天理医学紀要
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原著
Moist wound healing に基づいて術式改良した鼓膜形成術(接着法)
堀 龍介庄司 和彦児嶋 剛岡上 雄介藤村 真太郎奥山 英晃小林 徹郎
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2015 年 18 巻 1 号 p. 17-22

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抄録

 鼓膜穿孔閉鎖を目的とした鼓膜形成術は,湯浅らが報告した接着法が広く普及しているが,その穿孔閉鎖率は従来法の鼓膜形成術と比べると劣っている.穿孔が閉鎖しない原因は,術後の移植片のずれ・脱落による穿孔残存と,乾燥させることによる鼓膜上皮の創傷治癒遅延であると考えられる.褥瘡・皮膚潰瘍の治療において,最近まで乾かして治すという考えが一般的であったが,近年は湿らせて治すというmoist wound healingの概念が注目され,一般の医療従事者にも受け入れられるようになってきた.この概念は上皮化を必要とする創傷治癒の過程全般で有用な概念であり,上皮である鼓膜の再生においても乾いた状況より湿潤環境の方が有利である.今回当科では,移植片がずれることなく安定するように,またmoist wound healingに基づいて移植片・鼓膜を含め全体が湿潤環境になるように,術式改良をした接着法を施行したので,その手術手技を中心に報告する.術式の要点として,移植片は圧迫・脱水せずに,分厚くかさばった状態で湿ったまま使用する.穿孔縁を新鮮化し移植片を鼓室内に挿入した後,外耳道側へやや盛り上げ穿孔縁に十分密着するようにしてフィブリン糊で固定する.移植片・鼓膜の上に置いたテルダーミス®とフィブリン糊で固定することにより,移植片の乾燥を防止し,移植片がずれたり鼓室に落ち込まないようにしている.抗菌薬点耳液が含侵したスポンゼル®を外耳道に留置し,最後に外耳孔にテープを貼って外耳道を閉鎖すると,移植片・鼓膜を含め全体が湿潤環境となり,moist wound healing理論にかなった創傷治癒が期待できる.今回の検討では手術手技に絞っているため症例数も少なく観察期間も短いが,鼓膜穿孔閉鎖と聴力改善については良好な結果が得られた.今後さらなる症例の積み重ねと観察期間の延長による詳細な検討が必要であると考える.

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© 2015 公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所
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