THINK Lobbyジャーナル
Online ISSN : 2758-6162
Print ISSN : 2758-593X
巻頭挨拶
市民社会シンクタンクの挑戦
すべての人々が自由に行き交い、議論できるロビーを目指して
若林 秀樹
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2023 年 1 巻 p. 1-2

詳細

2022年4月、多くの関係者とのヒアリング、様々な角度からの議論を経て、JANIC内のアドボカシー能力を抜本的に強化すべく、シンクタンク機能を持った部門として、THINK Lobbyが設立されました。もともとネットワーク団体としてJANICを設立した目的の1つが、国際協力等に関する政策提言でした。シンクタンク設立は、35年の歴史が導き出した1つの結論であったと思います。

アメリカ政治に見る政策ダイナミズム

シンクタンクとは、ペンシルバニア大学の定義1)によれば、「国内外の課題について、政策を中心としたリサーチ、分析と提言を行う、公共政策に関わる調査研究所であり、政策決定者や政府に対して、提言した政策決定を促すものであり、(政府等の審議会とは違って)永続的な組織の形をとるもの」とあります。私としては、それぞれの分野について研究成果を蓄積する、という学術的な場所であると共に、その成果を、社会を変えるためにどう活用できるのか、というつなぎ役を担うのがシンクタンクだと考えています。そこに市民一人ひとりがどのように関われるかが、このTHINK Lobbyの役割であり、チャレンジであると思っています。

JANICの政策提言活動は、ネットワークNGOとして最も重要な役割の1つですが、その活動自体が収益を生めるものではなかったが故に、多くのリソースを割けず、結果として、皆様の期待に応えるほどの成果を出せたかどうか疑問でした。

シンクタンクを設立したいと思った原点は、今から30年前の1993年4月、米国の首都、ワシントンDCにある日本大使館の外交官として着任した時にさかのぼります。丁度、共和党から民主党のクリントン政権に代わり、シンクタンクや大学などから、新たな政策を掲げて閣僚や幹部等が政権の中枢に入り、社会が変わっていく姿を日々、目の当たりにしました。

政権には、シンクタンクや民間団体等から、一説では4千名の政権幹部が入れ替わるとされています。アメリカならではの「リボルビングドアー(人材が流動的に行き来するシステム)」にも関係しますが、政権交代のダイナミズムの背景には、社会に蓄積された政策の存在を忘れてはなりません。

政治・政策から遠ざかってしまった市民

あのクリントン政権から30年、日本はどうなったでしょうか。当時、日本は経済的には世界のトップレベルに躍りでましたが、その後、追いかけるモデルが消滅し、自らの問題点を客観的に分析し、進むべき方向性を見出すことができなかったと思っています。その結果、男女格差等の日本の旧態依然とした社会構造にメスが入れられず、経済の長期弱体化が続き、今日に至っています。

そしてもう1つ、シンクタンク設立の想いは、日本が戦後の高度成長を達成する過程で、市民が政治や政策から遠ざかってしまったことです。つまり、人々は一生懸命働いて物質的な豊かさを一定程度得ることはできましたが、それに反比例するかのように、政治は自民党、政策は官僚に任せておけばいいという風潮が社会に固定化し、一人一人が社会を変えようとする意識が薄くなってしまったことです。

その結果、国際的な意識調査結果でも、日本の若者が社会の変革に携わりたいかどうかという問い2)に対して、米、英、韓国では30%前後以上なのに対し、日本はわずか10%と低い傾向が表れています。この状況を我々はどう変えていけるのでしょうか。

THINK Lobbyは、市民の目線に立った情報発信と調査研究活動を推進していきます

THINK Lobby設立の目的は、国際人権基準等の国際的な規範の普及、民主主義等の普遍的価値の追求、調査研究・政策提言、情報発信等によって市民の諸活動を後押しし、JANICの理念である「平和で公正で持続可能な世界」を実現することです。その際、大事にしたい価値は、市民の視点に立ち、独立したシンクタンクとしての位置付けを保持し、国内外の市民社会セクターのみならず、政府、企業、労組、大学、財団等様々なセクターと連携(ネットワーク型)し、THINK(調査・研究)と共に、市民と共にDO(社会実装)を目指すことです。

THINK Lobbyでは、社会の課題を解決するための政策のあり方について、市民が、的確な情報とデータを得て検証・分析し、多種多様なステークホルダー(関係者)の声やアイデアを盛り込み、政府や社会に広く提案する力を持ち、社会を変えたいという願いが実現できる、そんな場にしていきたいと思っています。

そのためには、政策への入り口として、市民の目線に立ったわかりやすい情報発信、市民が議論に気軽に参加できる場(イベントやキャンペーン、ウェブサイトやSNS等を通じた、コミュニケーションの場)をつくります。一方で専門的な調査・研究も行い、科学的な裏付けのある政策の提言を行っていきたいと考えています。すでに調査・研究活動としては、公正な社会に向けた企業の役割、アジアにおける民主主義等をテーマとするプロジェクトをスタートさせ、様々な情報発信、イベントの開催を行っています。まだまだよちよち歩きですが、皆さんと共に力強く一歩一歩、歩んでいきたいと思っています。是非、ウェブサイトhttps://thinklobby.org/をご覧いただき、毎週必ず発信しているメルマガへのご登録もお願いします。今後ともよろしくお願いいたします。

脚注
 
© 特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター
feedback
Top