天然有機化合物討論会講演要旨集
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チランダマイシン類天然物の不斉全合成
吉村 光高橋 圭介石原 淳畑山 範
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p. Oral30-

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チランダマイシン類天然物の不斉全合成

チランダマイシン類天然物は、Streptomyces属から単離された抗生物質であり、グラム陽性菌に対する抗菌活性及びDNA依存型RNAポリメラーゼに対する強力な阻害活性を示し、またラットのミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を阻害することが知られている1)。これらの天然物はジオキサビシクロ[3.3.1]ノナン及びジエノイルテトラミン酸を基本骨格としており、ビシクロ環は様々な酸化形式を示す。その魅力的な生物活性及び構造的特徴から多くの合成研究が報告されてきたが2)、触媒的不斉合成の例は少なく、特にチランダマイシンB (2)に関しては連続不斉中心の立体制御合成は達成されていない2b, c)。一方で最近、ShenらによってチランダマイシンB (2)に強力な殺糸状虫活性(IC50 = 1 μM)があることが報告され、リンパ性フィラリア症治療薬のリードとして改めて注目を集めている3)。そこで、触媒的な方法でチランダマイシンB (2)の立体制御合成を行い、さらにその中間体から類縁天然物も網羅的に合成し、本天然物類の一般的合成法を開発すべく本研究に着手した。

1.合成計画

本天然物を合成するにあたり4連続不斉中心をいかに構築するかが鍵となる。その連続立体中心構造に着目すると、我々は当研究室で開発された触媒的不斉森田-Baylis-Hillman (MBH)反応が適用できると考えた4a, b)。この反応では、キニジンあるいはキニーネよりそれぞれ一工程で合成できるβ-ICD、あるいはα-ICPNとHFIPAを組み合わせることでα-メチレンβ-ヒドロキシエステル体の両鏡像体をいずれも高いエナンチオ選択性で合成できる。

さらに、この生成物のエキソオレフィンは反応条件を選択することによって、antiあるいはsyn選択的に水素化することができる5, 6)

以上の背景のもと我々は、次のような逆合成解析を行った。即ち、チランダマイシンB (2)の全炭素骨格は、DeShongらの方法に従い、アルデヒド8とリン酸エステル7とのHWE反応により構築する。アルデヒド8は、宮下らの方法に従い、不飽和エステル9のビシクロ環をエポキシ化し、エステルをアルデヒドへと変換し合成することにした。9はエステル11の炭素鎖を伸長した後に10のフラン環を酸化し、Achmatowictz反応に付すことで合成でき、11はアルデヒド12に対するα-ICPNを用いた立体選択的MBH反応に続くエキソオレフィンのanti選択的水素化によって合成できると考えた。また、12の2連続立体中心は、フルフラール誘導体13に対するβ-ICDを用いたMBH反応後、生じたエキソオレフィンをsyn選択的に水素化することで構築可能である。

2.4連続立体中心の構築

β-ICDを触媒とし13とHFIPAとの不斉MBH反応を行い、付加体を70%収率、99%eeで得ることに成功した。付加体をメチルエステル14へと定量的に変換後、臭化マグネシウム存在下接触水素添加を行うと、キレーション制御によってsyn選択的に水素化が進行した。この還元体をアルデヒド12へと変換し、今度はα-ICPNを触媒とし不斉MBH反

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チランダマイシン類天然物は、Streptomyces属から単離された抗生物質であり、グラム陽性菌に対する抗菌活性及びDNA依存型RNAポリメラーゼに対する強力な阻害活性を示し、またラットのミトコンドリアにおける酸化的リン酸化を阻害することが知られている1)。これらの天然物はジオキサビシクロ[3.3.1]ノナン及びジエノイルテトラミン酸を基本骨格としており、ビシクロ環は様々な酸化形式を示す。その魅力的な生物活性及び構造的特徴から多くの合成研究が報告されてきたが2)、触媒的不斉合成の例は少なく、特にチランダマイシンB (2)に関しては連続不斉中心の立体制御合成は達成されていない2b, c)。一方で最近、ShenらによってチランダマイシンB (2)に強力な殺糸状虫活性(IC50 = 1 μM)があることが報告され、リンパ性フィラリア症治療薬のリードとして改めて注目を集めている3)。そこで、触媒的な方法でチランダマイシンB (2)の立体制御合成を行い、さらにその中間体から類縁天然物も網羅的に合成し、本天然物類の一般的合成法を開発すべく本研究に着手した。

1.合成計画

本天然物を合成するにあたり4連続不斉中心をいかに構築するかが鍵となる。その連続立体中心構造に着目すると、我々は当研究室で開発された触媒的不斉森田-Baylis-Hillman (MBH)反応が適用できると考えた4a, b)。この反応では、キニジンあるいはキニーネよりそれぞれ一工程で合成できるβ-ICD、あるいはα-ICPNとHFIPAを組み合わせることでα-メチレンβ-ヒドロキシエステル体の両鏡像体をいずれも高いエナンチオ選択性で合成できる。

さらに、この生成物のエキソオレフィンは反応条件を選択することによって、antiあるいはsyn選択的に水素化することができる5, 6)

以上の背景のもと我々は、次のような逆合成解析を行った。即ち、チランダマイシンB (2)の全炭素骨格は、DeShongらの方法に従い、アルデヒド8とリン酸エステル7とのHWE反応により構築する。アルデヒド8は、宮下らの方法に従い、不飽和エステル9のビシクロ環をエポキシ化し、エステルをアルデヒドへと変換し合成することにした。9はエステル11の炭素鎖を伸長した後に10のフラン環を酸化し、Achmatowictz反応に付すことで合成でき、11はアルデヒド12に対するα-ICPNを用いた立体選択的MBH反応に続くエキソオレフィンのanti選択的水素化によって合成できると考えた。また、12の2連続立体中心は、フルフラール誘導体13に対するβ-ICDを用いたMBH反応後、生じたエキソオレフィンをsyn選択的に水素化することで構築可能である。

24連続立体中心の構築

β-ICDを触媒とし13とHFIPAとの不斉MBH反応を行い、付加体を70%収率、99%eeで得ることに成功した。付加体をメチルエステル14へと定量的に変換後、臭化マグネシウム存在下接触水素添加を行うと、キレーション制御によってsyn選択的に水素化が進行した。この還元体をアルデヒド12へと変換し、今度はα-ICPNを触媒とし不斉MBH反応を行い、15を、50:1以上の高いジアステレオ選択性で得ることに成功した。続いて、Rh触媒を用いて水素化を行うと、触媒と水酸基との配位によってanti選択的に水素化が進行した11が得られた。これにより、4連続不斉中心の立体制御合成に成功した。

3.チランダマイシンB (2)の不斉全合成

 11の水酸基をTES保護、還元に続く酸化後、Wiitig反応により炭素鎖を伸長し16とし、TES基を位置選択的に脱保護し10へと導いた。このものをmCPBAで処理すると、Achmatowicz反応が進行し17がジアステレオ混合物として高収率で得られた。その後、18を酸条件に付すと、TES基の除去と分子内アセタール化が一挙に進行し、宮下らの既知合成中間体92c)が得られた。これによって、天然型チランダマイシンB (2)の不斉形式合成を達成したことになる。続いて、Deshongらの方法2b)を参考に合成を進めた。即ち、9をLuche還元後に、含水中mCPBAを用いエポキシ化を行い、立体選択的にエポキシを導入し、その後エナール8へと変換した。8とリン酸エステル7とのHWE反応によってチランダマイシンB (2)保護体を得、最後に保護基を除去することでチランダマイシンB (2)の初の不斉全合成を達成した。

4.チランダマイシンA (1)及びD (4)の全合成

 続いて、9のトリイソプロピルシロキシ基を除去することによってチランダマイシンA (1)及びD (4)のコア骨格が構築できると考えた。9のTIPS基の除去、水酸基のクロロ化、水素化分解によってチランダマイシンA既知合成中間体182a)へと変換することができた。得られたケトエステル18は、チランダマイシンB (2)の合成法と同様の手順で官能基変換しエナール19とした。19とリン酸エステル7とのカップリング続くDMB基の除去によって、チランダマイシンA (1)の触媒的不斉反応を利用する初の不斉全合成を達成した。

      

また、18のエステルをアルデヒドへと変換し20を得、リン酸エステル7とのカップリング続く脱保護により、チランダマイシンD (4)の初の全合成を達成した。これまで、チランダマイシンD (4)に関しては、単離の際にチランダマイシンA (1)との混合物として得られるため、正確な生物活性評価が行えていなかった1c)。今回の合成により純粋なサンプルを提供できたことは非常に意義がある。

5.ストレプトリジジン(5)及びストレプトリジジノン(6)の形式合成及びストレプトリック酸の全合成

 さらに、重要中間体9の一級水酸基及びα、β不飽和ケトン部位に着目すると、ビニルエポキシドを有するストレプトリジジン(5)、ストレプトリジジノン(6)及びストレプトリック酸へと変換できると考えた。9の還元体21の水酸基をクロロ化した後に、TIPS基を除去しクロロアルコール22へと導いた。22をNaHで処理すると分子内SN2’反応が進行し、所望のビニルエポキシド23を合成することに成功した。続いて、エステル23をDIBAL-Hによって還元を行うと、エポキシドに影響を与えることなくアルコールへと変換でき、それを酸化し既知合成中間体242d)へと導きストレプトリジジン(5)及びストレプトリジジノン(6)の形式合成を達成した。また、24の炭素鎖をWittig反応により伸長し、その後加水分解することでストレプトリック酸の不斉全合成も達成した。

*現在の所属:東邦大学薬学部

参考文献

1) (a) H. Hagenmaier, K. H. Jaschke, L. Santo, M. Scheer, H. Zahner, Arch. Microbiol. 1976, 109, 65. (b) C. DeBoer, A. Dietz, W. S. Silver, G. M. Savage, Antibiot. Annu. 1956, 886. (c) J. C. Carlson , S. Li , D. A. Burr, D. H. Sherman, J. Nat. Prod., 2009, 72. 2076.

2) (a) R. H. Schlessinger , G. R. Bebernitz , Peter Lin , A. J. Poss, J. Am. Chem. Soc., 1985, 107 , 1777. (b) S. J. Shimshock, R. E. Waltermire, P. DeShong, J. Am. Chem. Soc. 1991, 113, 8791. (c) T. Shiratani, K. Kimura, K. Yoshihara, S. Hatakeyama, H. Irie, M. Miyashita, Chem. Commun. 1996, 21. (d) S. V. Pronin , A. Martinez , K. Kuznedelov , K. Severinov , H. A. Shuman , S. A. Kozmin, J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 12172.

3) Z. Yu, S. Vodanovic-Jankovic, N. Ledeboer, S.-X. Huang, S. R. Rajski, M. Kron, B. Shen, Org. Lett. 2011, 13, 2034.

4) (a) For a review, see: S. Hatakeyama, In Science of Synthesis, Asymmetric Organocatalysis1 Lewis Base and Acid Catalysis ; B. List, Ed.; Georg Thieme Verlag KG: Stuttgart, 20 12, pp673.; Y. Iwabuchi , M. Nakatani , N. Yokoyama , S. Hatakeyama, J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 10219. (b) Y. Nakamoto, F. Urabe, K. Takahashi, J. Ishihara, S. Hatakeyama, Chem. Eur. J. 2013, 19, 12653.

5) A. Bouzide, Org. Lett. 2002, 4, 1347.

6) J. M. Brown, J. Chem. Soc., Chem. Commun. 1982, 348.

 
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