天理医学紀要
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16 巻, 2 号
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特別教育講演
原著
  • 前谷 俊三, 大林 準, 瀬川 義朗, 萬砂 秀雄, 藤 浩明, 加藤 滋, 浅生 義人, 西川 俊邦, 吉村 玄浩, 高橋 泰生, JW ...
    原稿種別: 原著
    2013 年 16 巻 2 号 p. 70-78
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
     5年生存率は,癌患者がどれだけの割合で全治するかを表す大まかな尺度として長年使用されてきた.全治率を更に正確に測るために,我々はBoag の全治モデルから全治率を求め,これと5生率を比較,更に病理所見が全治におよぼす影響を定量的に解析した.
     対象は1,410例の胃癌,1,754例の結腸癌,及び10,447 例の膵癌で,外科的切除を受けた後追跡した患者である.患者は腫瘍部位とTNMステージにより14群に分け,群毎に5生率と全治率を比較した.全治率とその分散は原病特異的生存曲線が水平となる時点の生存率をBoagモデルに基づき最大尤度法で推定した.病理所見としては,腫瘍径,漿膜浸潤,リンパ節転移,静脈浸潤を選び,所見が陰性か陽性かに応じて,(-),(+)の2値変数に再分類した.腫瘍径は,<= 4 cmか,>4 cm かによって,2 値に再分類した.単独予後因子が全治率に及ぼす影響はBoag モデルで評価し,多変量の影響はGamel-Boag の回帰分析で評価した.
     その結果,14の腫瘍-ステージ群の中の11群において5生率は全治率を過大に評価していた.3腫瘍の中では膵癌の全治率が最も低く,腫瘍径が<= 4 cmであっても全治率は約16% (95%CI: 15 to 18)であり,腫瘍径が<= 2 cmでも29% (95%CI: 26 to 33) に留まった.これと対照的に結腸癌の全治率は極めて高く,腫瘍径>4 cmであっても,75% (95%CI:70 to 80) が全治した.ただし静脈侵襲陽性であれば,全治例は75% に満たず,これは結腸癌に多い肝転移が静脈侵襲から起こることで説明できた.胃癌の全治率は膵癌と結腸癌の間であった.
     結論として全治率は患者や臨床医にとってわかりやすい生存利得の尺度であり,意思決定を行う上でも,また,癌の予後をより深く理解し,正しい意思決定を下すためにも有用な情報を提供する.
症例報告
  • 飯岡 大, 下村 大樹, 津田 勝代, 林田 雅彦, 岸森 千幸, 奥村 敦子, 御前 隆, 大野 仁嗣
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 16 巻 2 号 p. 79-88
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
    症例: 65歳男性. 持続する発熱と大球性貧血のため入院.
    検査結果: ヘモグロビン7.6 g/dL,平均赤血球容積105fL,白血球2.2 × 103/µL,血小板272 × 103/µL.骨髄は正形成性骨髄で,赤芽球系造血の著明な低下,骨髄球系細胞と巨核球系細胞の異型性を認めた.骨髄中に芽球を17.8%認めたが,異なる形態・形質をもつ2系統から成っていた.すなわちタイプA芽球はミエロペルオキシダーゼ陽性の骨髄芽球であった.タイプB芽球は,豊かな細胞質に明瞭な核小体を有する核が偏在し,電子顕微鏡では細胞質内に管状網状封入体を認めた.フローサイトメトリ解析では,タイプB芽球は分化特異的マーカー陰性で,CD4,CD36,CD45RA,CD123,CD303,CD304,HLA-DR陽性,CD1a,CD11c,CD34,CD56陰性であった.G バンド分染法ではdel(5)(q13p33) 単独欠失を認めた.骨髄穿刺標本の間期核FISH 検査では,タイプA 芽球とタイプB芽球を含む79.7%の有核細胞にdel(5q)を認めた.ダウノルビシンとシタラビンを用いた寛解導入療法により血液学的寛解に至り,その後2サイクルの地固め療法を施行した後,非血縁者間同種骨髄移植を施行して現在3年以上の長期寛解を得ている.
    考察: 本症例は5q単独欠失を有する芽球増多を伴う骨髄異形成症候群で,タイプB芽球の形態・形質は形質細胞様樹状細胞に一致した.2系統の芽球は同一の染色体異常を有していたことから,本症例のMDS クローンは形質細胞様樹状細胞への分化・増生能をもっていたと考えられる.形質細胞様樹状細胞の増生を伴う骨髄系腫瘍の報告は稀ながらあるが,その病態学的意義や臨床的意義についての解明が望まれている.
  • 岡森 慧, 前迫 善智, 江原 淳, 藤田 久美, 竹岡 加陽, 林田 雅彦, 奥村 敦子, 大野 仁嗣
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 16 巻 2 号 p. 89-100
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
    緒言: ALK 陽性未分化大細胞型リンパ腫(ALK+ ALCL)は, 特異な核形を示す大型細胞のびまん性増殖, CD30 抗原の発現, 染色体転座によるALK融合遺伝子とALKキメラ蛋白の発現などを特徴とし, 30歳以下の若年者に好発する.我々は高齢者に発症しinv(2)(p23q35) を認めたALK+ ALCLの1例を報告する.
    症例: 64 歳男性. 糖尿病性網膜症で加療中, 自宅で倒れているところを発見され搬送された. 全身浮腫, 血圧低下(収縮期血圧60 mmHg), Ⅰ型呼吸不全を呈し, 画像検査で, 全身リンパ節腫大, 両側胸水, 肺野多発結節と脾腫を認めた. ヘモグロビン7.9 g/dL, 白血球数5.0×103/μL, 血小板数16×103/μL, LDH 140 IU/L, 総蛋白3.4 g/dL, アルブミン1.4 g/dL, Na 119 mmol/L, K 4.4 mmol/L, Cl 94 mmol/L, 可溶性IL-2 レセプター47,920 U/mL, フェリチン1,226 ng/mL, 抗HTLV-1 抗体陰性.
    腋窩リンパ節生検: 大型の核, 豊かな空胞状の細胞質を有する異型細胞の増生を認めた. 免疫染色ではCD3-, CD4+,CD5+, CD30+, EMA+, ALK+ (granular cytoplasmic pattern), フローサイトメトリー解析ではCD2+/-, CD3-, CD4+weak,CD5+, CD7-/+, CD8-, CD10-, CD20-, CD30+, CD45RO+, CD56-であった. GバンディングとALK break-apart probe を用いたFISHで, 核型は42~46,XY,+2,inv(2)(p23q35), der(2)inv(2)(p23q35)del(2)(p21), 13,der(16)t(1;16)(q12;p13),18,+mar[cp11]. ish inv(2)(p23)(3′ALK+)(q35)(5′ALK+),der(2)(3′ALK+,5′ALK-)[11] と決定した. RT-PCR では,ATIC 遺伝子とALK 遺伝子の融合mRNA を認め, PCR産物のシークエンシングで, 両遺伝子の接合部を確認した.
    経過: ALK+ ALCL, 病期Ⅳ期と診断した. 集中治療室に入室し, 気管挿管による人工呼吸管理, 持続血液濾過透析により全身状態の改善をはかった. 化学療法としてビンクリスチンとサイクロフォスファミドを投与したが, 治療効果をみることなく第58病日に永眠した.病理解剖では, 肺・気管支, 腎, 心臓, 膵臓, 副腎, 脊椎, 脾臓, 膀胱, 胃, 結腸などの多臓器に腫瘍細胞の浸潤を認めた.左肺では, 広範な器質化とリンパ腫細胞からなる多数の結節を認め, それらは気管支血管束に近接していた.結節周囲の肺胞や小気管支には線維化を認めた.
    考察: 本症例は, ALK+ ALCL としては高齢発症であり, 多くの節外病変を伴い, 急激で致死的な転帰を辿った.初診時に認められた全身浮腫や心・呼吸不全は, 全身的なcapillary leak syndrome によるものと考えられる.ALCL の肺浸潤が肺実質の器質化に何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆された.
  • 福島 正大, 松村 正彦, 芝 剛, 吉村 真一郎, 前田 真治, 三木 直樹, 山中 忠太郎, 高塚 英雄, 櫻井 嘉彦, 西野 正人, ...
    原稿種別: 症例報告
    2013 年 16 巻 2 号 p. 101-105
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
     症例は1 歳9 か月の男児. 第8 病日に, 発熱, 眼球結膜充血, 発疹, 口唇の紅潮, BCG 接種部位の発赤が出現し, 6 項目中4項目を満たす不全型川崎病の診断で免疫グロブリン製剤2 g/kgが投与された. 翌日には解熱したが, Wenckebach 型Ⅱ度房室ブロックが出現した. 臥位から起き上がれず, 活気がないこともあり, 第11 病日に転院した. 転院後はアスピリン内服のみで経過観察した. 発熱を含めた4 項目の症状は軽快し, 冠動脈にも異常は認められなかった. Ⅱ度房室ブロックは第13病日には消失し, Ⅰ度房室ブロックも第16病日には消失した. 第16病日に座位可能となり, 第18病日には歩行可能な状態まで回復し, 第19 病日に退院した.
     これまでにも川崎病にはさまざまな不整脈の合併が報告されてきた. 当院での15 年間の川崎病合併症としての不整脈の出現頻度は, 100人中5 人と, これまでの報告よりも少なかった. 一般的に川崎病に合併する不整脈の予後は良好であるが,経過中の不整脈の出現には注意が必要である.
Mini-symposium for resident physicians of Tenri Hospital
  • 大野 仁嗣
    原稿種別: Mini-symposium for resident physicians of Tenri Hospital
    2013 年 16 巻 2 号 p. 106-110
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
     2013年2月2日,奈良ロイヤルホテルにおいて “ホジキンリンパ腫:症例提示と天理よろづ相談所病院における治療成績” と題するミニシンポジウムが開催された.本シンポジウムは,天理よろづ相談所病院で研修中のレジデントに,自身が担当したホジキンリンパ腫患者の診療を通じて知り得た知識や理解を発表する機会を提供することを目的として企画されたものであった.当日は,奈良県内で血液疾患の診断や治療にかかわっている血液内科医,放射線科医,病理医が多数参加し,熱心なディスカッションが行われた.本レポートでは,まず,この疾患を180年前に初めて記載したThomas Hodgkin 博士のバイオグラフィーを略記した.次いで,天理よろづ相談所病院レジデント諸君の発表のなかから,最も重要な知見をいくつか取り上げた.
  • 西村 俊亮, 赤坂 尚司, 飯岡 大, 鴨田 吉正, 前迫 善智, 本庄 原, 御前 隆, 林田 雅彦, 岸森 千幸, 前川 ふみよ, 竹岡 ...
    原稿種別: Mini-symposium for resident physicians of Tenri Hospital
    2013 年 16 巻 2 号 p. 111-118
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
    症例: 58 歳男性.2か月前より全身リンパ節腫脹, 1か月前より高熱を繰り返すため当院入院となった.
    検査結果: ヘモグロビン12.8 g/dL, 白血球数6,300 /μL (リンパ球20.0%), 血小板数205×10 3 /μL, アルブミン3.3 g/dL,LDH 507 IU/L, AST 570 IU/L, ALT 419 IU/L, ALP 1,172 IU/mL, 総ビリルビン2.3 mg/dL, フェリチン2,075 ng/mL,CRP 12.4 mg/dL, 可溶性IL-2レセプター6,305 U/mL. FDG-PET/CTで, 表在・縦隔・腹腔内を含む広範囲なリンパ節病変に加え, 脊椎・骨盤・大腿骨近位の中心骨髄にFDG の集積亢進を認めた. 左鎖骨上窩リンパ節生検は混合細胞型古典的ホジキンリンパ腫. 骨髄穿刺で巨大なReed-Sternberg (RS)/Hodgkin (HD)細胞を1.4%, その周囲を単球やマクロファージが取り囲み, 血球貪食像を認めた. 骨髄生検でCD30陽性の大型細胞を含む細胞浸潤を認めた. 以上からStage IVBM,国際予後指標(international prognostic score; IPS):4 と診断した.
    経過:ABVd 療法により全身症状や検査所見は速やかに改善し,完全寛解状態に至った.
    考案: ホジキンリンパ腫ではPET 検査で中心骨髄の集積亢進をしばしば認めるが, 炎症の反映であることが多い.本例のように骨髄検査で浸潤が証明されることはまれである. ホジキンリンパ腫のステージングには, 骨髄検査は欠かすことができない.
  • 和田 努, 飯岡 大, 鴨田 吉正, 前迫 善智, 赤坂 尚司, 本庄 原, 御前 隆, 前川 ふみよ, 竹岡 加陽, 大野 仁嗣
    原稿種別: Mini-symposium for resident physicians of Tenri Hospital
    2013 年 16 巻 2 号 p. 119-125
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
    症例: 63歳男性.体重減少(2か月間に6 kg)のため入院.身体診察では,表在リンパ節は触知しなかったが,脾臓を左季肋下3横指触知した.
    検査結果: ヘモグロビン11.1 g/dL, 白血球数7,100/µL (リンパ球13.0%), 血小板数121×103/µL, アルブミン3.4 g/dL,C 反応性蛋白18.0 mg/dL, 赤沈1 時間値78 mm, 可溶性IL-2 レセプター7,107 U/mL であった.CT では,傍大動脈・腹腔動脈周囲の著しいリンパ節腫大と,脾腫及び脾臓内多発腫瘤を認め,左鎖骨下リンパ節腫大も認められた.PET検査では,これらの腫大したリンパ節と脾臓にFDGの強い集積を認めた.後腹膜鏡下に傍大動脈リンパ節を生検したところ,リンパ節は線維性の隔壁で囲まれた複数の結節からなり,多彩な炎症細胞を背景に大型細胞が認められた.免疫染色では,大型細胞はCD30+, CD15+, CD20, CD79a+, ALKで,ISH法によるEpstein-Barr virus (EBV)-encoded small RNAs陽性であった.PCR法で,免疫グロブリン重鎖遺伝子の再構成を認め,EBVゲノムのフラグメントが増幅された.
    経過: EBV 陽性結節硬化型古典的ホジキンリンパ腫,臨床病期Ⅲ-2Bと診断した.ABVD療法2サイクル終了後にPET検査(interim PET)を実施したところ,FDGの異常集積は完全に消失していた.ABVD療法を合計6サイクル実施し,完全寛解に至った.
    考察: 本例のような中高年発症のEBV 陽性結節硬化型古典的ホジキンリンパ腫の病理発生は,若年者に好発するEBV陰性結節硬化型古典的ホジキンリンパ腫のそれと異なるのかもしれない.本例は治療前に3つの危険因子(低アルブミン血症,男性,高齢発症)を伴っていたが,interim PET評価によって早期完全奏功を認めたことから,良好な治療予後が予測される.
短報
  • 福塚 勝弘, 竹岡 加陽, 林田 雅彦, 前川 ふみよ, 中村 文彦, 大野 仁嗣
    原稿種別: 短報
    2013 年 16 巻 2 号 p. 126-132
    発行日: 2013/12/25
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
     Janus kinase 2 (JAK2)遺伝子のV617F変異は,骨髄増殖性腫瘍の診断基準の1つに取り上げられている.JAK2 V617F 変異の検出には,melting curve (MC)アッセイとamplification refractory mutation system (ARMS)法の2 つの方法が主として用いられている.我々は,希釈系列を用いて,両法によるJAK2 V617F変異の検出感度を検定 した.その結果,融解曲線の目視による判定を採り入れるとMCアッセイの検出感度は5%,ARMS法の検出感度は1%であった.臨床検体を用いた解析では,真性多血症(PV)の11例すべてで,いずれの方法でもJAK2 V617F変異を検出することができたが,1例ではMCアッセイで混合型,ARMS法で変異型であった.本態性血小板血症(ET) の8例では,5例 (MC アッセイ)または6 例 (ARMS 法) が混合型で,変異型は認めなかった.ARMS 法によってのみ変異陽性であった1例の変異型クローンの割合は3% 程度と推定されたが,2年後のMC アッセイでは14.3%に増加 した.骨髄異形成症候群2 例が変異陽性であった.今回の解析によって,PV のJAK2 V617F 変異はMC アッセイの感度で検出可能であるが,変異型クローンの割合が低いETでは,MCアッセイで野生型であっても,高感度のARMS 法による検証が必要であることが明らかになった.
Pictures at Bedside and Bench
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