Abstract
本研究では保育者養成校を卒業して保育職に就いた保育者が、一般企業への就職に移行するまで及び移行時に注目をした。保育職から一般企業職への移行に影響を与えた要因や気持ち等の変化、移行時に直面した事柄に焦点を当て検討をした。
幼稚園教諭経験者2名に半構造化インタビューを依頼し、複線径路・等至性モデル(TEM)を用いて分析を行った。TEM図を作成して分析を行った結果、共通点が見出された。保育職から一般企業職に移行したいと考えた理由については、現状からの脱却、別の環境や業種で自分の力を発揮することへの期待、他業種で自分の力を試したいという挑戦心であった。一般企業職への移行を決意するタイミングについては、年長児を受け持った経験、3歳児から5歳児までの全ての学年を受け持った経験という幼稚園特有の区切りが関係していた。
また一般企業職への移行時については、別業種に就き世界が広がったことへの楽しさを感じ、対子どもから対大人になった難しさや生活リズムの違いに大変さを感じながらも契約や商談等について一から学び、保育職で培ってきたコミュニケーション能力や保育技術を生かしながら移行していったことが明らかになった。
保育者としてのキャリアを構築していった後に、保育の知識や技術、幼稚園教諭として培ってきた力を生かしながら新たな分野で自身の力を蓄え磨いていく。キャリアを広義的に捉えたさいに保育職での経験を生かしながら長期的、継続的にキャリアを構築していく、職業者としてのキャリア構築例が示された。
References
- 浅井かおり・浅井拓久也(2021)、「保育者のキャリア形成の過程に関する研究(1)―乳児クラス担任と幼児クラス担任の比較―」、『東京未来大学研究紀要』、第15号.
- 浅井かおり・浅井拓久也(2022)、「保育者のキャリア形成の過程に関する研究(2)―D保育園園長によるクラス担任決定の判断過程について―」、『東京未来大学研究紀要』、第16号.
- 浅井かおり・浅井拓久也(2023)、「保育者のキャリア形成の過程に関する研究(3)―保育士から幼稚園教諭、幼稚園教諭から保育士への転職理由の比較―、『東京未来大学研究紀要』、第17号.
- 傳馬淳一郎・中西さやか(2014)、「保育者の早期離職に至るプロセス〜TEM(複線径路・等至性モデル)による分析の試み〜」、『名寄市立大学 道北地域研究所年報』、第32号、pp.61-67.
- 井上剛男(2022)、「保育者の離職をめぐる研究動向に関する一考察」、『鈴鹿大学教職教育センター紀要』、第三号、p8. p9.
- 河田聖良・齊藤多江子(2023)、「4年制保育学生の一般職就職に至る決定要因に関する研究―大学の授業経験と保育実習経験に着目して―」、『日本体育大学紀要』、第52号、p.1016.
- 川俣美砂子(2018)、「幼稚園教諭の離職と継続の理由を探る」、『高知大学教育学部研究報告』、第78号.pp.343-355.
- 香曽我部琢・松延毅(2013)、「公立保育所保育士の成長プロセスと実践コミュニティ―グラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)と複線径路・等至性モデル(TEM)の比較から―」、『宮城教育大学紀要』、第48巻.pp.167-180.
- 厚生労働省(2019)、「指定保育士養成施設卒業者の内定先等に関する調査研究」、『令和元年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業』、p.124.
- 厚生労働省(2020)、「保育の現場・職業の魅力向上に関する報告書」、『保育の現場・職業の魅力向上検討会』.
- 厚生労働省(2020)、「保育士の現状と主な取組」、『保育の現場・職業の魅力向上検討会(第5回)』、参考資料1.
- 文部科学省(2018)、「平成28年度学校教員統計調査(確定値)の公表について」.
- 森本美佐・林悠子・東村知子(2013)、「新人保育者の早期離職に関する実態調査」、『奈良女子文化短期大学紀要』、第44巻、pp.101-109.
- 西坂小百合(2014)、「幼稚園教諭の職業継続の意志と教職経験年数・職場環境の関係」、『共立女子大学家政学部紀要』、第60巻、pp.131-139.
- 庭野晃子(2020)、「保育従事者の離職意向を規定する要因」、『保育学研究』、第58巻、第1号、pp.105-114.
- 東京未来大学(2022)、「2021年度卒業生、福祉・保育・教職への就職状況報告」、『保育・教職センター報』、No.9.
- 東京都福祉保健局(2023)、「第Ⅱ章 調査結果の概要」、『東京都保育士実態調査報告書』.
- 友野優里・笠原正洋(2021)、「保育職からの離職と在職継続に何が関わっているのか:展望論文」、『中村学園大学・中村学園大学短期大学部 研究紀要』、第53号.p.6
- 豊田暁宏・柏女霊峰(2022)、「保育所保育士の離職防止のための研究-公定価格上の要因とその克服に向けて―」、『淑徳大学大学院研究紀要』、第29号、pp.67-84.
- 安田裕子・荒川歩・髙田沙織・木戸彩恵・サトウタツヤ(2008)、「未婚の若年女性の中絶経験-現実的制約と関係性の中で変化する,多様な径路に着目して」、『質的心理学研究』、第7号.pp.181-203.
- 安田裕子・サトウタツヤ(2016)、「TEMでわかる人生の径路―質的研究の新展開」、『誠信書房』、p.45.