2023 年 109 巻 11 号 p. 857-864
We have developed an optimal scheduling method for the highly efficient management of multiple stockpiles of iron ore in the stockyard to significantly improve both yard logistics and the operational stability of steelworks.
The ore stockyard layout problem is to make inventory schedules for the purpose of cost minimization under several constraints such as uptime of facilities. While the number of stockpiles generally must be minimized for efficiency, excessive minimization can raise the risk of undelivery of iron ore if the required transport equipment become unavailable due to daily maintenance or a mechanical problem. The key, therefore, is to devise a plan that realizes both efficient yard operations and stable steelworks operation.
In response, we developed Stockpile Layout Planner which optimizes yard operations by creating ideal plans for up to several months with multi-start Greedy based algorithm that completes complicated logistical calculations in less than one minute. The new method ensures that such logistics are handled efficiently to realize highly stable ore management.
近年の世界的なグリーントランスフォーメーション(GX),カーボンニュートラル(CN)の流れから,高炉からよりCO2排出量の少ない電炉へシフトする動きが加速している等,日本を含め世界の鉄鋼業は大変革期の最中である。例えばJFEスチールは,西日本製鉄所倉敷地区の高炉1基を停止し,大型電炉へ転換する方針を発表している。
高炉では主原料として鉄鉱石,還元剤や燃料として原料炭を大量に使用するが,電炉ではスクラップもしくは還元鉄を原料としているため,このような構造変化に伴って原料物流が大きく変化する。とりわけ大量の鉄鉱石,原料炭を保管する貯鉱・貯炭ヤードは出銑量の大幅減産により運用面積に余力が生じると予想される。一方でスクラップのハンドリング量は増えるため,従来のスクラップ用ヤードでは不十分となり,余力のある貯鉱・貯炭ヤードへ保管することになる可能性がある。また,スクラップは船で入荷されるが,スクラップを荷役可能なバースは限られており能力不足が懸念されるため,鉄鉱石・原料炭用のバースをスクラップ用に改造することも考えられる。その結果,鉄鉱石・原料炭の物流はむしろタイトとなり,従来以上に高効率な操業が求められるため,原料物流計画の最適化のニーズが高まっている。
原料工程には,原料山元から各製鉄所への原料船の割り当てを適切な時期に設定する配船計画と高炉・焼結炉・コークス炉が所望する成分になるように原料をブレンドする配合計画,受入機・払出機の能力・稼働制約のもと粗鉱ヤード効率が最大となるように原料の受入場所を決めるヤード配置計画などがある。
これらの問題に対し,過去にシステム導入の試みがなされてきた。その試みの例としては,ヤード配置問題におけるエキスパートシステム1),原料搬送問題最適化2)などがある。しかし,どの事例も人手による計画を超えることができず,新たなシステム開発がなされないまま現在に至っている。近年の計算機能力の大幅な向上を背景にしたシステム,最適化技術の導入により,大きなコストダウンが期待できる。
このような状況に対して,本稿では特に,鉱石ヤード配置計画の最適化について報告する。
原料操業の計画業務には,配船計画,配合計画,ヤード配置計画などがある。原料操業の日々の業務は,これらの計画を元に実施されている。
原料山元から各製鉄所への配船物流は,各製鉄所が所望する原料銘柄を,在庫不足を発生させないように安定的に供給することが使命である。計画担当者が提示した配船計画に基づいて,商船会社が運行管理を行っている。
所内原料物流は,焼結炉,高炉および製鋼の使用原料量を安定的に供給し,所望の品質を担保することが使命である。Fig.1に製鉄所の鉱石原料の物流の概要を示す。原料船が製鉄所に到着し,バースに着岸した後,アンローダーが積載原料を荷揚する。荷揚された原料はコンベアを経由して「粗鉱ヤード」と呼ばれる仮置きヤードにヤード配置計画に基づいて受け入れられる。粗鉱ヤードには,石炭,鉱石,副原料と高炉ダスト等の回収物を含めた,全ての原料が銘柄毎に在庫として置かれ,石炭系と鉱石系に分かれて配置されている。鉱石は粗鉱ヤードから焼結用粉鉱処理プロセスと高炉用塊鉱処理プロセスへ運ばれ,所望の品質となるように配合計画に基づいて配合された後,ブレンディングヤードに積み付けられる。ブレンドされた粉鉱石は焼結工場へ輸送され,塊鉱石は高炉へ輸送される。ペレット,焼結鉱は処理鉱と呼ばれ,粗鉱ヤードから高炉へ輸送される。石炭は石炭処理プロセスへ運ばれ,配合槽にてブレンディング後,コークス工場へ運ばれる。
An overview of raw material logistics. (Online version in color.)
配船計画を決めるうえで,計画担当者は,第一に揚地側である各製鉄所の原料在庫を切らさないようにすることを目的とし,第二に船の傭船コストや滞船料といった輸送コストの削減を考慮している。しかし,原料の安定供給と輸送コストの削減は相反する関係のため,両立した最適な計画を立案することは非常に困難である。
例えば,原料の受入場所によっては払出機の制約により配合計画が実行できない場合があるので,配合とヤード配置は連携した計画にする必要がある。しかし,原料操業に関連する情報が膨大であること,また,人手での計画立案などの原因により,連携した計画が立てられていないのが現状である。その結果,当初の配合計画を変更せざるを得なくなり,成分調整のための副原料装入量の増加を招いてしまう。
また,熟練者であってもヤードの長期傾向の予測が難しく,長期的視点でのヤード効率の最大化が出来ていなかった。その結果,原料船の沖待ち時間が増加し多額の滞船料が課題となっている。
これらの課題に対して,過去には配合問題への取り組み3)などがあるが,本稿では所内操業計画のうち,鉱石系を対象にヤード山配置計画の最適化に取り組んだ内容について述べる。
Fig.2にヤード配置問題の概要を示す。ヤード配置問題は,
・移動機の能力・稼働時間の制約の下で,
問題である。
An outline of the stockyard layout problem. (Online version in color.)
一般にヤード効率は,ヤードの占有率の削減,およびライン切替時間の削減によって向上する。Fig.3にその理由を示す。Fig.3(a)のように,受入を複数山に分割すると,デッドスペースが生まれ,ヤード有効容量が減少する。ヤード有効容量を増加できれば,受入可能スペース不足に起因する沖待ち滞船時間を削減できる。一方,Fig.3(b)のように,複数山として受け入れると,一山で受け入れる場合に比べてライン切替時間が余分に発生するため,作業能率の悪化を招く。ライン切替時間を削減できれば,アンローダーの稼働率が増加し荷揚時間が短くなるため,滞船料を削減できる。以上のことから,ヤード内の山数を削減できればヤード効率が改善するといえる。JFEスチール西日本製鉄所福山地区を例に,2013年4月~7月のヤード内平均山数とライン切替時間の関係をFig.4に示す。実データからヤード内平均山数とライン切替時間に相関があることがわかる。したがって本稿では,ヤード内山数の削減を目的とした。なお,以降のデータは全て同地区のものを使用している。
Relationship between yard efficiency and the way of operation. (Online version in color.)
Relationship between the number of piles and interval of changing lines. (Online version in color.)
ヤード配置問題の詳細をFig.5に示す。ヤード配置問題は,受入と払出を同時に考慮しなければならないうえに,受入操業側では,①どのスペースに受け入れるか,②複数の山に分割するか否か,を考え,払出側では,③どの山を払い出すか,④複数の山から分割するか否か,を考えなければならず,非常に煩雑である。しかも,計画作成の対象期間が長期になると組み合わせ数が爆発的に増えるため,高速なアルゴリズムが要求される。
Detail of the stockyard layout problem. (Online version in color.)
3・1節で述べたように,ヤード効率向上・滞船料削減の観点から,ヤード内山数を削減することが求められる。一方で過度に山数を減らしてしまうと,日常のメンテナンスやトラブル等で運搬設備を使用できない時に,必要な産地の鉄鉱石を払い出せないリスクが高まり,操業安定性が低下してしまうため,ヤード運用の効率性と操業安定性を高度に両立させる必要がある(Fig.6)。
Trade-off between yard efficiency and steelworks operational stability. (Online version in color.)
本問題に対して,先行研究では,遺伝的アルゴリズム4)(GA),欲張り法5)(Greedy)等さまざまな手法を用いたシステムを開発し,実用化されている。実際の計画業務では,担当者の要求を満たす解を出せなかった場合,再計算する必要があるため,高速計算が求められる。GAを用いた場合,その特性上良い解を求めるのに非常に時間がかかる。Greedyを用いた場合,計算は非常に高速である一方,その場でのミクロ的な最良解を選択していくため,マクロ的な計画全体としては最善な解を得られない可能性があった。
そこで筆者らは高速計算の可能なGreedy法に多点探索性を付加する独自の手法を提案した。
本章では提案アルゴリズムについて述べる。なお,実際には貯鉱ヤードは長手,短手,高さ方向の三次元空間であるが本稿では簡単化のため,ヤード内のスペースは長手方向のみで議論する。
4・1 山配置問題の目的関数前述のようにヤード内の山を過度に集約すると操業安定性が損なわれるため,実際にはヤード内山数の削減のみを目的とするのではなく,その他指標を考慮しながらの総合的な判断が必要となる。そこで筆者らは山パターンによるその他視点のペナルティ項として以下の項目を追加した。
Fig.7にペナルティ項の適用例を示す。実際のヤード運用では,操業のし易さ等様々な理由によりヤード番地毎に塊鉱石用,粉鉱石用,副原料用,回収物用と用途の目安が決められている。そのルールに反する受入を選択した場合には,違反した長さに対して置き場ペナルティ①が加算される。また,操業安定性を保つために,頻繁に使用される銘柄については移動機の補修やトラブルに備えて複数のヤードに分割して保管する運用が望ましく,例えば1基の移動機のみでしか払出ができないような番地を選択した場合には移動機ペナルティ②が加算される。更に,操業安定性の確保および移動機の作業量負荷の平準化のため,一部のヤードに在庫が集中することが無いように在庫の占有率ペナルティ③を加算する。これは受入前のヤードの面積に対する占有率が高いほど大きくなり,選択した番地のヤードの占有率に対して加算される。また,著しく小さな山として受け入れるとヤード効率が悪化するため,設定した閾値以下の山が作成されると小山ペナルティ④が加算される。以上のペナルティ項を加えることでオペレータのように総合的な指標を鑑みた計画を作成することができる。なお,以降では簡単化のため山数のみを目的関数として説明する。
Several penalties for ways of receiving a pile. (Online version in color.)
後述する筆者らの提案アルゴリズムは,Greedy法をベースとしたメタヒューリスティックスである。Greedy法とは,ある意思決定の際その時最良となる手段を選択する,といったシンプルなアルゴリズムで,高速に良好な結果を得られることが知られている。Fig.8にGreedy法の適用方法を示す。受入場所の選択・払出山の選択によって,ヤードの山状況は複数のパターンに分かれる。前述のようにヤード内山数の最小化を目的とすると,Greedy法を適用して,各日においてその日山数が最小となるパターンを採用する。一方,例えばFig.9のように山数最小群に属する他のパターンを選択した方が数日間の平均山数を削減できるパターンが存在する場合がある。このような場合を考慮してGreedy法にランダム性を付与し,上位群の解候補からランダム選択する手法をGRASP法6)(Greedy randomized adaptive search procedure)と呼ぶが,筆者らは山数最小群のパターンすべてに対して検討することでGreedy法に多点探索性を付加し,かつ数日単位で山数を評価することでより良い計画を高速に作成する手法を提案する。
Greedy algorithm for the stockyard layout problem. (Online version in color.)
Multi-start Greedy algorithm. (Online version in color.)
受入場所が決定すると,山配置問題は下記のように山数最小化を目的関数とした混合整数計画問題7)として定式化することができる。各受入パターンにおいて数理モデルを構築し,分枝限定法8)をベースとする商用ソフトで解くことで各日の払出山を決定している。なお,簡単化のため各ヤードにおいて払出を実施する移動機は1台として記載している。
決定変数(1) |
(2) |
(3) |
(4) |
(5) |
(6) |
(7) |
(8) |
ここで,Iはヤード全体の集合,Jは銘柄全体の集合,Pi,jはヤードiにある銘柄jの山の集合をそれぞれ表す。
それぞれの式について説明する。式(1)は払出後の全ヤード内にある山数を表す評価関数である。式(2)は入力情報として与えられる配合計画を満たす払出量制約を表す。式(3)は山毎の在庫量制約を表す。式(4)は銘柄毎の在庫量制約を表す。式(5)は各移動機の稼働時間上限の制約である。式(6)は払出後のヤードiの銘柄jの山pの在庫量を示す補助変数の計算式である。式(7)はyi,j,p>0ならば1,yi,j,p=0ならば0を取る0-1変数で,払出後にヤード内に残る山数に関する計算式を表す。式(8)はxi,j,pの非負制約である。
本モデルは受入場所が決まった後に定式化され,求解される。受入場所の具体的な決定方法については次節で述べる。
4・4 提案アルゴリズム本手法のアルゴリズムについて述べる。まず,計画初日の受入パターンを作成し,山数が少なくなる順に並べる。この際,Fig.10のように受入候補地全てをスペースが大きい順に並べて,到着した鉄鉱石(受入山)を順に受け入れることで受入パターンを候補地の数だけ生成する。なお,受入候補地はヤード番地内の空きスペースのうち,設定した下限閾値(例えば50 mなど)を超えた十分に広いスペースのみとした。ただし,受入候補地が受入山よりも小さい場合は,受入山を2山に等分して2か所の受入候補地に受け入れることでパターンを作成する。また,受入山の長さ(m)は到着した積み荷量(t)を鉄鉱石の銘柄の嵩比重(t/m3),ヤードの短手方向長さ(m),ヤード山の高さ(m)の積で割った値で設定する。Fig.10では簡単化のため1日1銘柄の荷役の前提の図としているが,実際はその限りではない。例えば1日2銘柄以上の荷役がある場合には,荷役量が最も多い銘柄を先に割り当てることで受入パターンを作成している。
How to create stockyard layout patterns. (Online version in color.)
次に,作成した受入パターンのうち山数最小群の数パターンを選択し,それぞれについて数日先までの計画を作成する(Fig.11)。2日目以降についても初日と同様の手法で受入パターンを生成するが,本稿では計算時間削減のため2日目からの数日間の計画はGreedy法に従って各日山数が最小となる計画のみを採用した。その後,向こう数日間の平均山数(山/日)を計算し,前述の山数最小群のパターンのうち数日単位で山数最小となったパターンを採用して,その初日の受入パターンを選択して翌日に進める。2日目以降も同様に向こう数日間の山配置計画を山数最小群の数だけ作成し,その中で平均山数最小となったパターンの初日の計画を採用する数日単位の山数最小化処理を繰り返し,計画最終日に達すると終了する(Fig.12)。このような操作をローリングスケジューリング9)と呼ぶ。本手法によって,Greedy法のみを適用した場合よりもより山数が少ない計画を得ることができる。なお,本稿ではアルゴリズムの高速性を保つため,山数最小群は上位3位までとした。また,JFEスチール福山地区では払出した鉱石をベッディングヤードに積み付けて配合しており,この周期が4日程度のため,ローリング期間は4日間とした。以上のアルゴリズムを実行することで,高速に山配置計画を作成可能である。
Detailed algorithm of Stockyard Layout Planner. (Online version in color.)
The rolling scheduling method for Stockyard Layout Planner. (Online version in color.)
2013年4月~7月のJFEスチール福山地区の実績データに関して,文献5)に記載のGreedy法と,提案アルゴリズムを適用した結果をFig.13に示す。図中□プロットはGreedy法による作成計画の一カ月毎の平均値,△プロットは提案アルゴリズムによる作成計画の一カ月毎の平均値をそれぞれ表す。また,本プロットは実績データから作成した山数とライン切替時間の線形近似式に従うと仮定して作成した。本アルゴリズムは4カ月間のデータに対して1分以内の計算時間と単純なGreedy法と同等の高速計算が可能であり,更にGreedy法と比較して2%程度の山数を削減できることがわかる。なお,同地区の貯鉱ヤードは3か月程度で在庫が全て入れ替わり,更に様々な操業条件が含まれたデータとなるため実験回数としては必要十分である。
Comparison of algorithm result for the stockyard layout problem. (Online version in color.)
2021年1~5月の連続5カ月間のデータに基づき,従来のオペレータが手作業で作成した計画に従って操業した場合と,本システムに従って操業した場合との山数の推移をFig.14に示す。図中青色実線は最適化結果による山数の推移を示しており,従来の手作業の計画(黒色破線)と比べ,月平均のヤード山数を4%削減することができた。
Comparison of operators and our Stockyard Layout Planner. (Online version in color.)
原料コスト削減を目的として鉱石ヤード山配置計画の最適化に取り組んだ。本問題に対して,Greedy法に多点探索性を追加した独自のアルゴリズムを適用した。当アルゴリズムにより,単純なGreedy法よりもヤード内の山数を削減する配置計画を得ることができた。さらに実データを用いた数値実験により効果を確認した。今後は更に原料操業計画分野への最適化技術の導入を進め,原料物流費の削減を進める予定である。