季刊地理学
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論説
東日本大震災の被災地における居住地移動と市街地再編との関係
── 東北地方の被災県に着目して──
山田 浩久
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2020 年 72 巻 2 号 p. 71-90

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抄録

 本研究では,東日本大震災における東北地方の被災県を対象に,被災地で生じた居住地移動の類型化を通して,被災地の居住地移動と市街地再編との関係を明らかにした。分析の結果,被災地特有の特徴を示す居住地移動は,「新市街地対応型」,「自主探索型」,「疎開型」とそれらの「複合型」に類型化された。「新市街地対応型」は,主に被災市町村内で行われる短期,短距離の移動であり,行政の市街地再編計画に被災者の移動が取り込まれていくことになるが,「自主探索策型」は被災者が個々に域外に流出するため,人口が流出した市町村よりも流入先の市町村における市街地再編計画に,より大きな影響を及ぼす。一方,原発事故等に起因する「疎開型」は,健康被害に対する懸念や長期の避難生活がもたらす帰還意識の低下や市街地の物理的荒廃が住民の大幅減につながり,市街地再編計画の実施自体が危ぶまれている。また,上記移動パターンの特徴を併せ持った「複合型」は,今後の動向を把握しにくい移動であり,市街地の再編計画の細やかな修正が求められていくものと考えられる。いずれにおいても,安心を手に入れることが出来ないでいる被災者の不安を解消し,できるだけ早期に被災による居住地移動を完結させることが,被災地における市街地再編の条件になる。

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© 2020 東北地理学会
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