鉄と鋼
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特集号「鉄鋼材料の摩擦接合技術」
シャルピー吸収エネルギーに及ぼす中高炭素鋼の線形摩擦接合条件の影響
誉田 登 北村 智孝森 正和青木 祥宏森貞 好昭藤井 英俊
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2022 年 108 巻 12 号 p. 1002-1010

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Abstract

In this study, linear friction welding (LFW) is used to join high carbon steel such as S55C (JIS G 4051) because it controls the maximum temperature during the joining process. The effect of LFW conditions on Charpy absorbed energy is studied. The thickness of a rectangular parallelepiped shape is 14 mm, the width is 20 mm, and the length is 64 mm. The applied pressure (P) controls the maximum temperature. Under high-temperature conditions, P is 100 MPa. Under middle-temperatures conditions, P is between 250 and 350 MPa. Under low-temperature conditions, P is between 400 and 450 MPa. Under all condi-tions, joints are cooled to room temperature.

The microstructure and hardness of LFW joints are examined. The toughness is determined using a 300 J instrumented Charpy tester. The absorbed energy is estimated using two methods. The first method uses the potential energy difference, and the second involves calculating the area surrounded by the stroke–load relationship. With an increase in P, the microstructure changes from martensite to ferrite and microcementite. In addition, the maximum hardness at the interface decreases from 500 HV–700 HV to 400 HV. The maximum absorbed energy is confirmed at 400 MPa using the potential energy method and at P of 450 MPa using the area method. Energies absorbed before and after the maximum load are assumed to be crack initiation and propagation (Ep) energies, respectively. The maximum ener-gy is due to an increase in Ep, which is enhanced when the microstructure changes from martensite to ferrite and microcementite.

1. 緒言

中・高炭素鋼は高強度材として極めて有用な機械材料である。一方で,焼き入れ性が高く溶接熱影響部が著しく硬化し,溶融溶接の施工は困難である1,2)。溶融溶接の施工が困難なため,中・高炭素鋼を素材として使用する場合,部材の形状によっては多くの切削加工を要しコストが嵩むことがある。そのため,中・高炭素鋼に適した接合方法の開発・実用化が要望されている。

この要望に対し,線形摩擦接合(Linear Friction Welding,以降,LFW)が近年,注目されている。LFWとは,Fig.1に接合プロセスの模式図を示すように,接合素材同士を加圧しながら接合界面に対し平行方向に直線的に往復運動させることにより発生する摩擦熱を熱源とする固相接合法である。LFWは当初,Ti合金36)やNi基合金7),Al合金8),Al合金/Mg合金継手9)に適用された。その後,低温接合技術が開発され10),Ti合金11),Al合金12)だけでなく,鉄鋼材料,特に溶融接合が困難な中高炭素鋼への適用が検討され始めた13,14)。中高炭素鋼の効率的な接合は自動車業界などから強い要望がある15)。なお,線形摩擦接合は接合装置が大型化するという欠点があるものの,回転摩擦接合に比べ素材形状の制約が少なく産業界において適用領域が広いと考えられる。また,回転摩擦接合は回転軸からの距離により摩擦速度が異なり接合メカニズムの解明に困難な点があるが,線形摩擦接合は全接合界面に渡ってほぼ同一条件で接合されており,学術上,接合条件の検討に適している。LFWの接合条件としては,加圧量を表す印加圧力,往復運動の振幅や周波数,加圧方向の変形打切り量(以降,寄り代)などがある。

Fig. 1.

Schematic illustration of Linear Friction Welding. (Online version in color.)

中・高炭素鋼接合へのLFWの実用化に向けた研究として,例えば,AokiらはS45C材に対し印加圧力を高くすることで,往復運動回数が少ない条件で継手を作製し,接合界面での最高到達温度を抑制できることを明らかにしている16)。最高到達温度を抑制した結果,接合部の硬度を母材と同程度まで抑制することができ,接合部の結晶粒を微細化できることも明らかにしている。

摩擦接合の接合部に対する強度評価研究が精力的に進められており,回転摩擦接合継手17,18)やFriction Stir Weld継手1921)では強度設計が可能となっている。一方,LFWに関しては,接合部の金属組織や残留応力は解明22)され始めており,強度設計に必要となるシャルピー衝撃特性や疲労特性などの破壊特性に関しては,Ti合金については解明23,24)されつつあるが,中高炭素鋼の衝撃特性は疲労特性とともに未だ解明されていない点が多い。LFW継手の適用領域を拡げる上で,接合部の衝撃特性を明らかにしておく必要があると考えられる。

そこで本研究では,S55C鋼を供試材として,計装化シャルピー衝撃試験を使ってシャルピー吸収エネルギーに及ぼすLFW接合条件の影響を明らかにする。特に,接合部の最高到達温度に着目し,接合条件として最高到達温度がA3点以上の条件(以降,オーステナイト単相条件),二相領域の条件およびA1点以下の条件(フェライト+セメンタイト条件),の3条件を設定した。各条件で接合したLFW継手の接合部におけるシャルピー吸収エネルギーを母材のシャルピー吸収エネルギーと比較し,また,破面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。

2. 実験方法

2・1 供試材および接合条件

供試材は炭素鋼S55Cで,母材の金属組織はFig.2に示すように,フェライトとパーライトである。Table 1Table 2には供試材の化学成分と引張特性を示す。引張試験片形状は丸棒形状で,寸法は平行部の直径が6 mm,平行部の評点長さが120 mmである。LFW継手の素材形状は直方体形状で,素材寸法は,幅14 mm,高さ20 mm,長さ64 mmである。接合面として幅14 mmと高さ20 mmの断面を選択し,断面同士を同じ向きに突き合せた。接合時の往復運動方向は高さ方向とした。

Fig. 2.

Microstructure of base material.

Table 1. Chemical composition of base material [mass%].
CSiMnPSNiCr
0.570.190.630.0090.0120.070.02
Table 2. Tensile properties of base material.
σy
[MPa]
σB
[MPa]
Elongation
[%]
Reduction in area
[%]
3687122142

本研究で設定した接合条件の一覧をTable 3に示す。接合時の最高到達温度域を3条件とし,高温条件(オーステナイト単相条件)は印加圧力Pを100 MPaとすることで,準低温条件(オーステナイトーフェライト二相条件)はPを250~350 MPaとすることで,また,低温条件(フェライト+セメンタイト条件)はPを400~500 MPaで各々設定した。高温接合条件を,低温接合条件に合わせて,振動周波数を15 Hz,振幅を1 mmとすると比較が明確となる。しかし,高温条件すなわち低印加圧力で上記の条件を採用すると,単位時間当たりの摩擦発熱量が小さくなり過ぎ固相接合できないことを他の実験で経験しており本研究では50 Hz,2 mmを採用した。いずれの接合条件でも,接合終了後は継手を装置から取外し放冷することで室温まで冷却した。なお,摩擦接合では必ずバリが発生するが,バリの大きさは寄り代Bで制御できる。寄り代とは,接合素材が接触し始めた位置を基準に,接合終了まで突合せ方向にどれだけ移動させるか,その移動量である。例えば,寄り代Bを大きく設定すると,それに応じて大きなバリが継手に形成される。バリの大小によって接合部の冷却速度が変化することも考えられる。そこで,本実験では寄り代B 3.5 mmを基本に,一部は2.5 mmとし,シャルピー吸収エネルギーに及ぼす寄り代の影響も評価した。

Table 3. Welding conditions.
Welding TemperatureApplied pressure P
[MPa]
Burn-off distance B
[mm]
Frequency f
[Hz]
Amplitude a
[mm]
Welding Time
[sec]
High1003.55021.6
Associate low2503.51517.4
3003.56.1
3503.55.8
Low4002.51513.2
3.53.7
4502.53.3
3.53.5
5002.52.2

2・2 組織観察およびビッカース硬度測定

LFW継手の接合界面近傍の組織を観察するため,組織観察用サンプルをワイヤーカットで継手から切出した後,自動研磨,バフ研磨を経て鏡面研磨状態にした後,3%ナイタール液でエッチングした。金属組織は光学顕微鏡およびSEMで観察した。組織観察をしたサンプルを用いて,接合部を跨ぐように,接合部/母材の境界線に垂直方向にビッカース硬度分布を0.5 mm間隔で測定した。なお,押付け荷重として,0.1 kgf(0.98 N)を採用した。

2・3 シャルピー衝撃試験

寸法10×10×55 mm,2 mmのVノッチを有するシャルピー衝撃試験片をFig.3に示すようにLFW継手から機械加工で採取した。なお,シャルピー試験片の採取では,接合部中心が試験片ノッチ底と一致するように加工し,さらに,き裂進展方向はLFW接合時の振動方向に一致させた。シャルピー衝撃試験は,吸収エネルギーを比較し易いように,いずれの衝撃試験も試験片を+100°Cに加熱・保持した状態で実施した。シャルピー衝撃試験には,容量300 Jの計装化シャルピー衝撃試験機(東京衡機製)を用いた。荷重履歴は,衝撃刃の両側面に貼付した4枚の半導体ひずみゲージの出力によって計測した。また,衝撃刃の変位は,電子光学式の非接触変位計(Zimmer社製)を用いて計測した。変位計測のため白黒の境界線を有するマーカーを衝撃刃の片側側面に貼付し,衝撃前後の±5 mm領域の水平方向変位を計測した。荷重履歴と変位履歴は,サンプリングレート2×10-6 sのデータロガーで記録した。荷重履歴と変位履歴を組み合わせることで,荷重-変位曲線を取得した。荷重を縦軸,変位を横軸にとった荷重-変位曲線の測定例をFig.4に示す。なお,衝撃時に発生した衝撃刃内の振動に基づくひずみ波形と,負荷荷重に基づくひずみ波形とを分離することは極めて難しく,本実験においては,振動分を除去することなく,測定された波形をそのまま使用した。荷重-変位曲線からは,試験中の最大荷重,および荷重-変位曲線と横軸とで囲まれる領域の面積から衝撃吸収エネルギーを算出した。さらに,衝撃吸収エネルギーの内,衝撃時から最大荷重までのエネルギーをき裂発生エネルギー,最大荷重以降のエネルギーをき裂進展エネルギーと見なした。

Fig. 3.

Schematic illustration for preparing test specimen from LFW joint. (Online version in color.)

Fig. 4.

Example of measured load-displacement chart.

3. 実験結果および考察

3・1 マクロ組織観察結果

本実験で評価したLFW継手の外観の一例をFig.5に示す。継手には顕著な目違いや角変形などは認められなかった。なお,バリは接合界面内の4方向のいずれの面にも形成されていた。

Fig. 5.

Macro shot of LFW joint.

マクロ組織観察結果をFig.6に示す。(a)は印加圧力P 400 MPa,寄り代B 3.5 mmで接合した継手の接合界面近傍の観察結果である。また,(b)は印加圧力P 450 MPa,寄り代B 3.5 mmで接合した継手で,バリの根元が素材内に巻込んでいる様子が確認される。このように,一部の継手には表面では巻込みが認められたが,内部には接合欠陥や未接合部は認められなかった。バリ根元が巻込んだ理由として,接合中にバリが大きくなり,接合装置掴み冶具と干渉し,バリ根元が素材側に押し戻されたためと考えられる。このような巻込みは,不可避な現象ではなく,寄り代などの接合条件を適切に設定することで回避できると思われる。(c)は印加圧力P 500 MPa,寄り代B 2.5 mmで接合を試みた継手で,接合直後は継手として僅かな接合力で一体となっていたが,観察サンプルをワイヤーカットで切出す際に接合界面で分離破壊し,十分な接合強度を確保できなかった。

Fig. 6.

Macro shots of interface of the LFW joint. (a) Normal joint (P=400 MPa, B=3.5 mm) (b) Separation at flash (P=450 MPa, B=3.5 mm) (c) Separation at interface (P=500 MPa, B=2.5 mm)

3・2 ミクロ組織観察結果および硬度分布測定結果

SEMで観察した接合部のミクロ組織をFig.7に示す。(a)に示すように,印加圧力P 400 MPa,寄り代B 3.5 mmで接合した継手では,フェライトおよび微細セメンタイトが観察された。この組織から最高到達温度はA1点以下であったと推定される。なお,S45Cを供試材としてLFW接合した場合においても,最高到達温度がA1点以下の場合,マルテンサイトは生成せず微細セメンタイトが得られることが報告されている16)。次に,(b)に示すように,印加圧力P 250 MPa,寄り代B 3.5 mmの条件で接合した継手では,フェライト,セメンタイト,マルテンサイトからなる組織が観察された。この接合条件では,接合部の最高到達温度がA1点を超え,オーステナイトーフェライト二相域域に達したと考えられる。(c)に示すように,印加圧力P 100 MPa,寄り代B 3.5 mmの条件で接合した継手では,接合部でマルテンサイトの生成が確認された。なお,(d)には接合部の組織と比較するため,Fig.2で示した母材のフェライト・パーライト組織を再掲している。このように,印加圧力を増すことにより,寄り代に至るまでの摩擦接合時間を短縮することができ,最高到達温度を抑制することができる。ただし,印加圧力Pを500 MPaまで上昇させると,接合温度が低いことに加えて摩擦接合時間が極めて短くなり接合に必要な摩擦熱量を確保することができず,固相接合に最低限必要な熱量に達しなかったと考えられる。

Fig. 7.

SEM observation of microstructure. (a) LFW joint (P=400 MPa, B=3.5 mm) (b) LFW joint (P=250 MPa, B=3.5 mm) (c) LFW joint (P=100 MPa, B=3.5 mm) (d) Base Metal

ミクロ組織を観察した試料を用いてビッカース硬度分布を測定し,測定結果をFig.8に示す。Fig.8には比較のため,母材硬度も併せて破線で示す。印加圧力P 400 MPa以上の継手では接合部硬度は,母材硬度より若干高い程度で,印加圧力P 100 MPaの継手硬度に比べると,硬度最大値は大幅に抑制されている。なお,印加圧力P 400 MPa以上の継手で,接合部硬度が母材硬度より若干高くなっている理由は,高い印加圧力下での加工により,組織が微細化すると共に接合部に塑性ひずみが生じ加工硬化したためと考えられる。印加圧力P 400 MPa以上の継手で,母材に比べ硬度が若干上昇した領域の寸法は,印加圧力Pの大きさに依存しており,印加圧力P 100 MPaでは接合部中心から±1 mmの範囲,印加圧力P 400 MPa以上では接合部中心から±2.5 mmを超えている。また,Fig.8には印加圧力Pが400および450 MPaの条件において,寄り代Bが2.5と3.5 mmで硬度分布がどのように変化するかも示している。硬度分布は接合部中央を対称軸とする左右対称の分布形状にほぼなっており,図の右側には寄り代3.5 mmの硬度分布,図の左側には寄り代2.5 mmの硬度分布を示している。左右で顕著な相違は認められず,本実験の範囲では,硬度分布に及ぼす寄り代の影響はなかった。

Fig. 8.

Hardness distribution of LFW joint. (Online version in color.)

3・3 シャルピー衝撃試験結果

計装化シャルピー衝撃試験で得られた荷重-変位曲線の面積から算出した衝撃吸収エネルギーをEt,衝撃吸収エネルギーの内,き裂発生までのエネルギーをき裂発生エネルギーEi,き裂発生後から破断までのエネルギーをき裂進展エネルギーEpとする。ここで,き裂の発生は最大荷重時と仮定した。また,ハンマーの持上角144度と衝撃後の振上角度での位置エネルギー差から算出される衝撃吸収エネルギーをEaとする。これらの測定結果をTable 4ならびにFig.9に示す。なお,衝撃試験は各条件1体行い,印加圧力Pが250および400 MPaの場合には,試験結果の再現性を確認するため2体目の試験も行った。試験結果の再現性は,比較的高いことを確認した。なお,各接合条件に対し試験片数は多くの場合1体で,ばらつきの検討は今後の課題である。

Table 4. Charpy test results for joints and base material.
Applied pressure P
[MPa]
Burn-off distance B
[mm]
Et
[J]
Ei
[J]
Ep
[J]
Ea
[J]
LFW joint1003.52.82.10.75.3
25012.23.29.012.0
3004.61.82.87.1
3507.22.64.67.1
4002.511.04.36.78.5
3.510.13.36.89.0
4502.515.02.712.37.1
3.57.1
5002.55.80.55.36.1
Base material19.96.113.828.0
Fig. 9.

Effect of applied force on Ei and Ep. (Online version in color.)

次に,寄り代Bが吸収エネルギーに及ぼす影響を確認した。印加圧力P 400 MPaの条件のみで比較したが,いずれのエネルギー指標で比較しても寄り代B 2.5 mmと3.5 mmで顕著な相違は認められなかった。本実験の範囲では,衝撃吸収エネルギーに及ぼす寄り代の影響はないと見なせる。

さらに,Fig.9より,印加圧力Pが300から450 MPaへ増加するのに伴い継手の衝撃吸収エネルギーEtが増加する傾向が示唆される。ただし,き裂発生エネルギーEiP 400 MPaで最大値となりそれを超えると低下している。EtP 450 MPaで最大となったのは,き裂進展エネルギーEpの増大が大きく寄与している。

印加圧力P 100 MPaでEtが最も低い2.8 Jとなった。この接合条件では,き裂進展エネルギーEpが0.7 Jと極めて低い値となっており,生成されたマルテンサイト組織はき裂進展抵抗性をほとんど有しないと考えられる。また,印加圧力Pが250から350 MPaの範囲では,接合部がフェライトとマルテンサイトの混合組織となり,き裂進展エネルギーEpが改善したことにより,印加圧力P 100 MPaの場合より高いEtが得られている。本実験で印加圧力P 250 MPaにおいて,き裂進展エネルギーEpが改善した理由は,現時点では不明であるが,混合組織の比率に起因している可能性がある。

印加圧力Pが400から500 MPaの範囲では,接合部はフェライトと微細セメンタイトからなる組織で,印加圧力P 450 MPaでEtは最も高い15.0 Jとなり,母材のEtに近いレベルにあるものの,継手靭性が母材靭性を超えることはなかった。印加圧力PEpに及ぼす影響に比べ,印加圧力PEiに及ぼす影響は小さい。

なお,計装化シャルピー試験では,衝撃刃にひずみゲージを貼付して荷重履歴を測定しているが,衝撃に伴い発生する振動が荷重に重畳し,荷重-変位曲線の評価が困難となることが従来から指摘されている。これに対し,ハンマー速度が速く,かつ衝撃後のハンマー減速が小さいほど,荷重-変位曲線の面積から算出した吸収エネルギーEtと,ハンマー角度差から算出した吸収エネルギーEaの差は小さくなると報告されている25)。本試験では,ハンマー速度は速く,母材靭性あるいは接合部靭性が低いため衝撃後のハンマーの減速は極めて小さいので,EtEaの差が小さい場合に該当している。本実験ではEtEaに有意な差が認められる場合があり,その理由については今後の検討課題としたい。

各試験で得られた最大荷重をTable 5に示す。母材では15.1 kNであるのに対し,継手では16.0~19.0 kNと母材より大きくなる場合が認められた。ただし,継手のき裂発生エネルギーEiが,母材のEiより大きくなることはなかった。

Table 5. Maximum load in charpy tests.
Applied pressure P
[MPa]
Burn-off distance B
[mm]
Maximum load
[kN]
LFW joint1003.516.4
25016.0
30016.3
35016.0
4002.517.2
3.518.4
4502.517.8
3.5
5002.511.6
Base material15.1

3・4 破面観察結果

破面の巨視的な特徴として,母材試験片では一般的な衝撃破面と同様,最終破断部の外縁部には延性破面が見られた。一方,継手では破断位置は接合部中央で,破面には塑性変形の痕跡は見られず,全面が脆性破面であった。

Fig.10には破壊起点近傍の破面観察結果を示す。(a)および(b)は,最も高い吸収エネルギーが得られた印加圧力P 450 MPa,寄り代B 2.5 mmの条件で接合した継手の破面である。また,(c)には母材の破面を,(d)には印加圧力P 100 MPa,寄り代B 2.5 mmの継手の破面を示す。

Fig. 10.

Comparison of fracture surface. (a) LFW joint (P=400 MPa, B=3.5 mm) (b) LFW joint (P=250 MPa, B=3.5 mm) Detail of (a)(c) Base Metal (d) LFW joint (P=100 MPa, B=3.5 mm) (Online version in color.)

吸収エネルギーが高かった試験片の破面(a)には,き裂進展方向に階段状の凹凸が確認された。このような段差のある破面は,接合部組織が層状となっていることを示唆している。破面(a)内の一部を拡大した破面(b)には,凹凸部をつなぐ側面,つまり主き裂進展方向に垂直な面には微細ディンプルが形成されている。(d)に示すようなディンプルが形成されているが,吸収エネルギーは母材に比べかなり低い。なお,引張強度が980 MPa級の高強度材の継手において,破面にディンプルが認められてもシャルピー吸収エネルギーが100~110 J程度の低い場合のあることが報告26)されている。ディンプルの形成される延性破面では靭性が必ず高い,とは断言できない。つまり,極めて低いエネルギーでディンプルが形成し得ることを示している。

3・5 衝撃吸収エネルギーとミクロ組織の関連

Fig.11には印加圧力P 400 MPa,寄り代B 3.5 mmの継手接合部のミクロ組織をSEMで低倍率観察した結果を示す。Fig.7の母材ミクロ組織と比較すると,接合部組織は微細粒化し,振動方向に平行な方向に伸長した組織となっている。一般に,微細結晶粒は,強度-靭性のバランスに優れる場合が多いが,本実験では接合部の靭性は母材並みとはならなかった。

Fig. 11.

Layered microstructure. (P=400 MPa, B=3.5 mm)

この理由として,接合部周辺の組織には,接合プロセスに起因して強い異方性が存在し,本実験ではき裂進展方向が靭性の劣る方向になっていたと考えられる。強ひずみ加工で結晶粒微細化を実現した温間溝ロール加工材でも,組織の伸長方向と垂直方向にき裂が進展する場合には強靭化するが27),伸長方向と平行な方向にき裂が進展する場合(T方向試験片)は,伸長方向に垂直に進展する場合(L方向試験片)に比べ,シャルピー吸収エネルギーが小さくなると報告されている28)

もうひとつの理由として,微細セメンタイトの存在が考えられる。印加圧力を増大させると,フェライトと微細セメンタイトの組織となったが,セメンタイト界面で局所的な応力集中が発生し破壊起点となったと考えられる。S45C材の線形摩擦圧接継手にいても,セメンタイト量の増加で破壊起点が増し,靭性が低下することが報告されている29)

4. 結言

線形摩擦接合(LFW)継手のシャルピー吸収エネルギーに及ぼす印加圧力の影響を主に検討し,継手靭性に及ぼすミクロ組織の影響を評価した。本研究で得られた主な結果を以下に示す。なお,各接合条件に対し試験片数は多くの場合1体で,ばらつきの検討は今後の課題である。

(1)適切な条件で線形摩擦接合すると,破壊起点となるような有害な割れや欠陥を発生させることなくS55Cの健全な継手の得られることが明らかになった。

(2)印加圧力を増大させると最高到達温度が低下し,無変態での接合が可能である。この場合,平坦な硬度分布の継手を得ることができる。ただし,印加圧力を過剰に大きく設定すると接合時間が短く固相接合に必要な摩擦熱量が得られず十分な接合強度を確保できない。

(3)印加圧力を大きくすることで,接合部のミクロ組織はマルテンサイトから,フェライトと微細セメンタイトに変化した。

(4)母材なみの継手靭性を得ることは本実験条件範囲内では実現できなかったが,金属組織をマルテンサイトから,フェライトと微細セメンタイトとすることにより継手靭性は向上した。

謝辞

本研究の一部は,2019年度大阪大学接合科学研究所 共同研究員制度によるものである。

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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