本論文は,社会学,人類学及び地理学におけるオーセンティシティ論の展開とその成果の学際的な展望(レビュー)を試みたものである。オーセンティシティ概念は,1970年代頃から社会学におけるツーリズム研究に導入され,そこでは最初,対象に付着した本質主義的理解が主であったが,次第に構築主義的立場が強調されるようになり,またハイデガーへの回帰を意識した実存的オーセンティシティ概念の議論も試みられるようになった。地理学における展開は,早い時期のレルフの著作を除いて社会学におけるツーリズム研究の影響の下に展開し,そこでは,ランドスケープの性質のオーセンティシティ評価や具体的な地理的「場」におけるオーセンティシティの構築過程に目が向けられた。文献群から描かれるこの概念は,経験のオーセンティシティと設定(場所)のそれ,本質性と構築性,個人的と間主観的などの二元的な対立をもついくつかの次元をもち,明確な定義は難しいが,本稿ではワン(Wang, 1999)の議論を参照して可能な概念類型を示唆した。地理学の参入は,この議論に多様な空間的次元を加えるとともに,地理学自体にも地理的過程の構築性,地域文化の本質を構成する多様な側面の考究への道を開いてきた。
抄録全体を表示