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活動報告
「国連未来サミット」は、国際社会の未来への懸け橋になりうるか
~多国間主義に基づく国際協力のさらなる推進に向けて~
若林 秀樹
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2025 年 3 巻 p. 13-19

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写真:国連未来サミットAction Days期間中の国連総会ホールの様子(筆者撮影)

はじめに

2024年9月22~23日、ニューヨークの国連本部で、「国連未来サミット(Summit of the Future、以下「未来サミット」)」が開催された。未来サミットの初日には、成果文書として56のアクションを含む「未来のための協定(Pact for the Future1)、以下「協定」)」と、付属文書である「グローバル・デジタル・コンパクト(Global Digital Compact)」および「将来世代に関する宣言(Declaration on Future Generations)」が併せてコンセンサスで採択された。また、直前の9月20~21日には、NGOを含む多様なステークホルダーによる「Action Days2)」と称するサイドイベントが国連建物内外で開催され、幅広い課題について議論が展開された。筆者は国際的なNGO連合であるForusのタスクフォースメンバーとして、また日本の市民社会グループ「SDGsジャパン未来サミットチーム+有志3)」の一員4)として、市民社会の声を未来サミットに反映させるべく、半年以上にわたり議論を重ね取り組んできた。その立場から、本稿では未来サミットについて解説を試みたい。

Ⅰ.「国連未来サミット」開催の背景

未来サミットの開催は、2020年に新型コロナウイルス感染症が世界的に蔓延し、様々な社会課題が顕在化したことに端を発する。国連設立75周年を機に、加盟国が現在および未来の課題に対処する提言を国連事務総長に求めたところ、事務総長は「私たちの共通の課題(Our Common agenda5))」という報告書を発表し、その中で、「一世代に一度の機会(A once-in-a generation opportunity)」を合言葉に、未来サミットの開催を提案した。

近年、多国間主義による国際協力や国連のガバナンスが十分に機能していない現状が浮き彫りになっている。持続可能な開発目標(以下「SDGs」)をはじめ、気候変動に関するパリ協定等の国際的な合意がなされてはいるものの、取り組みは必ずしも計画通りに進展していない。2030年までに達成が見込まれるSDGsのゴールは全体のわずか17%程度にとどまると報告されている6)。グローバルサウスの存在感が増す中で、ワクチンの知的財産権や気候変動への対応等における南北間の対立はさらに深まっている。またロシアによるウクライナ軍事侵攻やガザ紛争が起こり、地政学的な分断がさらに進んだ。国連安全保障理事会ではウクライナやガザをめぐる対応でも常任理事国による拒否権行使が相次いだように、国連のガバナンス体制は、その多くが1945年の国連設立時に構築されたまま国際環境の変化に対応しきれていないという認識が広く共有されてきた。

これらの課題を踏まえ、未来サミットの最大の焦点は、国連を中心とする多国間主義による国際協力を強化し、SDGsなどの国際目標達成を促進しつつ、国連に対する信頼を回復できるかどうかだった。その成果文書である協定は、ゼロドラフト7)が2024年1月に発表され、それに対し日本の市民社会も国連への直接的な意見提出や外務省を通じた提言を行い、その後5回の改訂を経て、市民社会の声が一定程度反映された。ロシアなど一部の国の反対があったものの、大半の国が賛成し、意欲的な行動を中心とした内容になった。今後の実現には加盟国の政治的意思と実行力が問われるが、市民社会もその実現に向けて取り組む必要があることは言うまでもない。

Ⅱ.「未来のための協定」とは何か

協定は、前文と5つの要素に分類される56の行動で構成されている。

以下、56の行動(筆者による和訳文8))を示すとともに、要素ごとに筆者による解説を加えたい。

1.持続可能な開発と資金調達(Sustainable Development and Financing for Development)

図 「未来のための協定」表紙

SDGsの達成は危機に瀕しており、多くの目標の進捗は遅すぎるか、2015年の基準値を下回る状況である。貧困、飢餓、不平等は増加し、人権が脅かされている。また、気候変動、生物多様性の損失、砂漠化、砂塵嵐、汚染といった環境問題が、持続可能な開発の見通しに深刻なリスクをもたらしている。行動1~12には、SDGsの完全達成を目指すための具体的な取り組みが含まれている。これには、貧困の削減、資金ギャップの解消、人権と基本的自由の保障、ジェンダー平等の実現、気候変動への対応の強化、さらには国際的な協力のさらなる推進が含まれる。

行動1. 我々は、大胆で野心的、加速的、公正かつ変革的な行動を取り、2030アジェンダを実行し、持続可能な開発目標(SDGs)を達成し、誰一人取り残さないようにする

行動2. 我々は、2030アジェンダを達成するために、貧困削減に、最大の取組の重きを置く

行動3. 我々は飢餓を終わらせ、食料不安とすべての形態の栄養不良を解消する

行動4. 我々は、開発途上国における持続可能な開発目標(SDGs)の資金ギャップを解消する

行動5. 我々は、多国間貿易体制が引き続き持続可能な開発の推進力であることを確実にする

行動6. 我々は、人々に投資し、貧困を終わらせ、信頼と社会的結束を強化する

行動7. 我々は、あらゆるレベルで効果的で説明責任があり包括的な制度を構築し、人権と基本的自由を守る

行動8. 我々は、すべての女性と女児のエンパワーメントとジェンダー平等を達成し、すべての持続可能な開発目標とターゲットにおける進展に重要な貢献をする

行動9. 我々は、気候変動に対応する行動を強化する

行動10.我々は、環境の回復、保護、保存、そして持続可能な共存に向けた取り組みを加速させる

行動11.我々は、文化とスポーツを持続可能な開発の重要な要素として保護し、促進する

行動12.我々は、未来に向け、2030年アジェンダの完全な実施を加速するための協力を強化する

2.国際の平和と安全(International Peace and Security)

国連の設立目的は、国際平和と安全の維持である。現在、世界で起きている戦争や紛争、地域衝突などの主な背景には、貧困、差別、不正義、環境破壊、女性への暴力、表現の自由の制限などの基本的人権の侵害や、市民社会スペースの縮小などがある。その意味において、「平和なくしては持続可能な開発はあり得ず、持続可能な開発なくして平和もあり得ない」とする2030アジェンダの理念を改めて想起し、SDGsを含む国際合意の達成に向けて、すべてのセクターが取り組みを強化すべきである。特に、核なき世界という目標については、ドラフトの改訂を重ねるごとにその内容が補強されてきた。被爆国である日本は、この「核なき世界」の推進を世界でリードすべきである。ここでは、平和維持活動の強化、女性や若者への対応の強化、国際的な犯罪組織や違法な資金の流れへの対策など、他の重要な取り組みについても示されている。

行動13.我々は、平和で包摂的かつ公正な社会を築き維持するために、努力を倍増させ、紛争の根本的な原因に取り組む

行動14.我々は、武力紛争において民間人を保護する

行動15.我々は、人道的危機の影響を受けた人々が必要な支援を受けられるようにする

行動16.我々は、加盟国間の協力と理解を促進し、緊張を緩和し、平和的な紛争解決を目指す

行動17.我々は、国際司法裁判所の決定に従い、我々の国が当事者であるいかなる事件においても、その権限を尊重する義務を果たす

行動18.我々は、平和を構築、維持する

行動19.我々は、女性、平和、安全に関するコミットメントの実施を加速する

行動20.我々は、若者、平和、安全に関するコミットメントの実施を加速する

行動21.我々は、平和維持活動を既存の課題や新たな現実によりよく対応していけるようにする

行動22.我々は、海上の安全保障と安全に対する深刻な脅威に対処する

行動23.我々は、テロのない未来を追求する

行動24.我々は、国際的な組織犯罪とそれに関連する違法な資金の流れを防止し、対処する

行動25.我々は、核なき世界という目標を推進する

行動26.我々は、軍備管理に関する義務とコミットメントを遵守する

行動27.我々は、新たな技術や新興技術に関連し、それらの悪用によって生じる潜在的なリスクに対処する

3.科学・技術・イノベーション<STI>、デジタル協力(Science, technology and innovation and digital cooperation)

科学、技術、イノベーションの発展は国連の目標実現にとって重要であり、とりわけ先進国と発展途上国の格差を埋めるための国際協力が不可欠である。現在、数十億人が重要な技術にアクセスできていない状況下で、「誰一人取り残さない」ためには、「知的財産権保護」の障壁を下げ、各国間で技術などを共有・協力することが必要である。また、持続可能な開発のためのイノベーションにはすべての人がアクセス可能であるべきだが、一方で、技術がもたらすリスク、特に不平等を助長する可能性にも留意しなければならない。我々は、国際金融機関や民間セクターとの連携を深め、包摂的で公平な社会を目指すと共に、デジタル技術や人工知能を活用しつつ、そのリスクを適切に管理し、持続可能なデジタル未来の実現を推進すべきである。

行動28.我々は、科学、技術、イノベーションが人々と地球に利益をもたらす機会を捉える

行動29.我々は、途上国の科学、技術、イノベーションの能力を強化するために、実施手段を拡充する

行動30.我々は、科学、技術、イノベーションがすべての人々の人権の実現に寄与することを確保する

行動31.我々は、科学、技術、イノベーションがジェンダー平等を改善し、すべての女性と女児の生活を向上させることを確保する

行動32.我々は、先住民族、伝統的および地域の知識を保護し、それを発展させ、補完する

行動33.我々は、国連事務総長をサポートし、科学、技術、イノベーションにおける国際協力を支える国連の役割を強化する

4.若者たち(Youth and Future Generations)

今回の未来サミットの特徴として、若者に焦点を当て、若者への対応や若者の「意味のある参画」が重点的に議論された。実際に、多くの若者がイベント自体の企画にも携わり、自ら登壇する機会が設けられた。現在の子どもと若者の世代の人数は歴史上最大であり、その多くが開発途上国に住んでいる。世代内の多様性を認識したうえで、子ども・若者・将来世代が安全で主体的かつ民主的な形で「意味のある参画」ができるようにすることが重要である。現代世代と将来世代の双方のニーズが満たされ、「誰一人取り残さない」持続可能な社会の実現は、保障されるべき権利である。ただし、まだ生まれていない人々を指す「将来世代」と、子ども世代、若者世代を一括りに考えるのではなく、それぞれの異なる、また時には重複する権利とニーズを多角的に考慮する必要がある。また、若者の権利と参画を保障するとともに、世代間交流を進め、世代間の対立が先鋭化しないよう取り組むべきである。

行動34.我々は、子どもとユース若者の社会的・経済的発展に投資し、彼らがその可能性を最大限に発揮できるようにする

行動35.我々は、すべてのユース若者の人権を促進、保護、尊重し、社会的包摂と統合を促進する

行動36.我々は、国家レベルでの意味のある若者ユースの参画を強化する。また我々は、核兵器のない世界という目標を推進する。

行動37.我々は、国際レベルでの意味のある参画を強化する

5.グローバルガバナンスの変革(Transforming Global Governance)

グローバルガバナンスの根幹は、国連を中心とした多国間協調による取り組みであることが再確認された。特に安全保障に関しては、重要な方針決定機関である安全保障理事会が十分に機能しておらず、その改革が喫緊の課題として位置づけられている。これには、常任理事国の拡大や拒否権のあり方が大きな鍵となる。安保理の改革と併せて、国連総会の権限強化も含めた議論が求められている。また、SDGsの達成に向け、追加資金の動員が必要である。発展途上国のニーズに応え、最も必要とする人々に資金を直接届けるため、国際金融枠組みの改革を進める必要がある。さらに、国連は加盟国政府だけのものではなく、広く市民にも開かれた組織へと改革されるべきである。加えて、人権を扱う「人権理事会」などの権限を強化し、国連から加盟国への勧告に実質的な拘束力を持たせ、市民の参画が法針決定に一定の影響を与えるようにするなど、グローバルガバナンスに関する多岐に渡る国連改革が求められている。

行動38.我々は、グローバルガバナンスを変革し、今日的課題と将来の課題に取り組み、多国間システムを再活性化する

行動39.我々は、安全保障理事会を改革し、より代表的で包括的、透明で効率的、効果的、民主的かつ説明責任を果たす必要性を認識する

行動40.我々は、安全保障理事会改革に関する政府間交渉を最優先事項として取り組んでいく

行動41.我々は、国際平和と安全の維持に向けた安全保障理事会の対応を強化し、国連総会との関係を強化する

行動42.我々は、国連総会の再活性化にさらに努力する

行動43.我々は、持続可能な開発を加速させるために経済社会理事会を強化する

行動44.我々は、平和構築委員会を強化する

行動45.我々は、国連システムを強化する

行動46.我々は、すべての人がすべての人権を効果的に享受できるよう、新たな課題や挑戦に対応する

行動47.我々は、今日的課題と将来課題に対応するために国際金融の枠組みの改革を加速させる

行動48.我々は、途上国の声を吸い上げ、代表性を強化するために、国際金融の枠組みの改革を加速させる

行動49.我々は、持続可能な開発目標のための追加資金を動員し、発展途上国のニーズに応え、最も必要としている人々に資金を直接届けるために、国際金融の枠組みの改革を加速させる

行動50.我々は、加盟国が持続可能に借り入れ、長期的な発展に投資できるように、国際金融の枠組みの改革を加速させる

行動51.我々は、途上国をより効果的かつ公平に支援できるよう、国際金融の枠組みの改革を加速させ、システミックショックの際に金融システムをより安定させるための能力を強化する

行動52.我々は、気候変動という緊急の課題に対応できるよう、国際金融の枠組みの改革を加速させる

行動53.我々は、国内総生産(GDP)を補完すると共に、持続可能な開発の進捗を測るための枠組みを開発する

行動54.我々は、複雑なグローバルショックに対する国際的な対応を強化する

行動55.我々は、既存のコミットメントを実現し、新たな課題や出現する挑戦に対処するために、パートナーシップを強化する

行動56.我々は、平和的で、全人類の利益のために、宇宙の探査と利用に関する国際協力を強化する

Ⅲ.「未来サミット」における成果と課題

今回の未来サミットの最大の成果は、56の意欲的な行動を含む協定が143カ国の賛成で承認されたことである。この文書自体に法的拘束力はないものの、グローバルな課題解決に向けた大きなステップであることは間違いない。今後は、政府のみならず、市民社会を含む国際社会全体で、この協定の実現に向けた取り組みが求められる。筆者が関わったForusのタスクフォース等による未来サミットへの評価は主に以下の通りである。

1.全般

協定は、平和、安全、人権の実現といった課題に対応する上で、国際協力の重要性を再認識し、持続可能な開発目標、パリ協定、北京宣言などの国際合意を改めて確認したこと、それを文書で合意した点で大変意義深い。また、貧困削減や不平等の問題に関し、コミットメントと実現度合のギャップにも焦点を当てた。しかし、これらのコミットメントを実現するための十分な説明責任を果たすメカニズムが欠けていた。

2.安全保障理事会

協定は、安全保障理事会の改革について、より包摂性、代表制、説明責任を果たす必要性を指摘した。特に、アフリカの歴史的背景を考慮し、常任理事国を2議席増やすべきとの提案があった。ただし、改革に関する具体的な内容やタイムラインは示されなかった。また、拒否権の取り扱いは、今後の改革においても大きな課題になろう。さらに、アフリカのみならず、ラテンアメリカ・カリブ諸国(LAC)、日本を含むアジア、中東・北アフリカ、太平洋地域からの代表も必要との指摘が含まれた。日本はこれまでも常任理事国入りを模索してきたが、その具体的な貢献のビジョンは必ずしも明確ではない。現在の地政学的な分断も、近い将来の大胆な改革にはブレーキになろう。

3.普遍的な人権

協定では、人権の普遍性、相互依存性、不可分性、相互関連性が確認された。また、法の支配、司法へのアクセス、透明性が高く説明責任を果たせる組織の重要性が認識された。さらに、平和で公正かつ人間の尊厳を守り、差別のない包摂的な社会の必要性も強調された。女性のエンパワーメントやジェンダー平等が持続可能な開発に不可欠であることも再確認された。しかしながら、性的マイノリティやLGBTIQ+の権利についての言及は全くなかった。加えて、グローバルな人権の実現において、現在直面している紛争、差別問題、市民社会スペースへの規制などの課題については、具体的な解決策の提示が乏しく、引き続き大きな課題として残されている。

4.金融アーキテクチャ改革

協定は、持続可能な開発を進める上で、グローバルな金融システムの改革が不可欠であることを強調し、特にSDGsにおける4兆ドルの資金ギャップが、気候変動や人道的課題への対応において非常に重要であると指摘した。また、グローバルな金融体制改革の必要性を訴えるとともに、第4回開発資金国際会議(FFd4)とCOPでの議論の基盤を築くものとなった。さらに、GDPを補完し、持続可能性や公正性を担保する新たな指標づくりについても言及された。しかしながら、金融改革について具体的な内容や実施のタイムラインは示されておらず、先進国からはシステマチックな改革に対して消極的な声が聞かれた。また、公的債務、資金の動員、特別引出権(SDRs)、税制改革、システマチックなリスクへの対応といった課題は、引き続き残されたままである。

5.科学・技術・イノベーション:包摂的なSTI

協定では、デジタル格差を解消し、2030年までにすべての人がデジタルアクセスを享受できるようにすることを目指している。グローバル・デジタル・コンパクトには、プライバシー、セキュリティ、公平性に重点を置いたデジタル技術の管理に関する提案が含まれた。デジタル格差への対処については、特に女性、若者、先住民などの社会的な脆弱層に対し、デジタルリテラシーとインフラ整備を優先することが盛り込まれた。倫理的な技術利用については、AIや新興技術の使用において透明性と説明責任を促進することの重要性、また、能力強化については、低資源環境でのイノベーション支援のため、技術移転と教育への投資に重点を置くべきことが盛り込まれた。しかし、資金の問題に関しては、デジタル公平性の取り組みがどのように担保され、実施されるかに関して依然として不確実性が残った。さらに、デジタル権利の保護はまだ限られており、新技術に対する国際的な規制が不足している。また、サイバーセキュリティ対策については、サイバー攻撃や技術の悪用に対処するための強力な仕組みが欠けている。

おわりに:多国間主義に基づく国際協力の進展に変化は見られるのか

協定に含まれる6割の行動は、「国際平和と安全」と「グローバルガバナンス」に集中している。それだけ、国連の第一の役割である「国際の平和と安全の維持」が喫緊の課題となっており、それを支えるガバナンスが機能していない表れとも言える。その意味において、今回の未来サミットでの大きな焦点の一つは、平和と安全に関する方針を決定するグローバルガバナンス、とりわけ「安全保障理事会」の改革であったと言える。

1945年に国連が創立されて以来、そのガバナンス体制は変わっていない。当初51カ国であった加盟国は現在193カ国となり、約4倍に増えたにもかかわらず、例えば安全保障理事会は、拒否権を持つ常任理事国の代表構造が変わっていない。これまでも安保理の改革は議論されてきたが、なかなか難しく、進展はなかった。しかし、現在のウクライナへの軍事侵攻やガザでの戦闘などの問題に対して、国連が有効に機能しているとは思えず、それに対する不満の声は従来になく大きくなっている。協定には、安保理改革に関して従来にない具体的なアクションが含まれており、国連憲章をはじめとするグローバルガバナンスに関する政府間交渉を通じて改革が進展することを期待したい。

また、もう一つの争点であるSDGs達成への取り組みの遅れ、気候変動への対応、開発資金のギャップや国際金融アーキテクチャの問題などにも焦点が当てられた。まさに、多国間主義に基づく国際協力の推進力を高めることが必要だ。今後のSDGsのハイレベル政治フォーラム、気候変動枠組条約締約国会議(COP)、第4回開発資金会議、世界銀行・IMF総会、第2回社会開発サミット、そしてひいてはポスト2030アジェンダの発展的な議論につながることを期待したい。

最後に、市民社会の役割と取り組みに触れておきたい。そもそも国連は、国際社会の平和と安全と共に、地球上に住むすべての人々の人権の実現と基本的自由の確保を目的としている。今回の未来サミットでは、世界で起きている「市民社会スペースの狭まり」や「基本的自由の保障」について、踏み込んだ議論はなかった。協定策定のプロセスにおいては、様々なコンサルテーションの機会が設けられ、従来以上に市民の意見が取り入れられた。しかし、途上国や市民一般から見れば、国連はまだまだ遠い存在だと言える。そのためにも、我々日本の市民社会は、まずは国内レベルでの議論を活発化させ、日本政府へ働きかけることが重要である。今回の未来サミットが、日本の市民社会がアジアや世界の市民社会とつながり、議論を深めていくことの重要性を改めて実感できた場であったことは間違いなく、今後のモデルとなり得る取り組みであったと言える。

(了)

脚注

  1. 3)(一社)SDGs市民社会ネットワーク(略称:SDGsジャパン)のユニット幹事団体を母体として生まれたSDGsジャパン国連未来サミットチームと、複数の有志団体/個人からなるグループ。国内外のステークホルダーとの連携や提言作成、外務省との対話を進めた。

  1. 4)ForusタスクフォースおよびSDGsジャパンの「国連未来サミットチーム」に参加し、全体として団体内で掲載された内容を一部引用、参考にした。筆者はSDGsジャパンの中では主に「国際平和と安全」、「グローバルガバナンス」を担当、執筆した。

    https://www.sdgs-japan.net/single-post/1stproposal_futuresummit

    https://d7b557ca-e496-4292-be6d-a6bfb1e38152.usrfiles.com/ugd/d7b557_a3d807e20c3849e59c5e771d3cf6a5bc.pdf

  1. 5)Our Common Agenda, United Nations. https://documents.un.org/doc/undoc/gen/n21/217/01/pdf/n2121701.pdf?OpenElement (2024年10月30日閲覧)

  1. 6)The Sustainable Development Goals Report 2024, United Nations. https://unstats.un.org/sdgs/report/2024/ (2024年10月30日閲覧)

    国際連合広報センターHP「持続可能な開発目標SDGs報告2024」 https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_report/sdgs_report_2024/(2024年10月30日閲覧)

  1. 7)未来への協定ゼロドラフト(Pact for the Future: zero draft): https://www.un.org/sites/un2.un.org/files/sotf-co-facilitators-zero-draft_pact-for-the-future.pdf

 
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