季刊地理学
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ネパール・ヒマラヤの国立公園の薪燃料消費に影響を与えるトレッカー, ポーター, ガイドの数の推定
渡辺 悌二
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1997 年 49 巻 1 号 p. 15-29

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抄録

サガルマータ (エベレスト山) およびランタン国立公園において, 薪の消費に影響を与える訪問者数の調査を行った。現地観察から, 薪の消費形態がグループトレッカーと個人トレッカーとで異なることがわかった。そこでまず, トレッカーをグループと個人の2つのカテゴリーに区分し, 1990~94年について, ネパール政府の統計資料からそれぞれの数を調べた。またグループトレッカーはポーターやガイドを雇うことが多いが, 個人トレッカーはそうとは限らない。ポーター, ガイドがトレッカー1人あたり何人雇用されるかについては統計資料がないため, 以下の推定を行った。グループトレッキングについては, 1990年と94年に, カトマンズの10の旅行代理店および野外で会った33グループから聞きとりを行い, 合計188グループについてデータを得た。また, 個人トレッキングに関しては, 野外調査中にすれちがったトレッカーに同行していたポーター, ガイドの数をカウントした。その結果, グループトレッカー1人につき, サガルマータ地域では平均1.85人のポーターとガイドが雇用されており (人間のかわりに荷物運搬に用いられるヤクの数を除く: ヤクの数を含むと平均3.75人), ランタン地域では平均3.14人が雇用されている (ランタンではヤクは荷物運搬に使われていない) ことが明らかになった。また個人トレッカー1人あたりに雇われるポーター, ガイドの数は, サガルマータ地域で0.23人, ランタン地域で0.32人であった。
このうち, グループトレッキングでは, ポーターのみが野外で木を燃やして調理をし, 他は石油を使用している。また個人トレッキングでは, 質素な宿泊所が利用されるため, トレッカーとポーター, ガイドのいずれもが, 宿泊所で薪によって料理された食事をとる。したがって, 薪の消費に関する議論では, 単にトレッカーの総数のみがとりあげられるべきではなく, トレッキングの形態別にトレッカーおよび彼らに付随するポーター, ガイドの数を扱い, さらに彼らの滞在日数を考慮する必要がある。入園した人の中から薪の消費に関わる個人トレッカーとそのポーター, ガイド, およびグループトレッキングに伴うポーターの数とそれらの平均滞在日数をかけてみたところ, サガルマータで24×104人・日/年, ランタンで20×104人・日/年と推定された。
本研究では, これらの訪問者が実際に消費した薪の量を明らかにすることはできなかった。しかし, 森林伐採を減少させるためには, (1) 個人トレッキングに関連した宿泊所での薪の消費量を減少させることと, (2) グループトレッキングのポーターが登山道沿いで消費する薪の量を減少させることの二点が重要であることが指摘できた。

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