天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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疫病菌交配ホルモンの産生を左右する因子
戸村 友彦矢島 新小鹿 一
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p. Poster42-

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抄録

1. はじめに

 植物疫病菌(Phytophthora属糸状菌)は、世界三大植物病害の1つの原因菌として知られ、ジャガイモなどの重要農作物に感染し甚大な被害を与える。疫病菌は有性生殖により急速な変異(薬剤耐性化や悪性化)を起こすため、有性生殖のメカニズムの分子レベルでの解明は、疫病菌防除に繋がる重要な課題と言える。自家不和合性(ヘテロタリック)疫病菌種の有性生殖は、2つの交配型A1とA2が出会うことで開始されるが、その際、相手が分泌する交配ホルモン(a1とa2)を認識している1), 2)。これまでに両ホルモンの構造、生合成前駆体、構造活性相関3)などの化学的基盤が整ったが、その生理的意義や生合成機構などケミカルバイオロジー的課題が未解明である。

 現在のところ、交配ホルモンの生合成経路は次のように推定している(図1)。

① A2交配型がa2合成系(酸化酵素?)を使ってphytol(植物由来)の2箇所を水酸化(11,16-ジヒドロキシル化)することによってa2を生合成し細胞外に分泌する(遊離したa2がA1交配型の有性生殖を促す)。

② A1交配型が分泌されたa2を取り込み、a1合成系(酸化酵素?)使ってa2をさらに酸化することによりa1を生合成し細胞外に分泌する(遊離したa1がA2交配型の有性生殖を促す)。

図1. 疫病菌の有性生殖を促す交配ホルモンa1, a2とその生合成経路

 今回、交配ホルモン生合成機構の解明を視野に、交配ホルモンの産生に影響を与える因子について以下の点を検討したので報告する。

(1) 菌株と培養日数

(2) 培地の種類

(3) 汎用培地V8 ジュース成分の効果

2. 菌株と培養日数

 異なる交配型を含む数種の疫病菌株(P. nicotianae、P. cryptogea、P. capsiciおよびP. cinnamomi)を、phytol(a2前駆体)あるいはa2(a1前駆体)を添加した20% V8野菜ジュース液体培地で振とう培養し(27 ℃、80 rpm)、培養上清をLC/ESI-ITMSで定量分析することによって、1週間の交配ホルモン産生量の経時変化を調べた(図2)。

図2. 交配ホルモン産生量と培地のpHの経時変化(値は平均値)

 その結果、菌株を4つのタイプに分類できることがわかった。まず、a2をa1に変換するとされるA1株(P. nicotianae38607およびP. cinnamomi 33180)では、a2は添加1日後からa1に変換され、2〜3日で最大になった後、pHの上昇(菌体生長にほぼ同期)とともに減少する傾向が見られた。第二にphytolをa2に変換するとされるA2株(P. nicotianae38606およびP. nicotianae 33190)では、a2ホルモンの産生量の増加はpH上昇と同期していた。第三として、A2株でありながらa2は検出されずa1のみを産生する株(P. cryptogea32326、P. capsici 30698およびP. cinnamomi33181)も見出された。この中でP. cryptogea 32326のa1産生量はA1交配型のそれを大きく凌ぎ、その経時変化は菌体の生長に伴うと考えられる培地のpH上昇とほぼ同期していた。第四のタイプはP. capsici 8386 (A2)で、a1、a2両ホルモンの産生が見られた。産生量は2日目以降増加していたが、生長に伴うpHの上昇は見られなかった。以上の結果より、交配ホルモンの生産パ

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