天然有機化合物討論会講演要旨集
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アクチン脱重合活性を有する海洋産マクロリド、ミカロライドBの全合成
岡 大峻
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p. Oral42-

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アクチン脱重合活性を有する海洋産マクロリド、ミカロライドBの全合成

【背景】

ミカロライドB (1) は伏谷らによってMycale属海綿から単離、構造決定されたトリスオキサゾールマクロリドである1。ミカロライドBは腫瘍細胞に対する細胞毒性や抗菌活性、および強力なアクチン脱重合活性を示す2。しかし、詳細な作用機序は不明である。これまで類縁体のミカロライドA3 とウラプアライドA4 が全合成されているが、ミカロライドBについては達成されていない。今回、我々はミカロライドBの複雑な構造と多彩な生物活性に興味を持ち合成研究を行い、初の全合成を達成した。本講演では合成の詳細について発表する。

【合成計画】

ミカロライドB の合成計画を以下に述べる。ミカロライドBは30位のエステル化と35位のエナミド化により、エノン2から合成できると考えた (Scheme 1)。

2はマクロラクトン35のメチルアセタール部分の官能基変換により得られると考えた。3はC1–C19セグメント45とC20–C35セグメント55からメタセシスおよびエステル化により合成できる。ここで、両セグメントをエステル化により連結した後に閉環メタセシス(RCM) を行う経路、またはクロスメタセシスの後にラクトン化を行う経路でマクロラクトン環を構築できると考えた。またセグメント5は、これまでの方法を改良し、Julia–Kocienski反応によりスルホン6とアルデヒド76から合成することとした。

【セグメント5の合成】

二級アルコール86のヒドロキシ基をMeOTfによりメチル化し、不斉補助基を除去して一級アルコール9とした (Scheme 2)。次いで、フェニルテトラゾリルスルフィド化、mCPBA酸化によりスルホン6を得た。得られたスルホン6とアルデヒド76のJulia–Kocienski反応では、塩基にLHMDSを用い、DME中–55 ℃から0 ℃まで昇温することで、オレフィン10を得た (収率92%)。続いて、10を接触還元して、生じた二級ヒドロキシ基を3,4-dimethoxybenzyloxymethyl (DMBOM) 基で保護し、DMBOMエーテル11とした。11の一級TBS基を選択的に除去した後、Dess–Martin酸化してアルデヒド12を得た。このアルデヒド12に対してアリルマグネシウムブロミドを作用させ、ホモアリルアルコール13a, 13bを得た。二つのジアステレオマーをシリカゲルカラムで分離後、13aのヒドロキシ基をメチル化し、TBS基を除去してセグメント5を合成した。

【マクロラクトン3の合成】

続いてマクロラクトン3の合成を行った (Scheme 3)。まず、余分な保護・脱保護が不要なRCMによるアプローチを試みた。セグメント4とセグメント5を椎名法により縮合して環化前駆体14を得た。我々はこれまでにRCMを用いたミカロライド類のC1–C24マクロラクトン類縁体の合成を行っている7。その際、反応溶媒の極性と反応温度が19位オレフィンの立体選択性に影響し、ジクロロメタン還流下で、第二世代Hoveyda–Grubbs触媒 (15) を用いて反応したとき最も高い収率と選択性でE-オレフィンが得られた。そこで、環化前駆体14に同様の条件で反応を行ったところ、マクロラクトン3が収率37%で得られたが、

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【背景】

ミカロライドB (1) は伏谷らによってMycale属海綿から単離、構造決定されたトリスオキサゾールマクロリドである1。ミカロライドBは腫瘍細胞に対する細胞毒性や抗菌活性、および強力なアクチン脱重合活性を示す2。しかし、詳細な作用機序は不明である。これまで類縁体のミカロライドA3 とウラプアライドA4 が全合成されているが、ミカロライドBについては達成されていない。今回、我々はミカロライドBの複雑な構造と多彩な生物活性に興味を持ち合成研究を行い、初の全合成を達成した。本講演では合成の詳細について発表する。

【合成計画】

ミカロライドB の合成計画を以下に述べる。ミカロライドBは30位のエステル化と35位のエナミド化により、エノン2から合成できると考えた (Scheme 1)。

2はマクロラクトン35のメチルアセタール部分の官能基変換により得られると考えた。3はC1–C19セグメント45とC20–C35セグメント55からメタセシスおよびエステル化により合成できる。ここで、両セグメントをエステル化により連結した後に閉環メタセシス(RCM) を行う経路、またはクロスメタセシスの後にラクトン化を行う経路でマクロラクトン環を構築できると考えた。またセグメント5は、これまでの方法を改良し、Julia–Kocienski反応によりスルホン6とアルデヒド76から合成することとした。

【セグメント5の合成】

二級アルコール86のヒドロキシ基をMeOTfによりメチル化し、不斉補助基を除去して一級アルコール9とした (Scheme 2)。次いで、フェニルテトラゾリルスルフィド化、mCPBA酸化によりスルホン6を得た。得られたスルホン6とアルデヒド76のJulia–Kocienski反応では、塩基にLHMDSを用い、DME中–55 ℃から0 ℃まで昇温することで、オレフィン10を得た (収率92%)。続いて、10を接触還元して、生じた二級ヒドロキシ基を3,4-dimethoxybenzyloxymethyl (DMBOM) 基で保護し、DMBOMエーテル11とした。11の一級TBS基を選択的に除去した後、Dess–Martin酸化してアルデヒド12を得た。このアルデヒド12に対してアリルマグネシウムブロミドを作用させ、ホモアリルアルコール13a, 13bを得た。二つのジアステレオマーをシリカゲルカラムで分離後、13aのヒドロキシ基をメチル化し、TBS基を除去してセグメント5を合成した。

【マクロラクトン3の合成】

続いてマクロラクトン3の合成を行った (Scheme 3)。まず、余分な保護・脱保護が不要なRCMによるアプローチを試みた。セグメント4とセグメント5を椎名法により縮合して環化前駆体14を得た。我々はこれまでにRCMを用いたミカロライド類のC1–C24マクロラクトン類縁体の合成を行っている7。その際、反応溶媒の極性と反応温度が19位オレフィンの立体選択性に影響し、ジクロロメタン還流下で、第二世代Hoveyda–Grubbs触媒 (15) を用いて反応したとき最も高い収率と選択性でE-オレフィンが得られた。そこで、環化前駆体14に同様の条件で反応を行ったところ、マクロラクトン3が収率37%で得られたが、原料の回収がみられた (entry 1)。この原因として、14の側鎖部分の立体障害によりRCMの反応性が低下していることが考えられた。そのため、15よりも触媒活性の高いニトロ体168 を用いたところ、収率は69%まで向上した。しかし、C19位オレフィンの立体選択性は19E/19Z = 1.7/1.0と低かった。

 次にクロスメタセシスとマクロラクトン化により3の合成を試みた (Scheme 4)。4のカルボキシ基と5のヒドロキシ基をそれぞれ保護してエステル17とシリルエーテル18とした。これらに対して、ジクロロメタン還流下で15を用いてクロスメタセシス反応を行ったところ、19E/19Z = 5.0/1.0と閉環メタセシス反応よりも高い立体選択性でカップリング体19が得られた (収率77%)。

19のTES基とトリクロロエチル基を除去してセコ酸とした後、山口マクロラクトン化を行ったところ、3が収率72%で得られた。以上の結果、クロスメタセシスが高い立体選択性で進行したため、3の合成ではマクロラクトン化を用いたアプローチの方がより効率的であった。

【ミカロライドBの全合成】

マクロラクトン3の35位メチルアセタールを酸加水分解してヘミアセタール20とした (Scheme 5)。20の還元では7位エノンの1,4-還元が競合し、ヘミアセタールの選択的な還元は困難であった。そこで、Luche還元の条件下、–20 ℃から0 ℃まで昇温すると、ヘミアセタールの還元と共役ケトンの1,2-還元が進行してトリオール21が定量的に得られた。21の一級ヒドロキシ基をTr基で保護した後、アリルアルコールを選択的に酸化してエノン2を合成した。

エノン2の二級ヒドロキシ基をアセチル化した後、ギ酸を用いてTr基を除去し一級アルコール22へと導いた。次いでDess–Martin酸化してアルデヒドとし、酸性条件下でN-メチルホルムアミドと縮合してエナミド23を得た。23のDMBOM基をDDQにより除去し、生じた二級アルコールとジメチルグリセリン酸を縮合してエステル24を得た。最後にフッ化テトラブチルアンモニウム/酢酸を用いてTBDPS基を除去し、(–)-ミカロライドB (1) の全合成を達成した。合成品の1H NMRスペクトルおよび旋光度の符号は天然物のデータと一致した。

【謝辞】

 本研究は文部科学省科学研究費補助金、新学術領域研究「天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御」、および日本学術振興会科学研究費補助金の助成を受けて実施しました。

【参考文献】

1. N. Fusetani, K. Yasumuro, S. Matsunaga, K. Hashimoto, Tetrahedron Lett. 1989, 30, 2809.

2. S. Saito, S. Watabe, H. Ozaki, N. Fusetani, H. Karaki, J. Biol. Chem. 1994, 269, 29710.

3. P. Liu, S. Panek, J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 1235.

4. S. K. Chattopadhyay, G. Pattenden, Tetrahedron Lett. 1998, 39, 6095.

5. M. Kita, H. Watanabe, T. Ishitsuka, Y. Mogi, H. Kigoshi, Tetrahedron Lett. 2010, 51, 4882.

6. (a) K. Suenaga, T. Kimura, T. Kuroda, K. Matsui, S. Miya, S. Kuribayashi, A. Sakakura, H. Kigoshi, Tetrahedron 2006, 62, 8278; (b) T. Kimura, S. Kuribayashi, T. Sengoku, K. Matsui, S. Ueda, I. Hayakawa, K. Suenaga, H. Kigoshi, Chem. Lett. 2007, 36, 1490.

7. M. Kita, H. Oka, A. Usui, T. Ishitsuka, Y. Mogi, H. Watanabe, H. Kigoshi, Tetrahedron 2012, 68, 8753.

8. K. Grela, S. Harutyunyan, A. Michrowska, Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 4038.

 
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