東北地理
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大正・昭和戦前期の九州における自動車の普及過程
奥井 正俊
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1990 年 42 巻 4 号 p. 230-244

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抄録

大正初期から昭和戦前期にかけての九州において, 自動車が諸地域の中へ導入され, その普及が進展した過程を, 拡散理論の文脈に沿いながら考察した。おおむね旧郡を集計単位とする統計地区別に自動車普及率を求め, それらの分布の経年変化と, 自動車普及率の時間的経過の地区による相違について分析を加えた。九州全体の自動車普及率は, 研究対象期間を通してロジスティック曲線を近似できるようなS字状に上昇をつづけたが, 大正中期以降においては各地で乗合バスの導入が図られたことから急速な上昇を示し, さらに昭和5年頃からは停滞気味となり一定の上限値 (11台/万人) に収束する, という経過をたどった。地区別自動車普及率の分布がどのように経年変化したかをみると, 大正初期における普及率の高水準地区は, 福岡県から佐賀県にかけての地域と, 中・南九州の一部地域に分布し全体の3割程度を占めたが, その後普及率の平準化に伴って拡大していった。中・南九州と島嶼は, 自動車普及の後進地域と位置づけられる。次に自動車普及率の推移をロジスティック曲線でモデル化し,それらの地区による相違を考察した。自動車の導入時期は大正元年から, 最も遅いところで昭和元年までと大きな差がみられ, この差異の要因として階層効果と近接効果が作用しているが, これらに並び商工業のような自動車交通の需要因子も関与している。さらに自動車の普及の浸透速度も地区による差がみられるが, これは導入時期の遅速と密接に関係している。

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