天然有機化合物討論会講演要旨集
Online ISSN : 2433-1856
第60回天然有機化合物討論会実行委員会
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P2-9 JBIR-06の立体化学決定をめざした全合成
*臼杵 克之助濱田 千絵竹内 大貴小川 洸佐藤 哲也
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p. 541-546-

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抄録

JBIR-06 (1)は2008年に新家らにより放線菌Streptomyces sp. ML55株の培養物から、グルコース飢餓環境下における特異的な分子シャペロンGRP78の発現抑制活性を指標として単離された、12員環トリラクトンに3-(ホルミルアミノ)-2-ヒドロキシ安息香酸がアミド結合した構造を有する化合物である(Figure 1)1a。固形癌細胞では、血管新生が癌細胞の増殖に追いつけず、正常細胞と比較するとグルコースおよび酸素が欠乏した状態にある。このような栄養飢餓ストレス下で生存するために、GRP78を高発現する耐性メカニズム(小胞体ストレス応答)を亢進させている。JBIR-06はグルコース飢餓環境下において特異的にGRP78 発現を抑制するため、固形癌選択的な抗腫瘍剤の創薬シーズとして期待される。これまで、私たちはプルヌスタチンA (2)に代表される、15員環テトララクトン構造を有するネオアンチマイシン系抗生物質の構造とGRP78発現抑制活性などの生物活性に興味を持ち、合成研究を行ってきた2-4。ラクトン環の大きさに違いがあるものの、どちらも3-(ホルミルアミノ)-2-ヒドロキシ安息香酸がL-トレオニン残基にアミド結合しており、β-ケトエステル部分も共通している。GRP78発現抑制活性は、1が262 nMであるのに対して2は1.9 nMである。共通の部分構造が何らかのかたちで活性発現に関与しているのではないかと考えた。 Figure 1 また、1に存在する5つの不斉中心のうち、トレオニン残基に由来するC6とC7の絶対立体配置は、Marfey法により(6S, 7R)と決定されたが、残り3つの不斉中心の立体構造がまだ決定されていなかった。そこで、1の立体化学を(2S, 4S, 14S)と仮定して全合成を試み、JBIR-06の立体化学を決定することに成功したので、その詳細を報告する。 【合成戦略】 まず、15員環テトララクトン構造を有するネオアンチマイシン系抗生物質の合成経路2-4を参考にして、環化前駆体4の分子内エステル交換反応による12員環構築を試みたが、所望の反応よりも脱炭酸が進行する結果となった(Scheme 1)。

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