季刊地理学
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論説
大内宿における歴史的街並み保全を促進する要素の考察
張 紅
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2022 年 74 巻 1 号 p. 1-20

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抄録

 本研究は福島県大内宿を事例に,地域住民による歴史的街並み保全に関する意思決定過程の分析を通して,歴史的街並み保全を促進する主な要素を明らかにした。その結果,大内宿は,外部者によって発見されて以降,行政主導で行われる街並み保全運動の中で,住民が自己所有の歴史的建築物を保全するか否かについて,さまざまな契機や条件に基づいて意思決定を行ってきたことが確認できた。意思決定によって選択された行動は,大別して維持,復原,放置の3つであった。とりわけ,大内宿保存会による住民への働きかけは,さまざまな理由から一旦は茅葺屋根への復原を躊躇していた住民の決断を促し,結果的に大内宿の街並み保全を大きく促進させた。全体として,大内宿における歴史的街並み保全を促進する際に,経済的要素,公共的要素,社会的要素が重要な役割を果たしてきた。集落を取り巻くこれらの要素が同時に作用してはじめて,歴史的街並み保全が促進された。

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© 2022 東北地理学会
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