抄録
【序論】
海洋生物、微生物、植物などが生産する二次代謝産物には多様な化学構造を有し、有望な生物活性を示すものが多い。医薬品の多くが天然物、あるいは天然物を改変して創出されたものであることから、天然物は今後も医薬品開発において重要な役割を果たすことが期待される。そのため、生物に含まれる膨大な数の化合物の中から効率的に有用物質を発見することは、学術的ならびに産業的に意義深い。
培養細胞は投与する化合物の作用機序を反映して、特徴的な形態変化を示す。すなわち、理化学研究所の長田らが報告しているように1、標的分子既知の化合物が培養細胞に対して誘導する形態変化データを集積し、両者を対応させたデータベースが構築できれば、表現型を観察するだけで特異的な作用機序を示す化合物を効率的に検出できる。このような背景のもと、われわれはカイメン抽出物存在下での培養細胞の形態変化に着目した試験系を用いて、活性物質の探索をおこなった。本討論会では、3 種の新規化合物miuramide A(1)およびB(2)、ならびにpoecillastrin H(3)の単離・構造決定について報告する。
【表現型プロファイルデータベースの構築】
探索研究に先立ち、東京大学創薬機構より提供を受けたLOPAC既知薬理化合物ライブラリ(Sigma-Aldrich)および水圏天然物化学研究室が保有する海洋天然物に対して、生細胞イメージングシステムを用いて、表現型プロファイルデータベースを作成した。この結果を念頭に置き、カイメンの粗抽出液約2,000 種の評価をおこなった。