2011 年 14 巻 1 号 p. 38-44
背景:肺血栓塞栓症(pulmonary thrombo embolism : PTE)は致死的な疾患であり,その診断において,病歴と臨床症状によるWells criteria と,感度の高い検査であるD-dimerは,PTEの除外診断に有用であることが知られている.一方でFDPも同じ凝固線溶系マーカーとして広く実施されている検査である.海外の臨床現場においてはPTEを検索する際にD-dimerはFDPよりも優れていることを示すことが既に報告されている.しかしながら,日本国内の臨床現場において,本邦で利用可能な測定法やカットオフ値を用いてPTEに対するD-dimerとFDPの有用性を比較した研究はなく,PTEの頻度も海外の頻度と異なる.そこで今回我々は,日本独自の診断体系を構築するための基礎として,FDPとD-dimerのPTEにおける診断能を比較することとした. 方法:研究デザイン:後ろ向きコホート研究.対象:2005年1月1日から2010年12 月31日の期間に,PTEの診断で天理よろづ相談所病院に入院し,かつFDP,D-dimer が測定された59例.2011年1月1日から1月31日までの期間に,PTEを認めず,FDP,D-dimer が測定された178 例.主要アウトカム:全PTE 症例(59 例)におけるPTE に対するFDP,D-dimerの感度.副次的アウトカム:Wells criteriaを評価可能であった52例のうち低リスク群及び中高リスク群それぞれにおけるPTEに対するFDP,Ddimer の感度.FDP,D-dimer のPTE に対するROC 曲線とそのAUC. 結果:全PTE症例(59 例)において,FDP,D-dimerの感度はそれぞれ78%,95%であった.Wells criteriaの低リスク群9例では,FDPの感度は78%(7/9),D-dimerの感度は100%(9/9)であった.Wells criteria中高リスク群43例ではFDPの感度は74%,D-dimerの感度は93%であった.ROC 曲線のAUC はFDPで0.688,D-dimerで0.745 であった. 結論:D-dimerはFDPに比較してPTEに対して優れた感度を示した.本研究の結果,PTEを除外する検査として,D-dimerはFDPより有用性が高い可能性が示唆された.