2023 年 1 巻 p. 71-72
「第7回国際会議:アジアにおける表現の自由」(7th International Conference: Freedom of Expression in Asia)がアジアセンター(Asia Centre)などにより、対面で2022年8月24日から8月26日の3日間タイ・バンコクのラディソン・プラザホテルで開催された。筆者はJANICの依頼により報告者として参加した。
本会議は、市民社会による行動を通してアジアにおける表現の自由に関する理解を強化し、ASEAN各国政府に対する政策提言を行うことを目的としている。会議には会場に約80名、オンラインで20名の参加者があり、アジアの表現の自由に関する活発な議論が行われ、参加者から各国の具体的な事例が紹介された。
最初に、会議の全体的な印象を3点挙げたい。第1に本会議が、アジアセンターをはじめ16のパートナーによって開催されたことだ。16のパートナーは、フリードリッヒ・ナウマン財団、バングラデシュ図書館芸術大学、カナダの国際開発研究センター(IDRC)、在タイのスイス大使館、日本のJANIC、大阪大学、九州大学、民間企業のグーグルなどである。このように多くの民間団体、NGO、教育研究機関が参加したことは、グローバル市民社会が連携してアジアの民主主義と表現の自由を守ろうという意思を示している。
Asia Centreのジェイムズ・ゴメズ地域ディレクターによる冒頭挨拶
第2は、アジア各国の参加者から、16の事例が報告されたことだ。多くの国々で民主主義の自由が脅かされている中で、表現の自由の権利を擁護する市民社会の活動・課題・対応を知ることができた。例えば「タイの女性の人権擁護者たち」「タイの表現の自由」「バングラデシュの表現の自由」「インドネシアのデジタルリテラシー、偽情報、ジェンダー情報」「カンボジアのメディアの学術調査に対する自由」「日本と韓国の表現の自由」など、国別・分野別の多様な研究・活動報告があった。この他、情報のアクセスと表現の自由、メディアの自由、プラットフォームガバナンス、ヘイトスピーチ、法的枠組みの検討などが報告され、アジアセンターなどの報告書“Internet Freedom in Thailand”では、タイにおけるインターネットの自由に影響を与える法律をレビューし、コンピューター犯罪法、サイバーセキュリティー法、などの規定を分析したことが報告された。
第3に、日本の事例が紹介されたことも興味深い。JANIC、九州大学、大阪大学は主催団体として登録され、九州大学の大賀哲氏は韓国の研究機関と共に 「日本と韓国の表現の自由」のパネル報告を行い、大阪大学の望月太郎氏はパネル「表現の自由の哲学的考察」において、「ジョーク、皮肉と表現の自由」という題目で、沖縄の玉城知事の発言と朝日新聞の川柳の事例を報告した。法政大学の坂本旬氏 はパネル「表現の自由の制約」において、「日本のメディアリテラシーの傾向と偽情報の問題」という題目で、最近の日本の事例を紹介し、メディアリテラシーと偽情報に対抗するプラットフォームなど新しいリテラシーの動きついて報告した。
次に、筆者が参加したJANICのパネル5の報告を紹介する。8月25日午後パネル5「変化した文脈における表現の自由を推進する市民社会組織(CSOs)の役割」では、ネパールのGopal Krishna Siwakoti氏(INHURED International)の進行で、 筆者を含め3人が報告した。
まず、タイのLaddawan Tantivitayapitak氏(Union for Civil Liberty Association)の「表現の自由」についての報告では、「表現の自由は公正と友愛なしには成立しない」とし、表現の自由に対する戦いの5つの障壁として①規範、価値、②経済、③グローバリゼーションの支配、④デジタル世界、⑤政治的論争を挙げた。特に⑤政治的論争では、タイの政治を事例に、緊急事態宣言、NPO法案、コンピューター犯罪法、タイの強制犯罪法112条と116条による告発の事例が紹介された。
続く筆者の「日本の現状と政策提言」報告においては、近年日本政府により、民主主義や表現の自由を危うくする秘密保護法や共謀罪法が制定されたことに対して、国際協力分野のネットワークNGOで構成するネットワーク組織NANCiS(市民社会スペースNGOアクションネットワーク)などが設立された動きを紹介した。また、政策提言としてJANICが翻訳した「市民憲章」の表現の自由に関する市民権利や、JANICが新しく設立したシンクタンクTHINK Lobbyによる「東京民主主義フォーラム2022」の行動のための10の宣言についても報告した。
3番目のGopal Krishna Siwakoti氏による「選挙における表現の自由」についての報告では、民主的政府における選挙の基準、自由に関する国際的基準、公正と反差別、自己決定の権利、選挙の自由のための人権の基準など、選挙における表現の自由と選択の自由のための重要なポイントが指摘された。
国際会議参加者全体の様子
今回は 筆者にとって2年半ぶりの海外出張、3年ぶりのタイ・バンコク訪問であった。対面で国際会議を行う意義、アジアの表現の自由、特に、デジタルリテラシーを協議する重要性を再認識した。さらに、来年2023年8月23日から25日までアジアセンターとチェンマイ大学なとの主催により「第8回国際会議:アジアの民主主義と選挙」がバンコクで開催される予定であることを付け加えておく。