季刊地理学
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研究ノート
鉄道路線の廃止が沿線自治体の人口・所得水準変化率に及ぼす影響
佐川 大輔中谷 友樹
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2020 年 72 巻 2 号 p. 107-121

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抄録

 道路網の整備による自動車交通へのシフトや人口減少を背景とした利用者数の減少等により,鉄道路線の廃止が地方を中心に継続して生じている。現存する鉄道路線においても,鉄道事業者から廃止を提案されている事例が存在するなど,この先,維持が困難となる鉄道路線の数は増えていくものと考えられる。こうした鉄道廃止の提案に対し,「鉄道が無くなると街が寂れる」という意見が挙げられることもあるが,この考えを否定する意見もまた存在する。

 本研究は,鉄道路線の廃止が鉄道沿線自治体の人口と所得水準に及ぼす影響を,パネルデータ解析のための回帰分析を用いて明らかにした。鉄道沿線自治体の廃線以前の状況を考慮する統計モデルを使用した分析の結果,先行研究で指摘されている鉄道の廃止が起こった地域で観察される高い人口減少率は,廃線以前からの状況を反映しているものであり鉄道の廃止によって引き起こされたものとは判断し難いことが示唆された。また,鉄道の廃止が所得変化率に及ぼす影響についても,廃止路線沿線と現存路線沿線の自治体間で統計学的に有意な違いは認められなかった。

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© 2020 東北地理学会
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