天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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8−ニトロcGMPの抗菌オートファジー誘導における役割
伊藤 千秋斎藤 洋平野澤 孝志藤井 重元橋本 龍太澤 智裕赤池 孝章中川 一路有本 博一
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p. Oral37-

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抄録

幅広い生物資源が現代天然物化学の研究対象になるなかで、ほ乳類由来新規化合物に関する研究報告は多いとは言えない状況にある。

 私達は、ほ乳類細胞に存在する新規シグナル分子:8−ニトロcGMPを発見し、論文発表した1。今回,「8−ニトロcGMPが内因性のオートファジー誘導因子である」という重要な結果を得たので報告する2

図1.マクロオートファジーのプロセス

細胞質においてオートファゴソームが生成し、加水分解酵素を含むリソソームと融合したのち、内容物の分解・再利用がおこなわれる。UPSとならぶ主要な細胞内分解機構

1.背景

一酸化窒素(NO)は、1998年ノーベル生理医学賞の受賞対象になったガス状のシグナル分子である。主たる作用は、グアニル酸シクラーゼ活性化を介するセカンドメッセンジャー (cGMP) の生成促進であるが、別の機能として生体内分子の修飾反応がある。私達は、特にニトロ化修飾の重要性を信じて探索をおこない、初めての内因性cGMP誘導体である8−ニトロcGMPを発見した(2007年)1。現在では、動物,植物など広汎な生物種に存在が確認されている。

 8−ニトロcGMPの特徴は、生体内でシステイン残基と共有結合を形成して、タンパク質機能の制御に関与することである。私達は、この新規翻訳後修飾をタンパク質S-グアニル化と名付けた(図2)。

図2.タンパク質の新規修飾反応:S-グアニル化(S-guanylation)1

2.研究目的と手法

S-グアニル化の生理的役割解明を目指した.ただし、生体内の含Cysタンパク質の数は膨大であり,S-グアニル化を受ける標的をプロテオーム手法で個々に同定しても、総体として真の生理機能が見出せるか否か疑問が残った。そこで標的同定を急がず、表現型観察から8−ニトロcGMPの機能に迫ることにした。

3.ニトログアノシン蛍光プローブの合成と細胞内局在3

生細胞イメージングは、免疫細胞化学より簡便で、有用な情報を与える。そこで、8−ニトログアノシンを基盤に蛍光プローブを作成した。このプローブはS-グアニル化反応により蛍光強度が増大するようデザインされている。A549細胞に投与したところ、速やかに取り込まれ、細胞質において斑点上の局在を示した(図3)。オルガネラマーカーとの比較から、リソソームとよい共局在を示すこともわかった。一方,ニトロ基を持たないコントロールは、細胞質全体に拡散して存在し、特定の局在を示さなかった。

 この情報をヒントとし、8−ニトロcGMP自体によるS-グアニル化を検出できる特異的抗体を作成した1。免疫細胞化学で解析したところ、S-グアニル化は予想通りのリソソーム局在を示した2。リソソームは,細胞内分解プロセスで働くオルガネラであり、私達は「S-グアニル化と分解プロセスの関係」に注目することになる。

図3.プローブを用いた生細胞イメージング(RAW264.7細胞)3

4.8−ニトロcGMPは内因性のオートファジー制御分

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© 2014 天然有機化合物討論会電子化委員会
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