天理医学紀要
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原著
リスクスコアを用いた当院における川崎病急性期ガンマグロブリン療法の検討
武田 親宗松村 正彦南部 光彦大林 準萬砂 秀雄
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2011 年 14 巻 1 号 p. 26-37

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抄録

背景:川崎病(KD)は未だ原因不明の熱性疾患であり,最も多くかつ重篤な合併症は冠動脈瘤である.第一選択の治療法はガンマグロブリン大量静注(IVIG)であり,炎症を静め,冠動脈瘤発生を減らすことが知られている.しかし10-20%の患者はIVIG後も発熱が持続または再発し,動脈瘤合併の高リスク群となる.我々はどの因子がIVIGに対する反応性の低下と最も関連が深いかを検討した. 方法:対象はKDIVIG治療を受けた53名の患者で,その診療録を後顧的に調査した.まず,1 g/kgないし2 g/kgIVIGで治療を完了し得た39 名(反応群)と,それに反応せず更に追加治療を要した14名(不応群)の2群に分けて合計16項目の変数を分析した.それらは年齢,性,各種臨床検査値,及び3 種のスコア,即ち群馬スコア,久留米スコア,天理スコアである.後者は尤度法に基づくロジスティック回帰変数選択で推定した.各変数がどれだけ反応群と不応群とを見分けられるかの尺度としては,標準化距離(Δ),ROC曲線下面積(AUC),単変量ロジスティック回帰の統計量(Wald P)を計算した.ついで反応群の中で,1 g/kgで治療を完了した患者と,2 g/kgを必要とした患者の二つのサブグループに分け,同様の分析を行った. 結果:Δ値, AUC 値,及びWald P 値からみれば,群馬スコアは天理スコアとほぼ同等の結果を示し,他の変数や久留米スコアを凌駕していた.両スコアの基礎となったモデルを比較すると,群馬モデルではその開発と検証は別々のデータで行われたため,IVIG に対する不応性を予測する上では信頼性が高いといえる.ただ天理モデルが4変数からなるのに対して,群馬モデルは7変数からなり,その中には治療開始日数が含まれる.これは疾患の重篤度を反映する交絡因子とみなされる.群馬モデルから不要な因子を除き,もっと単純なモデルが作れないかという疑問が残る(Ockhamの剃刀).一方,反応群の中の二つのサブグループの判別では血清Na値と天理モデルが有意な予測因子であり,群馬モデルは有意とはならなかった. 結論:群馬スコアは久留米スコアや他の変数と比べて,IVIGに対するKD患者の不応性を予測する上で有用であり,天理スコアとほぼ同等な結果を達成した.しかし最適の変数の組み合わせ理想的な予測モデルを構築するためには,更に症例数を増やし分析を行う必要がある

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© 2011 公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
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