鉄と鋼
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
鋼板の冷間圧延におけるロールの粗度低下に関する検討
木原 諄二〓田 俊緑萬羽 昭夫
著者情報
ジャーナル フリー

1987 年 73 巻 3 号 p. 528-535

詳細
抄録

以上本研究において得られた結果に関してそれぞれ考察を行つたが,とくに,潤滑剤とロール表面との反応性が粗度低下に重要な役割を有していることが明らかにされた.しかし,一般に言われている,粗度低下がキルド鋼の方がリムド鋼より著しいが,ロールの直径摩耗に関しては,明確な差が認められないという点と,粗度低下機構との関連に関して問題が残されている.
本研究に用いたキルド鋼とリムド鋼との違いの一つはFig.8に示される変形抵抗に関する違いである.このことから,粗度摩耗はアスペリチーの先端がより硬い材料によつて叩かれるから,先端が早く摩滅するという説明が考えられる.これについては硬い材料に叩かれながらなぜ直径摩耗に反映しないかという反論が可能である.
さて,直径摩耗を支配するのは,ロール表面直下の層における疲労剥離であることが機械要素の接触時について定説となつてきた.すなわち,疲労は材料の硬さと直接関係のある圧力だけでなく摩擦応力との合成で定まる応力状態に支配される.そこで,粗度低下と摩擦応力の低下との関係を調べるため,接触弧内の平均摩擦応力Fmを圧延距離にたいして測定した。その結果をFig. 10に示す.実験は実験IVのTs油およびTo油を用いた場合についての平均摩擦応力Fmを次式によつてもとめ圧延距離による変化を示したものである.縦軸は圧延開始時のFm値を1とし比を取つている.
Fm=T/(RLd・ω)
(T:トルク,Ld:接触投影長さ,ω:板幅,R:ロール半径)
なお,Ts油の場合圧延開始時のFm値は4.6kg/mm2To油の場合圧延開始時のFm値は5.6kg/mm2であつた.
3800mまでFm値を求める実験を行つた.Tsを用いた場合はFmは下がる傾向にあるがToはあまり変化がない.その上,上述のようにTs油の圧延初期の摩擦応力はTo油のそれをすでに17%強下回つている.
そのようなことから,ロールの直径摩耗に対しては潤滑性の良い潤滑剤の防止効果は十分あるが,アスペリチーの先端のような局所では,グローバルな応力状態(圧力,いわゆる摩擦応力)より材料の硬さが決定するローカルな応力状態が支配し潤滑剤と反応して形成された反応生成物がつぎつぎ剥ぎ取られる一種の腐食摩耗が現象を支配すると考えれば,本研究を通して得られた結果ならびに一般にここで取り上げた問題に関して発表されている事実を矛盾なく理解することができる.

著者関連情報
© 一般社団法人 日本鉄鋼協会
前の記事 次の記事
feedback
Top