2026 年 34 巻 2 号 p. 10-19
This study aims to characterize age-specific stay clusters and examine their spatial overlap across age groups using GPS data from Tokyo. First, we show that stay clusters with an intensity at least 50 times the average are more than twice as numerous for youths as for working-age adults, while they are almost absent for senior citizens. During the daytime, youths form localized clusters around high schools and universities, adults concentrate in central wards and major urban centers, and senior citizens exhibit dispersed and diverse clusters. Second, on weekday evenings, hotspots of simultaneous stays involving youths emerge mainly around subcenters and railway stations, whereas those involving senior citizens occur around downtown areas and large-scale commercial facilities. In suburban areas, stay clusters and hotspots overlap more strongly, with simultaneous stays centered on adult clusters in business districts and on youth clusters in suburbs. These findings inform age-sensitive living environments and urban revitalization.
デジタル技術の浸透や健康寿命の延伸により,人々の生活スタイルは多様化の一途を辿っている.NHKの国民生活時間調査では,年代により各時間帯の行動内容や生活時間に違いがあることが明らかとなっている(渡辺ら,2021).年代間の生活行動の違いを把握することは重要な社会的課題である.本研究では,年代ごとの都市活動を支える空間的な要素を明らかにすることで,現状における年代ごとの行動特性を一般化し,将来の生活状態を推定する基盤を構築するための基礎的な知見を提供する.Yang et al.(2023)は,人間の行動パターンが二酸化炭素排出,交通需要予測,感染症対策,都市計画上の意思決定に直結することから,年齢を含む社会経済属性がどの程度行動に影響するのかを一般化可能な形で把握する必要性を挙げている.またNiu & Silva(2023)は,高齢層など特定の年代の活動量の過小評価を防ぐ必要があり,年齢に配慮した都市計画上の政策決定を支えるために,空間的な活動格差や空間的な不平等を可視化する重要性を指摘している.こうしたことからも,年代別の滞在パターンの違いを把握する社会的な意義は大きい.特に都市内の滞在場所は,就学・就労環境,移動手段,健康状態などの差異により,年代により異なる傾向を示すと考えられ,これをもとに各地区における年代の特徴を記述することができる.ただし,通勤・通学・買い物などの日常移動により,昼間の活動人口は夜間の居住人口と乖離しうるため,その実態を把握するには,アクティビティベースの分析が必要となる.
一方,近年では歩行者中心のまちづくりにより,中心市街地の活性化や,交通弱者にやさしい市街地の形成を図る動きが活発化している.2020年の都市再生特別措置法改正以降は,「居心地が良く歩きたくなる」まちなかの創出を推進しており,その要素として,Walkable, Eye Level, Diversity, Openの4点が挙げられている(国土交通省,2020).このうち,「歩きたくなる」ことを示すWalkableの観点では,各年代の生活スタイルや嗜好に合わせた歩行空間の整備が重要となる.また,「多様な人の多様な用途,使い方」を示すDiversityの観点では,異なる年代の人々が同時に集まる場所は,よりポテンシャルが高いと考えられる.以上のことから,年代に応じた活動場所の特徴を把握し,政策に反映することが課題と言える.
年代別の活動傾向の違いに関しては,行動地理学の一分野として,従来はアンケート調査をベースに把握が試みられてきた.例えば,亀井ら(2025)は,社会生活基本調査における活動内容をもとに,若年層では家事・買い物時間が減り趣味・娯楽時間が増加している一方,高齢層では家事・買い物時間が増加し,交際時間は全世代で減少していることを示している.移動行動については,Yang et al.(2023)が,年齢を含む社会人口属性によって都市内移動を類型化し,若年層は通学中心,中年層は通勤中心,高年層は非就業・余暇中心の移動を示すことを明らかにしている.そして活動場所については,杉本(2017)が,東京大都市圏における若者の日帰り観光・レジャー行動を分析し,年齢が上がるほど活動時間が昼間から夜間へ拡大し,子どもは郊外の家族向け施設,大学生・社会人は都心部の繁華街や競技場周辺を主な訪問地とすることを明らかにしている.
一方で近年では,様々な交通関連ビッグデータも普及している.これは,スマートフォンなどから取得される,人々の位置情報が把握可能なデータである.このうちGPSデータは,スマートフォンから取得される緯度経度単位の位置情報であり,移動手段を問わず詳細な移動軌跡を時系列で把握することができる.近年では,年代などの個人属性が含まれるデータが一般的となりつつある.
位置情報に基づき年代ごとの活動場所の違いを論じた研究としては,滞在人口と年代多様性を指数化し昼夜別に土地利用との関係を示した西田・佐々木(2023),大都市郊外部ほど年代間の活動場所が分離する傾向を示したZhang et al.(2025),SNS発信データから年代別の時空間的なホットスポットを抽出したNiu & Silva(2023)などが蓄積されている.これらの既往研究は,おもにエリア単位で集計された活動実態に基づいて議論されており,地域ごとの滞在傾向を把握することは可能である.
しかし,こうした集計分析は,周辺環境との関係の中で,特定の地点がどの程度人々を引き付けているのか,すなわちどの年代の人々が相対的に多く,かつ継続的に滞在しているかという局所的な集積状況を捉えることは困難である.都市空間において,多くの人々が長時間滞在する地点は,周辺と比較して都市活動が集中的に行われている重要な場所として位置付けられる.このような相対的・局所的な集積を示す地点を,滞在の面的な密度分布をもとにミクロレベルで特定することは,年代ごとに異なる都市空間の利用実態を踏まえた都市環境の整備や特定年代の偏りの是正,空間利用と生活活動の適正化などの政策立案にあたり必要不可欠である.以上を踏まえ,本研究で扱う課題は,既往研究では次の2点において十分に検討されていないと言える.第一に,GPSデータを用いた年代別の滞在の「集積状況」(集積の場所・強度・時間帯)の違いは,依然として定量的に整理されていない.第二に,異なる年代が「どこで同時に滞在しているのか」あるいは「どこで特定年代に偏っているのか」といった年代間の空間的な関係性は,断片的な事例報告に留まっている.
そこで本研究は,GPSデータから抽出した滞在点に基づき,年代別の滞在集積の時空間分布を,集積場所・集積数・集積強度の観点から記述すること,および年代間の滞在の空間相関を計測し,幅広い年代が同時に滞在する地区や,特定年代に特化した地区の空間的特徴を明らかにすることを目的とする.これにより,各年代に対するWalkableな歩行空間の整備や,多様な年代が利用する市街地(Diversity)の形成に向けた基礎的知見を提供することを目指す.なお,一般的には年代を超えた複数人で行動する場合も多いものの,本研究では年代別の行動をその内訳と捉えて分析することとする.
本研究は,以下の内容で構成される.2章では,使用するGPSデータの概要および前処理の方法について述べる.3章では,カーネル密度推定を活用した滞在集積の抽出手法,および可視化結果に基づく特徴について論じる.4章では,滞在場所の年代間空間相関を定量化し,渋谷区と武蔵野市の2地域に拡大して可視化結果の考察を行う.最後に第5章にて結論および政策的示唆を述べる.
本研究の対象地は島しょ部を除く東京都とする.高密な都心部から郊外部を経て中山間地域へ至るまで,幅広い土地利用および人口密度の地域を有することから選定した.多摩部も含めた理由は,郊外部の方が,都市機能の配置が土地利用ごとに集約される傾向にあり,年代による滞在場所の格差が顕著に現れ,その空間的分布を明らかにする意義が大きいと考えられるためである.
使用するGPSデータは,株式会社Agoopによる2024年4月の『ポイント型流動人口データ』である.ここで既往研究では,人流や歩行者活動はその量だけでなく,空間的・時間的分布が季節や天候,イベントなどの状況要因によって変化することが指摘されている(Eom & Nishihori, 2021).ただし,他の月であっても一般性は担保されないため,本研究では例として4月を使用している.その上で,年度初めにあたる4月は,他の月とは異なる滞在行動が生じている可能性がある.より長期のデータ収集は今後の課題となる.このGPSデータには,全期間を通して固定された個人IDであるUUID,記録日時,緯度経度,水平方向の精度,年代,性別などが含まれる.このうち年代は,19歳以下,20~29歳,30~39歳,40~49歳,50~59歳,60~69歳,70歳以上の7区分である.GPSデータの記録ID数を,NTTドコモの携帯電話基地局データである『モバイル空間統計』と500 mメッシュ単位で比較すると,相関係数は全日で0.726となり,強い相関が確認されている.さらに,既存統計である東京都市圏パーソントリップ(PT)調査の外出人口と年代構成を比較する.PT調査の年齢構成は,国勢調査の居住人口に基づき補正されている(東京都市圏交通計画協議会,2023).一方で,GPSデータのサンプルは特定のスマートフォンアプリの利用者に限られるため,GPSデータの年齢構成は元から偏りが生じている.その上で,GPSデータの滞在は,前後に移動をしていなければ観測されないため,実質的にはPT調査の外出人口と同一基準である.年代別の内訳を表1に表すと,PT調査に比べ,若者や生産年齢の割合が低い.この点は本研究の限界であり,今後は他のデータソースと組み合わせた分析も検討する必要がある.ただし,本研究においては,モバイル空間統計やPT調査と異なり,位置情報を集計せずに点単位で計測可能で,滞在場所をより明確に把握することができるGPSデータを採用している.
2.2 GPSデータの前処理
ここで,GPSデータから滞在点を抽出する.竹内ら(2024)の定義に基づき,水平方向の精度が50 m以内,かつ2点間速度が100 km/h以内のログに絞り込み,半径50 m以内に20分以上連続して留まれば滞在とみなし,滞在中のログの重心を滞在点とする.滞在点の抽出には,Pythonライブラリのscikit-mobility(Pappalardo et al., 2022)を使用する.ただし,滞在がカレンダー上の暦日を1日以上完全に含む,すなわち滞在開始と滞在終了の日付が1日以上開く場合は,その間に都外で活動していた可能性もあるため,分析対象から除外する(図1).これは,長期間の滞在中に,記録はされていないものの東京都外に出ている可能性があり,それによる滞在時間が増加する影響を除外するためである.元データのログは最短1分間隔で取得されているため,最小の滞在時間20分の場合においても,滞在点は最大20個のログで構成される.抽出された滞在点のうち,都内に含まれるものは5,905,498点である.詳細な年代別内訳は表1右列の通りである.

年代別の滞在集積の把握においては,この滞在点におけるカーネル密度推定を行い,同時滞在場所の把握については,100 mメッシュ単位で滞在点数を集計し,後述する2変量局所空間統計量を算出する.
はじめに,カーネル密度推定に基づく滞在集積点の抽出により,年代別の滞在点分布の集中状況を地図上に可視化する.カーネル密度は,各滞在点に滞在時間による重みを付与した上で推定する.カーネル関数はガウス型,バンド幅は100 m,セルサイズは10 m×10 mとする.本研究では,ライフステージの変化に基づき,年代区分を若者(19歳以下),生産年齢(20~59歳),シニア(60歳以上)の3区分とし,各年代においてカーネル密度推定を行う.厚生労働省の「就労条件総合調査」の結果(厚生労働省,2022)によると,定年制を定めている企業における2022年度の定年年齢は,60歳が72.3%と最も高い.本研究では,必ずしも就労の有無で年代を区切ることは意図していないが,60歳以上をシニアとする.本研究のデータは10歳階級であるため,より柔軟な階級区分はデータの充実が望まれる.時間帯は,0~3時,3~6時,・・・,21~0時の3時間間隔とする.
次に,滞在集積点を定義する.推定されたカーネル密度を全域平均に対する倍率に変換し,隣接8近傍との比較により極大セルを抽出する.このうち倍率が10倍以上の極大セルを抽出したものを図2に示す.なお,10倍未満のセルは,土地利用から集積要因を推測することが困難であるほか,サンプルのバランスを考慮して,本研究では極大セルのカーネル密度が平均の10倍を上回る場合に,そのセルの中心を滞在集積点(以下,集積点)と定義する.集積点は極大となっているセルの中心に対して付与され,隣接8近傍のセルと比べてカーネル密度が少なくとも1つのセルと同一またはそれを下回る場合は,集積点は抽出されない.なお,バンド幅は,同一駅付近においても街区レベルで集積点を区別できる値としている.平日・土休日の区別は,滞在開始時の曜日を基準とする.各集積点におけるサンプルの大きさを表す平均滞在点数については,集積点における重み付き滞在点数(点時間)および滞在1回あたり平均滞在時間から算出され,全日の対平均比10倍の集積点における値を表2に示す.これより,特に土休日の若者においては,10倍の集積においては平均滞在点数が平均15.6点であり,サンプルがやや不足している.ただし,1つの滞在点は最小1分間隔のログの集合に基づき形成されているため,実際のログはこれよりも多く,その場合1集積点は平均滞在点数の約200倍前後のログで支えられている.

3.2 滞在集積点の年代別比較
本節では,各年代の滞在集積の場所・数・強度の違いを明らかにするために,各年代・各時間帯の倍率階級別の集積点数,つまり10倍以上の極大セルの個数を表3に,全日における集積点の分布を図3,時間帯別を図4に示す.若者は青色,生産年齢は緑色,シニアは橙色で表示している.はじめに平日の特徴を考察する.若者は,午前中に50倍以上の集積点が特に多く見られ,9~12時には87か所に上る.全日の空間分布では,大学や高校の付近に強い集積が多く集まっており,特に午前中に顕著である.夕方から夜にかけて,他の年代とともに駅付近へ集積する傾向が分かる.生産年齢は,集積点が他年代に比べ少ないものの,10~20倍の集積点は朝,20~50倍は日中に100か所を超え,50倍以上は夕方以降に増加するなど,強度によりピーク時間帯が異なる.日中は,都心三区(千代田区,中央区,港区)や主要駅付近への集積が顕著である.シニアは,20~50倍は9~18時に100か所を超える一方,50倍以上は全時間帯とも1桁台であり,滞在集積が小規模・分散する傾向がある.生産年齢と異なり夜になると減少する.次に土休日について考察する.若者は,15時以前の日中は50倍以上の集積点が平日よりも少ない一方,15時以降は平日よりも多くなる.空間分布では,時間帯が遅くなるにつれて,主要な繁華街付近の滞在集積の強度が高くなる傾向が見られる.平日は日中に教育施設,土休日は午後以降に商業地に集中する行動パターンが表れていると考えられる.生産年齢は,50倍以上集積点は12~18時に平日よりも増加する一方,20~50倍の集積点は平日の半数程度となる.空間分布より,平日は主に区部に点在する事務所,土休日は限られた商業地に人々が集積する傾向がある.特に,土休日に集積強度が高くなる主要駅付近では,他の年代の集積点も存在している傾向があり,複数年代のグループで来訪している可能性も考えられる.シニアは,10~20倍の集積点は平日よりも増加する一方,20倍以上の集積点は減少し,郊外の住宅地域にも集積点が分布するなど,滞在場所が多様化する.


また,場所に着目すると,都心部に加え,多摩部の立川,府中,国分寺,吉祥寺などの拠点では多様な年代の集積点が集まる一方,多摩センターなど一部の拠点では生産年齢のみ集積点が存在し,生産年齢に特化している.このように,場所により滞在者の傾向は異なる.
3.3 土地利用用途との関連性本節では,各時間帯における各年代の滞在増加に関係する土地利用用途を把握するために,土地利用用途との関連性分析を行う.本研究では,東京都都市整備局のオープンデータである『土地利用現況調査GISデータ』(2021年区部,2022年多摩部)を使用し,各集積点のバンド幅(100 m)圏内にある建物の用途別延床面積を集計する.そして,各集積点周辺における建物用途の構成割合を時間帯別・年代別に比較する.
図5は,年代別・時間帯別・集積強度別に,集積点100 m圏内の建物用途別延床面積の内訳を表している.平日は,若者は朝~昼の倍率が高い集積点ほど教育施設の割合が高く,高校や大学が主要な集積場所となっている,50倍以上の18~21時は商業施設が中心であり,塾や飲食店などでの集積へ移行すると考えられる.生産年齢は,日中は50倍以上の集積点の8割以上が事務所で,深夜帯は宿泊施設や遊興施設が増加する.集積点周辺の用途は,概ね商業系である.シニアは,20~50倍で午後の早い時間帯から事務所割合が減少しており,集積場所の移行のタイミングにばらつきがあることが推察される.土休日は,いずれの年代も商業施設への集積が中心で,特に生産年齢は最も夜遅くまで活動的であることが分かる.シニアは,午前中から夕方は商業施設の割合が生産年齢と同程度である一方,夜は集合住宅の割合が増加することから,日中は生産年齢,深夜は若者と似た傾向を持つと言える.このように,時間帯別の活動内容は,滞在する土地利用の観点でも年代により異なる.4章では,若者の商業地滞在が増加する平日18~21時を取り上げて,年代間相関を考察する.

本節では,異なる年代間の滞在場所の空間的な相関を計測し,同時に滞在が行われる場所や,特定の年代に滞在が偏っている場所の特徴を明らかにする.地域別に空間的な相関関係を測る手法として,局所空間統計量(LISA)が挙げられる.本研究では,年代間の空間相関を2変量ローカル・モラン統計量により分析する.これにより,ある年代を基準として,別の年代がその周辺にどの程度滞在しているか明らかにすることができる.
地区iにおける年代Xの時間重み付き滞在点数xiと,地区iの周辺地区j(i≠j)における年代Yにおける時間重み付き滞在点数yjの2変量ローカル・モラン統計量 \( I_{xy}^{i} \) は(1)式の通り表される(Anselin et al., 2002).ただし,\( \bar{x} \) は全メッシュの年代Xの時間重み付き滞在点数の平均値である.
| \[ I_{xy}^{i} = \frac{\Big( x_{i} - \overline{x} \Big)\sum_{j}^{}{w_{ij}\Big( y_{j} - \overline{y} \Big)}}{\sqrt{\frac{1}{n}\sum_{i}^{}\Big( x_{i} - \overline{x} \Big)^{2}}\sqrt{\frac{1}{n}\sum_{j}^{}\Big( y_{j} - \overline{y} \Big)^{2}\ }} \tag{1}\] |
空間ウェイトwijは,メッシュi,jの中心間直線距離dijを用いて,(2)式で与える.本研究では,連続空間上の距離減衰を表現し,近いメッシュほど強い重みをつけることを意図し,指数型の減衰関数を採用している.
| \[ w_{ij} = \exp( -d_{ij}/{r} ) \tag{2}\] |
集計単位は100 mメッシュ,r=50,空間ウェイトの算出上限は1 kmとする.ここで,2変量ローカル・モラン統計量 \( I_{xy}^{i} \) については,「年代Xにおける滞在からその周辺地区における年代Yの滞在に対して空間相関が存在しない」という帰無仮説を立て,標準正規分布を仮定してその有意性を評価する.\( I_{xy}^{i} \) が5%有意である地区を,その地区の年代Xと,周辺の地区の年代Yの滞在点数の大小関係から,HH(High-High),HL(High-Low),LH(Low-High),LL(Low-Low)の4種類に類型化する.これにより,年代Xから年代Yに対してのホットスポット,コールドスポット,年代Xに特化した地区,比較年代Yに特化した地区の空間分布を明らかにする.
4.2 年代間相関の分布本節では,3章の結果に基づき,サンプルの多い平日で業務や学業以外の活動が多く含まれると考えられる18~21時を例に,異なる年代が同時に滞在している場所を抽出するために,2変量ローカル・モラン統計量に基づくLISAクラスタ地図を年代間別に作成した(図6).行方向は基準となる年代,列方向はその周辺に分布する比較対象の年代を表す.左上,中央,右下は同年代間の自己相関,それ以外は異なる年代間の2変量相関を表す.HHは,基準年代・比較年代ともに高密な地区であり,年代間の同時滞在が顕著な地区である.HLは基準年代が高密な一方,比較年代は低密,LHは基準年代が低密な一方,比較年代が高密であり,それぞれ片方の年代に特化した地区である.LLは,両年代とも低密な地区である.

若者と生産年齢は,若者基準では副都心(池袋・新宿・渋谷)や吉祥寺,立川,八王子駅付近などの主要駅付近でHHの大きな集積が見られ,両年代の同時滞在が活発と考えられる.また,HHの外側はLHで囲まれ,生産年齢のほうが若者よりも滞在範囲が広い傾向がある.生産年齢基準では,歓楽街のある台東区千束や物流施設のある江東区新砂,市場のある大田区東海などではHLであり,生産年齢に特化していると言える.若者とシニアは,HHは副都心や鉄道駅,商業施設付近が中心であるものの,他の年代間に比べ郊外部のHHが主要駅付近に偏る傾向がある.また,若者に対するシニアの分布でLHが多いことから,シニアのほうが若者よりも小規模で分散して滞在していることが示唆される.生産年齢とシニアの間では,HHが浅草や錦糸町などの下町に多く分布し,多摩部では大型商業施設付近に多いことが特筆される.
4.3 滞在集積点と年代間相関の関係最後に,集積点と2変量LISAクラスタの関係を市区町村レベルで考察する.図7は,4.2節と同時点における(a)渋谷区と(b)武蔵野市における集積点とLISAクラスタの分布である.集積点は,基準となる年代を○印,比較対象の年代を△印で表す.渋谷区は,多様な形態の商業地が分布しており,人々の来訪目的も多様であると考えられることから選定した.若者の最大の集積点は渋谷駅西側に位置し,全年代に対してその周囲にHHが形成されている.他の年代よりも集積点を中心にHHが広がり,若者の滞在集積が他の年代に対しても地区の中心である傾向がある.一方,原宿周辺には若者の集積点は存在するもののシニアは存在せず,若者×シニアのHHも限定的であることから,若者中心の街と特徴づけられる.逆に,NHK放送センター付近には若者の集積点が見られず,若者を含む組合せではLHも混在する一方,生産年齢とシニアでは集積点が存在し互いにHHとなっていることから,生産年齢からシニア中心の地区と特徴づけられる.従業者に加え,併設する文化施設による影響と考えられる.全年代間における幡ヶ谷や初台,シニアに対する代官山などのHHには10倍未満の極大が含まれ,集積点のあるHHよりもローカルな同時滞在場所と解釈できる.武蔵野市は,吉祥寺駅周辺の商業地から,郊外の文教地区や住宅地域まで幅広い土地利用を含むことから選定した.集積点とHHの位置は概ね一致し,JR中央線沿線の3駅付近にHHが集中している.吉祥寺駅や武蔵境駅付近など,両年代の集積点がともに含まれるHHは,他のHHよりも広範囲に及ぶ.また,シニア×若者におけるLHには,若者の集積点のみ存在する学生寮付近が含まれる.他の年代ではこうした事例は見られず,若年層は他年代の密度が相対的に低い場所でも集積点を形成しうることが示唆される.また,対生産年齢では,駅付近から周辺にかけてHH,LHの順に推移する.駅付近では多様な土地利用が混在しているために,あらゆる年代の人々にとって魅力的な施設が存在し,離れるほど土地利用用途や施設の多様性が限定され,特定の年代に特化するようになると考えられる.これらの滞在年代の同時性や偏りは,各市街地の特徴を反映していると考えられる.

本研究では,東京都を対象に,GPSデータから各年代の滞在の空間的な集積状況を比較した後,年代間の滞在場所の空間的相関を分析し,以下の点を明らかにした.
第一に,対平均倍率50倍以上の集積点は,生産年齢(平日全日2か所,土休日全日3か所)に対して,若者は倍以上である一方(平日全日11か所,土休日全日6か所),シニアはほぼ存在しない(平日全日1か所,土休日全日0か所).また,日中の若者は広範囲の高校や大学に局所的に集積し,生産年齢は都心区や主要拠点付近に分布する一方,シニアは分散・多様化する傾向がある.
第二に,平日夕方には,若者を含む年代間における同時滞在のホットスポットは副都心や鉄道駅周辺,シニアを含む年代間のホットスポットは下町や大型商業施設付近に多く見られる.また,郊外部ほど集積点とホットスポットが重なり,業務地区では生産年齢,郊外部では若者ほど,集積点を中心に年代間で同時滞在の傾向があることなど,年代間の同時滞在場所の特徴を明らかにした.
以上より,年代別の生活環境創出に向けた政策的な方向性を以下の通り提示する.若者は,土休日においては,商業地の中でも集積が局所的であることから,SNSなどの外部情報により滞在先を決定している可能性が示唆される.よって,市街地の活性化に向けては,SNSによる情報発信,話題を集めるユニークな仕掛けの整備などが有効となる可能性がある.生産年齢は,拠点周辺に集積し,他の年代との同時滞在が多いことから,多様な都市機能が混合した地区に来訪し,利便性や効率性を重視する傾向があると推察される.よって,市街地内部の動線改良や,他の年代の利用も想定した多様な都市機能の集約が重要と考えられる.シニアは,集積が小規模・分散し,滞在範囲が狭い傾向から,日常生活圏や習慣により滞在場所を決定している可能性が考えられる.よって,身近な生活圏の歩行環境の整備や,公共交通のアクセス性向上が課題と言える.
本研究の限界として,まずサンプルの不足が挙げられる.特に若者とシニアに関しては,特定の少数のUUIDにより滞在集積が検出されている可能性も考えられるため,他のデータソースに基づくキャリブレーションや,長期間のデータを用いた分析を行うことが課題となる.特に多摩部ではサンプル不足により抽出されていない滞在集積もあると考えられるが,より抽出率の高いデータが整備されれば,本研究の手法は汎用的となり得る.また,現在の若者・生産年齢・シニアの3区分では,各年代区分の中の行動の多様性を考慮できない.よって,十分なサンプルが確保されれば,年代区分を細分化し,よりピンポイントの年代別特性を把握することが課題となる.加えて,居住地や性別など,他の個人属性の考慮も今後の課題となる.さらに,施設立地に基づく場所の特性に応じた年代別滞在量の差異の定量化や,余暇活動に限定した分析,広域的な活動場所把握のための東京都外への適用などが今後の課題として残されている.
本研究は,大林財団,JSPS科研費(JP25K01455),筑波大学社会工学データバンクによる助成,筑波大学トヨタ自動車共同研究の支援を受けた.また本研究は東京大学CSIS共同研究No.1246の成果の一部である.