天理医学紀要
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原著
胃癌の生存分析におけるGamel-Boag の回帰分析とCox の回帰分析の比較
前谷 俊三西川 俊邦長谷川 傑瀬川 義朗萬砂 秀雄大林 準
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2009 年 12 巻 1 号 p. 19-32

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抄録

背景:近年,癌の全治例が増加するにつれて臨床医は治療が実際に癌を全治するのか,それとも癌死を先に延ばすだけなのかを知ることや,更にどれだけの確率で全治が達成できるかを知ることが必要となってきた.この疑問に答えるためには,Boag モデル(パラメトリック治癒モデル)の三つのパラメータ,就中,全治率と平均対数生存期間を求めればよいが,伝統的に使用されてきたCoxモデルでは全治と延命とを区別できない.ただ,Coxモデルはハザード比というパラメータを一つだけもつのに対して,Boagモデルには不要なパラメータがあるおそれがある.そこでBoag モデルに冗長性がないか,また,両者を回帰モデルに拡張して,その回帰係数同士の関係を調べた. 方法:組織学的に漿膜または漿膜下に浸潤して治癒切除を受け,術後無作為に高用量または低用量のMMC UFT の補助化学療法を受けた1410 例の胃癌患者の追跡データ(T10試験)を用いた.18個の説明変数は二値変数に変換し,一個ずつGamel-Boagモデルを変更した三つの回帰モデルとCoxの回帰モデルに組み込んで,それぞれの回帰係数を最大尤度法で求めた.これらの係数は,各共変量が全治率と生存期間,及びハザード比に及ぼす効果を表す.Gamel-Boagモデルのデータ適合度は赤池の情報量基準で比較し,その各係数とCoxの回帰係数の間の関係は回帰分析で調べた. 結果:化学療法や他の因子は全治率のみに働くという仮説は,化学療法が全治率と生存期間の両者に働くという仮説と同等の適合度をもっていた.全治率を評価するためのGamel-Boagの回帰係数とCoxの回帰係数の間には高度に有意な相関と比例関係を認めた(|r| = 0.98, P < 0.0001).これと比べると生存期間を評価するためのGamel-Boag の回帰係数とCox の回帰係数の間の相関は,有意ではあるが低かった. 結論:全治可能な癌患者を対象にすれば,ハザード比から治療が全治効果をもつか否かを判定できるかもしれず,生存期間のための回帰係数は不要なパラメータかもしれない.しかし治療がもたらす生存利得の大きさを測り,よりよい治療法を選択するためには,Gamel-Boag のパラメトリック生存分析をすべきである

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© 2009 公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
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