抄録
従来, わが国において岩塊流・岩塊斜面は周氷河現象として扱われる場合が多かった。大雪山主稜部は, 現在でもなお周氷河環境下にあり, 周氷河作用によって形成されたと考えられる岩塊流・岩塊斜面は数多く存在している。その一方で, 大雪山には顕著な地すべり・崩壊地形も多く認められ, 岩塊流・岩塊斜面の中には崩壊起源と考えられるものもある。本研究で対象とした忠別岳北西方の岩塊流もそのようなものの一つである。岩塊流堆積物の形態, 堆積構造などの諸特微を検討した結果, 本岩塊流の成因は“岩石なだれ”である可能性が強い。ただし, 岩塊流堆積物表面に見られるうね状・溝状地形の方向性から, 物質移動の初期にはスライド状の動きがあったものと考えられる。また, 岩塊流内で場所によって物質移動速度が異なっていたこともうかがわれる。本岩塊流の形成時期は, 二枚の火山灰層 (いずれも降下時期は数100年程度) の存在から1,000年前のオーダーに達しないものと考えられる。岩石なだれの誘因として火山性地震が有力であるが, なお検討を要する。堆積物中の岩塊について長径および長軸方向の測定を行ったが, 現段階では, この結果のみから岩塊流の成因あるいは動きを論ずるのは尚早である。そこで本稿では, 今後, 類似した地形を研究していくうえでの比較検討材料という意味合いをこめ, その結果を提示した。