緒言: ALK 陽性未分化大細胞型リンパ腫(ALK
+ ALCL)は, 特異な核形を示す大型細胞のびまん性増殖, CD30 抗原の発現, 染色体転座による
ALK融合遺伝子とALKキメラ蛋白の発現などを特徴とし, 30歳以下の若年者に好発する.我々は高齢者に発症しinv(2)(p23q35) を認めたALK
+ ALCLの1例を報告する.
症例: 64 歳男性. 糖尿病性網膜症で加療中, 自宅で倒れているところを発見され搬送された. 全身浮腫, 血圧低下(収縮期血圧60 mmHg), Ⅰ型呼吸不全を呈し, 画像検査で, 全身リンパ節腫大, 両側胸水, 肺野多発結節と脾腫を認めた. ヘモグロビン7.9 g/dL, 白血球数5.0×10
3/μL, 血小板数16×10
3/μL, LDH 140 IU/L, 総蛋白3.4 g/dL, アルブミン1.4 g/dL, Na 119 mmol/L, K 4.4 mmol/L, Cl 94 mmol/L, 可溶性IL-2 レセプター47,920 U/mL, フェリチン1,226 ng/mL, 抗HTLV-1 抗体陰性.
腋窩リンパ節生検: 大型の核, 豊かな空胞状の細胞質を有する異型細胞の増生を認めた. 免疫染色ではCD3
-, CD4
+,CD5
+, CD30
+, EMA
+, ALK
+ (granular cytoplasmic pattern), フローサイトメトリー解析ではCD2
+/-, CD3
-, CD4
+weak,CD5
+, CD7
-/+, CD8
-, CD10
-, CD20
-, CD30
+, CD45RO
+, CD56
-であった. Gバンディングと
ALK break-apart probe を用いたFISHで, 核型は42~46,XY,+2,inv(2)(p23q35), der(2)inv(2)(p23q35)del(2)(p21), 13,der(16)t(1;16)(q12;p13),18,+mar[cp11]. ish inv(2)(p23)(3′ALK+)(q35)(5′ALK+),der(2)(3′ALK+,5′ALK-)[11] と決定した. RT-PCR では,
ATIC 遺伝子と
ALK 遺伝子の融合mRNA を認め, PCR産物のシークエンシングで, 両遺伝子の接合部を確認した.
経過: ALK
+ ALCL, 病期Ⅳ期と診断した. 集中治療室に入室し, 気管挿管による人工呼吸管理, 持続血液濾過透析により全身状態の改善をはかった. 化学療法としてビンクリスチンとサイクロフォスファミドを投与したが, 治療効果をみることなく第58病日に永眠した.病理解剖では, 肺・気管支, 腎, 心臓, 膵臓, 副腎, 脊椎, 脾臓, 膀胱, 胃, 結腸などの多臓器に腫瘍細胞の浸潤を認めた.左肺では, 広範な器質化とリンパ腫細胞からなる多数の結節を認め, それらは気管支血管束に近接していた.結節周囲の肺胞や小気管支には線維化を認めた.
考察: 本症例は, ALK
+ ALCL としては高齢発症であり, 多くの節外病変を伴い, 急激で致死的な転帰を辿った.初診時に認められた全身浮腫や心・呼吸不全は, 全身的なcapillary leak syndrome によるものと考えられる.ALCL の肺浸潤が肺実質の器質化に何らかの影響を及ぼしている可能性が示唆された.
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