5年生存率は,癌患者がどれだけの割合で全治するかを表す大まかな尺度として長年使用されてきた.全治率を更に正確に測るために,我々はBoag の全治モデルから全治率を求め,これと5生率を比較,更に病理所見が全治におよぼす影響を定量的に解析した.
対象は1,410例の胃癌,1,754例の結腸癌,及び10,447 例の膵癌で,外科的切除を受けた後追跡した患者である.患者は腫瘍部位とTNMステージにより14群に分け,群毎に5生率と全治率を比較した.全治率とその分散は原病特異的生存曲線が水平となる時点の生存率をBoagモデルに基づき最大尤度法で推定した.病理所見としては,腫瘍径,漿膜浸潤,リンパ節転移,静脈浸潤を選び,所見が陰性か陽性かに応じて,(-),(+)の2値変数に再分類した.腫瘍径は,<= 4 cmか,>4 cm かによって,2 値に再分類した.単独予後因子が全治率に及ぼす影響はBoag モデルで評価し,多変量の影響はGamel-Boag の回帰分析で評価した.
その結果,14の腫瘍-ステージ群の中の11群において5生率は全治率を過大に評価していた.3腫瘍の中では膵癌の全治率が最も低く,腫瘍径が<= 4 cmであっても全治率は約16% (95%CI: 15 to 18)であり,腫瘍径が<= 2 cmでも29% (95%CI: 26 to 33) に留まった.これと対照的に結腸癌の全治率は極めて高く,腫瘍径>4 cmであっても,75% (95%CI:70 to 80) が全治した.ただし静脈侵襲陽性であれば,全治例は75% に満たず,これは結腸癌に多い肝転移が静脈侵襲から起こることで説明できた.胃癌の全治率は膵癌と結腸癌の間であった.
結論として全治率は患者や臨床医にとってわかりやすい生存利得の尺度であり,意思決定を行う上でも,また,癌の予後をより深く理解し,正しい意思決定を下すためにも有用な情報を提供する.