鉄と鋼
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特集号「鉄鋼材料の摩擦接合技術」
摩擦攪拌接合時の力学的挙動に及ぼすツール形状の影響に関する数値解析的検討
山内 悠暉李 志浩木谷 悠二九鬼 正治生島 一樹柴原 正和
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2022 年 108 巻 12 号 p. 991-1001

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Abstract

In friction stir welding, tool shape can effect the mechanical behavior during joining. In this study, the effect of tool shape on the temperature distribution during joining was investigated using numerical simulation method based on particle method. The influence of joining condition such as rotational speed, traveling speed and tilt angle on cylindrical tool and semi-spherical tool were investigated using the particle method. From these results, it was found that the rotation speed and the traveling speed have larger effect than tilt angle on the temperature distribution. It was also found that the cylindrical tool and semi-spherical tool almost have same tendency corresponding to the parameter change. Stresses in tool were also investigated according to the predicted pressure distribution by the particle method. As a result, it was found that the semi-spherical tool can reduce the stress than the cylindrical tool.

1. 緒言

近年,金属同士を溶融凝固させずに接合させる方法として摩擦攪拌接合(FSW)が注目されている。FSWでは,ショルダーとピンから成るツールと呼ばれる工具を回転させながら接合対象の材料に挿入し,材料とツールの間に摩擦熱を発生させると同時に,材料の撹拌に伴う塑性仕事により発熱を生じさせることで接合を行う1)。このような方法をとるため,FSWでは,材料の溶融凝固を伴う溶接と比較し入熱量が小さくなることから,材料組織の劣化や残留応力や変形が抑えられる。こうした特徴から,現在,FSWの技術開発が活発になされている24)。FSWの技術的課題の一つとして,ツールの寿命が挙げられる57)。鉄鋼材料のFSWに関しては,種々の合金など様々なツール材料の開発がすすめられ,ツールの長寿命化についての検討がなされている8,9)。FSWでは,摩擦熱や塑性発熱の発生に対してツール形状が影響することから,ツール形状がその寿命に及ぼす影響も大きいと考えられ,効率的な接合が可能なツール形状の開発が望まれる。

ツール形状に関する検討としては,ツールのピンに設けられたねじの影響について検討した事例10)や,ダブルスパイラルツールによる塑性流動促進効果について検討した事例11)などが報告されている。また,様々なピン形状が接合中の荷重と接合後部材の強度に及ぼす影響について検討された事例12)なども報告されている。このように,ツールの形状に関する検討は数多くなされており,これまでに,種々のツール形状が提案されている。

一方,これらの検討は,その大半が実験をベースになされている。FSW時の材料の発熱状態や流動状態を可視化できれば,ツール形状が材料の挙動に及ぼす影響を詳細に理解でき,効率的なツール形状の開発につながるものと考えられる。しかしながら,FSW時の材料の挙動の可視化は極めて困難であり,MorisadaらによりX線を用いて可視化を試みた事例が報告されている13)が,高輝度X線源は容易に準備できないこともあり,シミュレーションを活用することで材料やツールの力学的挙動を予測することが期待される。FSW時の材料の力学的挙動を数値解析により予測するために,粒子法に注目した解析手法の開発が進められている14,15)。また,著者らは,前述の解析手法により得られた接合中のツール表面の圧力分布を用いた有限要素法(Finite Element Method: FEM)による解析を行うことで,接合中のツールに生じる応力分布について検討する手法を提案してきた16)。これらの解析手法を活用することで,FSW時の材料やツールの力学的な挙動の検討が可能であり,ツール形状開発への応用が期待できる。

本研究では,数値解析手法を用いることでFSW時の材料やツールの力学的挙動に対するツール形状の影響について検討することを目標とする。検討の対象として,新たなツール形状として提案されている半球状のピン形状を有するツール17)に注目する。本ツール形状は,鉄鋼材料のFSW時において攪拌部を必要最小限にすることで,従来のツール形状と同等の接合性を維持しつつ,ツールを長寿命化させることができると期待されている。本研究では,半球状ツールにおいて,回転速度,移動速度,前進角が接合性に及ぼす影響を数値解析により検討し,一般的な円筒形状のピンを持つツールの挙動との比較を通して,半球状ツールの効果について力学的な面から検討するとともに,鉄鋼材料における半球状ツールの有用性について検討する。

2. 解析手法

2・1 粒子法によるFSWのモデル化

本研究では,FSW時における材料の流動時の力学的な挙動を解析する。FSW時の材料の流動は極めてひずみ量が大きく,FEMなどの格子法ベースの解析法では変形に伴い解析格子がつぶれるため,解析が破綻する問題がある。本研究では,この問題を避けるために,Miyasakaらが提案している粒子法に基づく解析手法を採用する14,15)。ここでは,解析の定式化について概説する。

本研究では,FSW時に流動する材料を高粘性の流体として取り扱う。そのため,支配方程式は次式のNavier-Stokes方程式および質量保存式で表される。

  
DuiDt=1ρpxi+xj(ηρuixj)+gi(1)
  
uixi=0(2)

ここで,uiρpηgiは,それぞれ,速度,密度,圧力,粘性係数,重力加速度であり,各変数の右下付きのiは各変数の方向成分を表す。式(1)の左辺は物質微分であり,計算点における物理量が計算点とともに移動することを示す。計算点の流速に応じて解析格子を変形させないEuler法ベースのFEMや差分法では,一般的に,物質微分を表現するために移流項が必要となり,計算手順が複雑となる。本研究で使用するMPS(Moving Particle Semi-implicit)法18)およびメッシュフリー法19)に基づく粒子法では,計算点の流速に応じて粒子を直接移動させるLagrange法であることから移流項の存在による複雑な計算の必要がなくなり,計算が簡略化される。また,式(1)(2)の計算は半陰的に行うため,以下の式(3)-式(6)を用いて流速と粒子の位置を計算する。すなわち,最初に,式(1)から圧力勾配の項を除いた式(3)により仮の速度u*を求め,その後,式(4)に示す圧力のポアソン方程式を解くことで圧力を決定し,求めた圧力により式(5)を用いて速度を修正する。また,式(6)により,粒子の位置を更新する。

  
ui*=uit+{xj(ηρuixj)+gi}Δt(3)
  
xiptxi=ρΔtui*xi(4)
  
uit+Δt=ui*1ρptxi(5)
  
xit+Δt=xit+uit+ΔtΔt(6)

ここで,uituit+Δt,Δtptxitxittは,それぞれ,時刻tおよびttでの速度,時間増分,時刻tでの圧力,時刻tおよびttでの位置である。本研究では,式(3)(4)(5)の粘性項および圧力勾配項,速度勾配項に関して,計算の安定性の観点からメッシュフリー法19)を採用した。

FSW時には,材料の発熱により温度が変化するため,温度場も解析する必要がある。温度場の支配方程式は式(7)の非定常熱伝導方程式で表される。

  
DTDt=kc ρxi(Txi)+qCρ(7)

ここで,Tkcqは,それぞれ,温度,熱伝導率,比熱,発熱量である。式(7)の計算には,計算の安定性の点からMPS法を採用した。発熱は塑性仕事により発生するものとして次式により求める。

  
q=γσ¯ε¯˙(8)

γσε¯˙は,それぞれ,発熱効率,流動応力,相当塑性ひずみ速度である。γは文献20)より90%と設定し,塑性変形で生じた仕事の90%が発熱量になると仮定した。相当塑性ひずみ速度は式(9)により求め,流動応力は式(11)により温度と相当塑性ひずみ速度を考慮した構成則21)により求めた。

  
ε¯˙=23ε˙ijε˙ij(9)
  
ε˙ij=12(uixj+ujxi)(10)
  
σ¯=1αln{(ZA)1n+[(ZA)2n+1]12},Z=ε¯˙exp(QRT)(11)

ここで,ε¯˙ε˙ijσは,それぞれ,相当塑性ひずみ速度,ひずみ速度テンソル,相当流動応力であり,塑性ひずみテンソルは式(10)に示すように,速度勾配から求める。速度勾配は,周囲の粒子との速度差より算出する。また,QRは,それぞれ,活性化エネルギー,気体定数であり,αは材料定数である。なお,粘性係数については,温度依存性を考慮して,相当流動応力と相当塑性ひずみ速度を用いて式(12)により求める21)。これにより,材料の変形抵抗の大きさを表す粘性係数が温度依存性を有し,温度により軟化した材料の塑性流動を模擬することができる。

  
η=σ¯(ε¯˙,T)3ε¯˙(12)

解析の境界条件として,ツールと接触している材料側の粒子については,ツールに密着しているものとして,ツールの表面速度を拘束条件として与える。また,材料はFSW時に拘束されていると仮定し,材料の周囲に剛体壁を設定した。

2・2 ツール強度評価のための解析手法

本研究では,ツールの強度について検討するために,2・1節の手法によりFSW時の材料の流動状態のシミュレーション結果からツールに生じる応力分布を予測する。応力分布の予測は,Fig.1に示すように,ツール表面での圧力分布を最小二乗法により補間し,これを式(13)により,ツールの表面で積分することで等価節点力として与えるものとした。

  
Fi=ApnidA(13)
Fig. 1.

Interpolation of pressure at integration point. (Online version in color.)

ここで,FApnは,それぞれ,等価節点力,ツール表面領域,補間により求めた圧力,法線ベクトルを表す。ツール表面での圧力は,補間を行うツール表面の要素のガウス積分点と粒子の間の3次元的な位置関係に基づき最小二乗法を実行し,粒子の圧力を補間することで求めた。

3. 半球状ツールの接合性に関する検討

3・1 解析モデルおよび条件

本検討に用いた解析モデルをFig.2に示す。被接合部材の大きさは,100 mm×48 mm×6 mmである。非接合材の材料はSUS304とし,Table 1に示す材料定数を仮定した20)。接合中において,被接合材は拘束されているものとし,裏面と側面の粒子の移動を完全に拘束した。本解析モデルの粒子数は378,231である。

Fig. 2.

Analysis model for particle method. (Online version in color.)

Table 1. Material properties of SUS304.
Density (kg/mm3)7.8×104Q (kJ/mol)401000
Thermal conductivity (W/mm/K)1.67×104A (/s)exp(33.9)
Specific heat (J/kg/K)590.0α (/Pa)1.2×10‒8
Melting point (K)1750.0n4.32

本解析で使用するツールの形状をFig.3に示す。同図(a),(b)は,それぞれ,検討対象である半球状のピンを有するツール,および,比較対象の円筒形状のピンを有するツールであり,以降,それぞれ,半球状ツール,および,円筒ツールと称する。ツールのショルダー部の形状は,両ツールで共通しており,その直径は12 mm,高さは4 mmとした。ツールは初期状態では母材に接触しておらず,ツールの母材への挿入の過程も含めて解析する。この過程では,ツールを60 mm/minの速度で深さ4.75 mmまで母材に挿入する。その後,ツールを回転させながら移動させる過程を解析する。なお,本解析においては,ツールによる吸熱は考慮しないものとした。

Fig. 3.

Geometry and dimensions of tool. (Online version in color.)

以上の被接合材およびツールを使用して,半球状ツールにおける加工条件の影響について検討する。解析条件はTable 2に示す通り,ツール回転数を200(rpm),300(rpm),400(rpm),500(rpm),600(rpm)の5ケース,ツール移動速度を100(mm/min),150(mm/min),200(mm/min),250(mm/min),300(mm/min)の5ケース,ツールの前進角を0°,1°,2°,3°の4ケースとした。また,回転数,移動速度,前進角について,それぞれ,400(rpm),100(mm/min),2°を標準条件とし,検討する条件以外は標準条件を用いるものとする。

Table 2. Analysis conditions.
Rotation speed R (rpm)200, 300, 400^, 500, 600
Traveling speed V (mm/min)100^, 150, 200, 250, 300
Tilt angle α (deg)0, 1, 2^, 3

^ standard condition

3・ 2 ツール回転速度の影響

Table 2に示した条件に基づき,円筒ツールと半球状ツールにおいて,ツールの回転数が接合中の材料およびツールの力学的挙動に及ぼす影響について検討する。

Fig.4に,ツールが挿入後,準定常状態に達した時点でのツールの回転中心を通る横断面における温度分布を示す。同図より,半球状ツールと円筒ツールの両ツール形状において,回転数の増加に伴い,材料の温度が高くなっていることが確認できる。これは,ツールの回転速度が増加することで,ツールの周囲の材料の塑性流動現象が大きくなり,その結果,発熱量が大きくなったものと考えられる。また,ツールの回転方向と移動方向が重畳するAdvancing side(x軸方向正側,以降,AS)が,回転方向と移動方向が逆となるRetreating side(x軸方向負側,以降,RS)に比べて高温となっている点も共通している。AS 側においては,ツールの移動と回転の方向が一致するため,発熱量が増加することが報告22)されており,これと対応していると考えられる。一方,同図において,半球状ツールの温度分布は,円筒ツールに比べて全体的に低い傾向であることもわかる。これは,円筒ツールはピンの先端まで同一の半径であるため,先端での攪拌速度が半球状ツールに比べて大きく,その分発生する塑性仕事も大きくなるためであると考えられる。Fig.5に,Fig.4の横断面におけるツールのショルダー直下の温度分布の比較を示す。同図中,実線と破線は,それぞれ,半球状ツールおよび円筒ツールの温度分布を示し,青線,水色線,緑線,橙線,赤線は,それぞれ,回転数が200 rpm,300 rpm,400 rpm,500 rpm,600rpmの温度分布である。Fig.5からも,両ツールともに回転数の増加とともに温度が高くなっていることが分かる。両ツールの温度はほぼ同じであるが,円筒ツールの方がわずかに温度が高いことも確認できる。また,AS側はRS側に比べて高温になっているが,回転数が高くなるに従いその差は小さくなる傾向が得られた。これは,回転数が高い場合においては,ツールの周速度が移動速度に対して大きくなり,移動速度の影響が相対的に小さくなったものと考えられる。

Fig. 4.

Influence of rotational speed R on temperature distribution on the transverse cross section. (Online version in color.)

Fig. 5.

Effect of rotational speed R on the distribution of temperature below tool shoulder. (Online version in color.)

以上のように,ツール回転数が接合中の温度分布に大きく影響することが確認された。また,温度分布の傾向,および,回転数の変化に伴う温度分布の変化の傾向は,両ツールにおいてほぼ同様であることを確認した。

3・3 ツール移動速度の影響

前節と同様に,ツールの移動速度が温度分布に及ぼす影響について検討した。Fig.6にツールの回転中心を通る横断面上の温度分布を示す。同図から,ツールの移動速度が大きくなるに伴い横断面の温度が低くなる傾向であることが確認できる。回転数が一定で移動速度が大きくなると,1回転あたりの接合距離が大きくなり,回転による塑性流動が小さくなるため,移動速度が大きくなると温度が低くなるものと考えられる。また,上記の傾向は,両ツール形状において同様であることもわかる。Fig.7に,Fig.5と同様に,ツールのショルダー直下の温度分布の比較を示す。同図において,実線と破線は,それぞれ,半球状ツールおよび円筒ツールの温度分布を示し,青線,水色線,緑線,橙線,赤線は,それぞれ,移動速度が100 mm/min,150 mm/min,200 mm/min,250 mm/min,300 mm/minの温度分布を示す。Fig.7からも,ツールの移動速度が大きくなるに伴い,温度が低くなっていることが確認できる。また,移動速度が大きい場合,AS側とRS側の温度分布の差が大きくなっていることが分かる。これは,材料の塑性仕事,すなわち,流動量がツールと材料の相対速度に比例するため,ツールの移動と回転の方向が等しいAS側で流動量が多く,RS側では流動が逆に小さくなることに対応していると考えられる。この傾向は,前節で得られた,回転数が高くなると移動速度の影響が相対的に小さくなりAS側とRS側の温度差が小さくなるという傾向と共通しているといえる。

Fig. 6.

Influence of traveling speed V on temperature distribution on the transverse cross section. (Online version in color.)

Fig. 7.

Effect of traveling speed V on the distribution of temperature below tool shoulder. (Online version in color.)

以上の検討より,ツールの移動速度も材料の温度分布に大きな影響があり,移動速度が大きくなると単位長さあたりの塑性流動が小さくなるため,材料の温度は低下する可能性があることが確認された。また,以上の傾向は,円筒ツール,半球状ツールともに同様であることもわかった。

3・4 ツール前進角の影響

Fig.8Table 2に従って前進角を変更した場合の横断面の温度分布を示す。同図はFig.4と同様に準定常状態での温度分布を示しているが,表面形状にわずかに差がみられるものの,温度分布については,両ツール形状において大きな変化はなかった。Fig.9Fig.8と同時刻におけるツール移動方向の断面上の温度分布を示す。同図から,ツールの後方は塑性流動により生じた熱が残留し,ツール前方に比べて高温になっていることが確認できる。前進角の変化に伴い,ショルダー周辺の材料の形状がわずかに変化しているものの,温度分布全体の傾向としては大きな差がみられていない。以上の傾向は,半球状ツール,円筒ツールに共通しており,移動方向断面の温度分布からも前進角が温度分布に及ぼす影響が小さいことが確認された。

Fig. 8.

Influence of tilt angle α on temperature distribution on the transverse cross section. (Online version in color.)

Fig. 9.

Influence of tilt angle α on temperature distribution on the longitudinal cross section. (Online version in color.)

以上のように,ツールの回転数,移動速度,前進角が接合中の温度分布に及ぼす影響について検討した。回転数と移動速度を変化させることで温度分布が大きく変化することが確認されたが,前進角については,その変化に対する温度分布の変化は大きくなかった。塑性流動は材料とツールの相対速度が大きくなるほど増加することから,これが変化する回転数と移動速度は温度分布に対する影響が大きく,今回検討対象とした0°から3°程度の前進角では相対速度の変化が大きくなかったため,温度分布に変化が見られなかったものと考えられる。

3・5 ツールに作用する圧力分布

粒子法の解析により得られた圧力分布に基づき,FSW時のツールに生じる応力分布について検討する。ツールの材料は炭化タングステンを仮定し,ヤング率を550 GPa,ポアソン比を0.22とした。評価対象として,条件の変化による温度分布の変化が大きかった,回転速度と前進速度について検討した。Fig.10に解析に使用したツールのメッシュ分割および拘束条件を示す。同図(a)と(b)は,それぞれ,半球状ツールと円筒ツールのメッシュ分割である。Fig.10に示すように,ツールの上部は回転力を与えるためにチャッキングされることから,完全拘束するものとした。

Fig. 10.

Mesh divisions of tool. (Online version in color.)

Fig.11に標準条件でのツール表面の相当応力分布を示す。同図はツールを移動方向下側から見たものである。Fig.11より,半球状ツールと円筒ツールの両方において,ピンの根元に高い応力が生じていることが分かる。一方,半球状ツールと円筒ツールの相当応力の大きさには明らかな違いが見られ,半球状ツールは円筒ツールに比べ表面の相当応力が小さくなっていることが確認できる。

Fig. 11.

Distribution of equivalent stress on too surface at standard condition. (Online version in color.)

Fig.12に,ツールの回転数を変化させた場合におけるピンの移動方向正面の線(Fig.10の線A-Bおよび線C-D)上の応力分布の比較を示す。同図において,横軸はピンの根元からの高さとし,縦軸を相当応力とした。また,実線と破線は,それぞれ,半球状ツールおよび円筒ツールの相当応力分布を示し,青線,水色線,緑線,橙線,赤線は,それぞれ,回転数が200 rpm,300 rpm,400 rpm,500 rpm,600rpmの場合の分布である。同様に,Fig.13にツールの移動速度を変化させた場合における応力分布を示す。同図中,青線,水色線,緑線,橙線,赤線は,それぞれ,移動速度が100 mm/min,150 mm/min,200 mm/min,250 mm/min,300 mm/minの温度分布を示す。Fig.12および13より,それぞれの条件を変化させた場合における相当応力分布の変化は小さいことが分かる。また,すべての条件において,半球状ツールと円筒ツールで相当応力の差が大きくなっており,半球状ツールの相当応力は円筒ツールの相当応力に比べて小さいことが確認できる。

Fig. 12.

Effect of rotational speed R on the distribution of equivalent stress on tool pin. (Online version in color.)

Fig. 13.

Effect of rotational speed R on the distribution of equivalent stress on tool pin. (Online version in color.)

半球状ツールは鉄鋼材料の摩擦攪拌接合において長寿命である可能性が文献17)にも示されており,本検討においても,ツールに作用する圧力に伴い生じるツール表面の相当応力が,半球状ツールにおいて円筒ツールより小さかったことから,この点もツールの高寿命化の一因となっている可能性があると考えられる。実験においては,鉄鋼材料の摩擦撹拌溶接においてはツールの材料が高価な場合が多いことから,以上で示したような多数のパラメータの検討はコストの面から難しいことが想定され,本検討のように,シミュレーションを活用することで,多くの条件での接合中の力学的挙動を検討することは有用であると考えられる。今後,実験結果との比較を通して,シミュレーション手法の高精度化を図ることが重要であるといえる。

4. 結言

本研究では,粒子法に基づく摩擦攪拌接合時の力学的挙動の数値シミュレーション手法を用いて,半球状ツールと円筒ツールにおいて,ツールの回転速度と移動速度,前進角が接合中の温度分布に及ぼす影響について検討した。また,粒子法により予測された圧力分布を用いて,接合中のツールに生じる応力分布について弾性FEMにより検討した。その結果,以下の結論が得られた。

(1)ツール回転数が接合中の準定常状態の温度分布に及ぼす影響について検討した結果,回転数を増加させることで,接合中の温度が上昇することが分かった。これは,回転数が増加することで塑性流動が大きくなり,これに伴い発熱量が増加するためであると考えられる。また,この傾向は,半球状ツールと円筒ツールにおいて共通していることが確認された。

(2)ツールの移動速度を変化させた解析を実施し,これが準定常状態の温度分布に及ぼす影響について検討した。その結果,移動速度が増加することで,接合中の温度が低下する傾向が示された。移動速度が大きくなると単位長さあたりの塑性流動が小さくなるため,材料の温度は低下する可能性があるといえる。また,この傾向は,回転数を変化させた場合と同様に,半球状ツールと円筒ツールで共通していることが確認された。

(3)ツールの前進角が温度分布に及ぼす影響について検討した結果,本検討で検討対象とした0°から3°の前進角においては,前進角は温度分布に大きく影響しないことが分かった。

(4)粒子法により予測された圧力分布に基づき,弾性FEM解析を行うことで,半球状ツールと円筒ツールに生じる応力分布について検討した。その結果,半球状ツールの相当応力は円筒ツールの相当応力分布より小さくなる傾向が得られたことから,この点も,半球状ツールによるツールの高寿命化の一因であることが示唆された。

謝辞

本研究の一部は経済産業省 革新的新構造材料等技術開発(ISMA)のテーマ46「摩擦接合共通基盤研究」の委託事業の一環として実施した。ここに謝意を示す。本研究は,大阪大学 宮坂氏に提供いただいた粒子法のシミュレーション手法を基に実施した。ここに謝意を示す。

文献
 
© 2022 一般社団法人 日本鉄鋼協会

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