現状では予測が困難であり、合理的なデザインによる医薬品創出の障害となっている。本天然物はNavに結合することで、不活性化機構の消失、活性化の膜電位依存性の変化、シングルチャネルコンダクタンスの低下、イオン選択性の変化等、独特かつ多様な機能変化をもたらすことから、古くから研究対象とされてきた2)。しかし、乱獲によって産生する矢毒蛙が絶滅危惧種に指定されたことでその供給が困難となり、Navに機能変化をもたらす詳細な作用機序は明らかとなっていない。このような背景に加え、ステロイド骨格にホモモルホリン環が形成された特徴的な縮環構造は他に類を見ず、合成化学における格好の研究対象とされてきた。生合成前駆体であるbatrachotoxinin A(2)のprogesteroneからの半合成がWehrliら(1972年)により3)、全合成が岸ら(1998年)により報告されたが4)、いずれも40工程を越える長大な合成経路であり、天然物やその類縁体供給に活用するには十分なものではなかった。当研究室においても合成研究が行われてきたものの、CDE環を有する中間体の合成経路は既に30段階程度となり、合成を継続するのは合理的ではなかった5)。そこで、合成経路を一新し、batrachotoxin(1)の実用的な合成経路の開発を目指した研究を行った。

    【合成計画】

     Batrachotoxin(1)はbatrachotoxinin A(2, Figure 1)を経て合成することとした(Scheme 1)。その17位−20位炭素間の結合はケトンを足掛かりとした適切なカップリング反応、11位の水酸基はケトンの立体選択的還元、窒素原子はアルデヒドに対する還元的アミノ化反応を用いることでそれぞれ構築できると考え、ケトアルデヒド3を重要中間体として設定した。さらに、C環のケトン部位をアルケンの酸化的開裂により得ることとし、C 環をアルキン部位とアルケン部位を用いて環化異性化反応やラジカル環化反応等により構築できると考えることで、エンイン4をその前駆体とした。エンイン4はアルケニルブロミド5から調製した有機金属種を用い、予め17位炭素の立体 化学が制御されたエノン6に対する立体選択的な1,2-付加反応によって合成可能であると考えた。

    【ユニットの合成】

     Scheme 1に示したエノン6、アルケニルブロミド5に相当するユニットの合成を行った(Scheme 2)。文献既知の方法により2,5-ジメトキシテトラヒドロフラン(7)から調製した光学的に純粋なアルコール8を用いてエノン10の合成を行った6)。まず、アルコール8のアルケン部位をエポキ

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  • 中村 斐有, 塚野 千尋, 安井 基博, 竹本 佳司
    p. Oral27-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1. 序論

    カプラザマイシン類は放線菌 Streptomyces sp. MK730-62F2 から2003年に単離された核酸系抗生物質の一種である1。これらは、3つの不斉中心を有する七員環ジアゼパン骨格を中心に、アミノリボース、ウリジン、脂肪酸側鎖が複雑に縮合した興味深い構造である(Figure 1)。生物活性としては、多剤耐性菌を含む結核菌に対し強い抗菌活性をもつことが知られており、その作用機序は細菌細胞壁の主要構成成分であるペプチドグリカンの生合成酵素MraYの阻害であると提唱されている2。MraYは今日広く用いられているグリコペプチド系抗生物質(バンコマイシン等)、β-ラクタム系抗生物質が標的とする酵素よりも生合成経路において上流に位置するため、MraYを標的とした新規抗菌剤はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などを含む広い抗菌スペクトルを示すと期待されている。本化合物群はその興味深い構造と生物活性のため、多くのグループにより注目されており、これまでに脂肪酸側鎖を持たないカプラゾールの全合成が2例報告されている3,4。しかしながら、カプラザマイシン類の全合成は未だ報告されていない。我々は新規抗結核薬シード化合物の創製に応用可能な合成経路の確立を目指し全合成研究に着手した。

    2. 合成計画

     カプラザマイシン類の合成研究において、不安定構造を含む天然型の脂肪酸側鎖を導入した例はこれまでに報告がない。そこで、脂肪酸側鎖の新たな導入法を確立し、さらに全合成の最終段階ですべての官能基を損なうことなく穏和な条件下で一挙に除去できる適切な保護基を探索することが、本研究の重要課題である。以上を踏まえ、カプラザマイシンA (1)の合成計画を以下に示す(Scheme 1)。不安定と予想される脂肪酸側鎖2は、合成の終盤でジアゼパン8に対して導入することとした。脂肪酸側鎖2はL-ラムノース誘導体3、グルタル酸誘導体4、b-ヒドロキシエステル5から構成されている。4は3-メチルグルタル酸無水物7の非対称化5によって構築することとし、5は野依法によって対応するb-ケトエステルから合成することを計画した。

     カプラゾール骨格8に用いる保護基は、最終段階で合成した天然物の単離・精製を考慮してPd触媒存在下、接触還元により容易に除去可能な保護基を選択した。中心骨格の七員環ジアゼパン部位は光延反応で構築し、環化前駆体9はカルボン酸11とanti-b-ヒドロキシアミノ酸誘導体10の連結により合成する。また、11のアミノリボース部位は松田・市川らの報告を参考にアルコール体13に対するフッ化糖12のグリコシド化により構築することとした3

    一方、当研究室ではチオウレア触媒15を用いるジアステレオ選択的アルドール反応を開発している。これを適用すれば、イソシアネート16とアルデヒド17のアルドール反応によりオキサゾリジノン14を合成した後、加水分解、脱炭酸反応を経由してsyn-b-ヒドロキシアミノ酸部位13を効率的に構築できると考えた。

    3. 脂肪酸側鎖の合成とモデルジアゼパン環に対する導入

    Songらはシンコナアルカロイド触媒を用いた環状無水物

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  • 渡辺 匠, Purushothaman Gopinath, Wang Lu, 阿部 光, Gandamala Ravi, 舛田 岳史, 柴崎 ...
    p. Oral28-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1. 背景と目的

    図1 caprazamycin B,caprazol,およびCPZEN-45の構造

    caprazamycin B(1)1は放線菌由来のリポヌクレオシド系抗生物質であり,類似構造を持つliposidomycin2と同様MraYを阻害し3,抗結核活性を示す.また生産菌の微量産物として,側鎖部位を欠くcaprazol(2)も知られている.その後,発酵生産されたcaprazamycinを原料とした半合成的構造活性相関(SAR)研究が行われ,ミコリルアラビノガラクタン合成関連酵素WecAを阻害し3,現在臨床使用される多くの抗結核薬に耐性を示す超多剤耐性結核菌(XDR-TB)にも有効な,CPZEN-45(3)が得られた4.これらの背景を基に演者らは,半合成法では入手困難なcaprazamycin類縁体のSAR研究を基軸とするWecA阻害剤の探索と新規抗XDR-TB薬リードの創製を企図した.本研究はその基盤技術となるcaprazamycinおよびcaprazolの触媒的不斉合成法の確立を目的とする.これまで関連天然物の中では唯一caprazolのみ,松田・市川らによる全合成が報告されている5.今回の合成では主に当研究室で開発された触媒的不斉反応を鍵工程とした.

    2. 合成計画

    図2 本合成において注目した立体構造

    図2に本合成研究の鍵工程で制御される4箇所の立体化学を示した.すなわち(a)と(b)のβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸部位,(c)のβ-ヒドロキシエステル部位,および(d)の非対称ジエステル部位である.

    (a)には柴﨑・熊谷の開発した触媒的不斉anti-選択的ニトロアルドール反応6を利用し,エナンチオおよびジアステレオ選択的構築を試みる.また(b)にはキラルなアルデヒドを基質としたアルドール系反応におけるジアステレオ選択性発現を期待する.(c)に関しては,柴崎・熊谷の開発した光学活性銅錯体による触媒的不斉チオアミドアルドール反応7を,(d)については,3-メチルグルタル酸無水物の触媒的不斉アルコリシス8をそれぞれ適用する.

    3. anti-β-ヒドロキシ-α-アミノ酸部位の立体制御

    図3 anti-選択的触媒的不斉ニトロアルドール反応と構造変換

    caprazamycin類に特徴的なジアゼパノン環に内在するanti-β-ヒドロキシ-α-アミノ酸構造の立体選択的構築においては,ケイ皮アルデヒド4とO-ベンジルニトロエタノール5を基質としたNd/Na-アミド配位子(6)錯体によるanti-選択的触媒的不斉ニトロアルドール反応を鍵工程とした(図3).反応温度を–60 oCとした際,9 mol %の触媒が必要となったが,収率75%,95% eeのエナンチオ選択性,および12:1のanti-選択性にてニトロアルドール成績体7が得られた.なお,–40 oCではいずれの選択性も大きく損なわれ,また3もしくは6 mol %の触媒量では反応速度が著しく低下する.得られた7は,数工程で容易に2級アミン中間体11へと変換可能であった.

    4. ウリジン部位-ジアゼパノン環接合部の立体制御

    ウリジン部位とジアゼパノン環の接合部形成にはイソシアノ酢酸エステル12およびアルデヒド13によるジアステレオ選択的アルドール反応を適用した(図4). 当量の3級アミン作用させるとtrans-

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  • 森 直紀, 伊藤 大輔, 北原 武, 森 謙治, 渡邉 秀典
    p. Oral29-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     アザジラクチン(1)は1968年にMorganらによってインドセンダンの種子から単離されたリモノイドであり1)、広範な種の昆虫に対して強力な摂食阻害活性および成長・変態阻害活性を有する。これまでに多くの研究グループにより本化合物の合成研究2)が精力的に行われてきたが、その高度に官能基化された複雑な構造ゆえ、現在においても合成の報告は2007年のLeyらによるリレー合成一例2e,f)にとどまっている。今回、我々は長年にわたる合成研究の結果、世界で二例目となるアザジラクチン(1)の合成を達成したので報告する。

    1.逆合成解析

     我々の合成計画をScheme 1に示す。アザジラクチン(1)はAより各種官能基変換により合成できると考えた。1の合成においては、非常に込み合ったC8-C14結合の構築が最大の難関とされている。そこで我々は、あらかじめC8-C14結合に相当する結合をアレンとして導入しておき、タンデム型ラジカル環化反応(BRA)を用いて効率的に骨格を構築しようと考えた。ラジカル環化前駆体Bは左右ユニットCとDから導くこととした。

    Scheme 1

    2.左側ユニットの合成の背景

     左側ユニットの基本骨格の構築には分子内Diels-Alder反応を用いることとした。実際に行った数多くの検討の中から一例をあげて説明する(Scheme 2)。ピロンの4位にかさ高い置換基(Cl)を導入した2を用いれば、Diels-Alder反応においてはエンド型付加体3を優先して与え、そこから5へと変換できることを期待した。ところが実際にはエキソ型付加体4が優先して得られる結果となった。次に基質を変更し、ピロンの6位にメチル基を有する6を用いて検討を行ったところ、今度はDiels-Alder反応後速やかに脱炭酸が進行した8が得られることが判った。そこでこの脱炭酸しやすい性質を逆手にとるべく、ピロンの4位にはプロパルギルオキシ基を導入することとした。実際に7を用いたところ、Diels-Alder反応、脱炭酸により9を経た後さらにClaisen転位まで進行した10が得られた。この方法により脱炭酸により失われた一炭素をアレンとして補うことが可能となった。ただし、10はC4位の立体化学の反転が必要であり、アルドール反応を行うべく11への変換を試みたが、シクロヘキセノン環の酸化的開裂が困難であることが判った。そこで酸化反応を容易にするためにピロン環にメトキシ基を導入することとし、12をDiels-Alder反応前駆体として設定し合成を開始した。

    Scheme 2

    3.Diels-Alder反応—脱炭酸—Claisen転位

     Diels-Alder反応前駆体のユニットとなる18と21の合成をScheme 3に示す。Carreiraらにより報告されている不斉反応3)に改良を加え、Jiangらにより開発されたリガンド154)を用いることにより13と14から高鏡像体純度(98% e.e.)で付加体16 を得た。16から2工程でビニルスズ17へと変換後、(Z)-3-ヨードアクリル酸メチルとのカップリングによりジエノフィルとなるアルコール18を得た。一方、ピロンユニット21は既知化合物195)より別途5工程で調製した。

    Scheme 3

     18と21とをAgOTfを用いてエーテル化し、Diels-Alder反応前駆体22へ

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  • 岩田 隆幸, 大塚 悟史, 坪倉 一輝, 新井 大祐, 深瀬 浩一, 中尾 洋一, 田中 克典
    p. Oral3-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【緒言】

     共役アルデヒドと各種アミンから得られる共役イミンは、分子内に求核部位と求電子部位の両者を有しており、多種多様な反応性を示す。これら共役イミンは、生体内においてもリジンやアルギニンに代表されるアミン類と脂質代謝産物から生成し、様々な機能を担っていると考えられる。従って、生体内での共役イミンの反応性を理解することは、アルカロイド天然物の新しい合成法開発のヒントになるとともに、生体機能を制御する分子の創製に繋がる可能性を有する。今回我々は、アルギニン残基に対する翻訳後修飾反応を鍵として、置換2-アミノイミダゾール合成法を開発した。本法を用いて、顕著な血管新生阻害活性を持つageladine Aの「ワンポット全合成」に成功した。さらにワンポット全合成を基盤として、ageladine Aを血管新生阻害活性とは異なる、新しい生理活性を付与した分子へと進化させ、天然物の活性を合成化学的にリモデリングすることに成功したので、これらの経緯について報告する。

    【結果】

    1.アルギニンの翻訳後修飾に学ぶ置換2-アミノイミダゾール合成法の開発

    2-アミノイミダゾール構造は、天然物や医薬品を含む多くの生理活性分子に見られる基本的な構造である。しかし、シンプルな構造であるにも関わらず、様々な置換基導入に耐えうる一般的合成法は非常に限られており、新たな合成法の確立が強く望まれている。一方で、これまで一般的にはほとんど知られていないが、タンパク質のアルギニン残基が脂質代謝産物である共役アルデヒドにより翻訳後修飾を受け、共役イミンの形成と分子内共役付加を経て、2-アミノイミダゾールが生成することが報告されている(Scheme 1a)1。そこで我々は、この翻訳後修飾をヒントにして、4位置換2-アミノイミダゾール誘導体の合成法を検討した。

     まず、アルギニンに対して、フマルアルデヒド酸メチル1をメタノール中で24時間作用させたところ(Scheme 1b)、翻訳後修飾として報告されているように、2-アミノイミダゾールが生成することが確認できた。しかし、一部メチルエステルの加水分解が見られたため、反応生成物の混合物を続けて塩基で処理したところ、65%の収率で2-アミノイミダゾールを得ることができた。そこで次に、アルギニンのモデルとして、フェニルを持つグアニジンを検討したところ、86%の収率で反応が進行することが分かった。一方、直鎖アルキル基やベンジル基を持つグアニジンの場合には多くの複雑な生成物を与えた。さらに、電子求引基であるアセチル基を持つグアニジンを用いた場合には、反応は全く進行しなかった。以上の結果から、天然のアルギニンはそのアミノ酸側鎖による分子内、または分子間の水素結合をうまく利用することで、共役アルデヒドとの反応性を制御し翻訳後修飾を実現していることが示唆された。我々は、このアルギニン独自のグアニジン官能基の反応性をフェニル基によって模倣できることを見出した。

     以上の結果を基に、容易に入手可能なアニリン誘導体を出発原料として、置換2-アミノイミダゾール誘導体2のワンポットライブラリー合成を

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  • 吉村 光, 高橋 圭介, 石原 淳, 畑山 範
    p. Oral30-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    チランダマイシン類天然物は、Streptomyces属から単離された抗生物質であり、グラム陽性菌に対する抗菌活性及びDNA依存型RNAポリメラーゼに対する強力な阻害活性を示し、またラットのミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を阻害することが知られている1)。これらの天然物はジオキサビシクロ[3.3.1]ノナン及びジエノイルテトラミン酸を基本骨格としており、ビシクロ環は様々な酸化形式を示す。その魅力的な生物活性及び構造的特徴から多くの合成研究が報告されてきたが2)、触媒的不斉合成の例は少なく、特にチランダマイシンB (2)に関しては連続不斉中心の立体制御合成は達成されていない2b, c)。一方で最近、ShenらによってチランダマイシンB (2)に強力な殺糸状虫活性(IC50 = 1 μM)があることが報告され、リンパ性フィラリア症治療薬のリードとして改めて注目を集めている3)。そこで、触媒的な方法でチランダマイシンB (2)の立体制御合成を行い、さらにその中間体から類縁天然物も網羅的に合成し、本天然物類の一般的合成法を開発すべく本研究に着手した。

    1.合成計画

    本天然物を合成するにあたり4連続不斉中心をいかに構築するかが鍵となる。その連続立体中心構造に着目すると、我々は当研究室で開発された触媒的不斉森田-Baylis-Hillman (MBH)反応が適用できると考えた4a, b)。この反応では、キニジンあるいはキニーネよりそれぞれ一工程で合成できるβ-ICD、あるいはα-ICPNとHFIPAを組み合わせることでα-メチレンβ-ヒドロキシエステル体の両鏡像体をいずれも高いエナンチオ選択性で合成できる。

    さらに、この生成物のエキソオレフィンは反応条件を選択することによって、antiあるいはsyn選択的に水素化することができる5, 6)

    以上の背景のもと我々は、次のような逆合成解析を行った。即ち、チランダマイシンB (2)の全炭素骨格は、DeShongらの方法に従い、アルデヒド8とリン酸エステル7とのHWE反応により構築する。アルデヒド8は、宮下らの方法に従い、不飽和エステル9のビシクロ環をエポキシ化し、エステルをアルデヒドへと変換し合成することにした。9はエステル11の炭素鎖を伸長した後に10のフラン環を酸化し、Achmatowictz反応に付すことで合成でき、11はアルデヒド12に対するα-ICPNを用いた立体選択的MBH反応に続くエキソオレフィンのanti選択的水素化によって合成できると考えた。また、12の2連続立体中心は、フルフラール誘導体13に対するβ-ICDを用いたMBH反応後、生じたエキソオレフィンをsyn選択的に水素化することで構築可能である。

    2.4連続立体中心の構築

    β-ICDを触媒とし13とHFIPAとの不斉MBH反応を行い、付加体を70%収率、99%eeで得ることに成功した。付加体をメチルエステル14へと定量的に変換後、臭化マグネシウム存在下接触水素添加を行うと、キレーション制御によってsyn選択的に水素化が進行した。この還元体をアルデヒド12へと変換し、今度はα-ICPNを触媒とし不斉MBH反

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  • 北井 友里加, 田村 啓敏
    p. Oral31-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     1970年以降、日本人の死亡率第1位はがんとなり、現在に至るまでがん死亡率は増加の一途を辿っている。がんは老化や生活環境因子が深く結びついた疾患であると言われており、今後、人口の急速な高齢化とともにがん死亡率は増加し続けると見込まれ、依然としてがんは国民の健康と生命にとって重要な問題である。1

     我々はこれまでに、食を通じたガン予防の観点から、Raji細胞を用いたEBV-EA活性化試験より抗発がんプロモーター活性を示す成分として、ヤーコン葉に含まれるセスキテルペンラクトン(SLs)であるenhydrin(1)、uvedalin(2)、sonchifolin(3)の単離•同定に成功した。2さらに、これら化合物はHeLa細胞(子宮頸癌細胞)に対する細胞増殖抑制活性を示し、その細胞毒性発現機構としてcaspase-3/7活性依存的にアポトーシスを誘導することを明らかにした。3

     本討論会では、ヤーコン葉から細胞毒性活性を示す新規化合物であるダイマーSLsのenhydrofolin(5)とuvedafolin(6)の単離に成功したので、化合物6の構造と、これら化合物の細胞毒性関連性、及び、細胞毒性の発現機構について報告する。

    enhydrin(1) uvedalin(2) sonchifolin(3) polymatinB(4)

    enhydrofolin(5) uvedafolin(6)

    Figure 1. Structure of sesquiterpene lactones from yacon

    【ヤーコン葉より単離したsesquiterpene lactones】

     ヤーコン乾燥葉(1.6kg)のアセトン抽出物(40.6g)に70%MeOHを加え、70%MeOH可溶画分を回収し濃縮した。70%MeOH可溶画分(22.3g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて30分画後、SLs高含有量のフラクションを結晶化することにより純度95%上の化合物1, 2, 6の結晶をそれぞれ1300mg(0.008%)、100mg(0.006%)、110mg(0.007%)ずつ得た。その他の物質は、分取TLC及びHPLC(ODSカラム)を組み合わせ、純度95%以上の化合物3, 4, 5をそれぞれ25mg(0.002%)、20mg(0.001%)、30mg(0.002%)ずつ得た。

    【uvedafolinの構造解析】

     新規化合物uvedafolin(6)はESI-TOF-MSスペクトルより分子式C43H53O15と推定された。IRスペクトルから水酸基(3536cm-1)の存在、及び、NMRスペクトルパターンより、既知SLs類似のmelampolide型骨格を有する2量体化合物であると考えられた。1H-1H COSY, HMBCスペクトルより6の平面構造はFig.2に示す2つの部分構造の存在が示唆された。AとBを結合する架橋構造中の四級炭素C-2”(δC 76.1)の酸素原子の先には1H核と13C核の存在が確認されず、C-2”の隣には-OH基の存在が帰属できた。6は化合物2のC-8位上angelate側鎖上のエポキサイドと、化合物3のC-10位上メトキシ基とがエステル結合することにより架橋構造を形成したダイマーSLsであると決定した。

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  • 當銘 一文, 朴 賢英, 神谷 謙太郎, 荒井 緑, Samir K. Sadhu, Firoj Ahmed, 石橋 正己
    p. Oral32-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1背景:ウィント(Wnt)シグナルは線虫からヒトに至るまで生物種を超えて高度に保存されたシグナル伝達経路で,初期発生における体軸形成から各種組織・器官の形態形成,出生後の細胞の増殖・分化・運動,組織幹細胞の維持などの様々な生命現象において多彩かつ重要な役割を果たしている.一方で,大腸がんを始めとする様々ながんにおいて異常亢進していることが知られているほか,糖尿病や精神疾患など各種疾患との関わりも示唆されている.したがってWntシグナルに作用する化合物は各種生命現象を研究する上での分子ツールや,医薬品リード化合物となることが期待される1.当研究室ではタイ・バングラデシュ産植物の抽出物ライブラリーを独自に構築しており,これらからのWntシグナル調節作用をもつ天然物の探索を進めてきた2-4.本会ではこれまでの研究で見出した強力なWntシグナル阻害作用をもつ天然物とその活性発現機構に関する解析について報告する.

    2スクリーニング試験:当研究室保有の独自に構築した南方アジア産植物の天然物抽出物ライブラリーを対象に,培養細胞を用いたルシフェラーゼアッセイシステムを用いてスクリーニング試験を行った.スクリーニング試験は,ヒト胎児腎細胞HEK293に野生型TCF結合領域をもつSuperTOP-Flashレポーター遺伝子を安定導入したSTF/293細胞を用い,試料添加によるルシフェラーゼ活性(TOP活性)の変化を測定することによりWntシグナルの最下流に位置するTCF/β-catenin転写活性の評価した2,5.スクリーニングの結果,良好な活性を示した以下の二種の植物について活性成分の探索を行った.

    3 Calotropis giganteaから得られたWntシグナル阻害成分6

    バングラデシュにて採取したガガイモ科植物Calotropis gigantea(和名:カイガンタバコ)滲出液メタノールエキスより,上記活性試験を指標として,分画を行い,6種のカルデノライド類(1-6)を単離した.これらは10位にアルデヒド基をもつ共通するカルデノライド骨格をもつが,3’位の置換基が異なっていた.これら化合物はnMオーダーでTOP活性を阻害し,そのIC50値は0.7-3.8 nMであった.また,これら化合物は1-10 nMの濃度範囲において,細胞増殖がWntに依存するヒト大腸がん細胞(SW480,DLD1,HCT116)に対して選択的に細胞毒性(IC50値:1.8-7.0 nM)を示したが,細胞増殖がWntに依存性しないヒトRKO細胞に対しては細胞毒性を示さなかった.このことから,これら化合物は,Wntシグナルを阻害することにより,Wntシグナル依存性細胞の細胞生存率を低下させると示唆された.

    得られた化合物のうち,calotropin(1)について,そのWntシグナル阻害作用のメカニズムを解明する目的でWntシグナル経路において重要な役割を担う転写活性化因子β-cateninレベルへの影響をウェスタンブロットにて調べた.その結果,Wntシグナルの亢進が認められているSW480細胞において,1は濃度依存的に核内および細胞質のβ-cateninを減少させた.また,1は本シグナルの標的遺伝子であるc-mycタンパクを濃度依存的に低下させた(図1A).

    化合物1は核および細胞質の両方のβ-cateninを減少させてい

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  • 高谷 芳明, 堀田 理絵, 藤原 憲秀, 大谷 里沙, 内山 由梨香, 榊原 美月, 福田 英里, 丹羽 正武, 井上 敬, 大畠 明子
    p. Oral33-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    細胞性粘菌は,土壌中のバクテリアを捕食し生活する微生物で,その生活環は増殖ステージと分化ステージよりなる.増殖ステージでは,単細胞の粘菌アメーバが増殖を繰り返す.一方,餌のバクテリアがなくなり飢餓状態になると,約10万個の細胞が引き寄せられ集合体を形成し,予定胞子細胞と予定柄細胞からなるslugとなった後,それぞれ胞子と柄となり子実体を形成する (Fig. 1).このステージを分化ステージという.この分化の過程において単細胞が集合し,予定柄細胞に分化するための化学シグナルとして古くより知られている化合物としてはDIF-1 (differentiation inducing factor-1) (2)1がある.また近年弱い分化誘導活性がある化合物としてMPBD (4-methyl-5-pentylbenzene-1,3-diol) (3)2が単離された.これらの化合物はポリケタイド合成酵素によって産生されるという報告がなされている.細胞性粘菌のゲノムサイズは34 Mbであり,その中に40個以上のポリケタイド合成酵素遺伝子を持っていることが明らかにされている3,4.しかし,細胞性粘菌のポリケタイドとしては,これらの化合物の他にいくつかが報告されているのみである.これまでの研究で,細胞性粘菌Dictyostelium discoideum の培養液 (conditioned medium, CM) 中に予定胞子細胞を誘導する因子が高分子画分及び低分子画分に存在するという知見が得ていた.高分子画分得られた因子は糖タンパク質であり,y factoe (PSI-1)と命名した57.さらに,CMを透析することにより得られる低分子画分にも活性が見られるという知見に基づき,新たな因子を探索した結果,新規ベンゾキノン型ポリケタイドを単離し,dictyoquinone (1) (DQ)と命名した.本報では,その詳細について報告する.

    Dictyoquinone (1)の単離8

    D. discoideum V12M2 strain (wild-type)を23 °Cで振盪培養し,12–14 h後,得られた培養液(CM)をsyringe filter (0.45 μm)でろ過した.CMを遠心分離し,上清をAmberlite XAD-2樹脂に吸着させ,水,MeOH–H2O (9:1),アセトンの順で溶出した.それぞれの画分について,予定胞子細胞分化誘導活性を測定した結果,MeOH–H2O画分に活性が見られた.そこでこの画分をSephadex LH-20を用いMeOH–H2O (9:1)を溶出溶媒として分画した.各画分について予定胞子細胞分化誘導活性を測定し,活性の見られた画分を集め,ODSカラムを用いたHPLCによりさらに分画した.Sephadex LH-20分画において,活性画分は赤色を呈していたことより,HPLC分画においては,250 nmおよび500 nmでの検出ならび分化誘導活性との相関を検討した.その結果,500 nmの吸収を示すピークと分化誘導活性とは良い相関を示した.この活性画分をさらにC8カラムを用いたHPLCで精製することにより,dictyoquinone (1)を単離した.収量は培養液12 Lより<400 μgと極微量であった.また,得られたdictyoquinone (1) の予定胞子細胞誘導活性のhalf-maximal induction は26 nMであった.

    Dictyoquinone (1)の構造9

    Dictyoquinone (1)は高分解能ESI-MSよりC12H16O3の分子量を持つことが明らかとなった (m/z208.1084 [M], calcd. m/z 208.1099).1H NMRスペクトルでは,2個のメチルシ

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  • 平塚 知成, 南 篤志, 鈴木 秀聡, 仮屋 遼, 清尾 崇, 渡辺 裕知, 常盤野 哲生, 及川 英秋
    p. Oral34-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     Jawsamycin(1)はStreptoverticillium fervensHP-891から単離された天然物であり(図1)、植物病原菌に対して顕著な抗菌活性を示す1。その構造的な特徴は、①ポリケチド鎖と核酸部がアミド結合を介して縮合している点、②4つの連続したシクロプロパン(CP)と独立したCPが一つの炭素鎖上に導入されている点、③全てのCPが同一の立体配置を有する点にある。1のポリケチド鎖は多様な分子構造の宝庫である天然物の中でも極めて稀な構造であり、類似の構造的特徴を有する天然物はStreptomyces sp. UC-11136が生産するU-106305(2)の一例しか報告されていない(図1)2。その構造は多くの有機合成化学者の注目を集め、FalckおよびBarrettらのグループにより全合成が達成されている3,4。一方、1の生合成経路についても興味がもたれてきたが、その詳細は未解明であった。我々は、1に見られるポリシクロプロパン骨格の構築には新しい生合成マシナリーが関与していると予想して生合成研究を開始した。最近、①標識前駆体・中間体アナログの取り込み実験5-7、②生合成遺伝子クラスターの同定と機能解析8を通して、ラジカルSAM酵素によるポリシクロプロパン骨格構築機構を提唱するに至ったのでその詳細を報告する。

    標識前駆体・中間体アナログの取り込み実験

     CPの構築機構に対する知見を得るため、生産菌への各種標識前駆体の取り込み実験を行った(図2)。興味深いことに標識酢酸が全く取り込まれないことがわかったので、酢酸の代わりとしてD-[U-13C6]glucoseと[1,3-13C2]glycerol、加えてL-[Me-13C]methionineを実験に用いた。各標識体の取り込みパターンから、酢酸ユニットが連結したポリケチド鎖にS-アデノシルメチオニン(SAM)由来のメチル基が導入されることでCPが構築されることがわかった。次いで、CP構築のタイミングに対する知見を得るべく、重水素標識したジケチドアナログ3の取り込み実験を行った。生成した1の2H-NMR解析の結果、末端メチル基のシグナルが観測された。これに対し、3のエナンチオマーは取り込まれなかった。以上より、炭素鎖構築の過程でCPが立体選択的に導入されることが強く示唆された。一方、ヌクレオシド部については、[5,5’-2H2]-5,6-dihydrouridineの取り込みが確認された。上記取り込み実験の結果から、核酸部はウリジン(誘導体)から生合成されることがわかった。

    生合成遺伝子の解析

     CPの構築に関与する酵素遺伝子を同定するため、1生合成遺伝子クラスターの取得を試みた。まず、ポリケチド鎖の縮合を触媒するKetosynthase(KS)ドメインに対する縮重プライマーを用いてPCRによる生合成遺伝子の取得を検討した。その結果、マルチモジュラー型のポリケチド合成酵素(PKS)遺伝子を含む遺伝子クラスターが2種類得られたが、そのドメイン配列は1のポリケチド鎖の化学構造から予想される配列とは一致しなかった。そこで、生産菌ゲノムDNAのドラフトシーケンス解析を行い、二次代謝産物生合成遺伝子を網羅的に探索した。PKSに加えてアミノウリジンの構築に関与する既知の酸化/アミノ基転移酵素

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  • 森 貴裕, 淡川 孝義, 張 驪駻, 星野 翔太郎, 脇本 敏幸, 森田 洋行, 伊藤 卓也, 石川 淳, 阿部 郁朗
    p. Oral35-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1. 序論

     放線菌が生産するteleocidin B(1)は強力なprotein kinase C(PKC)活性化作用を示す発癌プロモーターである(図1)1,2。PKCは細胞内のシグナル伝達を担うリン酸化酵素であり、その活性化因子の多くは発癌プロモーターとして作用するが、bryostatinやphorbol esterの様にPKSの活性化後、細胞内挙動を制御することで抗癌活性を示す天然物も知られている3。さらに、いくつかのPKC活性化因子は、抗アルツハイマー病活性、抗HIV活性を示すことから、医薬品のリード化合物としても重要である。1は特徴的な環状テルペノイド構造と9員環ラクタム構造を有し、これまでに様々なteleocidin誘導体の単離4、合成研究5が行われ、PKC活性化作用の検討が行われてきた。一方で、teleocidin類の生合成に関しては、9員環ラクタム構造、(-)-indolactam(2)部位が、L-tryptophanとL-valineから合成され、テルペノイド部位は非メバロン酸経路により供給されることが、化学変換や放射性同位体標識化合物の投与実験により明らかとされている6。また、1の生合成中間体であるlyngbyatoxin A(3)の生合成研究において、非リボソーム型ペプチド合成酵素 LtxA、ペプチド鎖の環化を行う酸化酵素LtxB、プレニル基転移酵素LtxCが関与することが見出されている(図2)7。1は、3のテルペノイド部がメチル化された後に、環化反応が進行し、生成すると予想される。しかし、環状テルペノイド構造の形成に関わる生合成酵素は未だ不明であった。そこで本研究では、teleocidin類の全生合成酵素の同定と、in vitroにおける酵素機能解析やX線結晶構造解析による生合成酵素の触媒機構の解明を目指した。

    2. Teleocidin B生合成遺伝子クラスターの同定

     Teleocidin B生合成遺伝子クラスターを探索するため、Streptomyces blastmyceticus NBRC 12747のドラフトゲノムシークエンスからプレニル基転移酵素LtxCをクエリーとしてBLAST検索を行った。その結果、LtxCと40%の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子(tleCと命名)をゲノム中に見出した。tleCの遺伝子上流には、LtxAと49%、LtxBと47%の相同性を有するタンパク質をコードする遺伝子が存在しており、それぞれtleA、tleBと命名した。結果として我々は、teleocidin生合成遺伝子クラスター(tleクラスター)としてtleABCを含む、23.3 kbのコンティグを得た(図3)8

     本遺伝子クラスターがteleocidin類生合成に関与することを証明するため、tleクラスターを導入した放線菌Streptomyces lividans TK21株を、teleocidin類生産培地にて培養したところ、遺伝子特異的に3を主生成物として生産した。したがって、tleABC遺伝子はteleocidin類の生合成に関わることが明らかとなった8。また、この株では1が生産されないことから、テルペノイド部のメチル化、環化関連遺伝子はtleクラスター外部に存在すると考えられた。

    図3 Teleocidin生合成クラスターと周辺遺伝子

    3. プレニル基転移酵素TleCの機能解析

    プレニル基転移酵素TleCはGPPのC-3位からインドール環のC-7位への求電子置換反応を触媒する。このようなプレニル基転移反応は逆プレニル化反応と呼ばれる。これ

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  • 松浦 英幸, 山下 雄大, 葵 新, 榊原 均, 小島 美紀子, 高橋 公咲, 犬飼 剛, 増田 税, 吉原 照彦
    p. Oral36-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     植物は大地に根を張り、その場で様々な環境要因,ストレスに呼応して自己の生活環を終結させなくてはならないことから、独自の応答機能を有している。この植物独自の応答機能を司る生理活性物質として、植物ホルモンと呼称される一群の化合物が知られ、多くの研究がなされてきた。この研究過程で植物ホルモンはその固有の生理活性を有し植物の生長制御に関わっている事が明らかになったが、その一方で植物ホルモン同士がお互いに影響し合う、いわゆる”cross talk”による生長制御も存在する事が,近年明らかとなった。しかしながら、上述の”cross talk”を解明する上で植物ホルモンの外部投与に頼った研究例が数多く見受けられる。この“植物ホルモンの外部投与実験”の問題点として、内生量を遥かに上回った投与量が用いられている点であり、はたして本当の生物現象を反映しているか、再検証の余地がある。

     この問題を上手に避ける上で、植物化学調節剤の活用は非常に有用である。一例として、サリチル酸(SA)の内生量の上昇を促すBIH, SAシグナル伝達の下流を活性化させるBTHを用いた実験により、SAを介した植物ホルモンの”cross talk”が明らかとされた [1] 。このように植物化学調節剤をテコに実験データを蓄積したい所であるが、アブシシン酸(ABA),ジャスモン酸(JA),ジベレリン(GA) など、他の植物ホルモンの蓄積を促進する薬剤は存在せず、その発見が待たれる所である。本研究の目的は植物ホルモンの内生量上昇を促す植物化学調節剤の開発である。本発表では糸状菌由来の生理活性物質、セオブロキシド(Fig. 1)がABAの内生量を上昇させる活性を有すること、およびABAを介したSA, GAに対する”cross talk”について報告する。本研究成果は初のABA内生量上昇を促す天然物の発見につながった。

    1)セオブロキシの灌水処理によるABAの内生量上昇

     セオブロキシドは当初、バレイショ塊茎誘導物質としてLasiodiplodia theobromae培養ろ液より単離、報告された[2]。その後の研究により、シロイヌナズナへのセオブロキシド灌水処理は、乾燥耐性、塩害耐性を付与することが明らかとなった。これらの効果に関連する植物ホルモンはABAである事から、処理後のABA内生量をUPLC MS/MSにより解析した。処理方法は播種35日後、1日おきに1個体当たり30mLのセオブロキシド水溶液(0.1 mmol)を3度灌水処理し、最終処理2日後の植物体を刈り取り分析した。Fig.2に示すようにABAの内生量が処理植物において有意に上昇していた。引き続き、セオブロキシド処理により活性化されるABA生合成に関する遺伝子を特定すべく、当該の遺伝子に関して半定量RT-PCRによる解析を行った。その結果、ABAグルコースエステル体(ABA-Glc)を加水分解しABAを供給するBG1遺伝子が活性化される事を突き止めた。BG1遺伝子の変異株を購入し、セオブロキシド灌水処理を施したが、予想通りABA内生量の有意な上昇は確認できなかった(Fig.2)。以上の実験より、セオブロキシド灌水処理はBG1遺伝子に作用し、ABA-Glcを加水分解する事によりABAを供給している事が明らかとなった。

    2)セオブロキシ灌水処理により誘導されるABAによるGAへの”cross talk”

     

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  • 伊藤 千秋, 斎藤 洋平, 野澤 孝志, 藤井 重元, 橋本 龍太, 澤 智裕, 赤池 孝章, 中川 一路, 有本 博一
    p. Oral37-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    幅広い生物資源が現代天然物化学の研究対象になるなかで、ほ乳類由来新規化合物に関する研究報告は多いとは言えない状況にある。

     私達は、ほ乳類細胞に存在する新規シグナル分子:8−ニトロcGMPを発見し、論文発表した1。今回,「8−ニトロcGMPが内因性のオートファジー誘導因子である」という重要な結果を得たので報告する2

    図1.マクロオートファジーのプロセス

    細胞質においてオートファゴソームが生成し、加水分解酵素を含むリソソームと融合したのち、内容物の分解・再利用がおこなわれる。UPSとならぶ主要な細胞内分解機構

    1.背景

    一酸化窒素(NO)は、1998年ノーベル生理医学賞の受賞対象になったガス状のシグナル分子である。主たる作用は、グアニル酸シクラーゼ活性化を介するセカンドメッセンジャー (cGMP) の生成促進であるが、別の機能として生体内分子の修飾反応がある。私達は、特にニトロ化修飾の重要性を信じて探索をおこない、初めての内因性cGMP誘導体である8−ニトロcGMPを発見した(2007年)1。現在では、動物,植物など広汎な生物種に存在が確認されている。

     8−ニトロcGMPの特徴は、生体内でシステイン残基と共有結合を形成して、タンパク質機能の制御に関与することである。私達は、この新規翻訳後修飾をタンパク質S-グアニル化と名付けた(図2)。

    図2.タンパク質の新規修飾反応:S-グアニル化(S-guanylation)1

    2.研究目的と手法

    S-グアニル化の生理的役割解明を目指した.ただし、生体内の含Cysタンパク質の数は膨大であり,S-グアニル化を受ける標的をプロテオーム手法で個々に同定しても、総体として真の生理機能が見出せるか否か疑問が残った。そこで標的同定を急がず、表現型観察から8−ニトロcGMPの機能に迫ることにした。

    3.ニトログアノシン蛍光プローブの合成と細胞内局在3

    生細胞イメージングは、免疫細胞化学より簡便で、有用な情報を与える。そこで、8−ニトログアノシンを基盤に蛍光プローブを作成した。このプローブはS-グアニル化反応により蛍光強度が増大するようデザインされている。A549細胞に投与したところ、速やかに取り込まれ、細胞質において斑点上の局在を示した(図3)。オルガネラマーカーとの比較から、リソソームとよい共局在を示すこともわかった。一方,ニトロ基を持たないコントロールは、細胞質全体に拡散して存在し、特定の局在を示さなかった。

     この情報をヒントとし、8−ニトロcGMP自体によるS-グアニル化を検出できる特異的抗体を作成した1。免疫細胞化学で解析したところ、S-グアニル化は予想通りのリソソーム局在を示した2。リソソームは,細胞内分解プロセスで働くオルガネラであり、私達は「S-グアニル化と分解プロセスの関係」に注目することになる。

    図3.プローブを用いた生細胞イメージング(RAW264.7細胞)3

    4.8−ニトロcGMPは内因性のオートファジー制御分

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  • 古里 あかね, えるでそきー あはめど, 加藤 光, 江口 啓介, 藤原 章雄, 川畑 哲郎, 竹屋 元裕, 塚本 佐知子
    p. Oral38-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     海綿由来アルカロイドであるマンザミン類は、manzamine A (1) 1) の発見以来、80種類以上の類縁化合物が単離されている。構造の特徴として、1やmanzamine B (2) 2) に認められる、複雑に融合した五環性あるいは四環性構造に b-carbolineが結合した基本骨格を有している。基本骨格に酸化や還元反応が進むことにより生成した類縁体に加えて、1の二量体3) や新奇性の高い骨格を有する類縁体4) も単離されている。我々は、海洋生物から医薬リード化合物の探索のため、研究室において種々のアッセイを行っている。今回、インドネシアの異なるポイントで採集した3種類の海綿Acanthostrongylophora ingensのエキスが細胞毒性、マクロファージにおけるコレステロールエステルの蓄積阻害作用、プロテアソーム阻害作用を示したので、活性成分の精製を行った。その結果、これまでに報告されているmanzamine類縁体とは異なる構造的特徴を有する7種類の新規化合物の単離に成功したので報告する。

    1. Acantholactam (3) の構造

     2006年12月にインドネシアのスラウェシ島北部Ti Toiで採集した海綿A. ingens(湿重量250 g)のEtOHエキスのEtOAc可溶画分が細胞毒性を示した。精製を行い、1 (34.2 mg) に加えて新規化合物3 (3.8 mg) を単離した5)。3は分子量がC36H42N4O4で、2次元NMRの解析により1に存在する6/6/13員環に b-carbolineが結合した構造を有することが分かった。残りのC8H11NO3から構成される構造は、HOHAHAからN-27の窒素に (Z)-2-hexenoic acidが結合した g-lactam環であることが明らかとなった。3は1のC33-C34結合が酸化的に開裂して生成したと考えられるが (Scheme 1)、Hamannらがインドネシア産の海綿から単離したacantholactone (4) 4c) は、3の g-lactam環が開裂した後、新たに d-lactone環と e-lactam環が形成されて生成したと考えることができる。

    2. Pre-neo-kauluamine (5) の構造

     2006年12月にインドネシアのスラウェシ島北部Bajotalawaanで採集した海綿A. ingens(湿重量600 g)のEtOHエキスのEtOAc可溶画分が、マクロファージでのコレステロールエステルの蓄積阻害作用を示した。精製を行った結果、1 (380 mg) および1の二量体neo-kauluamine (6) 3b) (2.6 mg) に加えて新規化合物5 (1.7 mg) を単離した5)。5の分子量はC36H44N4O3で、1より酸素が2個多い。2次元NMRスペクトルの解析により5は1の類縁体で、5には互いに結合した低磁場のメチン水素2個 [d 4.11 (H-31), d 4.20 (H-30)] が存在し、32位と33位のオレフィンシグナルが消失している点が1とは異なっていた。さらに、5は1と同様に8員環を有しているが、30位、31位、34位の炭素には酸素が結合していると考えられた [d 65.6 (C-31); d 69.2 (C-30); d 91.7 (C-34)]。H-30とC-34のシグナルにHMBC相関が認められたので、30位と34位はエーテル結合し、31位には水酸基が結合していると考えられた。5を -20℃で2ヶ月間保管したところ、二量体であ

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  • 森田 真布, 大野 修, 渡邊 絢音, 杖田 淳子, 矢守 隆夫, 豊島 近, 末永 聖武
    p. Oral39-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【概要】

     シアノバクテリアは光合成を行うグラム陰性細菌であり、これまでにも数多くの生物活性物質が発見されてきた。海洋のシアノバクテリアは培養が難しいとされ、我々のグループでは自然界から採取したサンプルを用いて生物活性物質の探索研究を進めてきた。

     その中で最近、鹿児島県および沖縄県で採集したシアノバクテリアLyngbyasp. (Figure 1)より、ヒトがん細胞に対して強い細胞増殖抑制活性を示すマクロリドbiselyngbyolide A (4)1およびB (2)2、biselyngbyaside B (3), C (5), D (6)3を単離した (Figure 2)。これらは、2009年に当研究室で構造決定されたbiselyngbyaside (1) 4の類縁体として初めて単離された化合物である。biselyngbyasideは新奇な骨格をもつ18員環マクロリドであり、最近では禹らにより破骨細胞に対する分化抑制活性が報告されるなど5、その生物活性に関心が寄せられている。今回我々は、biselyngbyaside類 (2-6)の単離・構造決定および生物活性評価を行い、構造活性相関の知見を得ることができた。また、ヒトがん細胞パネルスクリーニングを糸口として、これまで明らかになっていなかった作用機序の解明に取り組んだ。その結果、biselyngbyaside類は小胞体膜上のカルシウムポンプを標的として、腫瘍細胞に対して小胞体ストレス誘導性のアポトーシスを引き起こすことが明らかになった。詳細について報告する。

    Figure 2. Structures of biselyngbyasides isolated from the marine cyanobacterium Lyngbya sp.

    1. biselyngbyaside類の単離・構造決定

     採集したシアノバクテリアを用い、ヒト子宮頸癌細胞(HeLa細胞)に対する増殖抑制活性を指標にして生物活性物質の探索を行った。鹿児島県徳之島産のシアノバクテリアLyngbya sp.(湿重量400 g)をメタノールで抽出し、得られた抽出物を酢酸エチル/水で分配した後、有機層をさらにヘキサン/90%メタノールで分配した。その結果、90%メタノール画分に顕著な細胞増殖抑制活性が認められた(IC50 < 0.1 mg/mL)。そこで本画分を各種クロマトグラフィーで分離・精製したところ、biselyngbyolide A (4, 30.8 mg), biselyngbyaside B (3, 1.2 mg), C (5, 0.9 mg), D (6, 0.2 mg)を単離した (Figure 2)。一方、biselyngbyolide B (2, 0.7 mg) は沖縄県石垣島で採集したLyngbyasp. (湿重量200 g)より、3-6と同様の手法で単離した。

     biselyngbyaside類は無色油状物質として得られた。ESIマススペクトルによりbiselyngbyolide A (4)の分子式はC27H42O5であることが分かった。

    続いて、各種二次元NMRスペクトルの解析により平面構造を明らかにした。その結果、4は18員環マクロリドであり、biselyngbyaside (1)のアグリコンが水和を受けた構造の新規類縁体であることが分かった(Figure 3)。

     続いて、4の相対立体配置を結合定数とNOESYスペクトルにより推定し、絶対立体配置は既知化合物1 とのCDスペクトルの比較により決定することとした。得られた4の相対立体配置を下図に示す (Figure 4)。4のC3-C5の1,3-ジオールはアセトナイド7へと誘導し、H3, H5がsynであることを確認した。これにより、4におけるC3, C7, C10, C17の相対立体配置は1と同

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  • 森田 昌樹, 小嶋 俊太郎, 平井 剛, 袖岡 幹子
    p. Oral4-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    背景・目的

    ステロイド誘導体であるフィサリン類には、興味深い生物活性が種々報告されている1)。当研究室では、複雑に縮環したかご型DEFGH環部の生物機能を明らかにするため、まず前駆体2からドミノ型環変換反応を含む15工程でDEFGH環部の合成を達成した2–4)。さらにBn-DEFGH(3)が中程度のNF-κB転写活性化阻害能を示すこと、physalin B(1)と3が同様の作用機序を有することを見出した5)。この結果は、疎水基を有するかご型分子4は、非ステロイド型NF-κB阻害剤のリード化合物となることを示している。我々は、より高活性化合物の創製を目指し、“1の全合成過程で”多様な疎水基を持つ4を合成できる戦略を確立しようと考えた。今回は、1の構造を模倣しつつ、ステロイド構造を避けるよう、疎水基としてAB環部、C環部、BC環部を有する5、6、7を1と共に合成できる方法論の確立を目指した(Figure 1)。

    Figure 1. フィサリンの特徴的なDEFGH環部かご型構造

    研究戦略

    DEFGH環かご型構造は、特に塩基性条件下、不安定であったことから、その前駆体2に対して必要な疎水部位を導入した9からドミノ型環変換反応で、設計した5~7及び1(まとめて8として記載)を合成することを考えた(Scheme 1A)。

    これらを合成するには、14位にB環部もしくはC環部構築の足がかりとなる8位炭素原子を連結する必要があった(Scheme 1B)。そこで、隣接する26位水酸基にジアゾアセチル基を導入し、14位橋頭位C–H結合をダイレクトにC–C結合に変換する分子内C–H挿入反応を計画した。生成物10の14位に導入された2炭素ユニットを足掛かりにジエン11へと導き、A環部エノン12との分子間Diels-Alder反応によって、C環部欠損型13(設計分子5の前駆体)を合成できると考えた。一方、AB環欠損型16、A環欠損型17、さらに1の合成に必要なC環部構築法として、8–9位に二重結合が残る、ジエン15の閉環メタセシス反応(RCM)を計画した。15を得るには、4置換炭素が隣接する立体的に混みいった13位ケトン体14に対し、4炭素ユニットを求核付加する必要がある。これらの手法を確立できれば、16(設計分子6の前駆体)を合成でき、さらに分子間Diels-Alder反応によって、17(設計分子7の前駆体)および天然物の前駆体18の合成も可能と期待した。幾つかの前例の少ない工程を含み、工程数も要する計画ではあるが、生物活性分子創製を目指した全合成研究手法の1つとして、価値ある研究戦略と考えて合成研究に取り組んだ。

    Scheme 1. A)2から8への変換の概要、B)設計分子5~7および1の合成計画

    位置選択的分子内C–H挿入反応によるC8–C14位結合構築法の確立

    まず、前駆体2から調製したジアゾアセテート19のC–H挿入反応を検討した。隣接する複数のC–H結合の存在下、14位選択的なC–H挿入反応を達成する必要があった。通常分子内C–H挿入反応ではγ-ラクトン体を優先的に与えるが、19aをMS4A存在下、CH2Cl2中、室温で触媒量のRh2(OPiv)4と処理すると、27位C–H結合へ挿入したδ-ラクトン21aを92%で与えた。このことから、本系では14位

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  • 草間 大志, 田中 直伸, 柏田 良樹, 小林 淳一
    p. Oral40-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    ブロモピロールアルカロイドは、窒素含有率の高い特異な化学構造をもち、多様な生物活性を示す海洋天然物である1)。このうちagelastatin A2)は特異な四環性構造のブロモピロールアルカロイドであり、in vitroで顕著な細胞毒性や腫瘍細胞の転移抑制活性を示すことから、医薬リードや全合成研究のターゲットとして注目されている3)

    当研究室では、Agelas属海綿に含まれるブロモピロールアルカロイドの探索研究を行っており、これまでに沖縄産Agelas属海綿(SS-162) から、11種の新規ブロモピロールアルカロイドを単離し、報告している4)。今回、SS-162の抽出エキスについて更なる探索を行い、ユニークな化学構造を有する5種の新規ブロモピロールアルカロイドagelamadin A-E (1-5) を単離したので、それらの構造ならびに生物活性について報告する。

    1. 抽出・分離

    沖縄県慶良間諸島で採取したAgelas属の海綿 (SS-162) のMeOH抽出エキスをn-hexane と90% MeOH aq. で分配した後、90% MeOH aq. 可溶画分をn-BuOHと水で分配した。得られたn-BuOH可溶画分を各種クロマトグラフィーで繰り返し分離し、新規ブロモピロールアルカロイドagelamadin A-E (1-5) を単離した(Chart 1)。

    2. Agelamadin A (1) およびB (2) の構造5)

    Agelamadin A (1) は無色非結晶性固体として得られた。ESIMSにおいてm/z 805、807、809、811、および813に1:4:6:4:1の強度比でイオンピークが観測されたことから、分子内に4個の臭素原子の存在を推定した。HRESIMSより1の分子式をC23H26N10O3Br4と帰属した。1のIRおよびUVスペクトルでは、ピロールアミド由来の吸収が観測された{nmax1685 cm-1 (IR); lmax277 nm (UV)}。これらの結果から、1をブロモピロールアルカロイド二量体と推定した。

    Agelamadin A (1) の1H-1H COSY、HMBC、およびROESYスペクトルを詳細に解析し、agelastatin様の四環性ユニット (N-1-C-15) と直鎖状ユニット (N-1’-C-15’) の存在を推定した (Figure 1A)。これらのユニットがC-10/C-15’間で結合することを、H-9/C-15’、H-10/C-11’、ならびにH-10/C-15’間のHMBC相関から明らかにし、1の平面構面をFigure 1Bに示した構造と帰属した。

    Agelamadin B (2) の1D NMRは1のものと類似していたが、HRESIMSから、2は1より炭素原子1個と水素原子2個分少ない分子式、C22H24N10O3Br4をもつことが示唆された。各種2D NMRスペクトルを解析し、2の構造を1の11-O-デメチル体と帰属した(Chart 1)。

     Agelamadin B (2) の相対立体配置をROESYスペクトルの解析から、Figure 2に示した配置と推定した。また、2のH-9/H-10、H-8/H-9、およびH-8/H-15間の結合定数をagelastatin A2)のものと比較したところ、それぞれが近似した値を示したことからも、2の相対立体配置が支持された。同様に、1の四環性ユニットに由来するプロトンの結合定数もagelastatin Aのものと同様の値であったので、1は2と同一の相対立体配置であることが示唆された。

    Agelamadin A (1) およびB (2) の比旋光度は0であったため、1と2はラセミ体である可能性が考えられた。そこで、キラルHPLCに

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  • 上田 篤志, 山本 暁彦, 加藤 大輔, 岸 義人
    p. Oral41-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     ハリコンドリン類は上村、平田らによってクロイソカイメンから単離および構造決定されたポリエーテル系マクロリドである。2)その複雑な構造もさることながら、強力な抗腫瘍活性を示すことから創薬研究のシード化合物としての利用も試みられ、ハリコンドリンの右側部分をモチーフとした誘導体であるハラヴェンが2011年に乳ガンの治療薬として上市されている。構造的にハリコンドリン類は、C12およびC13位の酸化度の違いによりA、B、およびCシリーズに分類され、他方側鎖の構造によってノルハリコンドリン、ハリコンドリン、およびホモハリコンドリンに分類される (Figure 1)。これらの組み合わせからなる9種の亜種のうち、ハリコンドリンAを除いた8種類が現在までに単離報告されている。今回、未だ自然界からは単離されていないハリコンドリンAの初の全合成を達成したので報告する。合成のハイライトとしては、(1)Cr触媒によるC13/C14位でのカップリングとビニロガスエステルの面選択的エポキシ化を鍵とするC1–C19フラグメントの合成、(2)不斉Ni/Cr触媒反応3)に続くフラン環形成反応及び椎名マクロラクトン化による右側マクロラクトン環の構築、(3)C1–C38とC39–C54フラグメントのNi/Cr試薬による連結、(4)TMSOTfを用いた新規高立体選択的異性化反応によるC38-epi-ハリコンドリンAからハリコンドリンAへの異性化の4点があげられる。さらに合成したハリコンドリンAの構造の正しさを証明するため以下の実験を行った。第一にハリコンドリンAの合成に用いたC1–C38フラグメントから、既知の天然物ノルハリコンドリンA(2)およびホモハリコンドリンA(3)を合成した。第二にハリコンドリンAとその他のハリコンドリン類とのNMRデータの比較を行った。4)

    Figure 1.Structure of the halichondrin class of natural product.

    (1)Cr触媒的カップリングと選択的エポキシ化によるC1−C19部位の合成

     C1−C19フラグメントはヨウ化アルキン4と臭化ビニル5から合成した(Scheme 1)。これら二つの原料はいずれもNi/Crカップリング反応の良好な基質であるが、Ni触媒の量を低容量に抑えることでヨウ化アルキンのみを選択的に活性化させ、アルデヒドとのカップリング体を91%の高収率で得ることに成功した。生じた水酸基を酸化した後に得られたイノン6を、過剰のピリジン存在下HF・ピリジンで処理することで、三つのTBS基のうち、C9位とC11位のTBS基を選択的に脱保護することに成功した。この過程においてC9位の水酸基はイノン部位にオキシマイケル付加し、C11位の水酸基との水素結合による安定化でE体のビニロガスエステル7が選択的に得られた。ビニロガスエステル7のエポキシ化はジメチルジオキシランを用いることでコンベックス面から選択的に進行し、続く酸によるエポキシドの開環とHFによるTBS基の脱保護を伴うC14位でのケタール化までの3工程をワンポットで行うことで、収率92%でC12、C13位に水酸基を有するハリコンドリンA骨格の構築に成功した。最後にC12/C13位ジオールをp-アニシリデンで保護することにより、C19位でのカップリングの基質8へと導いた。Scheme 1において

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  • 岡 大峻
    p. Oral42-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【背景】

    ミカロライドB (1) は伏谷らによってMycale属海綿から単離、構造決定されたトリスオキサゾールマクロリドである1。ミカロライドBは腫瘍細胞に対する細胞毒性や抗菌活性、および強力なアクチン脱重合活性を示す2。しかし、詳細な作用機序は不明である。これまで類縁体のミカロライドA3 とウラプアライドA4 が全合成されているが、ミカロライドBについては達成されていない。今回、我々はミカロライドBの複雑な構造と多彩な生物活性に興味を持ち合成研究を行い、初の全合成を達成した。本講演では合成の詳細について発表する。

    【合成計画】

    ミカロライドB の合成計画を以下に述べる。ミカロライドBは30位のエステル化と35位のエナミド化により、エノン2から合成できると考えた (Scheme 1)。

    2はマクロラクトン35のメチルアセタール部分の官能基変換により得られると考えた。3はC1–C19セグメント45とC20–C35セグメント55からメタセシスおよびエステル化により合成できる。ここで、両セグメントをエステル化により連結した後に閉環メタセシス(RCM) を行う経路、またはクロスメタセシスの後にラクトン化を行う経路でマクロラクトン環を構築できると考えた。またセグメント5は、これまでの方法を改良し、Julia–Kocienski反応によりスルホン6とアルデヒド76から合成することとした。

    【セグメント5の合成】

    二級アルコール86のヒドロキシ基をMeOTfによりメチル化し、不斉補助基を除去して一級アルコール9とした (Scheme 2)。次いで、フェニルテトラゾリルスルフィド化、mCPBA酸化によりスルホン6を得た。得られたスルホン6とアルデヒド76のJulia–Kocienski反応では、塩基にLHMDSを用い、DME中–55 ℃から0 ℃まで昇温することで、オレフィン10を得た (収率92%)。続いて、10を接触還元して、生じた二級ヒドロキシ基を3,4-dimethoxybenzyloxymethyl (DMBOM) 基で保護し、DMBOMエーテル11とした。11の一級TBS基を選択的に除去した後、Dess–Martin酸化してアルデヒド12を得た。このアルデヒド12に対してアリルマグネシウムブロミドを作用させ、ホモアリルアルコール13a, 13bを得た。二つのジアステレオマーをシリカゲルカラムで分離後、13aのヒドロキシ基をメチル化し、TBS基を除去してセグメント5を合成した。

    【マクロラクトン3の合成】

    続いてマクロラクトン3の合成を行った (Scheme 3)。まず、余分な保護・脱保護が不要なRCMによるアプローチを試みた。セグメント4とセグメント5を椎名法により縮合して環化前駆体14を得た。我々はこれまでにRCMを用いたミカロライド類のC1–C24マクロラクトン類縁体の合成を行っている7。その際、反応溶媒の極性と反応温度が19位オレフィンの立体選択性に影響し、ジクロロメタン還流下で、第二世代Hoveyda–Grubbs触媒 (15) を用いて反応したとき最も高い収率と選択性でE-オレフィンが得られた。そこで、環化前駆体14に同様の条件で反応を行ったところ、マクロラクトン3が収率37%で得られたが、

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  • 深谷 圭介, 須貝 智也, 山崎 裕久, 小玉 啓祐, 山口 友, 佐藤 隆章, 千田 憲孝
    p. Oral43-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【緒言】

    タキソール(パクリタキセル、1)はセイヨウイチイの樹皮より単離されたジテルペノイドである。強力な抗腫瘍活性を示すため、抗がん剤として広く利用されている。構造的な特徴として、高度に酸化された8員環や、歪みの大きな橋頭位オレフィン、特異なオキセタン環などの存在が挙げられる。特に多官能基化された8員環(B環部)の構築は最も難易度が高く、効率的な合成法の開発が必要である。これまでHoltonらによる全合成など8例の合成が報告されているが、1-3) われわれはSmI2を用いる中員環構築法を鍵反応としたタキソールの合成を試みた。

    【合成計画】

    タキソール全合成のための基本合成戦略として、A環部4とC環部3をカップリングし、B環部を構築する収束的合成法を計画した(スキーム1)。酸化度の高いC環部3は、バイオマス資源であるD-グルコース(2)からFerrier環化反応を用いて合成する(2→3)。この時、D-グルコースをC環部の炭素源として最大限に活用するとともに、タキソールのすべての不斉点を糖の不斉をもとに構築していく。C環部3とA環部4とのShapiroカップリング反応を経て、B環部の環化基質5へと導く。

    本合成の最大の課題である8員環(B環部)の構築に際しては、多官能基共存下での強力な中員環構築法が必要となる。この課題に対しわれわれは、アリルベンゾエートとアルデヒドによる新たなSmI2環化反応を計画した(5→6)。SmI2環化は官能基許容性が高く、効率的な中員環構築が可能である4)。さらに本反応の特徴として、環化基質であるアリルベンゾエートが合成中間体として安定である点、生じる官能基(水酸基とオレフィン)の区別が容易な点があげられる。環化により得られるABC環化合物6は、タキソール合成に必要な官能基の足がかりをすべて有しており、残る課題であるChugaev反応による橋頭位オレフィンの導入(6→7)やオキセタン環の構築が可能であると考えた。

    【環化基質の合成】

    D-グルコース(2)を出発原料とし、エノピラノシド8へと誘導した(スキーム2)。8に対して触媒量のトリフルオロ酢酸水銀を作用させるとFerrier環化反応が進行し、シクロヘキサノン9が得られた。9を三級アリルアルコール10とし、岩渕らによって開発された転位を伴う酸化6)によりエノン11を得た。11に対して、ビニル基を立体選択的に1,4付加した後、ホルムアルデヒドとの向山アルドール反応でβ-ヒドロキシケトン12とした。12の種々官能基変換によりC環部3とした7)

    合成したC環部3とA環部13をShapiro反応で連結し、カップリング体14を得た。14よりB環部の環化基質であるアルデヒド15a-dを調製した。

    【SmI2によるB環部の構築】

    本合成における鍵反応である、SmI2による8員環(B環部)構築を検討した(スキーム3)。HMPA存在下、SmI2を作用させたところ、アリルアセテート15a、15b及びアリルベンゾエート15cでは環化は全く進行せず、アルデヒドのみが還元された生成物を得た。一方、15cのジアステレオマーである15dを環化基質として用いたところ、収率66

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  • 臼井 研二, 神戸 美咲, 中田 雅久
    p. Oral44-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1.序論

    Bucidarasins A-D(Figure 1)は2002年に単離・構造決定されたclerodane型ジテルペンであり、ヒト腫瘍細胞に加え、薬剤耐性腫瘍細胞に対しても殺細胞活性を示す[1]。Bucidarasins A-Cはcis-デヒドロデカリンを中心骨格とし、2つの全炭素四級不斉中心(C5、C9位)を含む4連続不斉中心に加え、最大で6つの不斉中心を中心骨格上に有している。その中心骨格には、高度に酸化されたテトラヒドロフラン(THF)環がさらに縮環しており、C9位全炭素四級不斉中心には3置換E-アルケン、末端アルケンを含むペンタジエニル基が結合している。Bucidarasin類と同様にTHF環を含んだ三環式clerodane型ジテルペンは数多く報告されているが、我々の知る限り、未だに全合成の報告例はない。この三環式clerodane型ジテルペンは、新たな抗ガン剤のリード化合物となり得る生物活性と複雑な構造を併せ持つため、その初の不斉全合成達成は構造活性相関研究に向けた新規化合物の供給、有機合成化学の発展といった観点から有意義である。また、bucidarasin類はNMRにより相対立体配置のみが決定されていた。そこで本研究では、構造活性相関研究に向けたbucidarasin類および類縁体の包括的合成を最終目標とし、最初にbucidarasin Aの世界初の不斉全合成達成と絶対配置の決定を目的として研究に着手した[2]

    2.研究計画

    Bucidarasin A の逆合成解析をScheme 1に示す。Bucidarasin Aが有するビスアセトキシTHF環は、ビスヘミアシラール構造であるため、化学的安定性が低いと考えられるので、最後の段階で構築する必要がある。そこで、1のようなジアルデヒド体からビスアセトキシTHF環を合成することを考えた。またbucidarasin Aの主要骨格であるcis-デヒドロデカリン骨格は、エノン3とジエン4の分子間Diels-Alder反応で合成できるものとした。

    3.Diels-Alder反応を用いたcis-デヒドロデカリン骨格の構築

    エノン3の合成をScheme 2に示す。市販の2,6-ジヒドロキシ安息香酸メチルから5工程でプロキラルなジケトン5を合成した。当研究室で開発した環状1,3-ジオンのbaker's yeast 還元[3]により、高収率かつ高ジアステレオ、高エナンチオ選択的に6を合成した。オレフィンへと変換し続くCrabtree触媒を用いた水素添加反応は、水酸基のdirecting effectにより高立体選択的に進行し、C8不斉炭素を構築することができた。続く5工程を経てジエノフィル3の合成に成功した。

    3と4の分子間Diels-Alder反応(Scheme 3)は、種々検討の結果、Lewis酸としてSnCl4、溶媒としてEt2Oを用いると反応が進行することを見出した。しかし、SnCl4を1.0 等量用い、0 ℃で行うと反応は速やかに進行するものの、立体選択性は低かった。また、SnCl4を1.0 等量用い、-60 ℃で反応を行うと立体選択性は向上したが、収率が一定しなかった。反応条件最適化の結果、SnCl4を0.1 等量用い、反応溶液の濃度を上げることで反応は再現性良く進行し、回収した2,3,4の混合物を用いて、再度、同じ条件で反応を繰り返すことにより2を効率的に得ることができた。

    3と4のDiels-Alder反応は高収率

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  • 原田 研一, 今井 顕子, 久保 美和, 福山 愛保
    p. Oral45-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    2002年に中国産シキミ (Illicium jiadifenigpi) から単離されたジアジフェニン (1) は,高度に酸素官能基化された四環性カゴ型構造を有するセコプレジザン型セスキテルペンで,ヘミアセタール部の平衡混合物として存在する興味深い化合物である。1この構造的特徴に加え,ラット胎児大脳皮質由来初代培養神経およびPC12細胞に対する強力な神経突起伸展促進活性が見いだされたことからアルツハイマー病治療薬のリード化合物として期待されている.1, 2このため,1は合成ターゲットとしても注目を集めることとなり,世界中で合成研究が盛んに行われきた.2004年Danishefskyら2がカルボニル基のα位置換反応を基軸とする経路で1の初めての全合成を達成して以来,2011年にはTheodorakisら3により、続く2012年にはZhaiら4によってそれぞれ全合成が報告されている.このような背景のもと,我々はさらに効率的な合成法の開発を目指し,Pd触媒反応を適所に活用する独自の合成戦略でジアジフェニンの合成研究を開始した.

    ジアジフェニンの逆合成解析

     合成を開始するにあたり,Theodorakisの合成中間体2を合成前駆体とする逆合成解析をおこなった.(Scheme 1) ジアジフェニンは,環接合部に四級炭素を含む四環性化合物であることから,如何に効率よく四級炭素を形成し,環構築をおこなうかが合成の鍵となる.本計画では,Pd触媒反応による四級炭素上での環構築を鍵として,Mizoroki–Heck反応によるA環形成とTsuji–Trost反応を応用したBC環の連続環化反応を特徴とする合成経路を企画した.BC環連続環化反応では,π-アリルPd錯体を経由するTsuji–Trost反応によりB環を構築後,系内で連続的にラクトン化させることで一挙にBC環を構築させる計画である.

    Scheme 1. Retrosynthesis of jiadifenin.

    Mizoroki–Heck反応によるA環構築

     まず,Mizoroki–Heck反応による四級炭素形成を伴うA環構築を検討した.市販の4-オキソピメリン酸ジエチル (3) をWittig反応で増炭後,LiAlH4で還元し,ジオール体4を得た.2個の水酸基の一方をTBDPS基で保護したのち,もう一方の水酸基をSwern酸化後,Horner–Wadsworth–Emmons反応5でブロモエステルを形成させ,5を調製した.(Scheme 2)

    Scheme 2. Preparation of bromoester 5.

     5に対してPd(OAc)2–(o-tol)3P–Et3N触媒下各種溶媒を使用しMizoroki–Heck反応を検討した.(Table 1) 溶媒として低極性溶媒のtolueneや1,4-dioxaneおよび非プロトン性極性溶媒であるDMFを使用した場合,反応が遅く低収率に留まったが,プロトン性溶媒のMeOHを使用すると劇的に反応性が向上し,定量的に6を得ることに成功した.6本反応は,EtOHやt-BuOHなどのプロトン性溶媒でも反応は円滑に進行し,触媒量を10 mol %から5 mol %まで減量しても短時間で反応が完結し,高収率で目的物6を与えた.

    Tsuji–Trost反応を応用したBC環連続環化反応

     得られた6からTsuji–Trost反応の基質となる環状炭酸エステル16へ誘導した.6のエチルエステルを加水分解後,Weinrebアミドへ変換し8を得た.8

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  • 関岡 直樹, 吉田 将人, 高木 基樹, 泉川 美穂, 新家 一男, 土井 隆行
    p. Oral5-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    Piperidamycin類(1-3)は、2009年に保坂らによって放線菌の遺伝子変異株から単離された特徴的な4連続オリゴピペラジン酸構造を有する18員環の環状デプシペプチドである1)(Figure 1)。現在までにこのようなオリゴピペラジン酸構造は他に例がなく、合成化学的に非常に興味深い。また、in vitroでグラム陰性菌や嫌気性グラム陰性桿菌に対して、ニューキノロン系抗生物質オフロキサシンと同程度の強い抗菌活性を示すことが明らかにされており、その特異な構造から既存の抗生物質とは異なる活性発現機構が期待され、近年多剤耐性が問題となっている抗生物質の開発において、piperidamycin類は新たなリード化合物になりえると考えられる。しかし、piperidamycin類は全ての不斉点の立体化学が未決定である。我々はその絶対配置決定を目的とした全合成を計画し、その標的としてpiperidamycin F (3)を選択した。3は8つの不斉点を有し、最大で28=256種類の立体異性体が考えられる。まず、その開環体とされる天然物JBIR-39(4)の立体配置決定を目的とし4の全合成を行った。その結果、低反応性のピペラジン酸N末端との効率的な縮合反応を開発することで4の初の全合成を達成し、その立体配置の決定に成功した。さらに、4の構造情報を基に3の立体配置を予測し、その骨格合成に成功したので報告する。

    Figure 1

    【JBIR-39(4)の立体配置予測および逆合成解析】

     4の構造にはL体のピペラジン酸が一つ、D体のピペラジン酸が二つ含まれていることが明らかにされている2)。一方、放線菌から単離されたピペラジン酸含有ペプチドの構成アミノ酸は、D体とL体が交互に結合しているものがほとんどであることから、放線菌より単離された4の構造を同様にDとLが交互に並ぶ4aと推定した。望む4aは、一つのg‐ヒドロキシピペラジン酸を含む4つのピペラジン酸が連結したオリゴピペラジン酸7に対し、8およびα-メチルセリン誘導体6を縮合することで得ることができる。ピペラジン酸誘導体はα位窒素原子の求核力がプロリンなどの環状アミノ酸と比較して低いことが知られており、オリゴピペラジン酸7の合成が本合成の鍵となる。7の合成にはピペラジン酸の低い求核性を補うため、高活性な酸クロリドを縮合に用いることにし、対応する酸クロリド10およびent-10はEvansの不斉補助子のアシル化体12と13より合成することにした(Scheme 1)。

    Scheme 1

    【g‐ヒドロキシピペラジン酸含有オリゴピペラジン酸18の合成】

    まず、7の合成に向けてg‐ヒドロキシピペラジン酸9と酸クロリド10との縮合を検討した(Table 1)。従来法として用いられる塩基性条件下での縮合を試みたが、対応するジペプチド14は低収率であった(entry 1,2)。そこで、活性化剤としてAgCNを用いたところ3)、目的の14を収率40%で得たがa位のエピ化が進行していることが分かった(entry 3)。この

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  • 相羽 俊彦, 佐藤 昌紀, 梅垣 大地, 中川 翔, 田中 慎二, 北村 雅人, 深瀬 浩一, 藤本 ゆかり
    p. Oral6-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1. 序論[YF1]

     赤痢アメーバEntamoeba histolyticaの細胞膜由来の免疫刺激物質としてイノシトールリン脂質EhPIaおよびEhPIb (Fig. 1[YF2] )が見出されている。特にEhPIbは、抗原提示細胞上の糖脂質受容体CD1dに結合し、Natural KillerT細胞 (NKT細胞)を刺激することで、抗腫瘍性サイトカインIFN-gを選択的に誘導し、Th1型の免疫応答を起こすことが報告されている1)。EhPIaならびにEhPIbは、ともに炭素数が28、あるいは不飽和結合を有する炭素数30の長鎖脂肪酸を持つ。さらに、EhPIbはイノシトールの2位に長鎖アシル基を有している。これらの特異な脂質構造とその生物活性に相関が予想されるものの、これまでに得られた天然由来のEhPIaとEhPIbは、炭素数の異なる脂肪酸の混合物であり、脂肪酸中の不飽和結合の幾何異性も未決定であった。そこで本研究では、活性本体の構造や、詳細な生物活性・NKT細胞活性化機構の解明のため、新規イノシトールリン脂質合成法の確立と異なる炭素数の脂肪酸を有する単一構造のEhPIa, bの合成研究を行った。

    2. EhPIa, bの合成計画

     これまでに多くのイノシトールリン脂質の合成が報告されているが、その合成経路はイノシトールのリン酸化段階までに水酸基の保護、脱保護を含む多くの工程を要し、あまり効率的ではなかった。また、EhPIa, bは、市販されていない長鎖脂肪酸を有しているが、それらの簡便な合成例はほとんどなかった。そこで我々は、EhPIa, bだけでなく、その他のイノシトールリン脂質やその類縁体の合成に適用可能な合成経路として、1) 短工程で効率的なイノシトールへの新規位置選択的リン酸化法の開発 2) 簡便な長鎖脂肪酸の新規合成法を含む新規合成経路を立案した(Scheme 1)。EhPIa, bは、イノシトールリン酸部分、長鎖脂肪酸含有モノアシルグリセロール部分に分けて合成することとし、両フラグメントはMillerらの手法2)と類似の光延反応によって連結させることとした。また、EhPIa, bには、最終脱保護を酸性条件にて行うために水酸基の保護基を酸性条件で脱保護可能な保護基に揃えることとした。イノシトールリン酸部分は、myo-イノシトールを出発原料とし、メソ体のトリオール3より我々の開発した不斉補助基を用いた非対称化による新規な位置選択的リン酸化反応によって合成することとした。また、炭素数28の飽和脂肪酸、炭素数30の不飽和脂肪酸(30 : 1、cis or trans)は神戸らとの共同研究によって開発したNi触媒によるsp3炭素同士のカップリング反応3)を適用することとした。

    3. 位置[YF3]

    選択的リン酸化反応の検討

     myo-イノシトールより4段階にて調製したトリオール3を用いて、位置選択的リン酸化反応の検討を行った(Table 1)。myo-イノシトール誘導体の不斉リン酸化は報告されているが、完全な選択性を達成するのは困難である。そこで不斉補助基を持つリン酸化試薬を用いて位置選択的リン酸化を行い、生成物をジアステレオマーとして分離することにした。

     リン酸化剤の不斉補助基には、R体のBINOLを用いた。5価のリン酸化剤である、(R)-BPC (5)を用いたところ、収率、選択性ともに良好な結果は得

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  • 石渡 明弘, Kaeothip Sophon, 武田 陽一, 伊藤 幸成
    p. Oral7-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     ヒドロキシプロリンリッチな糖タンパク質 (HRGP) は、翻訳後修飾としてタンパク質のプロリン残基の酸化により生じるヒドロキシプロリン (Hyp) 上に、オリゴ糖修飾を受けた構造を有し (Figure 1)、植物などに見いだされている。HRGP に分類される extensin[1] の中で、Hypは親水性繰り返し構造に多く含まれ、その(オリゴ)糖鎖修飾構造には、b-L-アラビノフラノシド (Araf) が含まれる。b-L-Araf の立体選択的な合成は、熱力学的、立体電子的に不利な b-1,2-cis 結合を含むため、化学合成上非常に困難である [2] が、最近、当研究室ではナフチルメチルエーテル (NAP) を介した分子内アグリコン転移 (IAD) [2a] を利用し、b-L-Araf 構造を立体選択的に合成する手法を見いだし [3]、オリゴ b-L-Araf 修飾糖ペプチドホルモンCLAVATA3 [3] の合成、及び、ビフィズス菌 (Bifido- bacterium longum) より見いだされた新規b-L-アラビノフラノシダーゼ [4] の基質としてパラニトロフェニルb-L-Araf の立体選択的合成に成功している [5]。今回、NAP-IAD を利用し、extensin のオリゴ L-Araf 4糖構造などの立体選択的合成を行い、extensin の親水性モチーフの一つであるSer(D-Galp1)-Hyp- (L-Araf4)-Hyp(L-Araf4)-Hyp(L- Araf3)-Hyp(L-Araf1) (1) [6] (Figure 2) の合成研究と構造解析をおこなったので報告する。

    1. 合成計画

     植物由来のextensin の親水性モチーフには、Hyp リッチな繰り返し構造 (Ser-Hyp-Hyp- Hyp-Hyp) があり、その中には Ser(Galp1) (5)や Hyp(Araf4) [4, a-L-Araf-(1a3)-b-L- Araf-(1a2)-b-L-Araf-(1a2)-b-L-Araf-Hyp] のような構築困難な 1,2-cis 結合を有する複雑にオリゴ糖修飾されたアミノ酸構造が見いだされている (Figure 3)。立体選択的な1,2-cis 結合構築にNAP-IAD を利用する計画とし、まず、糖アミノ酸Ser(Galp1) (5) や Hyp(Arafn) (n = 1, 3 and 4) (2, 3 and 4) フラグメントをそれぞれ合成し、そのあとでペプチドを接続し、extensin の親水性モチーフ (1) を構築することした。Hyp(Araf4) 誘導体4は、まず a-L-Araf-(1a3)-L-Araf フラグメント (6)、及び2度の IAD を用いて b-L-Araf-(1a 2)-b-L-Araf-Hyp 誘導体 (7)、それぞれ合成し連結することとし、Ser(a-D-Galp1) 誘導体 (5) は、8 と 9 のIADを経て合成することとした。

    2. (オリゴ) 糖アミノ酸フラグメントの合成

     Hyp誘導体10およびL-Araf供与体11より NAP エーテルを介した IAD、すなわち DDQ 酸化による混合アセタールの形成を経て、MeOTf–DTBMP での分子内 1,2-cis グリコシル化をおこない、目的のb-L-Araf-Hyp誘導体 (12) を立体選択的に調製した (Scheme 1)。得られた12をNAPエーテル (13) として保護し、ヒドロキシ基を有する糖供与体 (14) とのIADにてL-Araf2-Hyp誘導体 (15)を得た。同様に15をNAP化して16とし、14とのIADにてL-Araf3-Hyp誘導体 (17) を立体選択的に得た。16の脱TIPDS化、引き続くアセチル化にて、Hyp(Araf4) 誘導体 (4) の合成中間体7へと誘導した。11の脱TIPDS化、生じたジオール (19) の位置選択的アセチル化にて得られるL-Araf受容体(12) と、供与体 (20) とのグリコシル化では、隣接基関与の影響で1,2-trans-aグリコシド (21) が得られた。21のNAP基を除去し、4 の合成中間体チオグリコシド (6) を得た。そこで

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  • 野池 基義, 松井 崇, 雄谷 洸一, 佐々木 郁雄, 丸山 千登勢, 濱野 吉十, 石川 淳, 佐藤 康治, 伊藤 肇, 森田 洋行, 大 ...
    p. Oral8-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【目的】 ペプチド系抗生物質の生合成では、リボソーム関与の生合成に加え、Non Ribosomal Peptide Synthase(NRPS)に代表されるリボソーム非関与の生合成機構も用いられる。また、近年、ATP依存のアミノ酸リガーゼやtRNA依存のアミノ酸転移酵素によるペプチド結合生成機構も報告されている。このようにペプチド系抗生物質の生合成には多様性があるが、ペプチドの基本骨格そのものは上記の何れかの機構で生合成される。

    放線菌が生産するペプチド系抗生物質、pheganomycin(PGM、下図)は、N-末のL-3,5-dihydroxy-amidino-phenylglycine(DHPG)誘導体に、何れもL-体からなるAsn-tertiary Leu-Lys-Asp-Arg、あるいはAsn-tertiary Leu-Lys-Asp-Gly-Pro-Thrが結合した2種類が知られている1。tert-Leuは、最近bottromycinの生合成研究で明らかにされたように2,3、radical S-adenosyl methionine (SAM)酵素によるVal側鎖のメチル化により生成すると推定されることから、DHPG のみが非タンパク性のアミノ酸と考えられる。PGMの生合成を考察すると、非タンパク性のDHPGを含むことからNRPSで生成すると推定されるが、一般にアミノ酸をアデニル化するNRPS のA-ドメインの基質認識は厳密であり、どのように2種類の配列からなるペプチドが生合成されるか興味が持たれたことから、その生合成機構の解明を試みた。 

     【方法および結果】 バンコマイシンに含まれるDHPGの基本骨格は、DpgAからDpgCにより生合成されることが報告されている(下図)4。そこでこれら遺伝子のオーソログをPGM生産菌のドラフトゲノム配列中に探索した結果、生合成遺伝子クラスターを見出した(次ページ図)5。本クラスターには、DHPG誘導体の合成に関与すると推定される、DpgC反応に続くアミノ基転移酵素、アミジノ基転移酵素、4位メチル化と水酸化酵素遺伝子(P450)、また、Val側鎖のメチル化に関与すると推定されるradical SAM酵素遺伝子が存在した。しかし、最長8つのアミノ酸からなるNVKDGPTを合成し得る巨大なNRPSを近傍に見出せなかった。そこで、クラスター内にペプチダーゼが存在したことも考慮し、ペプチド部分がリボソーム関与で合成される可能性を考え塩基配列を精査した結果、38アミノ酸からなる遺伝子を見出した。このペプチドはNVKDRとNVKDGPTの両方の配列を含んでおり、C-末の多様性を矛盾なく説明できた。

    そこで次に、本クラスターがPGMの生合成に関与することを証明するために、プレカーサーペプチドをコードする構造遺伝子の破壊を行った。相同組換えにより構造遺伝子のみを欠失させた株を構築した結果、PGMの生産性が消失したことから、PGMのペプチド性アミノ酸からなるC-末部分は、リボソームにより合成されたプレカーサーペプチドに由来すると考えられた5

    しかし、N-末のDHPG誘導体とプレカーサーペプチドから供給されたペプチドの結合を触媒する酵素に関しては候補遺伝子を見出せなかった。クラスター内には、A-ドメイン1つを持つNRPS-A(649アミノ酸)、T-ドメインを持つNRPS-T(89アミノ酸)、C-ドメインを持つNRPS-C(441アミノ酸)が存在した(上図)。これまでNRPSのA-ドメインで活性化されたアミノ酸類に対し、ペプチドが求

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  • 後藤 佑樹, 角田 翔太郎, 加藤 保治, 伊藤 悠美, 菅 裕明
    p. Oral9-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1.はじめに

     ペプチド性天然物の主鎖骨格には、チアゾリンやオキサゾリンに代表されるヘテロ環骨格が多く見受けられる(図1)。これら主鎖ヘテロ環骨格は、ペプチダーゼによる分解に対する耐性や標的分子への結合において大きな役割を果たしており、強い生理活性を示すペプチド性天然物の重要な構造モチーフと言える。近年の化学合成法や試験管内翻訳合成系の発達により、簡便に望みの配列のペプチドを合成することが可能になってきているものの、主鎖にヘテロ環を含むペプチドの合成には技術的な困難を伴うことが依然として多い。もしこういった化合物群及びその誘導体を自在に合成することができれば、天然物ライクな人工生理活性分子の創成に道が拓けると考えられる。

     主鎖ヘテロ環骨格を含むペプチドの生合成経路としては、非リボソームペプチド合成酵素(NRPS)によるものがよく知られているが、それ以外にも翻訳後修飾酵素によるペプチド主鎖骨格の変換に頼った経路も知られている。本研究では、翻訳修飾型の脱水ヘテロ環化酵素の一つである、シアノバクテリア由来のPatD酵素に注目した(図2)。PatDの基質ペプチドは、PatEと呼ばれるシアノバクチンの前駆体ペプチドであり、N末端には強く保存されたリーダーペプチド(LP)領域が、その下流にはカセット配列(CS)と呼ばれるCys/Ser/Thrリッチな領域が二つ存在する。この中でCS領域のみが選択的にPatDによる脱水ヘテロ環化を受け、その後他の酵素(PatG及びPatA)による更なる修飾(アゾール環への酸化・マクロ環状化)を経て、最終的に成熟したシアノバクチンへと変換されることが分かっている。PatDは、①ペプチド上の異なるカセット配列を修飾可能、②一つの酵素でチアゾリン・オキサゾリン・メチルオキサゾリンの三種類のアゾリン環を形成可能、といったユニークな特長を有することから、我々は本酵素をアゾリン含有ペプチド(アゾリンペプチド)の汎用的な合成ツールとして利用できるのではないかと着想した。しかしながら、PatDが天然に存在するCS以外の配列を基質として許容できるかどうかや、LPやCS周辺の認識配列(RS)が基質に必要であるかどうかに関する知見はこれまでほとんど存在せず、PatDがどれほど幅広いアゾリンペプチドを合成可能かは未知数であった。

    2.FIT–PatDシステムの構築

     PatDの基質許容性を調査する目的のため、PatEの類縁体をPatDで修飾する試みは、これまでにもいくつか行われている。例えば、PatE類縁体とPatDとを大腸菌内で共発現する、大腸菌内で発現/精製したPatE類縁体を試験管内においてPatDで処理する、などといった実験が報告されており、PatDが天然のPatE以外の配列でもある程度修飾できることが分かっている。しかしながら、これらのアプローチでは、基質ペプチド候補の調製や生成したアゾリンペプチドの精製に煩雑な作業が必要であるため、ごく限られた種類のPatE類縁体しか試せず、網羅的にPatDの基質許容性を調べることは実質的に不可能なのが現状であった。

     そこで本研究では、我々が以前に開発した、人工改変を施した再構成無細胞翻訳系(flexible in vitro translation

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  • 野原 稔弘, 藤原 章雄, 村上 光太郎, 池田 剛, 小野 政輝, 竹屋 元裕
    p. Poster1-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    1) 序論

     タマネギonion (Allium cepa L.), ネギWelsh onion (A. fistulosum L.), ならびにニンニクgarlic (A. sativum L.) 等は、sulfideを含む事で著名で、onion, garlicは心血管疾患、ならびに発癌予防に有効とされ1-4), 特にgarlicはNCIによるDesigner Foods Projectの発癌予防食品リストのトップに挙げられている5)

     これらのAllium属植物の特異成分、allicinの存在は1944年頃、またallicinがalliinから生成することは1951年に見出された。以降、合成や分解物、新規成分の研究等が多くの化学者によって行われ、近年ではBayerやBlockらの研究が著名である3, 6)。しかしながら、意外にもallicinが分解して生成するallyl thiosulfenic acid, および1-propenesulfenic acidがさらに反応、もしくは再配列した様な成分は単離されていない。そこで私達はallicinから誘導されるsulfenic acid等をイオン的に安定化し, また水を含む植物体にも良く浸潤するacetoneを用いて、抗腫瘍活性を有する比較的安定なcyclicなsulfideの単離を目指して本研究を開始した。

    2) 抽出分離

     いずれのAllium(onion, garlicはbulb, Welsh onionは葉の白い部分)も、acetoneと共に、ミキサー中で粉砕し、それにさらにacetoneを加えて室温にて3日間放置後、沪過、得られたエキスをAcOEtと水で溶媒間分配した。AcOEt層を採り40℃にて減圧濃縮しsyrupを得た。このonionとgarlicのAcOEtエキスについて、macrophage (MF)の活性化に対する作用を検討した7-9)。その結果、両者のエキスには、MFのM2活性化を抑制し, MFの活性化をM2からM1にシフトさせることが示唆された10, 11)。これはonion, ならびにgarlicのエキスが、STAT3の活性化を抑制することでM2活性化を抑制し、MFの分化をM2からM1にシフトさせるのではないかと考えられた9, 12, 13)。従って、がん細胞の増殖抑制作用の可能性が示唆された。そこで先の各エキスをsilica gel column chromatogr.にてsolv. CHCl3-MeOH=200:1, n-hexane-acetone=6:1→3:1等を用いてsulfidesを分離した。

    3) OnionとWelsh OnionのSulfides

     本邦産のonion, Welsh onion両者共から、onionins A1, A2, ならびにA3を得た14, 15)。それらはNMR spectra (1H, 13C, various 2D, solvent effect) により、化学構造を推定した(Fig. 1)。これらの化合物はtetrahydrothiophene誘導体で、全く新規な骨格を持つcyclic sulfoxideである。その置換基の相対立体配置は、aromatic solvent-induced NMR shiftで推定した (Fig. 2) 16, 17)。例えばonionin A11H-NMRスペクトルをbenzene-d6で測定、その際sulfoxideはaxial configurationをとり18-20)、benezeneはcollision complex16)でsulfoxideとは反対方向に配位し、このbenzeneの異方性により、H-3, CH3 at C-4, H-5は、CDCl3のものと比較し高磁場にshiftするものと考えられる。

         Onionin A1 Onionin A2 Onionin A3

    Fig. 1. Structures of Onionins A1, A2, and A3

    Fig. 2. Aromatic Solvent-Induced NMR Shift

     これらのcyclic sulfoxides生成メカニズムは、allicinが

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  • 久住 俊一, 友野 聡, 奥澤 俊介, 金子 英利香, 佐々木 要, 高橋 大介, 戸嶋 一敦
    p. Poster10-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【背景】ビネオマイシンB2 (1)は1977年に単離されたアンスラサイクリン系抗生物質である。1の生理活性として、グラム陽性菌に対する抗菌活性及び肉腫sarcoma 180に対する抗腫瘍活性が報告されている1。また、1の構造的特徴としては、アントラキノンにオリボースがC-グリコシド結合を介して連結した構造と3級グリコシドを含む2つの高度にデオキシ化された糖鎖部分(アクロシルロジノシド)を有することが挙げられる。このように、1は顕著な生理活性と興味深い構造を有することから、合成および生物化学的研究の対象となってきた。事実、これまでに、1のアグリコン部分に相当するビネオマイシノンB2メチルエステル (2)の合成が6例報告されている他、近年ではビネオマイシン類の有するデオキシ糖鎖部分自体が細胞毒性を有することが報告されている2。しかしながら、デオキシ糖鎖部分を含めた1の全合成及びアントラキノン部位とデオキシ糖鎖部分の双方を含めた詳細な構造活性相関研究は未だに報告例がない。このような背景の下、演者らは、効率的デオキシ糖鎖合成法を開発し、これを応用することで1の初の全合成を達成した。さらに、1のアントラキノン部分とデオキシ糖鎖部分を変換した種々の類縁体を合成し、各構成要素に関する詳細な構造活性相関研究を行った。

    【2,3-不飽和糖を用いた化学選択的グリコシル化反応の開発】細胞壁分解酵素リゾチームによるムコ多糖の位置選択的加水分解反応を模倣し、2種の新規2,3-ジデオキシグリコシルドナーをデザインし、グリコシル化反応における反応性について検討した。その結果、同じ脱離基を有するこれらの糖の反応性は、2,3-不飽和糖>2,3-飽和糖>2,3-不飽和-4-ケト糖の順であることを明らかにした(Figure 1)。さらに、これらを用いた化学選択的グリコシル化反応による効率的なデオキシ糖鎖合成が可能であることを見出した3(Scheme 1)。

    Figure 1

    Scheme 1

    【ビネオマイシンB2の全合成】本化学選択的グリコシル化反応を鍵反応として、抗生物質ビネオマイシンB2 (1)の全合成研究を行った。1のアグリコン部分に対するデオキシ糖鎖部分の導入においては、求核性の低いb-オキソ-3級アルコールに対して、高度にデオキシ化され、かつ酸性条件下不安定な糖鎖部分(アクロシルロジノース)を導入する必要がある。このことを考慮し、1は適切に保護されたアグリコン部分14に対して、2つのデオキシ糖鎖部分17を同時に導入した後、官能基変換を行うことで得ることとした。また、アグリコン部分14は、鈴木らのビネオマイシノンB2メチルエステル (2)の合成4を参考とし、スズ体16と光学活性なアルデヒド15との連結を経て、短行程で得ることとした。さらに、デオキシ糖鎖部分17は、2,3-不飽和糖18と2,3-飽和糖19との化学選択的グリコシル化反応により効率的に合成することを計画した(Figure 2)。

    Figure 2

     アグリコン部分14の合成をScheme 2に示す。TMSOTf存在下、無保護のD-オリボース (20)とアントロール21とのC-グリコシル化反応5によりC-グリコシド22

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  • 入江 樂, 鈴木 里菜, 佐竹 真幸, 橘 和夫, Harwood Tim, Holland Patrick, 伊藤 喜之
    p. Poster11-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【背景】

    1998年初頭、ニュージーランド北島のウェリントン湾(Fig. 1)で大規模な赤潮が発生し1、湾内で海洋生物の大量斃死が観察された。同時に、エアロゾルが原因と推定されるヒトの健康被害も500症例以上報告された。赤潮原因種は新種の渦鞭毛藻Karenia brevisulcata(Fig. 2)と同定され、その抽出液は細胞毒性、マウス致死毒性、溶血作用、魚毒性を示した。LC/MSによる分析の結果、2種の梯子状ポリエーテル化合物が検出された。赤潮毒の全容解明に向け、その単離構造決定に着手した。

    K. brevisulcataの抽出液をクロロホルム/水で二相分配したところ、脂溶性画分には主に分子量2,000を超す梯子状ポリエーテル化合物brevisulcenal(KBT)が含まれていた。KBTは、マウス致死毒性およびマウス白血病細胞P388に対する毒性を示した。一方、水溶性画分には分子量900程度の酸性梯子状ポリエーテル化合物brevisulcatic acid(BSX)が含まれていた。BSXはveratridine、ouabain共存下で神経芽腫細胞Neuro-2aに対する毒性を示した。

    第53回天然有機化合物討論会において、主成分KBT-F(Fig. 3)とその類縁体3種の単離構造決定について報告した。今回は、BSX類の単離および構造解析について報告する。

    【単離】

    K. brevisulcataは通常培養に加えて、分子内13C濃度を高めるためNaH13CO3添加培養を行った。定常期に達した培養液にアセトンを加えて抽出し、希釈後HP-20カラムに吸着させた。アセトンにより有毒成分を溶出し、溶媒を留去した。上記抽出はコースロン研究所で行われ、以降の精製操作を東京大学で行った。カラムクロマトグラフィーにおけるBSXの溶出位置は、ESI-MSで追跡した。

    試料をクロロホルム/水分配に供した(Scheme 1)。中性条件下では、KBTはクロロホルム層に、BSXは主に水層に含まれた。水層を塩酸でpH 4に調整後、ジクロロメタンで抽出した。抽出物をポリスチレン系カートリッジカラムStrata-Xに供し、メタノール/水で段階的に溶出させた。BSXの含まれる画分を逆相HPLCにより精製し、4種のBSX-1, -2, -4, -5を単離した。単離収量と、ESI-MSより求めた推定分子式をTable 1に示す。LC/MSの結果から、BSX-1とBSX-4、およびBSX-2とBSX-5はそれぞれ相互変換することが明らかとなった。

     また、LC/MS分析により、クロロホルム層に新規類縁体BSX-7を検出した。BSX-7は、KBT類の精製で用いるDiolカートリッジカラムクロマトグラフィーにおいて、夾雑物が大部分を占める分画に溶出していたため、活性アルミナカラムに供した後、逆相HPLCで精製、単離した。

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  • 坂間 亮浩, 西村 嘉泰, 角田 恒平, 栗栖 卓也, 吉田 圭佑, 只野 金一, 高尾 賢一
    p. Poster12-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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     (+)-ビブサニンA(1)は, 1980年に河津によってViburnum odoratissimum Ker.(和名:サンゴジュ)の葉から単離された,魚毒活性を有するジテルぺノイドである1).その構造的特徴として,不斉四級炭素を含む炭素11員環骨格が挙げられる.この他にも数多くの関連化合物が見出されており,それらの合成研究は活発に行われているが2),11員環型ビブサニンの全合成の報告例は未だにない.そこで,私たちは絶対構造の確認をも目的として,1の全合成に取り組んだ.

     1の逆合成解析をScheme 1に示す.1は,2のアリル転位により得られるものとし,2は,3に対する分子内野崎–檜山–岸(NHK)反応によって,炭素11員環骨格を構築することで得られると考えた.3は,上部セグメント4と下部セグメント5とに分割し,両者のカップリングを経て数工程で合成できると考えた.上部セグメント4は,4-ペンチン-1-オール誘導体7より,Sharpless不斉エポキシ化等の数工程にて得られるとし,下部セグメント5は,ゲラニルクロリド9とキラルなアルデヒドとのBarbier型アリル化反応によって不斉四級炭素を構築した8より3),数工程の誘導にて合成できると考えた.

     まず,上部セグメント4の合成を行った (Scheme 2).購入可能な酢酸 4-ペンチニル(7)を出発原料とし,末端アルキンにヨウ化水素を付加させることでビニルヨ

    ウ素体10とし,アセチル基を除去することによって既知のアルコール11 4)を得た.11を酸化してアルデヒド12とした後,安藤試薬135)を用いたHorner–Wadsworth– Emmons反応を行ったところ,Z-オレフィンを有するα,β-不飽和エステル14を選択的に得ることができた.得られた14のエチルエステル部を還元してアリルアルコール6とし,6に対してSharpless不斉エポキシ化を行うことでエポキシアルコール15とした.さらに,15を酸化することで上部セグメント4を合成した.なお,Sharpless不斉エポキシ化で得られた15の光学純度は,水酸基をベンゾイル化した後,キラルHPLC分析を行うことによって70% e.e.であると決定した.現在,15の光学純度を向上させるための検討を行っている.

     続いて,下部セグメント5の合成に着手した.まず,5が有する不斉四級炭素を構築すべく,ゲラニルクロリド9およびL-グリセルアルデヒド誘導体16を基質に用い,亜鉛によるBarbier型アリル化反応を行った(Scheme 3).その結果,生成物のg-付加体として17-A, B, CおよびDの4種類のジアステレオマーが得られたが,このうち,不斉四級炭素を望みの立体化学にて有する17-Bが主生成物となった.なお, 4種類のジアステレオマーは,シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて,それぞれ17-A, Bの混合物(66%,A/B = 1:6)と17-C, Dの混合物(4%)とに分離が可能であった.17-Bがジアステレオ選択的に得られた要因としては,亜鉛によるb-キレーションを含む6員環イス型遷移状態を優先的に経るためであると考えている3). 

     得られたg-付加体17-A, Bに対し,水酸基をベンジル化して18-A, Bとした後,ヒドロホウ素化–酸化反応を行った(Scheme 4).その結果,ビニル基に第一級水酸基が位置選

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  • 小堀 一, 呉 静, 鈴木 智大, 崔 宰熏, 関谷 敦, 安田 伸広, 野口 恵一, 平井 浩文, 河岸 洋和
    p. Poster13-
    発行日: 2014年
    公開日: 2018/07/19
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    【背景•目的】

     タマバリタケ科ナラタケ属 (Armillaria sp.) に属する一連のキノコは, 現在40種類程が種として認められているが, 多数の亜種や変種に富むことが知られている. また, 古くから世界中の広い地域で食用として利用されてきた. その一方で, ナラタケ属のキノコは生きている植物に対する影響が非常に強く, その寄生による病害は「ナラタケ病」と呼ばれている. また, ナラタケ属のキノコは他の菌類に対する影響も強く, タマウラベニタケ (Entoloma abortivum) やオオミノミミブサタケ (Wynnea americana) は近傍にナラタケの菌糸があると奇形子実体を生じることが知られている1. しかし,「ナラタケ病」や他の菌類に対する奇形子実体誘導の化学的解明は一切なされていない. そこで本研究では, ナラタケ属の複数の菌株からこれらの現象の原因物質探索を目的とした2,3.

    【化合物の単離•構造決定】

     レタスに対する植物成長調節活性を指標に, ナラタケ属の2種類の株から活性物質の探索を試みた. ナラタケ属543菌株を約3週間, ポテトデキストロース培地で液体培養して得られた培養液を濾過し, 菌体および培養ろ液に分けた. 培養ろ液を減圧濃縮後, 分液ロートを用いて液-液分配することで, n-ヘキサン可溶部, 酢酸エチル可溶部, n-ブタノール可溶部および水可溶部に順次分画した. また, 別のナラタケ属の菌株である488株も同様の方法で, 液体培養, 濾過, 減圧濃縮および液-液分配することによりn-ヘキサン可溶部, 酢酸エチル可溶部, n-ブタノール可溶部および水可溶部を得た. それらのうち543菌株および488菌株それぞれのn-ヘキサン可溶部および酢酸エチル可溶部を各種クロマトグラフィーに繰り返し供することによって精製し, 543菌株から13種類の既知化合物 (3-15) および3種類の新規化合物 (1, 2, 16), 488菌株から1種類の既知化合物 (3) および3種類の新規化合物 (17-19) の単離に成功した (図2).

     化合物1は白色非晶質として単離され, HR-ESI-MSにより分子量が466, 分子式がC24H31ClO7であると決定した. 比旋光度は [a]D26 +41 (c 0.25, MeOH) であり, IRスペクトルは 3397, 1601, 1241 cm-1に吸収が観測された. 化合物1の平面構造は各種

    NMRスペクトルを解析することにより決定し, その類縁体に因んで10-Dehydroxymelleolide D と命名した4.

     化合物2もまた白色非晶質として単離され, HR-ESI-MSにより分子量が450, 分子式がC23H27ClO7であると決定した. 比旋光度は [a]D24 +26 (c 1.56, MeOH) であり, IRスペクトルは 3429, 1654, 1240 cm-1に吸収が観測された. 化合物2の平面構造は各種NMRスペクトルを解析することにより決定し, その類縁体に因んで13-Hydroxymelleolide Kと命名した5.

     化合物1, 2は, 過去に絶対配置が報告済みの既知類縁体であるmelleolide D (4) とNMRスペクトルのケミカルシフト値および結合定数を比較することで, その相対立体配置を決定した. さらに, それらのCDスペクトルを比較することで, 化合物1, 2の絶対立体配置を図2のように決定した6.

     化合物3-15は1, 2と同じくいずれもprotoilluda

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