東北地理
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福島盆地西縁の新期断層について
藤原 健蔵
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1958 年 10 巻 4 号 p. 1-19,71

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抄録

福島盆地はいわゆる“盛岡-白河絵”上に並ぶ一陥没地として, 北上河谷盆地と共に多くの興味ある問題をはらんでおり, 東西両側の山地との構造的関係の究明がまたれている。だがこの盆地々域がなお第三系区域に在る (殆んど緑辺部のため第三系は簿いが) こと, 盆地の埋積はもつばら西方から行われていることからみて, 盆地陥没の機構とか盆地床の形成を考察するにはまず脊稜山脈側から究明するのが順当であろう。本稿は西縁山麓沿いに観察された新期断層を中心としながら盆地床諸地形の生成を明らかにし, 併せて新期の地盤運動の造盆地運動に於ける意味を見山そうとしたものである。
福島盆地の西縁は三本の断層崖 (桑折・台山・白津) で縁取られており, 各々の崖下に旧期の扇状地を裁る新期の断層運動が認められる。桑折断層崖の断層階基部のものは産ケ沢川溪口で最もよく観察され, 落差約12m, 陥落に際して下盤が逆傾斜したゝめ山麓沿いに窪地や流路の偏向を生じたらしい。松川溪口で存在が知られていた扇状地断層の変位は台山断層の繰返しであり, 小川から天戸川までの山麓沿いに追跡できる (南程大) 事, この変位をはさんで松川扇状地面は新旧二面に分け得られる (両者とも南西に張出してる) 事がわかつた。吾妻火山群東麓では白津川溪口及びその南隣で新期断層が認められ, 白津川の約15mの崖高が最大で, 一般に南程低い。なおこゝで扇状地形成はこれらの断層変位に基くばかりでなく, 上流域の火山活動と非常に緊密であることがわかつた。
以上の様な新期の地盤運動が周辺山地の地質構造と如何なる関係にあるか, つまりこの盆地の造盆地運動にどの様な意味をもつているかが次の問題となる。まず桑折断層は越河断層とゝもに阿武隈山地側の霊山断層に対応して一大地溝を形成し, その地溝内で一段と陥落したのが福島盆地の東北部“伊達平野”であろう。東側の梁川断層がこの内側の陥落にあづかつたらしい。この意味で“伊達平野”は南西部“信夫平野”と構造的にも相違していることがわかるが, この点に関してはは未だ試論の域から出ておらず将来の課題としておく。
飯坂附近は桑折断層が信夫平野に, 台山断層が北方の山地に消滅する点を結んだ, つまり両断層の齟齬する部分に当る。それ故両断層の変位 (桑折地塊の衝上と台山断層下盤の陥落) によつてこの山麓附近が南へ増傾斜させられた事が考えられ, 事実飯坂附近の河岸段丘の発達はこれを立証してくれる。そして背後山地は摺上川を軸として盆地側に開いた向斜構造を有し, 切峯面も略々これに一致して, 上記の運動様式と正の関係にあるので, 飯坂附近の増傾斜運動は第三紀末以来の地盤運動の一端と見做してよいであろう。
庭坂南方に残つている低湿地の成因として泥流末端の存在や天戸川の運搬物量の不足等の外に, この附近が最近の盆地西縁における最大沈下部であると云う理由が, 台山・白津両断層崖下の扇状地の配列・構造から考えられる。この最大沈下域を地質構造上からみると, 井尻正二の報告した南に高度を減じている花崗閃縁岩の地塁構造の尖端部に当り, またこれの東に随伴する台山断層を含む数本の断層線の収飲個所に当る。と同時にこの収飲個所は白津断層の下盤にも相当している。したがつてこの一帯が地質構造上からみても沈下し易いところである事が想定出来る。この附近一帯を被う火山噴出物のためにこれを立証する積極的資料が得られないが, 扇状地の発達から求められる様式の沈下現象はこれらの地質構造からみて妥当と思われる。
以上の考察によつて福島盆地西縁で観察される新期断層は, それ自体独自に発生したものではなく, 第三紀末以後に起つているこの盆地の造盆地運動の一端として認めることが出来, 同時にこの新期断層は盆地床の諸地形の形成に少なからず影響している模様がわかつた。

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