天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
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放線菌Streptomyces rocheiの抗生物質生産を誘導するシグナル分子SRBの単離・構造決定および生合成
波多江 希津田 直人木梨 陽康荒川 賢治
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p. Poster56-

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抄録

放線菌は、微生物由来二次代謝産物の7割近くを生産する土壌微生物である。近年では抗生物質生合成遺伝子の改変による非天然型抗生物質の創製も盛んに行われており、創薬の研究シーズとして期待される。放線菌Streptomyces rochei 7434AN4株は構造の異なる2つのポリケチド抗生物質ランカサイジン (LC) およびランカマイシン (LM) を生産し、それら生合成遺伝子群は全長210 kbの巨大線状プラスミドpSLA2-L上にコードされていた(図1)。さらにこれらの制御遺伝子 (srr genes)も本プラスミド上にコードされていた 1)

現在までにLCの特異な大員環形成機構およびモジュラー・反復混合型ポリケチド生合成系、LMの分子多様性を規定する生合成酵素、さらには二次代謝生合成制御機構に関する成果を挙げてきた2)。本発表では抗生物質生産を誘導するシグナル分子SRB (Streptomyces rochei butenolide) に着目し、(1) SRBの単離・構造決定、(2) SRBの生合成機構解析、に関する研究成果について報告する。

(1) 抗生物質生産を誘導する新規ブテノライド型シグナル分子SRBの単離・構造決定

 Streptomyces属放線菌には、 A-factor などの低分子シグナル化合物(図2)による二次代謝制御機構が広く存在している。S. rochei の線状プラスミド pSLA2-L には、LC, LM生合成遺伝子群のほかにシグナル分子 (SRB) 合成遺伝子 (srrX)、SRB リセプター遺伝子 (srrA)、SARP 型活性化遺伝子 (srrY) などがコードされている。我々は既に SrrX→SrrA→SrrY→LC, LM 生産という抗生物質制御カスケード(図3)を明らかにしているが、SRB の化学構造は不明のままであった。

 放線菌のシグナル分子は nM オーダーで抗生物質生産を誘導するが、その生産量は極微量であり、単離・構造決定は困難を極める。S. griseus (streptomycin 生産菌) のA-factor,Streptomyces virginiae (virginiamycin生産菌) の virginia butanolide などのシグナル分子は、いずれも g-ブチロラクトンを共通骨格としていた。しかし近年 Streptomyces coelicolor (methylenomycin 生産菌) からフラン骨格を有するシグナル分子 methylenomycin furan (MMF)、Streptomyces avermitilis (avermectin 生産菌) からブテノライド型分子 avenolide が発見され(図2)、S. rochei が生産するシグナル分子SRBの構造に興味が持たれた。そこで我々は本菌を大量培養 (160リットル) し、ゲル濾過およびシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより SRB 画分を精製した (250 mg) 。なお活性画分は,srrX 破壊株の LC, LM 生産性回復により検出した。精製した活性成分の高分解能質量分析を行ったところ、2つの化合物 (SRB1, SRB2) の存在が確認でき,分子式はそれぞれ C15H24O5,C16H26O5であった。さらに各種二次元 NMR で解析したところ、SRB1は[2-(1’-hydroxyl-6’-oxo-8’-methylnonyl)]-3-methyl-4-hydroxybut-2-en-1,4-olide、SRB2は [2-(1’-hydroxyl-6’-oxo-8’-methyldecyl)]-3-methyl-4-hydroxybut-2-en-1,4-olideと決定できた。これらはいずれも2,3-二置換4-ヒドロキシブテノライド骨格を有する新規シグナル分子であった (図3)。

 また、分岐鎖の C-1’ 位水酸基の立体化学は、化学合成サンプルとの比較解析により明らかにすることとした。SRB1 (1) に関しては、炭素鎖 6 のモノベ

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