天理医学紀要
Online ISSN : 2187-2244
Print ISSN : 1344-1817
ISSN-L : 1344-1817
技術開発
Boag モデルとその拡張に基づく癌の生存分析のためのコンピュータプログラムの開発
前谷 俊三瀬川 義朗萬砂 秀雄大林 準西川 俊邦高橋 康生
著者情報
ジャーナル フリー

2011 年 14 巻 1 号 p. 93-107

詳細
抄録

癌治療においては全治を達成するのと,癌死を先延ばしするのとでは,患者の生存利得やQOLにおいて極めて大きい差が生じる.不幸にもlog-rank検定やCoxの回帰分析など従来の生存分析は,この二つの転帰を区別できず,癌治療や予後因子の評価において,臨床医の判断を狂わせることがあった.Cox自身も最近彼のモデルの限界を認めている.これらの問題は本研究を遂行する動機となり,医師が適切な生存情報を癌患者と共有できるようBoag モデルとその拡張に基づく癌の生存分析のコンピュータプログラムを開発し,そのCDROMを臨床腫瘍医に広く配布することを試みるに至った.本論文ではBoag モデルとその拡張について説明し,そのコンピュータプログラムをいかに実行するかを解説する. Boagモデルとは癌患者集団の中でcの割合は全治し,残りの1-cの割合は原病死(癌死)すると仮定する.更にその癌死までの期間の対数値は平均m,分散s2 の正規分布をすると仮定する.我々の第一の課題は与えられた患者集団においてこのBoag の三つのパラメータを推定することにある.第二の課題は競合リスクモデルに基づき,あらゆる原因の死亡リスクを考慮した上で全患者の平均余命を推定することに ある.第三の課題は予後因子(例えば治療法,検査データ,臨床病理学的所見)がBoagのパラメータに与える効果をGamelらの三つの回帰式を用いて推定することに ある.ここでは予後因子が独立変数であり,Boagの三つのパラメータc,m,sが従属変数となる.このコンピュータプログラムは最初HTBasic for Windowsで書かれ(前谷),Visual Basic for Application に翻訳された(萬砂).本生存分析は従来の方法よりも遥かに意味のある生存情報を,臨床腫瘍医や患者に提供すると期待している

著者関連情報
© 2011 公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
前の記事 次の記事
feedback
Top