天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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抗嫌気性菌活性を有するルミナミシンの全合成研究
君嶋 葵高田 拓和菅原 章公安藤 博康諸留 圭介松丸 尊紀山田 健廣瀬 友靖大村 智砂塚 敏明
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p. Oral38-

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抗嫌気性菌活性を有するルミナミシンの全合成研究

背景・目的 ルミナミシン (1)は、1985年に北里研究所の大村らによって放線菌Streptomyces sp. OMR-59株の培養液から単離されたマクロジオライドであり、嫌気性菌、特にClostridium属に対して選択的抗菌活性を示す(Clostridium difficile: MIC = 1.0 μg/mL)(Fig. 1)。1,2) その構造的特徴は、中央部分の三置換オレフィン含有10員環ラクトンを中心に、無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンと酸素架橋含有シスデカリン骨格がそれぞれ縮環した点である。これまでに、1の部分骨格の合成研究が報告されているが未だ全合成の報告はない。3-6) 我々はこのように生物活性及び有機合成化学的にも興味深い1の全合成経路の確立と、構造活性相関の解明を目的として研究に着手した。本討論会では、酸素架橋シスデカリン含有10員環ラクトンと無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンの構築を行い、1の全合成が達成目前になっており、その経過を報告する。

合成戦略 複雑かつ特徴的な構造を有するルミナミシン (1)を合成するにあたり、中央部分の三置換オレフィンとエステル部分で分割し、それぞれのパートを上部 2と下部 3とした。そして、それぞれを合成最終段階でカップリングさせることで、収束的な1の全合成を行う計画を立案した (Scheme 1)。まず、上部 2についてはセコ酸 4からのマクロラクトン化に続くフラン環部分の酸化により導けるものとし、4の共役エノールエーテル部分についてはビニルスズ 6とヨウ化フラン 5とのStilleカップリングにより構築できると考えた。続いて、下部 3はその酸素架橋部分を共役アルデヒド 7からの1,6-oxa-Michael反応により構築することで得られるものとし、7のシスデカリン骨格部分については、適切な官能基を揃えたアシル体 8からのMichael-aldol反応により構築するものとした。

無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンの構築

 まず、上部 2の合成に取り組んだ (Scheme 2)。既知化合物 97)から9工程を経てエチニルエーテル 10とした後に、位置選択的なヒドロスズ化を行った。種々検討の結果、Bu3SnH, Pd(t-Bu3P)2の条件で、β位選択的に望みのビニルスズ 11を得ることができた。しかし、11が不安定であったため、その反応系から溶媒を留去後、ヨウ化フラン 5とのStilleカップリングを行うことで共役エノールエーテル部分を構築し、12を1ポット、2工程、収率75%の高収率で得る条件を見出した。続いて、12のエステル部分の加水分解を行い、椎名マクロラクトン化により14員環ラクトンを構築した。最後に、Pinnick 酸化に続く、Dess-Martin酸化により無水マレイン酸へと導き、16を合成した。これにより、無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンの構築を達成した。

酸素架橋含有シスデカリン骨格の構築

 次に、下部 3の合成に取り組んだ (Scheme 3)。まず、市販化合物から11工程を経て適切な官能基を揃えたアシル体 18とした後に、Michael-aldol反応により、シスデカリン骨格を有した三環性化合物 19を単一の生成物として得た。続いて、共役アルデヒド 20へと変換し、嵩高いルイ

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背景・目的 ルミナミシン (1)は、1985年に北里研究所の大村らによって放線菌Streptomyces sp. OMR-59株の培養液から単離されたマクロジオライドであり、嫌気性菌、特にClostridium属に対して選択的抗菌活性を示す(Clostridium difficile: MIC = 1.0 μg/mL)(Fig. 1)。1,2) その構造的特徴は、中央部分の三置換オレフィン含有10員環ラクトンを中心に、無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンと酸素架橋含有シスデカリン骨格がそれぞれ縮環した点である。これまでに、1の部分骨格の合成研究が報告されているが未だ全合成の報告はない。3-6) 我々はこのように生物活性及び有機合成化学的にも興味深い1の全合成経路の確立と、構造活性相関の解明を目的として研究に着手した。本討論会では、酸素架橋シスデカリン含有10員環ラクトンと無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンの構築を行い、1の全合成が達成目前になっており、その経過を報告する。

合成戦略 複雑かつ特徴的な構造を有するルミナミシン (1)を合成するにあたり、中央部分の三置換オレフィンとエステル部分で分割し、それぞれのパートを上部 2と下部 3とした。そして、それぞれを合成最終段階でカップリングさせることで、収束的な1の全合成を行う計画を立案した (Scheme 1)。まず、上部 2についてはセコ酸 4からのマクロラクトン化に続くフラン環部分の酸化により導けるものとし、4の共役エノールエーテル部分についてはビニルスズ 6とヨウ化フラン 5とのStilleカップリングにより構築できると考えた。続いて、下部 3はその酸素架橋部分を共役アルデヒド 7からの1,6-oxa-Michael反応により構築することで得られるものとし、7のシスデカリン骨格部分については、適切な官能基を揃えたアシル体 8からのMichael-aldol反応により構築するものとした。

無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンの構築

 まず、上部 2の合成に取り組んだ (Scheme 2)。既知化合物 97)から9工程を経てエチニルエーテル 10とした後に、位置選択的なヒドロスズ化を行った。種々検討の結果、Bu3SnH, Pd(t-Bu3P)2の条件で、β位選択的に望みのビニルスズ 11を得ることができた。しかし、11が不安定であったため、その反応系から溶媒を留去後、ヨウ化フラン 5とのStilleカップリングを行うことで共役エノールエーテル部分を構築し、12を1ポット、2工程、収率75%の高収率で得る条件を見出した。続いて、12のエステル部分の加水分解を行い、椎名マクロラクトン化により14員環ラクトンを構築した。最後に、Pinnick 酸化に続く、Dess-Martin酸化により無水マレイン酸へと導き、16を合成した。これにより、無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンの構築を達成した。

酸素架橋含有シスデカリン骨格の構築

 次に、下部 3の合成に取り組んだ (Scheme 3)。まず、市販化合物から11工程を経て適切な官能基を揃えたアシル体 18とした後に、Michael-aldol反応により、シスデカリン骨格を有した三環性化合物 19を単一の生成物として得た。続いて、共役アルデヒド 20へと変換し、嵩高いルイス酸であるTIPSOTfを用いた1,6-oxa-Michael反応により93%の高収率で架橋部分を構築する条件を見出した。得られたシリルエノール 21に対し、C4位での立体選択的なプロトン化を行った。検討の結果、脱シリル化剤としてTASF、ラジカルスカベンジャーであるBHTを添加することで副反応を最小限に抑え、高収率かつ高立体選択的にC4位の立体化学を構築することができた。続いて、更なる変換により、アルデヒド 23とケトン 24とした。

10員環ラクトンの構築

 ルミナミシン (1)の全合成に向け、残る課題は三置換オレフィン含有10員環ラクトンの構築であり、先の戦略どおりルミナミシン (1)の全合成に向け上部 2と下部 3のカップリング反応の検討を種々行った。しかし、何れの条件においても目的の三置換オレフィン含有10員環ラクトンの構築には至らず、本戦略を断念した。これは、3の共役エノールエーテル部分の不安定性に起因するものと考え、合成終盤おいて上部を構築することにした。更に、モデル化合物を用いた検討より、三置換オレフィン部分の構築にはJuliaカップリングが最適であることを見出した。この方法論を用いて三置換オレフィン含有10員環を構築すべく、アルデヒド 23を用いてJuliaカップリングの検討を行った。まず、23とスルホンの分子間反応はアルデヒドの反応性の低さから全く進行しなかった。そこで、アルデヒドとスルホンの反応点を近づける目的で23と別途調製したアルコール 25とのエステル化により 26とし、分子内Juliaカップリングを試みた (Scheme 4)。本反応条件では、分子内に多くの酸性プロトンが存在する中で、いかに副反応を抑え、選択的にスルホナートを形成させるかが望みの10員環を構築する鍵となる。そのような考えのもと検討を行い、 26に対して低温下、LHMDSを作用させると、興味深いことに10員環ラクトン 28と共に高収率でアセタール 27が得られた。

 そこで、27からの環拡大反応による10員環構築を試みることとした (Scheme 5)。即ち、27に再度、塩基処理を行うことにより、β-ヒドロキシスルホンからのレトロJuliaカップリングを経由したスルホナートが形成出来れば、環拡大反応により10員環ラクトンの構築が可能となるのではないかと考えた。種々検討の結果、塩基としてDBU用いると、期待どおりβ-ヒドロキシスルホンから環拡大反応が進行し、高収率で28を得ることができた。これにより、酸素架橋シスデカリン含有10員環ラクトンの構築を達成した。しかし、得られた28からの三置換オレフィン構築に向けた種々の変換が困難であった。

 先の検討から10員環構築後の酸化、炭素ユニットの導入は困難と考え、より直接的に三置換オレフィンが構築可能なケトンを用いた検討を行った (Scheme 6)。同様の手法で24をエステル 30へと変換した後にLHMDSを用いて反応を行うと期待どおりアセタール 31を高収率で得ることが出来た。現在は31から32への環拡大反応よる10員環構築の検討を行っている。

 今後は三置換オレフィン含有10員環ラクトンを構築後に、確立した手法により、上部共役エノールエーテル部分を構築することでルミナミシン (1)の全合成を達成する予定である。

【総括】 

 我々は、他に類を見ない特異な構造を有するルミナミシン (1)の合成研究に着手し、酸素架橋含有シスデカリン骨格と無水マレイン酸共役エノールエーテル含有14員環ラクトンの構築法を確立した。更にβ-ヒドロキシスルホンからのレトロJuliaカップリングを経由した環拡大反応により、10員環ラクトンの構築を行うことで酸素架橋シスデカリン含有10員環ラクトンの構築を達成した。

【謝辞】

 本研究は文部科学省、日本学術振興会科学研究費補助金、上原記念生命科学財団、公益財団法人サントリー生命科学財団研究奨励助成事業奨学金、北里研究所研究奨励金助成、北里大学学術奨励資金の支援を受けました。ここに、深く感謝致します。

【参考文献】

1) Ōmura, S.; Iwata, R.; Iwai, Y.; Taga, S.; Tanaka, Y.; Tomoda, H. J. Antibiot. 1985, 38, 1322.

2) Gouda, H.; Sunazuka, T.; Ui, H.; Handa, M.; Sakoh, Y.; Iwai, Y.; Hirono, S.; Ōmura, S. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2005, 102, 18286.

3) Evans, J. M.; Kallmerten, J. Synlett 1992, 269.

4) Gossinger, E.; Schwartz, A.; Sereinig, N. Tetrahedron 2000, 56, 2007.

5) Sunazuka, T.; Handa, M.; Hirose, T.; Matsumaru, T.; Togashi, Y.; Nakamura, K.; Iwai, Y.; Ōmura, S. Tetrahedron Lett. 2007, 48, 5297.

6) Kimishima, A.; Hirose, T.; Sugawara, A.; Matsumaru, T.; Nakamura, K.; Katsuyama, K.; Toda, M.; Takada, H.; Masuma, R.; Ōmura, S.; Sunazuka, T. Tetrahedron Lett. 2012, 53, 2813.

7) Roush, R. W.; Harris, J. D. J. Am. Chem. Soc. 1986, 108, 3422.

 
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