鉄と鋼
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合金設計の現状と将来
山崎 道夫
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1983 年 69 巻 1 号 p. 17-23

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抄録

合金設計を完全な形で(純理論的に)行うことはかなり遠い将来の夢として,大いに追求すべきことであるが,本稿では,近い将来,かなりの努力をすれば,実行可能であろうという範囲で合金設計について考えて来た.そのような観点から,以上の説明を個条書きにすると次のようになる.
(1)合金設計で我々が制御し得るのは,成分とマクロな処理加工法のみであることをまず銘記すべきである.
(2)合金設計は,組織の推定と,特性の推定の2段階からなり,後者の方に困難が大きい.
(3)推定組織を実測してから,特性推定をやり直したり,特性測定を行うかどうか検討することが効率的である.
(4)理論式で,式の形はきまるが,定数の値までは理論的に決定できないという場合が多いと考えられ,このような場合,実測データとの対比で定数を決めるとよい.この際,統計的手法が有効である.
(5)合金設計では,特性が定量的に予則できなくとも,相対的な順位が予則できれば大きな力になり得る.
(6)金属物理学の最近の進歩はかなり著しく,合金設計に対して大きな寄与が期待できる.
(7)平衡状態図の熱力学的計算法が進歩しつつあるが,多項式近似法と素過程を物理的に評価する方法が試みられている.
(8)定量組織学も進歩しつつあるが,合金設計側としては,組織の推定及び組織からの合金特性の推定を理論的に行えるように,金属物理学に沿つた(組織を単なるパターンとして扱わない)表記法を開発すべきである.また,状態分析技術も重要である.
(9)重回帰分析の結果を外挿して,推定値と実験値が合わない場合,その新しい実験値を入れて重回帰分析をやりなおすとよい.
(10)統計的手法(重回帰分析等)を適用し,外挿できそうな,同一原理ないし組織が存在する範囲を,合金に関する理論で推定するという手法が,現実的な合金設計法の1つとして期待できる.
(11)関係データベースの合金設計への応用に大きな期待が持たれる.データベースと合金設計アルゴリズムを連結しておき,データベースのデータが増加したら自動的に合金設計をやりなおすというシステムも考えられる.
(12)新しい加工プロセスに適合した,新しい成分設計という考え方も重要である.

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