抄録
熱によってがんを治療する試みの歴史は古く, その起源は古代エジプトまでさかのぼる. しかしながら, 温熱に関する細胞生物学が発展してきたのは1970年代以降であり, さらに温熱による分子レベルの研究が進んできたのは最近のことである. 生体にとってわずかな温度上昇が大きな生物作用を示す. 温度上昇によるタンパク質や生体膜の構造及び機能変化は酵素活性を変え, 細胞内代謝に影響し, DNA鎖切断も誘発する. 細胞内での酸化ストレスは遺伝子制御された細胞死であるアポトーシスの一因となる. 温熱のがん治療への利用では, 放射線や抗がん剤との併用が多い. その際に, 温熱誘発細胞死をどのように薬剤が増強するか, あるいは細胞致死性の薬剤効果をどのように毒性のない温度が増強するかを考慮することが重要である. 本稿では, アポトーシスに焦点をあて, 温熱誘発アポトーシスの薬剤による増強と薬剤によるアポトーシスの温熱による増強について述べる.