天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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植物疫病菌交配ホルモンの受容体および生合成酵素の探索
戸村 友彦張 莉山田 麻衣子矢島 新小鹿 一
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抄録

1. はじめに

 植物疫病菌(Phytophthora属糸状菌)は、ジャガイモなどの重要農作物に感染し甚大な被害を与え、世界3大植物病害の1つとして知られている。疫病菌の多くは有性生殖を行い、耐久性と遺伝的多様性を獲得した次世代が誕生するが、この有性生殖の存在が地球規模の蔓延、急速な薬剤耐性化や悪性化の要因と考えられている。したがって有性生殖メカニズムの分子レベルでの解明は、疫病菌防除に繋がる重要な課題であると言える。疫病菌の有性生殖には2つの交配ホルモンa1(A1交配型が分泌)とa2(A2交配型が分泌)が関与しており、この2つの交配ホルモンの構造と生合成経路が15年以上の歳月を経て当研究室で解明された1, 2。これまでに両ホルモンの構造活性相関3)および普遍性が検討され、疫病菌の有性生殖の化学的基盤が整った。しかし、疫病菌有性生殖の全容解明には「交配ホルモンがどこから来て、どのように作用するのか」というケミカルバイオロジー的課題が未解明である。

 現在のところ、疫病菌有性生殖システムを図1のように推定している。すなわち、①A2交配型がa2合成系を使って植物に含まれるフィトールからa2を生合成し細胞外に分泌する。②近くのA1交配型は受容体によりa2を認識し、③細胞内シグナル伝達経路により核内の有性生殖関連遺伝子が活性化し造卵器、造精器が分化する。④a2は同時にA1交配型のa1合成系によりa1へと変換され細胞外に排出される。⑤A2交配型は受容体を介してa1を認識し、⑥シグナル伝達経路の活性化を経て生殖器官の分化を引き起こす。互いの生殖器官は融合して卵胞子を形成する。異なる交配型A1, A2が出会った時だけ有性生殖を行う(自家不和合性)理由がこれで説明可能である。

図1. 推定される疫病菌の有性生殖システム

 今回、交配ホルモンの生化学・分子生物学的基盤の確立を目指し、以下の点を検討したので報告する。

(1) a1の受容体Rαを特定するための蛍光プローブを合成し菌体の染色を試みた。

(2) 交配ホルモンはフィトールからa2を経てa1へと生合成されるため、a2の生合成に関わる酵素を探索した。

2. a1受容体探索用蛍光プローブ

2-1. 蛍光プローブの合成

 疫病菌の菌体におけるa1受容体の分布を調べるために蛍光プローブを合成した。a1の構造活性相関から分子の右側16位水酸基の修飾は活性を保持することがわかっていたので3)、この位置にリンカー(脂肪鎖、PEGおよびその組み合わせ)を介して蛍光基AlexaFluor488を結合した、「a1−リンカー−蛍光基」の基本構造を持つ蛍光プローブ1-3を合成した(図2)。

図2. a1受容体探索用蛍光プローブ

 まず、これらのプローブのホルモン活性を確認するためにA2交配型に投与したところ、a1に対する相対ホルモン活性はそれぞれ表1のようになった。そこで以降の実験は、活性の最も高いプローブ1を用いて行った。

表1. a1受容体探索用蛍光プローブのホルモン活性

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© 2015 天然有機化合物討論会電子化委員会
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