THINK Lobbyジャーナル
Online ISSN : 2758-6162
Print ISSN : 2758-593X
調査報告
複合危機下の国際協力
-保健分野を含めて-
中嶋 秀昭
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 2 巻 p. 49-59

詳細
Abstract

The World has confronted numerous humanitarian crises, including the Myanmar Coup, conflicts in Ukraine and between Israel and Palestine, earthquakes in Turkey, Syria, Morocco, and Afghanistan, and floods in Libya. They have resulted in large-scale damage to human lives and livelihoods, exacerbated by damage continued and accumulated from other human-made disasters in the affected areas. Concurrently, at the global level, we are also threatened by climate change at a slow onset but also as an imminent risk.

These crises have brought about significant consequences for human health. Among the notable global disasters is the COVID-19 pandemic. Although its exact origin is unknown, the cause of viruses, including an endemic Ebola, is ostensibly the increasing interaction between humans and animals as the host of those viruses1). Besides, it is expected that climate change will lead to the increase and spread of infectious diseases.

What actions can be taken in response to these challenges? From a political angle, the world is being polarized into “democratic” and “authoritarian” nations, with countries in the “Global South,” prone to and most affected by crises, lying in between them. Both “groups” actively try to influence as many countries as possible from the “Global South” to win their respective positions. Meanwhile, the Japanese government amended its Official Development Assistance (ODA) Charter as a national security assurance tool.

In this study, I have introduced the recent crises’ details and background and analyzed their consequences and risks, including health. I then suggested the duties of the civil society I belong to, including influencing the international community and the Japanese government in collaboration with other stakeholders.

はじめに

近年、人道危機が頻発している。具体的にはミャンマーでのクーデター後の人道危機、ウクライナ紛争、トルコ・シリア震災、モロッコ震災、リビア洪水、アフガニスタン震災、イスラエル・ガザ紛争が挙げられるが、これらの被害は突発的なものに留まらず、従来の紛争等による被害と重層的なものとなっている。他方、グローバルには気候変動という増幅的な危機も存在する。

以上は人々の命、健康にも一時的および長期的な影響を及ぼしている。上述以外の顕著な危機として新型コロナウィルスの世界的蔓延(パンデミック)が挙げられる。この起源は不明であるものの、他に国際的にパニックを引き起こしたエボラウィルス等を含めて、ウィルスの宿主である動物との接触が開発の進展により増加したこと2)が疑われる3)。さらに、気候変動は感染症の増大・拡大要因となると予測されている。

このような現状に対して国際協力はどのようにあるべきか?世界では「民主主義国」と「権威主義国」の分断が深化するとともに、人道危機が起こりやすく、これらの影響を最も甚大に被りやすい「グローバルサウス」の国々が両「陣営」の狭間におり、両陣営がこの国々を取り込むための競争を繰り広げている。この中で「民主主義陣営」に属する日本の態度としては2023年に改定された開発協力大綱4)にあるように、支柱として「安全保障上の国益」を従来に増して前面に出し、政府開発援助(official development assistance(ODA))を含む開発援助を、これを実現するためのツールと位置付けている。

本稿では現行および将来的な人道危機の内容や背景、関連動向について述べ、保健分野を含む人道危機の保健への影響やリスク等を論考する。その上で国際協力においてステークホルダーの一つで、筆者も所属する市民社会が何をなすべきか、また、国際社会や日本政府にいかに影響を与えられるのかを考察する。

Ⅰ 複合する危機

1 近年の人道危機

冒頭に挙げた人道危機の詳細を記載する。

表1:近年の人道危機

危機 ミャンマー人道危機 ウクライナ紛争 トルコ・シリア震災 リビア洪水 モロッコ震災 アフガニスタン震災 イスラエル・ガザ紛争
発生日 2021年2月1日 2022年2月24日 2023年2月6日 2023年9月11日 2023年9月12日 2023年10月7日 2023年10月7日
被害者数5)

・死 者:4,1556)

・近隣諸国への避難民:106,3037)

・国内避難民:200万8)

・監禁されている人々:19,6169)

・近隣諸国への難民:580万10)

・国内避難民:367万11)

・死 者:9,70112)

・負傷者:17,74813)

・死者(トルコ):18,34214)

・死者(シリア):5,02515)

・負傷者(トルコ):74,24216)

・負傷者(シリア):9,50117)

・死 者:4,34518)

・行方不明者:8,50019)

・避難者:43,40020)

・死 者:2,49721)

・負傷者:2,47622)

死者:2,000以上(大半が女性と子ども)23)

(2023年11月19日現在)

・死者(イスラエル):1,200以上24)

・死者(ガザ):11,07825)

・負傷者(イスラエル):約5,00026)

・負傷者(ガザ):27,49027)

・避難者(ガザ):160万28)

支援に関する概要 軍によりアクセスが著しく制限され、国際社会による効果的な支援が実施できていない

・1,760万人に人道支援が必要29)

・うち1,110万人を対象とし、830万人に支援を提供。39億ドルの必要な資金に対して半分程度の20億ドルが集まっている30)

・トルコでは1,500万人が直接的・間接的に被災31)

・シリアでは1,087万人が直接的・間接的に被災32)

・シリアでは290万人の紛争による避難民を含む410万人に支援が必要33)

・25万人が被災。うち15万6千人に支援を提供34)

・7,140万ドルの必要な資金に対して半分未満の3,210万ドルが集まっている35)

海外からの支援については英国、カタール、スペイン、アラブ首長国連邦のみに門戸を開いている

・4万人以上が被災。WFP、ユニセフ等の国連機関等が支援を行っている36)

・必要な資金:1,440万ドル37)

ガザに限定された量の人道支援物資が入った。ただ、恒常的な「人道回廊」設置は未定

(1) 医療施設への攻撃数

(2) 損傷した医療施設数

(1) 1,04438)

(1) 1,15739)

(2) 53440)

(2) 15(トルコ)・48(シリア)41)

(1) 9442)

(2) 1643)

※他にスーダンやイエメン、ティグレイ(エチオピア)、ナゴルノ・カラバフにおける紛争があるが、人為的危機と自然災害の双方を限られた紙幅で羅列するためにこれらを省略した。

従前の危機に上述の引き続く人道危機が加わり、これらに対して支援の資源が逼迫している44)。これらの危機に対しても必要な資金の半分ほどしか集まっていない場合が多く、急性の危機のみならず、継続している危機(protracted crisis)への資金充足も芳しくない。たとえば、筆者が従事しているロヒンギャ難民支援については国際社会に要請している額の40%しか集まっていない45)。WFPは難民一人1ヶ月当たり12ドルの食糧援助を行っていたが、現在、これが8ドルに減らされている46)

上述した最近の人道危機の背景には次に挙げるように従前の危機が存在し、人々を二重・三重の困難に陥れている。

●ミャンマー

長期にわたる軍部による支配。少数民族武装勢力との衝突

●ウクライナ

2014年のロシアによるクリミア侵攻

●シリア

2011年以来の内戦

●リビア

2011年のカダフィ政権の崩壊47)後の地域の分断、二重権力体制(※首都トリポリに所在する国際的に承認された政府と上記危機発生地である東部の反政府勢力との分断体制)

●アフガニスタン

2001年に米国主導でタリバン政権が崩壊したものの、その後、米国を中心とする国際連合軍・アフガニスタン国軍とタリバンとの間での戦闘や、後者によるテロ攻撃、前者による市民への暴力により2万人近くが犠牲となり、3万5千人以上が負傷48)。2021年にタリバン勢力が再び実効支配。女性の中等・高等教育や就労を認めないという、特に女性に対する抑圧的な政策を実施している

●イスラエル・ガザ(パレスチナ)

約70年間にわたるイスラエルによるパレスチナ占領・封鎖、一方的入植、人権侵害・国際人道法違反行為

現時点(2023年10月時点)で、世界で23人に1人が人道支援を必要としており49)、2023年6月時点で世界人口の73人に1人以上に当たる1億1千万人が紛争や迫害により避難を余儀なくされている50)。前年(2022年)末からは160万人増加し、2023年6月から9月までの3ヶ月間でさらに400万人増加したと予測されている51)。そして、こうした人々の10人のうち9人が低・中所得国に滞在している52)

2 グローバルな危機

グローバルな危機としては気候変動が挙げられる。グテーレス国連事務総長は「地球は沸騰化の時代に入った」と述べた53)が、気候変動は温暖化、これによる自然災害の増加、海面上昇、旱魃(かんばつ)の増加、これらによる水・食料不足(食料生産の低下)、衛生環境の悪化、栄養不足、蚊等の生息域の拡大によるマラリア等人々の健康への悪影響、貧困や避難民の増加等をもたらす54)。こうした危機は人道危機に見舞われている、また、見舞われるリスクが大きい途上国のみならず、従来、存在しなかった感染症の勃興・蔓延や移民の流入等がもたらされ得る経済的に豊かな国々を含めて全世界にとってのリスクである。ある研究55)によると、2000年から2019年の間に気温変動によって年間500万人が死亡したという。また、世界で平均5%の経済的損失に繋がるとも試算されている56)。筆者が所属するNGOも気候変動と保健にかかる取り組みを本格化させるところである。

気候変動の主要因は化石燃料を用いた発電、工業生産(これを支える消費を含む)、森林伐採等である57)が、人道危機として先に挙げた紛争やこれを支える軍事インフラもこれを助長している58)

3 SDGsは達成されるのか?

持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、SDGs)は、2030年までに持続可能な世界を目指す目標である59)。2015年に達成期限を迎えた途上国の貧困削減目標であるミレニアム開発目標(Millennium Development Goals、MDGs)に対して、先進国や企業、大学・研究機関、市民社会等のさまざまなアクターを含めて「誰一人取り残さない」としている。

2023年の報告では、気候変動の影響、ウクライナ紛争、グローバル経済の弱体化、新型コロナウィルス蔓延によりSDGsの進捗は全世界的に鈍化しており、貧困層・脆弱層の人々が影響を最も大きく受けていると述べる60)。引き続く上記の危機はさらにSDGsの進捗を阻害する要因となると懸念される。

Ⅱ 複合する危機の保健への影響

1 緊急的危機

引き続く近年の人道危機においても多くの人々の生命が失われ、多くの人々が犠牲となっている。こうした危機が発生する国々の多くにおいては元来、保健システム61)が脆弱で、危機は攻撃による施設破壊、従事者の被災・避難、交通網の寸断や人々の不安・恐怖による施設へのアクセスの低下、資機材・薬剤のサプライチェーンの機能不全をもたらし、負傷した人々の治療を遅らせ、その能力を低下させて、さらなる人々の生命を奪い、障害を負わざるを得ない人々を生み出す。また、被災者・被害者の精神的トラウマも甚大なものである。

表1に医療施設への攻撃数および損傷した医療施設数を挙げたが、これは保健システムを弱体化、最悪な場合には崩壊させる。医療施設への攻撃は国際人道法違反行為であるが、2022年には世界中で計1,572件の攻撃があった62)

2 忍び寄る(slow onsetな)危機

私達の多くが感染し、記憶にまだ新しい新型コロナウィルスは、「公衆衛生上の危機(public health emergency of international concern (PHEIC))」ではなくなった63)ものの、いまだ世界的な蔓延状態(パンデミック)にあり、これまでに世界中で700万人近くの命を奪ってきた64)

新型コロナウィルスの起源は不明であるものの、他に国際的にパニックを引き起こしたエボラウィルス等を含めて、背景には開発(森林伐採、都市化、観光、野生動物取引等)の進展によるウィルスの宿主である動物との接触の増加が疑われる65)

感染症の発生頻度増加や発生域拡大にはすでに挙げたグローバルな危機である気候変動も関連し、たとえば温暖化によってマラリアを媒介する蚊の生息域が拡大すると予測されている66)。気候変動は暴風、豪雨、旱魃等の頻度を増加させ、規模を拡大させ、海面上昇を招き、衛生状況を悪化させ、これによる感染症の発生・拡大を起こし得る。また、自然災害は農業生産に影響を与え、多くの人々を栄養不足に陥らせ、疾病を蔓延させ得る。そして、自然災害による人々の移動が入植、森林伐採、農地開拓・拡大等を通じた開発域拡大に繋がり、野生動物との接触機会を増加させ、新たな感染症を生み、伝播させ得る。新しいパンデミックを起こしかねない67)。他方、従来の感染症でも結核により世界中で新型コロナウィルスによる死者数に次ぐ年間160万人が亡くなっており68)、下痢症でも同規模の数の人々が犠牲となっている69)。気候変動による状況悪化も鑑み、さらなる保健システム強化、衛生・栄養状況の改善支援が必要である。また、気候変動による衛生環境悪化、農地の縮小、居住可能域の縮小は「環境難民・避難民」を生み、大きなグローバルレベルの人道危機となる。このようにさまざまな事態・側面が連関し、総合的に悪化する、悪循環が発生する・継続するリスクが大きい。

気候変動は人為的にもたらされるものであるが、こうした人為的自然環境破壊の人間を始めとする生物の健康への影響や、これらの連関を考え、研究し、さまざまなステークホルダーが協働して事態の打開を目指す「プラネタリーヘルス(Planetary Health)」という考え方・学問領域が生まれている70)。これはSDGs達成を目指していくことと軌を一にすることに他ならない。

Ⅲ 危機と政治

Ⅰ-1に述べたように政治が人道危機の発端であったり、これを深刻化・複雑化させたりしている要素が大きい。たとえば、直近の人道危機であるイスラエル・ガザ紛争については、長年にわたるイスラエルによる圧倒的軍事力・経済力を背景としたガザ(パレスチナ)占領・封鎖、ここへの一方的入植、殺害を含む人権侵害・国際人道法違反行為の積み重ねの結果、起こっている。これに国際政治が絡み、米国・英国等はイスラエルによる「テロとの戦い」(大規模空爆)を一方的に支持し、2024年1月現在、双方の停戦を求める国連安全保障理事会決議案は常任理事国の拒否権行使により採択されていない。イスラエル政府はガザへの電力供給や人道支援物資流入を止め、「テロリスト(ハマス)を殲滅(せんめつ)するための」地上作戦実施のため約100万人の北部住民に南部への退避を呼びかけ、米国政府の関与によりようやくごく少量の人道支援物資の流入のみ認めた。恒久的な「人道回廊」設置に至っておらず、危機は日々、増幅・深刻化している。

グローバルレベルでは米国主導のG7を主体とした「民主主義(大)国」と中国、ロシアを主体とした「権威主義(大)国」の分断が深まっている。そして、これらとは別の多数の国家群として「グローバルサウス」が存在し、両「陣営」がこれを取り込もうとしている。しかし、多くの開発途上国がいずれに与するかという立場を明確には表明していない。たとえば、ロシアによるウクライナ侵攻直後の2022年3月2日、国連総会にてロシア非難決議が出されたが、投票した181ヶ国のうち141ヶ国が賛成、5ヶ国が反対、35ヶ国が棄権した71)。棄権国は中国、インド、バングラデシュ、ベトナム、モンゴル等を含む72)

「グローバルサウス」に属する国々については、①経済力が増した半面、「先進国」のそれが相対的に低下している、②いささか民主主義的、権威主義的、これらの中間的といった異なる政治体制の国々からなり、玉虫色である73)、という側面がある。多くの被援助国は経済成長・開発上のニーズや政権の正統性保持、治安安定等を鑑みて、いずれかの「陣営」に与するかということではなく、双方からバランスよく可能な限り多くの援助・投資を得たいと望んでいると思われる。

なお、日本経済新聞は「グローバルサウス」の西側諸国への不満を具体的に以下のように挙げている74)が、これらは20年間以上、アジア・アフリカの10数ヶ国で技術協力に従事してきた筆者が現地の人々から耳にした、または感じ取った認識と一致している。

⑴ 国連安全保障理事会、金融体制(ブレトンウッズ体制)等の現在の国際システムが米欧主導であり、自分達の意見が十分に反映されていない75)

⑵ ウクライナ紛争にかかる対ロシア制裁に伴うエネルギー・食糧価格の値上がりで自国の安定が脅かされているとの危機感。また、たとえばシリアでの長年の紛争には対応せず、ウクライナには即時対応に注力しているとの西側の「二重基準」への不信感76)

⑶ 過去の植民地支配への怒りや反発(このときに生まれた人工的な国境やいびつな産業構造が発展を妨げているとの不満)。

また、2023年5月19日から21日まで開催されたG7広島サミットでは、ウクライナ紛争への対応を含む「権威主義国」への対抗が打ち出しされ77)、他方、同年10月17日から18日まで北京では「第3回一帯一路フォーラム」が開催され、「グローバルサウス」の国々から多くの出席があった。また、これに合わせて習近平・中国国家主席とプーチン・ロシア大統領との会談も行われた。

以上の動向は、残念ながら人道危機の発生・再発の防止、解決、グローバルな危機への共同対応を困難にしているものと思われる。

図1:「民主主義国」・「権威主義国」・「グローバルサウス」の関係性

Ⅳ 国際協力に何ができるのか? 何をすべきか?

1 日本政府の動向

こうした現状に対する日本政府の動向は「民主主義陣営」のそれをなぞっている。2023年6月に閣議決定された新開発協力大綱の冒頭の「Ⅰ.基本的考え方」には、世界情勢認識を地政学的競争激化が国際社会の分断のリスクの深刻化をもたらし、これが多くの開発途上国にとってさらなる打撃となり、エネルギー・食料危機、インフレ、債務危機、人道危機とも相まった複合的危機を生み出しており、「自由で開かれた秩序」が脅かされていると捉えている。また、この情勢に対置すべきは「人間の安全保障」であると述べ、2022年12月に策定された「国家安全保障戦略」も踏まえて、開発協力を外交の最も重要なツールの1つに位置付け、いっそう効果的・戦略的に活用して国益獲得に用いると書かれている78)

「国家安全保障戦略」においては具体的に中国およびロシアを脅威として79)「自由で開かれたインド太平洋」(Free and Open Indo-Pacific (FOIP))を展開し、そのためにODAを戦略的に活用し、具体的には質の高いインフラ、人材育成等による連結性、 海洋安全保障、法の支配、経済安全保障等の強化のための支援を行って、ODA以外の公的資金やNGO等との連携を強化するという80)。このたびの開発協力大綱改定は国家安全保障戦略策定が背景の既定路線であったことが疑われる。新開発協力大綱においても「海上保安能力の向上を始めとする法執行機関の能力強化、テロ・海賊対策等の海洋安全保障を含む、社会の安全・安定の確保のための支援を行う」と書かれている81)

上述の「具体的支援」として日本は従来、フィリピン沿岸警備隊やベトナム海上警察への巡視艦供与等を実施しているが、2023年4月5日に政府は国家安全保障会議において国家安全保障戦略に定めのある「同志国」の軍等に対する支援に関して外務省予算による「政府安全保障能力強化支援(Official Security Assistance (OSA))の実施方針」を決定した82)。2023年度当初予算に約20億円を計上し、「同志国」83)の「グローバルサウス」に属するフィリピン、マレーシア、バングラデシュ、フィジーを対象として警戒監視レーダーや警備艇等の提供を想定している84)。この上で外務省は来年度(2024年度)にOSA予算を2.5倍の約50億円に拡大し、フィリピン、ベトナム、インドネシア、モンゴル、パプアニューギニア、ジブチを対象とする方向で調整を行っている85)

このような「安全保障強化」のための援助を強めていくことははたして有益なのであろうか。以下のようなリスクが考えられ得る。

1 供与資機材の軍事転用

開発途上国のガバナンスや、特にその軍や警察といった「暴力装置」の性質を鑑みるに、供与資機材の使途の十全なモニタリングは困難である。たとえ当初はこれが奏功したとしても、政権交代等によって困難となる場合もあり得る。

たとえば、現在のミャンマーにおいては供与資機材が市民を迫害している軍に使用されている。他にはスーダンにおける事案のように、国によっては為政者の「用心棒」的な準軍事組織が存在する場合もあり、これによる反乱行為を抑えるために供与資機材が転用される、また、こうした組織に供与資機材が流れるといったことも起こり得る。このような事態は大綱の主旨に完全に違反している。

2 無用な「援助合戦」

日本政府が「権威主義国」との外交的信頼醸成を欠いたまま、援助を拡大・強化していくと、当然、後者も同様に援助を拡大・強化するのではなかろうか。上述のように、多くの被援助国はいずれかの「陣営」に与することはなく(具体的にはたとえばOSAの「同志国」には国連総会でのロシア非難決議を棄権した国々も含まれる)、双方からの援助を受け続けるであろう。このことは1で述べた状況により、対象国の安全の不安定化に寄与することにもなりかねない。

3 市民社会(NGO)の利用

「オールジャパン」との掛け声の下、中立性原則を有するNGOが(知らぬうちに)政府による「国益」追求に巻き込まれる恐れも否定できない。具体的な想定は容易でないが、たとえば純粋な開発援助が同対象地域への「安全保障強化」支援や、紛争への人道援助が日本政府の紛争当事者への敵対および他方の紛争当事者への支援に関連付けられる86)といったことが考えられる。

2 現状を力強く一歩ずつ改善していくために

以上で見てきたように、日本政府を含めて、複合危機に対応していこうとする国際社会の基盤は残念ながら弱いのが現状である。端的に言えば、権力を有する者による地政学、国内政治、パワーゲームがいまだ多数の人々を巻き込む決定・行動を左右しているのが現状と言えよう。筆者が属するNGO・市民社会がいかに独立性(independency)をもって他のステークホルダーも含めて協力・連帯し、粘り強く状況の転換を図っていくかが鍵であると信じる。全般的にはやはりSDGsを柱として、その達成を目指すべく動いていくべきであろう。

(1) 保健分野

人々が等しく医療保健サービスを享受できている現状ではない。記憶に新しいところでは、新型コロナウィルス蔓延に対するワクチン供給・接種で、国々の経済力に伴う格差が生じた87)

「グローバルサウス」に属する国々の大半では保健システムが万全でなく、人々の間で経済的・地理的側面や情報格差等によって医療保健サービス利用に格差が存在する。これに対して国際社会で「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の実現の必要性が認識され88)、2023年9月21日に国連総会に合わせてUHCハイレベル会合が開催された89)。関連して前日の20日にはパンデミック防止・対応にかかる同会合が行われ、また、II-2に述べたように従来の危機的感染症である結核に関する同会合も22日に開催された90)

ただ、UHCにかかる政治宣言は検証可能な数値目標に乏しく、アカウンタビリティの面で問題のある内容に留まった91)。また、パンデミック防止・対応に関する政治宣言も同様に抽象的な内容であるが、経済制裁にかかる「一方的強制措置」(Unilateral Coercive Measures)について医薬品へのアクセスや国内の保健政策に投入できる資金が実質上減少するなどの不利益を受けるとして、事前に「グローバルサウス」の国々や「権威主義国」が書簡92)を国連総会議長に送付した93)。ここでもグローバルな分断が反映されている。

他方、新開発協力大綱においては「グローバルヘルス戦略(令和4年5月24日健康・医療戦略推進本部決定)を踏まえ、グローバルヘルス・アーキテクチャーの構築に貢献し、将来の公衆衛生危機に対する予防・備え・対応を強化するとともに、保健人材育成を含む開発途上国の保健システム強化等を通じてより強靭、より公平、より持続可能なユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を推進していく」と書かれている94)。これは進めていくべきである。保健分野において推進すべきは、従来の(危機的)格差を埋め、これによって影響が悪化し得るパンデミックの予防・対応を効果的に行うとの国際公共益のために、①技術・資金協力におけるODAの推進、②「グローバル公共投資」95)のような新たな資金モデルの導入、③現地のアクターが主体的に、より効果的に活動していくための「援助の現地化」(「脱植民地主義」)の推進、④NGO・市民社会間の連帯の強化、である。UHCの推進には、途上国の債務、恣意的にも行使され得る経済制裁、途上国政府の(意図的)不作為等が障害として立ちはだかっている。以下、⑵に述べることも通じて、④は③の促進を支援し、NGO・市民の政府・企業といったステークホルダーとの公平で透明性をもった対話や、これの実現のためのアドボカシー、ロビイングをもって、①・②も支援すべきである。

(2) 全体課題

とはいえ、保健分野を含む全体状況において複合危機の解決は容易ではない。人道危機を生み出し、継続させていたり、権威化を維持・促進させたりしている権力者の思惑や利害、グローバルな分断は深刻化している。このたびのイスラエル・ガザ紛争もこうした分断を助長するだろう。

しかし、NGO・市民社会は粘り強く、SNSの有効活用等も通じて相互に連帯を深めていかねばならない。たとえばイスラエル・ガザ紛争についても希望はある。イスラエルによる長年にわたるパレスチナの占領・封鎖、一方的入植、人権侵害等を容認しながら、「テロへの闘い」を掲げて短期間で未曾有の犠牲者・負傷者を生み出しているイスラエルによる国際人道法違反行為を支持し、ウクライナ紛争における対応との矛盾を来しているように見える「民主主義国」である欧米諸国の態度に対して、多くの人々がガザの人々への連帯とイスラエル非難を表明している。民主主義国のNGO・市民社会は言論の自由を最大限、駆使し、自国の民主主義の後退を阻み、途上国への人道支援・開発支援を促進するための政府との対話やアドボカシー、ロビイングを強化すべきである。また、企業に対しても人権デューデリジェンス促進のために同様の活動やインパクト投資を行うこともできる。また、新開発協力大綱にも言及されるように、政府、企業、NGO・市民社会等のステークホルダーが対話・協調・協力していくための動き・仕組みが必要だ。ただし、上述のように新大綱の内容・方針はむしろグローバルな分断を促進するリスクもあるので、これを是正し、たとえば援助を⑴で述べたような方向性に導くためのメディアも巻き込んだODA実施のモニタリング、批判、アドボカシー、ロビイング、対話が求められる。他方、政府に対しては、軍事的・経済搾取的方策ではなく、あくまでも外交を通じて人権尊重について権威主義国に働きかけることを要請し、政府や他国のNGO・市民社会とともに、国際人道法の順守や国際刑事裁判所の機能強化等にかかる訴えを強め、また、当事者の安全性も考慮しながら「権威主義国」や「グローバルサウス」のNGO・市民社会による活動を支援していかねばならない。

当然、以上はまったく容易なことではなく、相当の熱意と共感、連帯感と情勢分析、戦略、忍耐が必要である。しかし「誰一人取り残さない」どころか、「誰一人殺させない」ことを目指すために、人道危機やグローバル危機の進展・深化を看過する余裕はもはやない。筆者も市民社会構成員として、微力ながら貢献していきたい。

脚注

  1. 1)Animals | Free Full-Text | The Impact of Human Activities on Zoonotic Infection Transmissions (mdpi.com)(2023年10月18日)。

  1. 2)Animals | Free Full-Text | The Impact of Human Activities on Zoonotic Infection Transmissions (mdpi.com)(2023年10月18日)。

  1. 3)How Does Deforestation Interact With Our Standard of Living? Empirical Evidence From Cross-Countries Analysis Over the Period 2010-2020 | Earth.Org(2023年10月18日)。

  1. 5)戦闘員を含まない市民。

  1. 6)Assistance Association for Political Prisoners » Blog Archive » Daily Briefing in Relation to the Military Coup (aappb.org)(2023年10月25日)。

  1. 7)Situation Myanmar Situation (unhcr.org)(2023年10月25日)。

  1. 8)Myanmar Humanitarian Update No. 33 | 2 October 2023 | OCHA (unocha.org)(2023年10月25日)。

  1. 9)Assistance Association for Political Prisoners » Blog Archive » Daily Briefing in Relation to the Military Coup (aappb.org)(2023年10月25日)。

  1. 10)Ukraine Humanitarian Response 2023: Situation Report, 11 October 2023 [EN/UK] | OCHA (unocha.org)(2023年10月19日)。

  1. 11)Ukraine Humanitarian Response 2023: Situation Report, 11 October 2023 [EN/UK] | OCHA (unocha.org)(2023年10月19日)。

  1. 12)Ukraine: civilian casualty update 24 September 2023 | OHCHR(2023年10月20日)。

  1. 13)Ukraine: civilian casualty update 24 September 2023 | OHCHR(2023年10月20日)。

  1. 14)who_flashappeal_earthquakeresponse_11-feb-2023.pdf (2023年10月20日)。

  1. 15)who_flashappeal_earthquakeresponse_11-feb-2023.pdf (2023年10月20日)。

  1. 16)who_flashappeal_earthquakeresponse_11-feb-2023.pdf (2023年10月20日)。

  1. 17)who_flashappeal_earthquakeresponse_11-feb-2023.pdf (2023年10月20日)。

  1. 18)Libya | Situation Reports (unocha.org)(2023年10月20日)。

  1. 19)Libya | Situation Reports (unocha.org)(2023年10月20日)。

  1. 20)Libya | Situation Reports (unocha.org)(2023年10月20日)。

  1. 21)Morocco Earthquake – Flash Update #3, As of 11 September 2023 | OCHA (unocha.org) (2023年10月20日)。

  1. 22)Morocco Earthquake – Flash Update #3, As of 11 September 2023 | OCHA (unocha.org) (2023年10月20日)。

  1. 23)UN teams ramp up aid after another earthquake strikes Afghanistan | UN News(2023年10月20日)。

  1. 24)Hostilities in the Gaza Strip and Israel - reported impact, 19 November 2023 at 23:59 | OCHA (unocha.org)(2023年11月27日)。

  1. 25)Hostilities in the Gaza Strip and Israel - reported impact, 19 November 2023 at 23:59 | OCHA (unocha.org)(2023年11月27日)。

  1. 26)Hostilities in the Gaza Strip and Israel - reported impact, 19 November 2023 at 23:59 | OCHA (unocha.org)(2023年11月27日)。

  1. 27)Hostilities in the Gaza Strip and Israel - reported impact, 19 November 2023 at 23:59 | OCHA (unocha.org)(2023年11月27日)。

  1. 28)Hostilities in the Gaza Strip and Israel - reported impact, 19 November 2023 at 23:59 | OCHA (unocha.org)(2023年11月27日)。

  1. 29)Ukraine Humanitarian Response 2023: Situation Report, 11 October 2023 [EN/UK] | OCHA (unocha.org)(2023年10月20日)。

  1. 30)Ukraine Humanitarian Response 2023: Situation Report, 11 October 2023 [EN/UK] | OCHA (unocha.org)(2023年10月20日)。

  1. 31)who_flashappeal_earthquakeresponse_11-feb-2023.pdf(2023年10月20日)。

  1. 32)who_flashappeal_earthquakeresponse_11-feb-2023.pdf(2023年10月20日)。

  1. 33)North-West Syria: Situation Report (13 September 2023) [EN/AR] - Syrian Arab Republic | ReliefWeb (2023年10月20日)。

  1. 34)Libya | Situation Reports (unocha.org)(2023年10月20日)。

  1. 35)Libya | Situation Reports (unocha.org)(2023年10月20日)。

  1. 36)UN teams ramp up aid after another earthquake strikes Afghanistan | UN News(2023年10月20日)。

  1. 37)Afghanistan: Agencies launch funding appeal for quake-hit families | UN News(2023年10月20日)。

  1. 38)・Myanmar (MMR): Attacks on Aid Operations, Explosive Weapons Incident Data, Education and Health - Humanitarian Data Exchange (humdata.org)(2023年10月25日)。

      ・2016-2023-mmr-attacks-on-health-care-incident-data.xlsx (live.com)(2023年10月25日)。

      ただし、広範な記録。

  1. 39)Attacks on Health Care in Ukraine (attacksonhealthukraine.org)(2023年10月20日)。

  1. 40)Attacks on Health Care in Ukraine (attacksonhealthukraine.org)(2023年10月20日)。

  1. 41)who_flashappeal_earthquakeresponse_11-feb-2023.pdf(2023年10月20日)。

  1. 42)2. 12 -15 October 2023 Attacks on Health Care in Israel and the oPt (insecurityinsight.org) (2023年10月20日。)

  1. 43)2. 12 -15 October 2023 Attacks on Health Care in Israel and the oPt (insecurityinsight.org) (2023年10月20日。)

  1. 44)Global Humanitarian Assistance Report 2023 (ams3.cdn.digitaloceanspaces.com)(2023年10月20日)。

  1. 45)JRP funding update_30 Sep 2023_final.xlsx (rohingyaresponse.org)(2023年10月20日)。

  1. 46)UN in Bangladesh announces devastating new round of rations cuts for Rohingya refugees | UN News(2023年10月20日)。ただし、ドナーの支援により2024年1月より一人1ヶ月当たり10ドルとなった。

  1. 47)その後、武器がアフリカにおいて拡散し、地域の不安定化を招いている(Libya: The Proliferation of Small Arms Post-Ghaddafi | SpringerLink(2023年10月20日))。

  1. 48)unama_poc_midyear_report_2021_26_july.pdf (unmissions.org)(2023年10月20日)。数値は正式な記録がある2009~2021年のもの。

  1. 49)OCHA (unocha.org)(2023年10月20日)。

  1. 50)Mid-Year Trends | UNHCR(2023年10月26日)。

  1. 51)Mid-Year Trends | UNHCR(2023年10月26日)。

  1. 52)Mid-Year Trends | UNHCR(2023年10月26日)。

  1. 53)7月は史上最も暑い月に 国連総長は「沸騰化の時代」と警告 - BBCニュース(2023年10月20日)。

  1. 54)Causes and Effects of Climate Change | United Nations(2023年10月20日)。

  1. 55)World’s largest study of global climate related mortality links 5 million deaths a year to abnormal temperatures - Medicine, Nursing and Health Sciences (monash.edu)(2023年10月26日)。

  1. 56)The Economic Impact of Climate Change over Time and Space | NBER(2023年10月26日)。

  1. 57)Causes and Effects of Climate Change | United Nations(2023年10月20日)。

  1. 58)温暖化ガスの6%を排出している(ResponsibleScience_02_WEB.pdf (sgr.org.uk)(2023年10月20日))。

  1. 59)SDGsの目標:MDGsとの比較|JICAについて - JICA(2023年10月22日)。

  1. 60)— SDG Indicators (un.org)(2023年10月22日)。

  1. 61)人材、資機材、インフラ、情報、資金、ガバナンスが効果的にかつ連携的・相乗的に機能して、(質の高い)医療保健サービスが提供され、これが維持され、発展することと定義する(05_What-is-a-Health-System_Factsheet.pdf (who.int)(2023年10月22日))。

  1. 62)Stopping attacks on health care (who.int)(2023年10月22日)。

  1. 63)Statement on the fifteenth meeting of the IHR (2005) Emergency Committee on the COVID-19 pandemic (who.int)(2023年10月22日)。

  1. 64)WHO Coronavirus (COVID-19) Dashboard | WHO Coronavirus (COVID-19) Dashboard With Vaccination Data(2023年10月22日)。

  1. 65)Animals | Free Full-Text | The Impact of Human Activities on Zoonotic Infection Transmissions (mdpi.com)(2023年10月18日)。

  1. 66)Climate Change and Malaria - A Complex Relationship | United Nations(2023年10月22日)。

  1. 67)World must be ready to respond to next pandemic: WHO chief | UN News(2023年10月22日)。

  1. 68)Tuberculosis (who.int)(2023年10月22日)。こうした事態に対して本年(2023年)9月に開催された国連総会に合わせて結核に関するハイレベル会合がパンデミック予防・対応、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)についてのものに加えて行われた(UN General Assembly High-Level Meetings on health 2023 (who.int)(2023年10月22日))。

  1. 69)The top 10 causes of death (who.int)(2023年10月22日)。

  1. 70)PLANETARY HEALTH - Planetary Health Alliance(2023年10月22日)。グローバルヘルス(Global Health)はグローバルレベルでのさまざまなステークホルダーの関係・パワー(バランス・闘争)・協力等を通じた保健にかかる動向を指すが、プラネタリーヘルスはこれを包括するものであると考えられる。

  1. 73)・(2023) “Is a bigger party a better one?” in The Economist, pp.50-52

      ・The Economist (2023) “Democracy Index 2022”

  1. 74)秋田浩之(2023)「新興国、反欧米に染まる日」『日本経済新聞』2023年7月29日付朝刊、9頁。

  1. 75)このことは筆者が携わっている援助についても同様である。人権や人道性といった普遍的価値を基盤としつつも、さらに当事者(グローバルサウスの人々)が主体的に関与していくように全世界的に「援助の現地化(localization of aid)」が議論され、進められているが、いまだ紆余曲折がある。

  1. 76)この対象としては他に2003年の米国等によるイラク侵攻も含まれる。こうした事実にも関連して、筆者は米国の広島、長崎への原爆投下への疑問や米国への怒り・嫌悪を聞くことがしばしばある。

  1. 77)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100506875.pdf (2023年10月25日)。

  1. 78)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100514343.pdf (2023年10月23日)。

  1. 81)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100514343.pdf (2023年10月23日)。

  1. 82)https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_009659.html (2023年10月23日)。この方針の所管は外務省総合外交政策局で、ODAの所管部署(国際協力局)と異なる。市民社会はOSAの動向はODAと関連しており、受益国はこれらを明確に区分しない可能性もあるとしてOSAについての討議も外務省に求めているが、拒否されている。

  1. 83)ちなみに開発協力大綱改定案にも当初、この表現があり、市民との意見交換会にて筆者らは具体的な国名を外務省に尋ねたところ、「一般名詞にて答えられない。ただ、これらの国々はOSAの「同志国」とは異なる」と言われ、また、「開発パートナー国」といった名称が適切であると述べたところ、最終的に新大綱には「同志国」との表現は採用されなかった。しかし、ODAによる安全保障関連援助とOSAによる援助の対象国が結局、同じとならないか、また、両者の援助が相互補完的なものとならないか等に留意が必要であると思われる。

  1. 84)上地一姫、高橋杏璃(2023)「「同志国」の軍 援助制度」『朝日新聞』2023年4月6日付朝刊、1・2頁。

  1. 86)新開発協力大綱には「市民社会との戦略的パートナシップ」も言及されているが、同大綱改定にかかる市民との意見交換会にて尋ねたところ、ウクライナへのNGOによる支援が挙げられた。これは外務省関連資料(「対ウクライナODA関連支援③」(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/100514805.pdf))に記載されているが、NGOの支援があたかも「オールジャパン」体制の下で外交政策に結び付けられているような印象を受ける。

  1. 87)Infographic: The global COVID vaccine divide | Infographic News | Al Jazeera(2023年10月25日)。

  1. 88)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage:UHC)の取り組みについて|国際協力NGO 世界の医療団 (mdm.or.jp)(2023年10月25日)。

  1. 89)UN General Assembly High-Level Meetings on health 2023 (who.int)(2023年10月25日)。

  1. 90)UN General Assembly High-Level Meetings on health 2023 (who.int)(2023年10月25日)。

  1. 91)会議は踊る:本来の達成水準を示せなかった3つの国連保健系ハイレベル会合 – アフリカ日本協議会 -Africa Japan Forum- (ajf.gr.jp)(2023年10月25日)。

  1. 92)NV-00492-1.pdf (healthpolicy-watch.news)(2023年10月25日)。

  1. 93)会議は踊る:本来の達成水準を示せなかった3つの国連保健系ハイレベル会合 – アフリカ日本協議会 -Africa Japan Forum- (ajf.gr.jp)(2023年10月25日)。

  1. 94)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100514343.pdf(2023年10月23日)。

  1. 95)旧来の援助の概念を揺るがす「グローバル公共投資」理論は真の多国間主義に行きつけるか – アフリカ日本協議会 -Africa Japan Forum- (ajf.gr.jp)(2023年10月25日)。

引用文献
  • 1.   Dauda  Abubakar and  Sharkdam  Wapmuk (2021) “Libya: The Proliferation of Small Arms Post-Ghaddafi” in The Palgrave Handbook of Small Arms and Conflicts in Africa, pp.739-759.
  • 2.  Development Initiatives (2023) “Global Humanitarian Assistance Report 2023”, p.30.
  • 3.  Insecurity Insight (2023) “Attacks on Health Care in Israel and the occupied Palestinian territories 12-15 October 2023”, p.1.
  • 4.   Klaus  Desmet and  Esteban  Rossi-Hansberg (2021) “The Economic Impact of Climate Change over Time and Space” in The Reporter, National Bureau of Economic Research.
  • 5.   Michelle   Marie   Esposito , et al. (2023) “The Impact of Human Activities on Zoonotic Infection Transmissions” in Animals.
  • 6.   Stuart  Parkinson (2020) “The carbon boot-print of the military” in Responsible Science, no. 2, pp.18-20.
  • 7.  UNAMA (2021) “Afghanistan Protection of Civilians in Armed Conflict Midyear Update: 1 January to 30 June 2021”, p.1.
  • 8.  UNOCHA (2023) “Morocco Earthquake Flash Update #3”.
  • 9.  UNOCHA (2023) “Myanmar Humanitarian Update No. 33”, p.1.
  • 10.  UNOCHA (2023) “North-West Syria Situation Report 13 Sep 2023”, p.2.
  • 11.  UNOCHA (2023) “Ukraine Humanitarian Response 2023: Situation Report, 11 October 2023”, p.1.
  • 12.  WHO (2023) “WHO flash appeal Earthquake response in Türkiye and Whole of Syria”, p.2.
  • 13.   秋田 浩之(2023)「新興国、反欧米に染まる日」『日本経済新聞』2023年7月29日付朝刊、9頁。
  • 14.   上地 一姫、 高橋 杏璃(2023)「「同志国」の軍 援助制度」『朝日新聞』2023年4月6日付朝刊、1・2頁。
  • 15.  外務省(2023)“G7 Hiroshima Leaders’ Communiqué”。
  • 16.  外務省(2023)「開発協力大綱」。
  • 17.  防衛省(2022)「国家安全保障戦略について」、16頁。
  • 18.  読売新聞(2023)「防衛装備品供与、来年度はベトナムやジブチなど6か国対象…外務省調整」。
 
© 特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター
feedback
Top