2021 年 107 巻 1 号 p. 53-63
The occurrence of longitudinal surface cracks in hypo-peritectic carbon steel slabs depends largely on the cooling capacity of the mold and the flow velocity of molten steel below the meniscus. The influence of both flow velocity of the molten steel below the meniscus and the heat flux in the copper mold were examined using continuous casting tests and numerical simulation of the molten steel flow. The casting speed was fixed, and the meniscus flow velocity was controlled by adjusting the port size of the submerged entry nozzle. The molten steel flow velocity was predicted by a three-dimensional unsteady-state numerical simulation. Heat flux in the copper mold was calculated based on temperature readings from thermocouples arranged in the direction of both the mold width and mold length. When the difference in flow velocity of molten steel in the mold width direction became large, longitudinal surface cracks occurred in the central region of the slab. In these cases, the heat flux below the meniscus in the mold width direction was not constant. Small holes were drilled along the central region of the mold width. This decreased both the heat flux and tensile strength of the central region of the slab width, and successfully reduced the occurrence of longitudinal surface cracks.
亜包晶鋼の連続鋳造スラブには幅中央に表面縦割れが発生する場合がある。これを抑制するには初期凝固シェルの成長挙動を理解し制御する必要がある。
初期凝固シェルを対象にした不均一変形の機構1–10)や,鋳型への抜熱挙動との関連11–15)が明らかにされている。表面縦割れは,メニスカス直下における初期凝固時のシェルの変形に伴う凝固シェル厚さの不均一が原因と考えられているが,縦割れが幅中央に発生する原因は不明である。一方,凝固過程における溶質再分配と高温強度16)や密度17)の関連について検討が行われ亜包晶鋼の基本的な理解が進みつつある。
ところで,溶鋼流速が大きいと凝固シェルの成長が遅くなることが知られている3,8,18)。初期凝固シェルの成長は鋳型内で形成されるため溶鋼流動の影響を受けるためである。
そこで本研究では,亜包晶鋼スラブの表面縦割れに及ぼす鋳型内のメニスカス直下における溶鋼流動と鋳型への抜熱挙動の影響を検討した。試験連続鋳造機を用いた実験では,引抜速度を一定にして,浸漬ノズルの吐出口のサイズを変えて吐出流速を変化させた。表面縦割れを抑制する方法として,幅方向の冷却能を変えた鋳型を用いて連続鋳造実験を行った。鋳型内の溶鋼流動挙動および鋳片の熱応力状態に関して,数値シミュレーションで予測した。実験結果と解析結果から,鋳片の表面縦割れと鋳型の抜熱量,鋳型内の溶鋼流動との関連を検討した。
Fig.1に連続鋳造実験で用いた鋳型の模式図を示す。鋳型の冷却能を変えるため,長辺のN面側に小孔を開けた。小孔の無いS面側で表面縦割れに及ぼす溶鋼流速の影響を調査した。小孔を開けたN面側で表面縦割れの抑制の効果を調べた。

Positions of thermocouples in the continuous casting mold.
鋳型の長辺面の幅中央領域で幅2.0×10-1 mの範囲に,直径5.0×10-3 mで深さ2.5×10-1 mの小孔を1.0×10-2 m間隔で開け,熱抵抗を増大させることで鋳型への抜熱量を低下させた。
熱電対は,Fig.1中の●印,○印の位置に配置した。その先端は,鋳型表面から2.0×10-3 mあるいは7.0×10-3 mにある。
メニスカス下4.5×10-2 mの温度測定結果から,鋳型幅方向の温度分布と熱流束を評価した。鋳型幅中央と幅1/4の位置で,鋳造方向の温度分布と熱流束を評価した。
Table 1に鋳造実験の条件を示す。鋳型内メニスカス近傍の溶鋼流速を変えるため,浸漬ノズルの吐出口のサイズを変えて平均吐出流速を変化させた。平均吐出流速は吐出流量を吐出口の全面積で割った値である。溶鋼流速を変化させるには引抜速度を変える方法がある。しかし,引抜速度を変えると凝固シェル厚みも変化するため,本研究では引抜速度を一定にした。
| case | A | B | C | D | |
| steel composition (mass%) | 0.11%C-0.10%Si-0.48%Mn-0.02%P-0.008%S | ||||
| mold cavity (mm) | 100 × 800 | ||||
| casting speed (m·min-1) | 2.0 | ||||
| nozzle | port size (mm) | 35 × 60 | 35 × 36 | 30 × 30 | 25 × 25 |
| discharge velocity (ms-1) | 0.6 | 1.0 | 1.5 | 2.0 | |
| depth (mm) | 180 | ||||
| downward angle (°) | 30 | ||||
温度測定結果を基に熱流束を算出するには,予め温度と熱流束の関係を求めておく必要がある。そこで,境界条件である熱流束を変数として,Table 2に示す物性値を用いて熱伝導計算を行った。小孔内は空気が存在すると仮定した。
| parameter | value | ref. |
|---|---|---|
| thermal conductivity of shell (Wm-1K-1) | 33.0 | 27) |
| specific heat of shell (Jm-3K-1) | 5.73×106 | 27) |
| latent heat of shell (Jm-3) | 1.93×109 | 28) |
| thermal conductivity of copper mold (Wm-1K-1) | 393 | 29) |
| specific heat of copper mold (Jm-3K-1) | 3.0×106 | 29) |
| density of copper mold (kgm-3) | 8.94×103 | 29) |
| temperature of copper mold contact with back frame (K) | 303 | − |
| thermal conductivity of air in small hole (Wm-1K-1) | 2.41×10-2 | 30) |
| specific heat of air (Jm-3K-1) | 1.0×103 | 30) |
| density of air (kgm-3) | 6.52×10-1 | 30) |
| temperature of cooling water (K) | 303 | − |
| heat transfer coefficient between water and mold in cooling slit (Wm-2K-1) | 2.3×104 | 31) |
| liquid temperature of steel (K) | 1800 | 27) |
| solidus temperature of steel (K) | 1764 | 27) |
| thermal conductivity of molten steel (Wm-1K-1) | 35.0 | 27) |
| viscosity coefficient of molten steel (kgm-1s-1) | 6.1×10-3 | 32) |
| Young’s modulus (MPa) | 4400 | 26) |
| Poisson’s ratio (-) | 0.38 | 26) |
| work hardening coefficient (MPa) | 20 | 26) |
Fig.2に,鋳型表面から2.0×10-3 mの熱電対の温度と熱流束の関係を示す。熱電対の温度が同じ場合,小孔があるN面側の方が熱流束は小さい。

Relationship between heat flux in the mold and temperature at 2.0×10−3 m from mold surface.
計算で求めた熱流束の妥当性を評価するため,実験番号Cの鋳型幅中央から4.4×10-2 m位置で,鋳型表面から2.0×10-3 m位置の温度から求めた熱流束の計算値と,幅中央から4.4×10-2 m位置で表面から2.0×10-3 m位置と幅中央から6.4×10-2 m位置で表面から7.0×10-3 m位置の温度差から算出した熱流束の関係を比較した。Fig.3に示すように,2つの熱流束が一致することから,計算で求めた熱流束の妥当性が確認できた。

Comparison between heat flux by numerical calculation and heat flux by thermocouple.
Fig.4に,鋳型表面に熱流束3.0MW m-2を与えた場合の鋳型水平断面内の温度の2次元の計算例を示す。鋳型の左右に同様の計算領域が繋がっていると仮定し,周期境界条件を設定した。鋳型の下面は冷却水温度であり,スリット内も冷却水温度に設定した。小孔近くで等温線は歪むが,鋳型表面と小孔の間の等温線は平滑であることから,溶鋼および初期凝固シェルからの抜熱は均一である。

Calculated temperature profile in the copper mold (a) with holes and (b) without holes.
初期凝固シェルの厚さ分布を求めるため,実験中にタンディッシュ内の溶鋼にFe-S合金を浸漬添加した。
2・2 溶鋼流動の解析方法鋳型内の溶鋼流動を評価するため,凝固シェルの形成を考慮した3次元非定常の溶鋼流動解析を行った。乱流の取り扱いはラージエッディシミュレーション法19–21)に従った。以下に基礎方程式を示す。
エネルギー保存則
| (1) |
| (2) |
連続の式
| (3) |
運動量保存則
| (4) |
| (5) |
| (6) |
ここで,T:温度(K),fS:固相率(-),t:時間(s),ui:i(=x,y,z)方向の速度(ms-1),P:圧力(Pa),Δi:iのメッシュサイズ(m)である。
2・3 熱応力解析方法鋳片の表面縦割れの発生については,凝固シェルに作用する幅方向の引張応力で評価した。
Fig.5に解析モデルを示す。凝固シェルおよび鋳型の2次元横断面を対象とし,これらを要素数1600の8節点アイソパラメトリック四角形要素で構成させた有限要素法22–25)を用い平面応力問題として取扱った。非定常熱伝導方程式を以下に示す。
| (7) |

Boundary conditions for elasto-plastic and solidification analysis for (a) mold and (b) solidifying shell.
ただし,{Φ}:節点温度ベクトル,{F}:熱流束ベクトル,[K]:熱伝導マトリックス,[C]:熱容量ベクトルである。
凝固シェルと鋳型間の熱的境界条件として,実験で得られた熱流束を上式の{F}内に取込んだ。
次に,応力解析に用いた構成方程式を以下に示す。
| (8) |
ただし,[ke]:弾性マトリックス,[kp]:塑性マトリックス,{Δd}:節点変位ベクトル,{fs}:表面力による節点荷重ベクトル,{fv}:体積力による節点荷重ベクトル,{fte}:熱歪による節点荷重ベクトルの弾性成分,{ftp}:熱歪による節点荷重ベクトルの塑性成分である。
熱応力解析の結果は,強度や線膨張係数といった高温の物性値に依存することから,亜包晶鋼の高温物性値を入力する必要がある。そこでFig.6に示す温度と密度16),強度17)の関係を用い,温度に対応する強度と密度を入力した。

Change in phase of fraction, density and tensile strength with temperature for hypo-peritectic carbon steel.
Fig.7に,浸漬ノズルの吐出口サイズを変えた場合の,メニスカス下4.5×10-2 m位置における幅方向の温度分布を示す。○印は鋳型銅板に小孔が無いS面側の平均値を,●印は小孔を開けたN面側の平均値を示す。温度は鋳型表面から2.0×10-3 m位置に設置した熱電対の値である。S面側の場合,鋳型幅中央からの距離が1.5×10-1~2.6×10-1 mと-1.5×10-1~-2.6×10-1 mの範囲で最大値を示し,幅中央位置で最小値を示す。

Temperature profile in the direction of mold width at 4.5×10−2 m from the meniscus in (a) case A, (b) case B, (c) case C and (d) case D.
Points indicate average temperature, lines indicate maximum and minimal temperature.
Fig.8に,メニスカス下4.5×10-2 m位置における鋳型幅方向の熱流束分布を示す。幅中央から1.5×10-1~2.6×10-1 mと-1.5×10-1~-2.6×10-1 mの範囲の熱流束は最大値を示し,幅中央近傍で熱流束は最小値を示す。

Heat flux profile in the direction of mold width at 4.5×10−2 m from meniscus.
(a) case A, (b) case B, (c) case C and (d) case D.
Points indicate average heat flux, lines indicate maximum and minimal heat flux.
温度および熱流束は,浸漬ノズルの吐出口のサイズが小さく吐出流速が大きい方が最大値と最小値の差は大きい。
3・1・2 鋳型鋳造方向の冷却能Fig.9(a),(b)には,S面側の鋳型幅中央から4.4×10-2 m,2.6×10-1 m位置における鋳造方向の温度分布を示す。

Temperature profile in the direction of casting of S-side mold.
(a) 4.4×10−2 m from mold center, (b) 2.6×10−1 m and (c) −2.6×10−1 m.
Fig.10(a),(b)には,S面側の鋳型幅中央から4.4×10-2 m,2.6×10-1 m位置における鋳造方向の熱流束を示す。

Heat flux profile in the direction of casting of S-side mold at (a) 4.4×10−2 m, (b) 2.6×10−1 m and (c) −2.6 ×10−1 m from the mold center.
温度および熱流束は,鋳造方向の距離が増すにつれて減少する。
3・1・3 連鋳鋳片の表面縦割れ連続鋳造鋳片の表面縦割れの発生状況を把握するため,縦割れの発生位置と長さを測定した。
Fig.11に鋳片表面縦割れ指数と鋳片幅中央からの距離の関係を示す。鋳片表面縦割れ指数は鋳片単位長さ当たりの縦割れ長さである。

Relationship between index of longitudinal surface crack and distance from center.
(a) case A, (b) case B, (c) case C and (d) case D.
Fig.11(a)に,浸漬ノズルからの平均吐出流速が0.6 ms-1の場合の表面縦割れ指数と発生した位置の関係を示す。S面側に表面縦割れが発生するが,その指数は小さい。
Fig.11(b)-(d)に示すように,S面側の表面縦割れ指数は平均吐出流速が増すにつれて大きくなる。表面縦割れは,吐出流速の増大につれて幅中央領域で多くなる。
なお,吐出流速が増大すると,数値シミュレーションで予測されるように,メニスカス直下の溶鋼流速も増大する。
3・1・4 鋳型内の溶鋼流速凝固を伴う溶鋼流動解析を行うには,熱的境界条件の設定が必要である。鋳型内の温度測定結果を反映させるため,Fig.8,10に示した熱流束を基に,鋳型長辺面全体の熱流束を補間し,その結果をFig.12に示す。

Heat flux profile in the mold for the numerical simulation.
Fig.13(a),(b)に,鋳造開始から600 s後で鋳片の厚み中央の断面における溶鋼流動の解析結果を示す。浸漬ノズルから出た吐出流は,鋳型の短辺に衝突して上昇流と下降流に分かれる。上昇流はメニスカス近傍で方向を変え,浸漬ノズルに向かう流れを形成する。

Flow field at the half thickness of slab. (a) case A, (b) case B, (c) case C and (d) case D.
Fig.14(a),(b)に,鋳造開始から600 s後においてメニスカス下4.5×10-2 m位置の水平断面における溶鋼流動の解析結果を示す。鋳型の短辺から浸漬ノズルに向かって流れが生じている。この流れは,鋳型長辺面近傍においては鋳型に平行であるが,内部では流れの向きは鋳型に必ずしも平行ではない。

Flow field at 4.5×10−2 m below meniscus (a) case A, (b) case B, (c) case C and (d) case D.
Fig.15に鋳型幅中央から4.4×10-2 mおよび1.5×10-1 m位置で,凝固シェル界面に平行な向きの最大溶鋼流速と浸漬ノズル吐出口からの溶鋼流速の関係を示す。吐出口からの流速が大きいほど,最大流速が大きくなる。4.4×10-2 m位置の流速が1.5×10-1 m位置の流速より小さい原因は,溶鋼流が鋳型長辺面と浸漬ノズルの間隙に浸入し難いためと考えられる。

Relationship between calculated maximum velocity parallel to mold wide face and discharge velocity from submerge entry nozzle.
表面縦割れの発生頻度の高い鋳型幅中央領域では,Fig.8に示したように熱流束が減少し凹形状を呈した。吐出流速が大きいほど凹形状の深さは大きくなった。また,メニスカス直下の溶鋼流速は,鋳型幅中央部で低減した。Fig.15より,吐出流速が大きいほどメニスカス直下の流速の差が幅方向で大きくなった。そこで,熱流束の差とメニスカス直下の流速の差の関係について検討した。
Fig.16に,S面側の熱流束の差と鋳型長辺面に平行な溶鋼流速の差の関係を示す。熱流束の差および溶鋼流速の差は,いずれも4.4×10-2 mと1.5×10-1 m位置における最大値の差である。熱流束の差は溶鋼流速の差が増大するにつれて大きくなる。

Relationship between difference of heat flux and difference of velocity parallel to mold wide face between 4.4×10−2 m and 1.5×10−1 m from mold center.
Fig.17に,S面側における鋳片の全表面縦割れ指数と,熱流束の差の関係を示す。熱流束の差が大きくなるにつれて,全表面縦割れ指数も増大する。

Relationship between total index of longitudinal surface crack and difference of heat flux between 4.4×10−2 m and 1.5×10−1 m from mold center of S-side mold.
Fig.7に,メニスカス下4.5×10-2 m位置における鋳型幅方向の温度分布を示す。同図中にはN面側に配置した小孔領域も示す。銅板内に小孔が存在するN面側の場合,小孔が配置された領域で温度が上昇するが,小孔が配置されていない領域の温度には上昇が見られず,S面側とほぼ同じ値を示す。
Fig.8に,メニスカス下4.5×10-2 m位置における鋳型幅方向の熱流束分布を示す。小孔が存在する範囲において,N面側とS面側の幅中央の熱流束を比較すると,N面側の方が小さい。ただ,浸漬ノズルからの吐出流速が大きいほど,幅中央におけるN面側とS面側の熱流束の差は小さくなる。これは小孔が熱抵抗になり鋳型内の温度勾配が小さくなるためである。
3・2・2 鋳型鋳造方向の冷却能Fig.18(a),(b)に,実験番号Aの鋳型表面から2.0×10-3 m位置における鋳造方向の鋳型銅板内の温度の測定結果を示す。

Temperature profile in the mold for casting direction of case A at (a) 4.4×10−2 m, (b) 2.6×10−1 m and (c) −2.6×10−1 m from the mold center.
Fig.18(a)は鋳型幅中央から4.4×10-2 mの位置における結果である。N面側およびS面側いずれの場合もメニスカスからの距離が増すに連れて温度は低下する。小孔を配置した領域では,N面側の方がS面側よりも温度が高くなる。小孔を配置した領域よりも下方では,N面側とS面側の温度はほぼ同じになる。
Fig.18(b)は鋳型幅中央から2.6×10-1 m位置における結果である。なお,この位置はN面側に小孔は無い。N面側およびS面側とも鋳造方向の温度はほぼ同じ値を示す。小孔による鋳型温度の上昇は,小孔が存在する領域に限定される。
Fig.19(a)に,実験番号Aの鋳型幅中央から4.4×10-2 m位置における鋳造方向の熱流束を示す。N面側の熱流束はS面側に比べ,小孔が配置されているメニスカスから2.0×10-1 mの範囲で小さくなっており,緩冷却化されている。小孔が配置されていない領域では,N面側とS面側の熱流束に大きな差は認められない。

Heat flux profile in the mold for casting direction of case A. (a) 4.4×10−2 m, (b) 2.6×10−1 m and (c) −2.6×10−1 m from mold center.
Fig.19(b)には鋳型幅中央から2.6×10-1 m位置における鋳造方向の熱流束を示す。この位置はN面側に小孔は無い。N面側,S面側に係わらず熱流束はほぼ同じ値を示していることから冷却能に差は無いことが分かる。
3・2・3 連鋳鋳片の表面縦割れFig.11に鋳片表面縦割れ指数と鋳片幅中央からの距離の関係を示す。N面側の場合,浸漬ノズルからの平均吐出流速が0.6,1.0,1.5 ms-1の時は,表面縦割れは発生しなかった。ただし,平均吐出流速が2.0 ms-1の場合は表面縦割れが発生したが,その指数は小さい。鋳型銅板内でメニスカス近傍の幅中央領域に小孔を配置して緩冷却化すれば,鋳片表面縦割れの発生の抑制が可能である。
3・3 凝固シェル成長の挙動鋳型銅板に配置した小孔による熱流束の低減効果を検討するため,凝固シェル厚みを測定した。
Fig.20に,実験番号Aで,鋳片の幅1/2および幅1/4の位置における凝固シェル厚みと時間の平方根の関係を示す。原点と時間の平方根0.15 min0.5の間におけるN面側とS面側の凝固シェル厚みの回帰直線を示す。この時間の平方根は,鋳造距離が4.5×10-2 mに相当する。

Relationship between shell thickness at initial stage of solidification and time of case A. (a) 1/2W of the mold width and (b) 1/4W.
鋳片の幅1/2の位置における凝固シェル厚みは,時間の増加につれて大きくなる。時間の平方根が0.15 min0.5までの範囲では,N面側の凝固シェル厚みはS面側よりも薄く,凝固シェルの成長速度が遅い。それ以降では,N面側とS面側の凝固シェル厚みに差が無くなった。幅1/4の位置では,N面側とS面側で有意な差は認められなかった。
N面側とS面側の凝固シェルの成長速度を比較するため,時間の平方根が0.15 min0.5までの凝固係数を求めた。
なお,凝固シェル厚みは時間の平方根に比例し,この比例定数が凝固係数である。
Fig.21(a)に鋳片の幅1/2の位置における初期凝固シェルの凝固係数を示す。小孔が存在するN面側の方が凝固係数は小さく,凝固シェル成長が緩やかである。

Solidification constant at initial stage of solidification at (a) 1/2W and (b) 1/4W of the mold width.
Fig.21(b)に,鋳型の幅1/4の位値における凝固係数を示す。この位置では,N面側とS面側には小孔は存在しないことから凝固係数はほぼ同じ値を示した。
Fig.22に,鋳型幅方向における凝固シェルの厚みの測定結果を示す。測定位置は,メニスカスから4.5×10-2,1.0×10-1 mであり,鋳片の全幅の半分の領域である。

Relationship between shell thickness and distance from mold center of case A at (a) 4.5×10−2 m, (b) 1.0×10−1 m and (c) 1.5×10−1 m below the meniscus.
Fig.22(a)のメニスカスから4.5×10-2 m位置の凝固シェルの厚みでは,S面側の幅中央領域で凝固シェルが厚くなっている。この範囲には浸漬ノズルが配置されており,鋳型と浸漬ノズルの間隔が狭いため溶鋼の流れが遅くなり,過熱度を持った溶鋼の供給が低下したと考えられる。この状態で鋳型により抜熱されることで凝固シェルの成長が進行し凝固シェルが厚くなったものと考えられる。一方,浸漬ノズルの領域を外れた短辺側では,溶鋼の流動の影響で熱の供給が十分にあるため,浸漬ノズルの領域よりも凝固シェル厚みが小さくなったものと考えられる。
鋳型に小孔が配置されたN面側では,浸漬ノズルが存在する範囲の凝固シェルは,S面側よりも薄い。浸漬ノズルの領域を外れた短辺側の凝固シェル厚みと大きな差はなく,鋳型幅方向で均一化されていることが確認できた。鋳型に小孔を配置した効果は,浸漬ノズルと鋳型の間隙で形成される凝固シェルの成長速度を低減させることにある。
Fig.22(b)の場合,メニスカスから1.0×10-1 m位置において,N面側とS面側の凝固シェル厚みの差は認められない。
3・4 凝固シェルの熱応力状態熱応力解析では,境界条件として実験から求めた熱流束を用いた。ここでは,Fig.12中の実験番号Dの熱流束分布を用いて解析を行った。
Fig.23に,メニスカス下4.5×10-2 m位置における鋳片の幅方向の応力分布を示す。x軸の正の領域で正の値が引張応力であり,x軸の負の領域で負の値が引張応力である。Fig.6(b)に示した固相線温度における強度3.5 MPaを初期凝固シェルの破断限界と仮定し,この値が作用する領域を示した。

Stress distribution in the direction of slab width at 4.5×10−2 m below meniscus. (a) S-side mold and (b) N-side mold.
Fig.23(a)にS面側の鋳片の応力分布を示す。鋳片の幅中央領域に引張応力が作用している。この範囲は,幅中央から約±2.0×10-1 mであり,Fig.11(d)に示した表面縦割れの発生領域に相当している。
Fig.23(b)に,鋳型内に小孔が存在するN面側の鋳片の応力分布を示す。小孔の無いS面側と比較すると,亜包晶鋼の破断強度を示す領域が小さくなっている。
熱応力解析の結果,メニスカス下4.5×10-2 mにおいて,鋳片幅中央領域に亜包晶鋼の破断強度に相当する引張応力が作用することが明らかになった。
3・5 亜包晶鋼の鋳片表面縦割れ発生と抑制鋳型内のメニスカス下4.5×10-2 m位置の凝固シェルは,浸漬ノズルが配置されている幅中央領域で厚い。これは,鋳型と浸漬ノズル間の間隔が狭いため,この間隙を流れる溶鋼の流速が遅くなり過熱度を持った溶鋼からの熱の供給が減少することで,凝固シェルの成長が速くなるためである。この結果,凝固シェルの厚みが幅方向で不均一になり,凝固シェルの熱応力変形により幅中央領域に引張応力が作用して表面縦割れが発生する。
凝固シェルが変形して鋳型と凝固シェルの間に空隙が発生すると,鋳型内の熱流束が減少する。メニスカス下4.5×10-2 m位置の熱流束が幅中央領域で減少したのは,凝固シェルが変形したためと考えられる。初期凝固シェルの変形は凝固が開始してから約0.5 s後11)に発生する。本研究の場合,鋳造を開始してから凝固シェルがメニスカス下4.5×10-2 m位置に達するのに約1.4 sを要することから,この間に凝固シェルの変形が生じたと言える。
亜包晶鋼の連鋳鋳片の表面縦割れを抑制するには,浸漬ノズル近傍の幅中央領域においてメニスカス下4.5×10-2 m位置までに成長する初期凝固シェルの成長を抑制すればよい。これには,幅中央領域の熱流束を低減し緩冷却化すればよい。この方法として,幅中央領域でメニスカス近傍の鋳型内に小孔を配置させることが考えられる。鋳型内に小孔を配置すると凝固シェルの成長が遅くなり,幅方向の凝固シェル厚みも均一になった。この結果,鋳片の表面縦割れの抑制が可能になった。
表面縦割れは鋳型による抜熱挙動やメニスカス直下の溶鋼流動に依存する。本研究では,鋳片の引抜速度の影響を無くすため鋳造速度を一定にして浸漬ノズルの吐出流速を変化させた連続鋳造試験を行った。また,鋳型の抜熱量を変化させるため,鋳型の幅中央領域に小孔を配置した。連続鋳造試験と溶鋼流動解析,初期凝固シェルの熱応力解析を基に鋳型内熱流束と表面縦割れの関連について検討した結果,以下の結論を得た。
(1)メニスカス直下の鋳型幅方向の温度は一定でなく,中央部で低く幅1/4の位置近傍で高い。温度測定結果から算出した熱流束も幅方向で一定でなく,中央部で低く幅1/4の位置で高い。鋳型内に小孔を配置することにより,鋳型内の温度を限定的に上昇させることができ,鋳型幅中央領域の熱流束の低減が可能である。
(2)鋳型内の鋳造方向の温度は,メニスカス直下で最も高い。鋳型内に小孔を配置することで中央位置の温度を限定的に上昇させることが可能である。
(3)鋳型内に小孔を配置することでメニスカス直下の幅方向の凝固シェルの厚みを均一にすることができる。
(4)鋳片の表面縦割れの発生頻度は,浸漬ノズルからの吐出流速が大きく,幅方向における熱流束の差が大きいほど高い。この熱流束の差は,幅方向の溶鋼流速の差に起因している。鋳型内の幅中央領域に小孔を配置することで,表面縦割れの抑制が可能である。熱応力解析によれば,鋳片の幅中央領域で幅方向の引張応力が低減したことによる。