東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-10
会議情報

ポスター
人工膝関節置換術後の皮膚の伸張性と皮下の滑走性の検討
*久保 憂弥伊藤 直之大谷 浩樹川端 克明尾島 朋宏
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】 人工膝関節置換術(以下、TKA)後に創部のケロイド形成や皮下の瘢痕による関節可動域制限を認める症例を経験する。我々は第47回日本理学療法学術学会にて、TKA後1ヶ月の時点では創部周囲の伸張性が低下し、膝前面の皮下の滑走性が低下していると報告した。今回TKA後1年でそれらが改善するか否かを検討した。
【方法】 対象は、変形性膝関節症を有しTKAを施行した女性14名15膝である。術式は膝蓋骨下縁での横皮切、Medial Parapatellar法である。測定はメタルボールを膝蓋骨中央(Patellar Center:以下PC)、PC遠位3㎝、PC近位3・6・9㎝の5か所に貼付した。術前、術後1ヶ月、1年に膝伸展位と100°屈曲位(以下、屈曲位)の側面像を放射線技師が撮影した。各メタルボール間4か所の距離を測定し、屈曲位から伸展位での距離を減じた値を伸張距離とした。各メタルボールから筋表面に対し垂線を引き、その交点から膝蓋骨上縁の距離を測定し、屈曲位から伸展位での距離を減じた値を滑走距離とした。伸張距離と滑走距離を術前後で比較し、統計処理は一元配置分散分析及びTukey法を用い、危険率5%未満を統計学的有意とした。対象者にはX線画像撮影に関して主治医が同意を得ており、本研究に関して検者が口頭にて説明し同意を得た。
【結果】 各測定部位の伸張距離と滑走距離を、術前・術後1ヶ月・1年の順に示す。伸張距離は、PC遠位3㎝とPC間(0.81, 0.56, 0.79㎝)、PCとPC近位3㎝間(1.07, 1.01, 1.05㎝)、PC近位3~6㎝間(1.37, 1.38, 1.71㎝)、PC近位6~9㎝間(0.97, 1.03, 1.10㎝)であった。PC遠位3㎝とPC間は、術前と比べ術後1ヶ月で有意に低下したが(p<0.05)、術後1年に有意な改善には至らなかった。滑走距離は、PC遠位3㎝(0.83, 0.16, 0.47㎝)、PC(1.63, 0.64, 1.25㎝)、PC近位3㎝(2.4, 1.46, 2.07㎝)、PC近位6㎝(3.54, 2.61, 3.51㎝)、PC近位9㎝(4.45, 3.56, 4.55㎝)であった。PC遠位3㎝は、術前と比べ術後1ヶ月と1年で有意に低下した(p<0.05)。その他の部位で、術前と比べ術後1ヶ月で有意に低下し、術後1ヶ月と比べ1年で有意に改善した(p<0.05)。
【考察】 創部周囲の伸張性と滑走性は術後1ヶ月に低下し、1年後に改善傾向を認めるが術前状態まで至らなかった。一方で、創部より近位部の伸張性は術後経過に伴い増加したことから、創部の伸張性低下を代償したと考える。また、創部より近位部の滑走性は術後1ヶ月に低下し、1年後に術前状態まで改善した。皮下剥離によると思われる皮下組織の瘢痕形成のため一旦低下するが、退院後の生活で反復される膝関節運動により術後1年で改善したと考える。
【まとめ】 創部の伸張性や滑走性低下は、術後1年に術前状態まで改善しないため、皮膚に由来する関節可動域制限を考慮した理学療法が必要と考える。

著者関連情報
© 2012 東海北陸理学療法学術大会
前の記事 次の記事
feedback
Top