本報告は地理学の研究対象になりうるものの,看過されてきた河川敷での火災に注目し,火災の焼失状況とUAVによる焼失範囲の記録を紹介することを目的とする。そして河川敷の火災に関する地理学的な研究の可能性について若干の展望を提示する。対象とした火災は2023年5月18日,同年の初めての「真夏日」を観測した日に熊谷市荒川河川敷右岸で発生し,人的被害は確認されなかったものである。この火災で,低水敷を中心に草地が焼失した。その結果,当日の気象条件と,生育する草本類の種類や状態といった植生の土地被覆状況が,延焼の広狭に影響を与えていたと考えられる。とくに焼失したオニウシノケグサやシナダレスズメガヤ,アブラナは,いずれも日本の河川敷で広くみられる植物種であった。
現代日本において火災への様々な対策が講じられているが,火災は各地で発生している。多くの場合は人為的要因を起点とするが,火災の被害の大小を決定する要素として様々な自然条件が影響すると考えられる。地理学において,火災に関する研究は人文地理学,自然地理学の双方から取り組まれてきた(阿子島・本多, 2002; 高岡・スワンソン, 2012; 川村, 2013; 木村ほか, 2015; 宋, 2020)。人文地理学では,市街地での火災被害の広がりや復興が主たる関心となり,自然地理学では森林火災の発生をめぐる気候的条件や,森林火災後の地形プロセスなどが検討されてきた(木村, 1969; 田中・古田, 2010; 知念, 1986; 高橋, 2023; 森下, 2024)。
消防庁によると,2024年の総出火件数は37,036件で,内訳としては建物火災で20,908件,林野火災で833件,車両火災で3,538件,船舶火災で62件,航空機火災で3件,その他の火災で11,692件であった1)。その他の火災は空き地,農地,道路,河川敷,ゴミ集積場,物品集積所,軌道敷,電柱類等での火災を指している。火災の内訳からも,火災で燃えるものの多くは建物や林野など,従来から地理学の研究対象とされてきたものと重なるといえる。また火災による焼失エリアの広狭は自然条件と人文条件との絡み合いに影響される。このことから火災は地理学から検討すべき研究対象と考えられるが,研究対象とされてきたものは森林や建物など限定的である。そこで本報告では,2023年5月18日に荒川右岸の荒川大橋東側の河川敷で発生した火災の発生状況とUAVで撮影した焼失範囲の記録について報告する。河川敷の火災はその他の火災に分類されるが,2024年の総出火件数のうち20.3%(7,531件)は「空地,河川敷,田畑等」で発生しており,建物火災に次いで多い。とくに林野火災やその他の火災では1〜4月の時期に多い。防災に対する社会的関心が高まるなかで,地理学で河川敷の火災を取り上げることも有意義と考えられる。
対象地域は埼玉県熊谷市の荒川右岸の河川敷である(第1図)。対象地域の位置する関東平野北部では,冬季には「からっ風」と呼ばれる乾燥した北西の季節風が吹く。また荒川や利根川には洪水対策のために広い河川敷が設定されている。河川敷を管理する国土交通省にとって「望ましい河川敷」の植生は治水対策の観点から草地とされている2)。河道または河川区域内の樹木は洪水時に水流の滞留を引き起こしたり,侵食により流木化し,橋梁や堤防を破壊しうることから,望ましい植生とされていない。そのため,河川整備の時に河川敷の樹木の多くは伐採され,河川敷の土地被覆としては草本類が優占する。
なお熊谷市周辺の荒川や利根川河川敷では年によっては1年に数回,火災が発生してきた。2023年の上半期には,熊谷市内で4回発生していた。

地理院地図および現地調査により作成
本報告で対象とする火災は2023年5月18日午後1時頃に発生したものである(写真1a)。この火災は墜落したラジコン飛行機を出火元とし,墜落地点から荒川右岸の広範囲を燃やした3)。消火活動はヘリコプターによる散水など大がかりなものとなった。火災当日の気象条件は,熊谷地方気象台内にあるアメダス熊谷観測所によると,天候は晴れで,13:00の気温は34.1°C,湿度22%で5 m前後の南東風であった4)。2023年初めての真夏日で,荒川の流路に沿って下流から上流へ吹くような風向きとなっていた。
この火災での焼失範囲を同年5月26日と6月1日にUAVを用いて撮影した。使用機材はDJI社のMavic Air 2であり,対地高度140 mで撮影した。位置情報付き直下視画像をオーバーラップ率約60%となるように取得した。それらの画像はSfM処理ソフトウェアMetashape(Agisoft社)を用いて点群クラウドに変換し,そこから全領域を網羅する正射投影画像を作成した。入力変数は全て「高」設定のデフォルト値である。著者による目視判読の結果,河川敷の低水敷の草地部分が焼失する一方,高水敷までは延焼していなかったことがわかった(第2図)。低水敷と高水敷と境界付近には樹木やタケ類,ササ類が繁茂しており(写真1b),こうした水分含有量の多い状態の植生が防火帯の役割を果たしたと推察される。また増水時に河道となるエリアも燃えていた(写真1c)。ただし,増水時に河道となるエリアはその他のエリアに比べて,草本による土地被覆が乏しかった。このことから地形条件によって生まれた植生の被覆状況の差異が,焼失範囲の拡大に影響を与えたと考えられる。
火災発生時の草地の状況として,火災のあった対岸となる左岸ではシナダレスズメガヤやオニウシノタケグサといったイネ科の外来種の穂が乾燥して垂れ下がり始めた時期であった。
シナダレスズメガヤやオニウシノケグサは牧草や砂防,法面緑化用に導入された外来種で,九州から北海道まで分布しており,公園や道端などの様々なところでみられる。右岸の火災跡地の現地踏査から,シナダレスズメガヤはほぼみられなかったため,シナダレスズメガヤなどのイネ科の植物を中心に焼失したと推察される。
このほかに火災跡地では燃え残った菜の花の実を確認できた(写真1d)。火災発生直後にはタネのみで判別が難しかったものの,2024年と2025年にも継続的に観察したところアブラナと判明した。アブラナは荒川河川敷に限らず北海道,本州,四国,九州の河川敷や堤防,草地,道端,休耕地などで広くみられる。河川敷に一般的にみられる菜の花はセイヨウアブラナで,明治期に菜種油を採るためにヨーロッパから導入されたものが野生化したものである。野生化した時期は不明である。菜種油の原料でもあり,とくに乾燥したアブラナは燃えやすい。
これらのアブラナは熊谷市の荒川河川敷で「菜の花」として観光目的に活用されている。例えば,熊谷市観光局ウェブサイトでは,「荒川の堤防に菜の花が咲き誇り,黄色い花で埋め尽くされます。桜とのコントラストも見事」 5)と記載されている。アブラナはソメイヨシノと同時期に開花することから,例年10万人の来場者がみられる「熊谷桜堤」 6)と合わせて観光に活用されているといえる。3月末から4月初旬には,アブラナは開花しているものの,火災発生時にはアブラナは乾燥し始め,タネをつけ始める時期と重なっていた。

筆者撮影。a~dは2023年5月26日,eは2025年5月7日,fは2025年5月26日撮影。

現地調査により作成
火災発生から1か月もすると,河川敷低水敷の火災擾乱は復元され,再び草地となった。2024年の春から夏にかけても,定期的に草刈りなどが実施され,植生は草地として維持されてきた。とくに毎年8月中旬に実施される花火大会は,焼失範囲付近から打ち上げられることから,7月末から8月初めの草刈りは花火大会を出火の原因にさせないような対策ともいえる。この時期の草刈りは,2011年の花火大会で火災が発生したことを契機としていると推察される。
こうした継続的に実施される河川敷の植生の管理作業に加えて,単発的に実施されるものもある。例えば,2024年11から2025年6月にかけて,荒川大橋の耐震補強工事が実施された。橋梁を補修するために瀬替え工事も実施され,火災で焼失して再び草地に戻ったエリアを含む低水敷を新たな河道にするために掘り起こされた(写真1eと1f)。現地観察から,施工者となった企業の請負金額は74,478,800円である。この金額は瀬替えだけではなく橋梁補修などを含めた全体の工事に対してのものである。2025年7月18日現在,通水はされていないものの,掘り起こされた土砂は高水敷側に積まれており,低水敷の大部分のエリアは裸地に近いものとなった。ただし,草本類の侵入は早く,土砂が積み上げられたり,工事作業にともなって整地されたエリアも草地になりつつある。
以上のように,当日の気象条件と,生育する草本類の種類や状態といった植生の土地被覆状況が,延焼の広狭に影響を与えていたと考えられる。とくに焼失したオニウシノケグサやシナダレスズメガヤ,アブラナは,いずれも日本の河川敷で広くみられる植物種である。熊谷市の荒川だけが抱える地域固有の要因ではない。
こうした植物種が優占する植生を維持することで,火災を発生させやすい状況を生み出すとも考えられる。治水対策を念頭においた河川管理を進める上で,樹木は伐採した方がよい植物であり,「望ましい河川敷」として許容される植生は草本類である。確かに低水敷の樹木は,水流の妨げになったり,増水時に流されて橋桁を損傷させたり,人間の移動を妨げる要因となる。橋の損傷は,災害発生時と発災後の,避難行動や復旧活動に支障をあたえる。この点から,低水敷の樹木は高水敷のものに比べて,他のハザードを引き起こすリスクが高く,望ましくないかもしれない。
他方,本報告から,低水敷と高水敷の境界付近の低水敷に繁茂していた樹木やタケ類,ササ類が延焼を防いでいた。河川敷における火災への対策としてみると,草本に比べて水分含有量の多い期間が長い樹木も有用となりうることが示唆される。
また,数年に1回の増水や洪水で河道が移動して植生の撹乱は起こるが,これを瀬替え工事のように,人為的に毎年引き起こすのは経費の上で難しい。また,瀬替え工事を頻繁に実施することは工事に関わる作業事故のリスクを高める。とくに熊谷市を含む関東地方北部は,乾燥しやすい冬季にフェーン現象の影響をうける。特定の時期に乾燥しやすい地域の河川敷全体で瀬替え工事を実施するのは不可能であろう。定期的な草刈りと枯れ草を適切に回収して,草本類が水分含有量の少ない状態で分布することを防ぎ,草地を燃えにくい状態にすることも方策の一つである。しかし,草刈りの回数を増やすためにも多額の予算を要し,対象となる面積も広大であり現実的ではない。こうした状況から,行政による現行の方針での維持管理では,防火対策は難しくなると考えられる。
予算が限られるなか,防火対策として有効と考えられる手段としては,燃えやすい草本類以外の植物種,とくに樹木を許容することや,河川敷の民間利用の促進などが考えられる。通常,低水敷は流路であり,地面であることは想定されていないが,本地域のように川幅が広くなる中流域のようなエリアでは,低水敷も陸地になる期間は長い。河川やエリアによっては頻繁に河道が変更されることもあるが,河川やエリアによっては数年にわたって,河道の変更がみられないところもある。こうしたエリアで,構造物の設置などは難しくても,家庭菜園などの一時的な利用は可能であろう。
具体的には,所管する河川事務所に,地域の自然条件に合わせて「望ましい河川敷」の植生を柔軟に選択できるような裁量権をもたせることが方策の一つであろう。また樹木は水害防備,とくに堤防を守る機能をもつことも示唆されており(長尾, 2004),河川敷空間に有用となりうるものである。このことから,各地域の河川事務所に植生の選択に関する裁量権をもたせることで,とくに観光利用を期待する主体との調整が図りやすくなると考えられる。本報告の対象地域の場合,熊谷市がアブラナを観光に利用していることから,これを河川敷から一斉に除去することは難しい。観光利用のみならず,市民にとっても河川敷の「菜の花」の景観は,当然の心象風景ともなっていると考えられる。しかし,市民生活の安全を優先するなら,外来種として広がってきたアブラナに対して,元々は期待していなかった観光的な効果がみられたから残すという判断も難しい。観光利用であっても,市民の価値観であっても,安全優先であっても,二者択一的に除去という選択肢はとりづらいだろう。
現実的には,ソメイヨシノとアブラナが同時に開花しているのは4月初旬までであり,それ以外の期間で乾燥する前に除草するなどの対応が納得できる妥協点になると考えられる。河川管理においては一律的な「望ましい河川敷」を求めるのではなく,地域毎に植生を選択できるような裁量権をもたせることで,当該地域の住民やその他主体の間で妥協点を探索する条件を拡張できるといえる。
以上のように,河川やエリアの状況に応じて,河川敷の地形条件や植生,その利用可能性も異なる。さらに人間側からみると立場によって「望ましい」植生も異なる。前者については自然地理学,後者については人文地理学の研究対象となるだろう。今後,河川敷の火災を研究対象とするならば,自然地理学と人文地理学のそれぞれで伸長させることも可能だが,それぞれの研究者が共同で取り組むことができれば堤防なども含めた河川をめぐる空間を包括的に捉えていく可能性が広がるだろう。
また今回使用したMavicのような小型のドローンであれば安価かつ迅速に展開してデータを取得できた。安価であることから,小規模自治体や消防団のような予算規模の小さな集団であっても,災害の記録として重要な焼失範囲と位置情報の客観的データを少額で収集可能なことが示唆された。
本稿の実施には,JSPS科研費19K13442,22K01041の助成を受け,ドローン操縦時には大学院生の本多一貴に補助していただいた。なお本稿の内容は日本地理学会2023年秋季学術大会(於関西大学)にてポスター発表した。
1) 総務省消防庁,消防統計(火災統計)令和6年(1月〜12月)における火災の概要(概数)について(令和7年5月30日),https://www.fdma.go.jp/pressrelease/statistics/ (2025年7月18日閲覧)
2) 例えば,対象地域を管轄する国土交通省荒川上流河川事務所においても,堤防や河川敷の樹木は伐採することを基本的な方針としている。この方針は他地域でも同様である。国土交通省荒川上流河川事務所ウェブサイト,https://www.ktr.mlit.go.jp/arajo/arajo00660.html(2025年10月30日閲覧)
3) 埼玉新聞2023年5月19日配信,ラジコン飛行機が墜落,昼の河川敷に…その後,火災発生し広範囲に燃え広がる 近くの橋を通行止めに,https://www.saitama-np.co.jp/articles/27471/postDetail(2025年5月19日閲覧)
4) 気象庁,過去の気象データ検索,https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/hourly_s1.php?prec_no=43&block_no=47626&year=2023&month=05&day=18&view=p1(2025年7月18日閲覧)
5) 熊谷市観光局,ウェブサイト,https://www.oideyo-kumagaya.com/cate-flower/351/(2025年8月5日閲覧)
6) 熊谷市観光局,ウェブサイト,https://www.oideyo-kumagaya.com/wp-content/uploads/2024/12/0857510282ddc801cc2ede67722f1e97.pdf(2025年8月5日閲覧)