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楠 美樹, 青柳 陽一郎, 岡西 哲夫, 平塚 智康, 粥川 知子, 菊池 航, 井元 大介, 日沖 雄一
セッションID: S-01
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 大腿骨近位部骨折は、高齢者に最も多い下肢骨折であり、機能予後を悪化させることが知られている。日本整形外科学会のガイドラインでは、機能予後に影響する因子として年齢が挙げられている。また、退院後の外来リハビリテーション(以下外来リハ)は身体機能の向上に有効であるとされているが、本邦におけるリハの効果に関するエビデンスは乏しい。今回、退院後の身体機能の変化を継続的に追跡し、機能予後に関連すると言われている外来リハの有効性と、年齢の影響について検討した。
【方法】 2009年1月から2012年3月までの間に、当院で大腿骨近位部骨折により観血的骨接合術が施行され、退院3ヶ月後まで評価を行い、HDS-Rが21点以上の19名(男性3名、女性16名)を対象とした。なお、対象者には本研究の目的と内容を説明し書面にて同意を得た。
全対象者の平均年齢は70.5±10.2歳(75歳未満11名、75歳以上8名)、外来リハは週1回程度行い、施行群が10名、未施行群が9名であった。身体機能評価は、退院時、退院1ヶ月後、退院3ヶ月後にfunctional reach test(FRT)、5回立ち上がり時間、片足立位時間(術側、非術側)、膝伸展筋力(術側、非術側)、快適歩行速度、最大歩行速度を測定した。退院後の身体機能の変化を1. 全対象者、2. 外来リハの施行有無による違い、3. 年齢(75歳未満、75歳以上)による違いに分け検討した。統計解析は、対応のあるt検定とWilcoxon検定を用いた。なお、外来リハ施行群と未施行群間で年齢、退院時FIMに差は無く、75歳未満の群と75歳以上の群で退院時FIMに差は無かった。
【結果】 1.全対象者での検討
5回立ち上がり時間、膝伸展筋力、快適歩行速度、最大歩行速度は退院後に有意に改善を認めた。
2.外来リハの施行有無における検討
外来リハ施行群で、5回立ち上がり時間、膝伸展筋力が有意に改善した。外来リハの有無に関わらず、快適歩行速度、最大歩行速度は有意に改善した。
3.年齢による違いでの検討
75歳未満の群で、5回立ち上がり時間、膝伸展筋力が有意に改善した。快適歩行速度、最大歩行速度は75歳未満の群、75歳以上の群ともに有意に改善した。
【考察】 今回の検討では、歩行速度は年齢や外来リハ施行の有無に関わらず、退院後に改善していた。一方、外来リハを行わなかった患者および75歳以上の患者(後期高齢者)では、5回立ち上がり時間、膝伸展筋力で改善を認めず、年齢や外来リハ施行の有無が筋力などの機能を改善するという先行研究を支持する結果となった。今回の研究で外来リハにより、立ち上がり時間の改善や、術側と非術側の筋力を増大することが示され、退院後のリハが転倒による再骨折予防にもつながる可能性が推察された。
【まとめ】 大腿骨近位部骨折は機能予後を悪化させ、反対側の骨折リスクが高くなることが知られている。今回の研究により、外来リハが筋力などの機能向上に有効であることが示唆され、退院後のリハが転倒による再骨折予防となり得ることが推察された。
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吉村 孝之, 種田 智成, 西沢 喬, 尾崎 康二, 山田 勝也, 池戸 康代, 植木 努, 曽田 直樹
セッションID: S-02
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 下腿の筋挫傷の疫学的調査では、腓腹筋内側頭(以下、MG)の損傷が多いと報告されている。下腿三頭筋の研究は腓腹筋とヒラメ筋を比較したものが多く、MGと腓腹筋外側頭(以下、LG)を比較した報告はあまり見られないため、MG筋挫傷の原因は明らかになっていない。我々は、形態学的特性として、超音波画像診断装置を用いて筋厚を調べた。機能的特性として、足関節底屈等尺性収縮時の筋活動を調べた。2つの実験からMG筋挫傷の原因を考察したので、報告する。
【対象】 下肢に整形疾患のない男性6名6肢(平均年齢27.5±4.5歳、平均身長168.8±4.1㎝、平均体重66.0±11.3㎏)の右下腿とした。なお、対象者には研究概要の説明を文書及び口頭にて行い、実験参加への同意を得た。実験の実施に際し、平野総合病院倫理委員会の承認を受けた。
【方法】 1)筋厚の評価 膝関節裂隙から踵骨隆起のアキレス腱付着部までを8等分し、近位部から、1/9, 2/9, …、9/9と表記する。超音波画像診断装置(東芝メディカルシステム社製famio8)を用い、安静時の短軸像を撮像し、筋厚を測定した。統計処理は、MGとLGの筋厚に対して、対応のないt検定を用い、検討した。
2)足関節等尺性底屈運動時のMG及びLGの筋電図測定 予備実験として、腹臥位膝関節伸展位、足関節中間位にて、足関節等尺性底屈運動の最大収縮時のMG及びLGの筋活動量をNoraxon社製筋電図シリーズTelemyoG2を用いて測定し、筋力をアニマ株式会社製ミュータスF-1を用いて測定した。
足関節等尺性底屈運動の収縮強度は、最大筋力の10, 20, …、70%とし、MG及びLGの筋活動量を測定した。統計処理は、MG及びLGの正規化された筋活動量を収縮強度に対して一元配置分散分析を用い、検討した。
1)2)ともに、統計解析にはSPSS16.0を用い、有意水準を5%とした。
【結果】 1)腓腹筋近位1/9~6/9までは、MGがLGよりも筋厚が有意に厚かった。それ以降遠位では、筋厚に有意差は認められなかった。
2)足関節等尺性底屈運動時のMG、LGともに収縮強度と比例して、筋活動が高まり、かつ収縮強度10%を基準として、50%以上の収縮強度で筋活動に有意な差が認められた。
【考察】 腓腹筋近位部では、MGがLGよりも筋厚が有意に厚く、K. AlbrachtaらのMRIを用いた研究を支持する結果となった。FTAの正常値が174°であることより、荷重は膝関節外反ストレスとなりやすいため、膝関節内反作用を持つMGがより発達しやすいのではないかと考えられる。MG、LGどちらも、50%以上の収縮強度で筋活動に有意に高まった。本研究では、MG、LGの筋活動に著明な違いは認められなかったため、どちらも、50%以上の収縮強度にて筋損傷のリスクが高まると考えられる。筋厚は筋の生理的断面積に比例することから、筋力の指標と考えられるため、MGはLGに比べ、強い筋力を発揮しやすいと考えられる。そのため、MGの筋挫傷のリスクが高くなると推察される。
【まとめ】 ・腓腹筋近位部では、MGはLGより有意に筋厚が厚かった。
・荷重下膝関節外反ストレスに拮抗するために膝関節内反作用を持つMGが発達しやすいと考えられる。
・MG、LGともに収縮強度50%以上で、筋挫傷のリスクが高まると考えられる。
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小田 恭史, 浅井 友詞, 若林 諒三, 森本 浩之, 佐藤 大志, 酒井 歩, 梶田 翼, 水谷 武彦, 水谷 陽子, 今泉 司
セッションID: S-03
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 頚部関節位置覚は姿勢制御に重要な役割を果たしていることが報告されている。しかし頚部関節位置覚と姿勢安定性の関連性は明らかでなく、また健常人における頚部固有感覚トレーニングの姿勢安定性への効果は示されていない。そこで本研究において、健常若年者における頚部関節位置覚と重心動揺の関連性および頚部固有感覚トレーニングの重心動揺への影響について検討を行った。
【方法】 対象は本研究の趣旨を説明し同意が得られた健常若年者33名(男性16名、女性17名、平均年齢20.1±1.6歳)である。被験者を無作為に頚部固有感覚トレーニング群とSham群に振り分け、10日間のトレーニングを行い、その前後で頚部関節位置覚および重心動揺の測定を行った。頚部関節位置覚の測定はRevelらが先行研究で用いているRelocation Testを使用した。測定時に被験者の後方にビデオカメラを設置し、取り込んだ動画からForm Finder(インク社製)を使用して角度の解析を行った。頚部関節位置覚の測定は左右回旋それぞれ10回行い平均値を算出した。重心動揺の測定はNeurocom社製EquiTest®を使用し、Sensory Organazation Test(以下SOT)にて行った。重心動揺の指標としては足圧中心の総軌跡長を算出し、測定中に転倒した者は解析から除外した。頚部固有感覚トレーニングは、Relocation Testと同様の方法で行い、トレーニング群には毎回視覚的フィードバックを与え、Sham群には与えなかった。統計解析はSPSSを用いて、Relocation Testと重心動揺の相関についてはスペアマン順位相関係数検定を使用し、トレーニング前後のRelocation Testおよび重心動揺の比較には対応のあるt検定を使用し、有意水準は5%とした。
【結果】 SOTのすべての条件においてRelocation Testとの相関関係は認められなかった。トレーニング前後の比較では頚部固有感覚トレーニング群においてのみRelocation Testの誤差が6.94±2.18°から4.58±1.76°に有意に低下し、SOTのcondition6において重心動揺の総軌跡長が62・31±12.57㎝から58.18±11.39㎝に有意に低下した。
【考察】 今回、健常若年者において頚部固有感覚トレーニングにより頚部関節位置覚が改善するとともにSOTのcondition6での重心動揺が減少することが示された。SOTのcondition6は前庭感覚および頚部関節位置覚からの求心性情報が要求されると考えられる。本研究において頚部固有感覚トレーニングにより頚部関節位置覚が改善したために、その条件下における姿勢安定性が改善したと考えられる。また今回、頚部関節位置覚と重心動揺との間に相関関係は認められなかったが、姿勢安定性に関与する因子は頚部関節位置覚以外にも複数あるため、健常若年者においては他の要因の影響があったためではないかと推察される。
【まとめ】 本研究において頚部固有感覚トレーニングにより姿勢安定性が有意に改善することが示されたが、頚部関節位置覚と姿勢安定性の間に相関関係は認められなかった。
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牛島 秀明, 安形 真樹, 藤本 有香, 横地 正裕, 河村 美穂(Dr.), 猪田 邦雄(Dr.)
セッションID: S-04
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 脳卒中患者に対して体重免荷装置を用いたトレッドミル歩行訓練(Body Weight Supported Treadmill Training;以下、BWSTT)の報告が近年多くなっているが、整形外科疾患に対するBWSTTの効果を示した研究は少ない。今回BWSTTが高齢者の大腿骨近位部骨折術後の患者に対し、歩行機能、バランス機能、ADLに与える影響を検討したので報告する。
【方法】 当院回復期病棟に入院した65歳以上の大腿骨近位部骨折術後患者12例を対象として、術後5週目となった時点で無作為に2群に分けた。一方の群にはROM、及び筋力増強運動、平地歩行練習などの通常の理学療法にBWSTTを加え(以下BWSTT群、6例;頸部骨折2例、転子部骨折4例、年齢81.3±5.0歳、女性5例、男性1例)、もう一方の群は通常の理学療法のみ(以下CON群、6例;頸部骨折1例、転子部骨折5例、年齢84.3±10.7歳、女性5例、男性1例)とした。理学療法は1日に60分間実施した。BWSTT群は、BWSTTを15分遂行可能な最大速度で1日合計15分間、週5回の頻度で4週間行った。免荷量はBWSTTを15分遂行できるよう体重の0~80%免荷した。評価は、介入開始時と終了時に行った。評価項目は10m最大歩行速度、Timed Up&Go Test(以下、TUG)、Functional Reach Test(以下、FRT)を患側上肢のリーチで測定、Functional Independence Measure(以下、FIM)の運動項目とした。統計学的分析は、2群とも介入前後に関してはWilcoxon signed-rank testを、2群間に関してはMann-Whitney U testを用い危険率5%未満として比較検討した。なお本研究はヘルシンキ宣言に基づき作成した同意書を用いて本研究の内容を説明し、同意を得た者を対象とした。
【結果】 2群とも歩行速度、TUG, FRT, FIMにおいて、いずれの評価においても介入前後で有意な改善が認められた(p<0.05)。一方、2群間の比較においては、各評価指標とも有意差が認められなかったが、歩行速度においては、BWSTT群の方が介入前後での変化率が大きく、改善傾向がみられた(p=0.078)。
【考察】 片麻痺患者を対象としたBWSTTの効果は先行研究において、歩行速度、持久力など歩行機能に改善を認めた報告がされている。今回の結果では、通常の理学療法にBWSTTを加えても2群間の比較においてTUG, FRT, FIMの改善に有意差は認められなかったが、歩行速度に改善傾向がみられたことから、BWSTTが高齢者の大腿骨近位部骨折術後の患者に対しても歩行機能に特異的に影響を及ぼす可能性が示された。プロトコルは、BWSTTを15分遂行可能な最大歩行速度と設定したが、平地歩行速度以上の速い速度に設定するなど歩行速度に変化をもたせることにより、さらなる歩行機能の改善が生じる可能性が考えられる。今後、評価指標、介入方法などをさらに検討して、大腿骨近位部骨折患者におけるBWSTT有用性について検討していきたい。
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高木 大輔, 西田 裕介
セッションID: S-05
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 大動脈の伸展性低下は、特に虚血性心疾患などの危険因子である。動脈伸展性の改善要因に血流量増加によるshear stressや乳酸の蓄積があり、最大酸素摂取量の50%の運動強度が推奨されているが、心肺系機能が低下した対象者ではリスクが高くなる。血管拡張率はshear stress、血流量は運動強度に比例する。そこで我々の先行研究で、他動、低強度の自動運動でも静脈環流量の変化より一回拍出量の増加を引き起こす足関節の底屈運動に着目し、動脈伸展性への即時効果を検討した。結果、他動運動のみで運動肢、非運動肢ともに動脈伸展性が改善し、自動運動では非運動肢の動脈伸展性の低下傾向さえ認めた。脳卒中患者のように麻痺側の動脈伸展性が低下している対象者も存在する。したがって、今回単関節運動と非運動肢の動脈伸展性への影響を検討したため、若干の考察を含めて報告する。対象者には口頭、および紙面にて説明し同意を得た。また聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認のもと実施した。
【方法】 対象は健常成人男性16名(23±2歳)とした。方法は、背臥位での他動、自動(10%MVC)の足関節底屈運動(左下肢、膝関節伸展位)、60回/分の収縮頻度にて5分間実施した。動脈伸展性は、form PWV/ABIによる上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)を安静時、運動後より3分毎に計20分間測定した。運動肢の血流量として総ヘモグロビン量(total-Hb)、静脈還流量は脱酸素化ヘモグロビン量(deoxy-Hb)を安静時、運動中に測定した。さらに乳酸値も安静時と運動後に測定した。
【結果】 他動運動によるbaPWVの変化は、非運動肢で6, 9分において有意に低値を示し(p<0.05)、平均30-40㎝/secの動脈伸展性の改善を認めた。一方で自動運動では1133.3±134.9, 1159.8±109.9, 1151.3±107.4, 1161.9±101.1, 1168.2±113.6, 1172.8±113, 1170.6±113.3, 1171.5±105.8㎝/secと運動直後より動脈伸展性の低下傾向が見られた。total-Hb, deoxy-Hbは、両運動ともに運動肢で増加傾向を示した。自動運動時の乳酸値は、運動後有意に高値を示した(p<0.05)。
【考察】 今回、単関節の自動運動で運動直後より非運動肢の動脈伸展性が低下傾向を示した。要因として、運動時の主動作筋が関与すると考える。膝関節伸展位の主動作筋は腓腹筋であり、筋組成が速筋に分類される。昇圧反応は速筋の分布割合に依存し、代謝受容器反射の影響を受ける。また乳酸は血管収縮反応にも関与すると報告されている。そこで本研究も乳酸が増加したため、昇圧反応が起き、非運動肢の動脈伸展性の低下傾向を認めた可能性がある。したがって、特に脳卒中患者のような麻痺側の動脈伸展性が低下している対象者では、低強度負荷でも単関節運動を行う場合は、非運動肢の動脈伸展性への影響を念頭に置くとともに、自動運動後に非運動肢に他動運動を取り入れるなどの配慮が必要であることが示唆された。
【まとめ】 本研究より、単関節の自動運動では、非運動肢の動脈伸展性を低下させる可能性があるため、運動処方の際には注意が必要であることが示唆された。
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河野 健一, 西田 裕介, 矢部 広樹, 森山 善文, 田岡 正宏
セッションID: S-06
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 透析患者は、運動耐容能や筋力が明らかに低下している。腎性貧血による酸素運搬能低下に加え、尿毒症性ミオパチーによるミトコンドリアや筋毛細血管での代謝異常、筋内脂肪浸潤など骨格筋の機能低下が原因とされる。対抗策として運動療法は重要であり、特に骨格筋機能の改善にはレジスタンストレーニング(RT)が有効である。また、RTを透析中に行うことで、運動の継続率向上や実施施設の拡大といったメリットが期待できる。しかし、これまでの透析中のRTに関する報告は、介入方法や効果指標が定まっておらず。科学的検証が十分とは言えない。そこで、透析中のRTの効果をシステマティックレビューにて検証し明らかにすることとした。
【方法】 対象とする臨床試験は、無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)とし、対象言語は英語、日本語とした。検索語は、dialysis(透析)、chronic kidney disease(慢性腎不全)、resistance training(抵抗運動)、strength exercise(筋力訓練)とした。データベースは、MEDLINE(PubMed)、CENTRAL(Cochrane Central Register of Controlled Trials)、PEDro、医学中央雑誌を使用し、論文を網羅的に収集するためにハンドサーチを行った。適格基準は、透析中に運動療法を行い、運動種目にRTを含むこととした。また、収集した論文をPEDro scaleを用いて質的評価し、妥当性のないものは除外した。
【結果】 文献検索の結果、93編が該当した。適格基準に合致した7編を抽出し、さらにハンドサーチから2編を加え、9編をシステマティックレビューの対象とした。運動耐容能は4編の報告があり、最高酸素摂取量(peakVO2)の改善が3編、6分間歩行距離(6-minute walk distance:6MD)の改善が1編であった。筋力は、4編の報告があり、3編で膝関節伸展筋力の改善がみられた。筋量は、筋横断面積(cross sectional area:CSA)2編、二重X線吸収測定法での除脂肪体重(Lean Body Mass:LBM)評価2編、下肢周径1編の報告があり、CSA1編とLBM1編、下肢周径1編の計3編にて改善がみられた。慢性炎症は3編報告があり、1編のみ改善がみられた。
【考察】 運動耐容能について、peakVO2に改善が見られた3編は、全てRTと有酸素トレーニング(AT)の併用療法であったが、6MDはRT単独で改善が確認されている。よって、RTの運動耐容能に対する効果はあるものと考えられる。筋力が改善した3編の運動強度は、低強度から高強度まで様々であり、運動強度の違いはさほど影響せずに筋力は改善すると考えられる。筋量の中でもCSAは、筋の量的評価と質的評価が可能であり、今回双方で改善を認めている。筋の質的低下は、慢性炎症とも関連するが、慢性炎症は、3編中1編でのみ有意な改善を認めた。この論文では、慢性炎症の改善とともに筋の質的改善も認めている。ただし、筋量、慢性炎症に関してはアウトカム指標が一致しておらず、効果判定にはさらなる検討が必要と考えられる。
【まとめ】 透析中のRTの効果をシステマティックレビューにて検証した。運動耐容能と筋力は概ね改善するものの、筋量や慢性炎症の改善効果を示す科学的証拠は不十分であることが明らかとなった。
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加茂 智彦, 西田 裕介
セッションID: S-07
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 高齢者にみられる低栄養は生理的機能の低下とともに身体機能の低下を引き起こす。身体機能の低下により、身体低活動や食欲不振を引き起こし、さらに低栄養を助長するという悪循環が生じる。また、身体機能の低下はADL能力の低下を引き起こし、死亡率の増加、QOLの低下を招くことになる。このようにリハビリと栄養は相互関係になっており、切っても切り離せない関係である。低栄養状態でリハビリを行っても改善が認められないばかりか、たんぱく異化を引き起こす危険性も示唆されている。しかし、リハビリの視点から栄養を捉えた研究は少ないのが現状である。そこで、本研究では栄養状態が身体機能に及ぼす影響を検討した。
【方法】 本研究の対象は施設入所者61名(男性:8名、女性:53名)である。測定項目は、年齢、BMI、MMSE、簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment MNA)、SPPB(Short Physical Performance Battery)、上腕周径、下腿周径、握力とした。統計学的分析では身体機能と栄養状態との関連性を検討するために、SPPBを従属変数とし、独立変数を年齢、BMI、MMSE、MNA、上腕周径、下腿周径、握力としたステップワイズ法による重回帰分析を行った。すべての統計処理はSPSSを用い、統計的有意水準は危険率5%未満とした。なお全対象者または家族に研究の目的および測定に関する説明を十分に行い、口頭または書面にて同意を得た。
【結果】 各項目の測定結果は平均値±標準偏差で示した。対象者の年齢は85.7±6.8歳、介護度は2.54±1.4、MMSEは14.4±8.5、MNAは17.8±4.4、上腕周径は21.7±2.9、下腿周径27.5±3.2、SPPBは2.4±3.0、握力は10.1±7.6であった。また、重回帰分析の結果から、SPPBに最も強く影響しているのはMNAであった(β=0.628、p<0.0001)。次いで、上腕周径(β=-0.427、p<0.001)、下腿周径(β=0.450、p<0.001)、BMI(β=-0.310、p<0.01)が有意な影響を示した。年齢、MMSE、握力はSPPBに有意な影響を与えなかった。また、共線性の診断を行ったところ、多重共線性の発生は見られなかった。
【考察】 結果よりMNAによる栄養状態がSPPBに最も強く影響していることが明らかになった。MNAはアルブミン値などの生化学検査項目との関連があり、死亡率との関連も報告されている。また、先行研究から栄養状態がADLに関連があることが報告されているが、本研究の結果から、低栄養状態が身体機能の障害を引き起こし、その結果ADLの障害を生じると考えられる。
【まとめ】 本研究では、施設入所者を対象として、栄養状態が身体機能に与える影響について検討した。その結果、MNAによる栄養状態がSPPBに最も強く影響していることが明らかになった。
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矢部 広樹, 河野 健一, 西田 裕介
セッションID: S-08
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
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【諸言】 透析患者において、心拍のR-R間隔から解析する心拍変動(SDNN)の減少や自律神経障害は、心臓突然死や種々の合併症のリスクになると言われている。先行研究より、適切な運動療法は、圧受容器感受性の改善を通じて、心拍変動や自律神経障害を改善させると報告されている。そのため、透析患者に対して心拍変動と自律神経反応の改善を目的とした運動療法が重要であると考えられる。しかし継続的なリハビリテーションの実施にも関わらず、心拍変動の改善が見られず、自律神経反応が徐々に悪化した症例を経験した。今回は虚弱透析患者に対する運動療法の負荷設定について、本症例検討を通じて考察する。
【症例紹介】 社会的な理由で長期入院中の70歳台の透析患者。身長165㎝、Dry Wight53.5㎏、BMI19.5。ADLは車椅子レベルで、生活全般に軽介助が必要な状態であり、歩行はリハビリ実施中に訓練目的で実施するのみであった。介入期間を通じて疾患等のイベント発生はなかった。本検討はすべてヘルシンキ宣言に従い、対象には書面および口頭にて発表の同意を得た。
【理学療法評価とプログラム】 リハビリテーションは非透析日と透析後に、安静時の心拍変動と自律神経活動を測定した後、筋力増強と運動耐用能の改善を目的に、起立・歩行訓練、リカンベントエルゴメータ運動を実施した。運動はすべて過剰な交感神経活動を抑制するために自覚的運動強度の13程度を上限とした。またリカンベントエルゴメータ運動は、低強度で実施するために設定できる最小の負荷量にて実施した。運動効果のアウトカムとして、安静時の心拍変動からSDNN、迷走神経活動の指標であるrMSSDとHF成分、交感神経の指標であるLF/HFを測定した。運動のパフォーマンスとして10m歩行速度を毎回のリハビリ実施時に測定した。
【結果】 介入期間は3月5日から6月5日までの12週間。透析日と非透析日を併せて、平均して週に3-4回介入した。結果、介入期間を通じてSDNNと10m歩行速度は改善せず、徐々にHF成分は減少、LF/HFは増加を示した。
【考察】 運動が自律神経活動へ与える影響について検討した先行研究では、嫌気性代謝閾値(AT)での強度にてエルゴメータ運動を実施した結果、12週間の実施でSDNNに改善が見られ、8週では効果が見られなかったことが報告されている。しかし本症例は12週間の実施にも関わらず徐々に値が低下したことから、負荷強度の設定に問題があったと考えられる。漸増運動負荷時のHF成分は、運動開始と共に徐々に低下し、AT付近で消失することが報告されている。本症例のHF成分は安静時から非常に低かったことから、運動に対する心肺系の予備能が低いことが考えられる。そのため本検討で実施した強度であっても、過負荷であった可能性が否定できない。今後は、より低強度での運動を実施していく必要があると考えられる。
【結語】 本症例のような虚弱透析患者に対しては、先行研究同様の設定で運動をすることは難しい場合が多い。今後は自律神経活動も含めた評価方法と、個別的な運動の設定方法の確立が必要であると考えられる。
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和久田 未来, 臼井 晴信, 西田 裕介
セッションID: S-09
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 疲労感は、発熱や疼痛などと共に身体の異常を認知する重要なアラームの1つであり、理学療法士は個々の疲労を客観的に評価し、疲労の程度に応じて理学療法を変更する必要がある。しかし現在、疲労を客観的に評価する方法としてはfMRIを用いたり、疲労の結果生じるパフォーマンスの低下を評価したりするものが一般的であり、これらの評価方法では、理学療法士が臨床場面で簡便に個々の疲労を評価することは困難である。慢性疲労は自律神経機能障害と関連しているという報告から、疲労感を自律神経活動で評価することができると考えられる。そこで本検討では、一症例の疲労感と自律神経活動の経時的な変化から、疲労感と自律神経活動との関係性について症例検討を行った。
【方法】 〔患者情報〕 本症例は70代女性(身長152.5㎝、体重54㎏)で、H24年3月27日に転倒して左大腿骨頚部骨折と診断され、人工骨頭置換術を施行している。本症例は疲労の訴えが強く、疲労感が強い日は理学療法介入の阻害因子となった。
〔測定方法〕 測定期間はH24年5月20日から29日までの9日間で、疲労感と自律神経活動の経時的変化を測定した。疲労感の指標にはVisual analog scale(以下VAS)を使用した。自律神経活動は、心拍計(POLAR RS800CX Polar社製)を使用して背臥位でのRR間隔を5分間測定し、心拍変動解析から副交感神経活動の指標であるRMSSDとHF、交感神経活動の指標であるLF/HFを得た。統計学的分析は、疲労感のVASと自律神経活動との関係性はPearsonの積率相関係数を用いて検討した。さらに、疲労感のVASを従属変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行い、自律神経活動が疲労感へ与える影響を検討した。有意水準は危険率5%未満とした。本検討はヘルシンキ宣言に従い、症例に対して目的を説明して同意を得て実施した。
【結果】 疲労感のVASと副交感神経活動(RMSSD、HF)の経時的変化では、鏡像現象が観察でき、疲労感のVASと副交感神経活動との間には有意な負の相関関係が認められた(RMSSD:r=-0.71 p<0.05、HF:r=-0.74 p<0.05)。交感神経活動(LF/HF)においては有意な正の相関関係が認められた(r=0.68 p<0.05)。分散分析表の結果は有意で、独立変数のうちHFのみが採択され、寄与率は54%であった(偏回帰係数:0.74、95%信頼区間:[7.48-10.29])。
【考察】 疲労感は主観的なものであるため、不定愁訴として捉えられがちであったが、本検討より主観的な疲労感の強さは副交感神経活動の退縮によって生じていることが示唆された。慢性疲労の原因は、自律神経の調整に関与する前帯状回でのアセチルカルニチンの代謝異常であると報告されている。アセチルカルニチンはアセチルコリン産生を促進する物質であることから、副交感神経活動と疲労感に強い因果関係が生じたと考えられる。
【まとめ】 本検討より、副交感神経活動の指標の中でもHFの変動を経時的に評価することで、個人間の疲労感を客観的に評価できる可能性が示唆された。理学療法士が疲労感を評価して、疲労の程度に応じた運動介入やプログラムの変更により、慢性疲労患者のパフォーマンスの向上に寄与できると考えられる。
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中井 美香, 木林 勉
セッションID: S-10
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 年代別にFunctional reach test(以下FRT)の標準値を作成する。また、それに関連する要因を明らかにすることで、理学療法を行う上でのバランス能力の経時的変化や効果的な転倒スクリーニングの基礎資料とする。
【方法】 対象は、大学学園祭で本研究の参加を募り、それに応募した163名(男性70名、女性93名)とし、平均年齢は45.1±17.1歳(20-78歳)であった。対象者には本研究の概要を説明し、本人の参加意思を確認後書面にて同意を得た。年齢、性別を聴取し、FRTと身体特性(身長、体重、下肢長、上肢長、足長)、運動機能(握力、足指筋力、重心動揺総軌跡長)を測定した。FRTとの関連には、Peason積率相関係数で分析し、有意水準は5%未満とした。
【結果】 FRTと身体特性の関連は、身長(r=0.436)、上肢長(r=0.31)、足長(r=0.307)、下肢長(r=0.27)、体重(r=0.236)の順に有意な相関があり、また身長とその他の身体特性にて正の相関が見られた。本研究では、個々の比較において身体特性の影響を考慮し、FRTを身長補正した年代別標準値(FRT/height±2SD)を求めた。結果は、20-30代男性19.2±4.8、女性19.4±5.2、全体19.3±5.0、40-50代男性17.9±5.2、女性18.9±6.2、全体18.5±5.8、60代以降男性15.8±7.4、女性16.1±7.4、全体16.1±7.4となった。身長補正したFRTと運動機能の関連では、握力は20代女性(r=0.542)と20代男性(r=0.436)、足指筋力は20代女性(r=0.784)、30代男性(r=0.622)で相関を認めた。
【考察】 年代別FRT標準値では、年代が上がるにつれてFRT値は減少する結果となり、先行研究同様の結果であった。加齢に伴い動的バランス能力が低下することがこれにより示唆された。FRTと運動機能の関連では、20代、30代において握力や足指筋力がFRT値との相関を示したことから、安定した前方リーチを保障するには筋力の関与が大きいと推測された。藤原は、足圧中心位置が立位安定域内(踵から足長の約30~60%)にある場合筋力は殆ど関与しないが、安定域外では筋活動量によって立位の安定性が左右されると報告している。若年者は足関節戦略で前方に重心移動し、筋力によってバランスを制御していると示唆される。加齢に伴い姿勢制御は股関節戦略が優位となり、前足部で制御しにくくなる。そのため、40代以降では筋力と関連が認められなかったと考える。25㎝前後のFRT値では前方に重心移動せずとも姿勢変化でリーチできるとの報告から、このような要因も40代以降のFRT値と関与している可能性がある。
【まとめ】 本研究では、FRTと最も相関が高い身長を補正する項目として選択し、身長補正し年代別FRT標準値を作成した。また、FRTと運動機能との関連では、年代によってバランスを制御している要因が異なり、筋力や姿勢制御によってバランスを保持していると推測された。
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鈴木 啓介, 西田 裕介
セッションID: S-11
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【背景】 歩行継続の阻害因子として、糖の枯渇が報告されている。長時間の歩行では糖代謝に代わるエネルギー供給として脂質代謝の亢進が認められる。脂質代謝は主にタイプⅠ線維にて行われ、筋によりタイプⅠ線維の含有量は異なる。つまり、エネルギー供給を維持するためには柔軟に筋の活動を変化させる必要がある。また、活動する筋の変化が動作に影響を与えている。そこで、本研究では脂質代謝の亢進を‘エネルギー効率の向上’と定義し、3人の対象者のデータを基に脂質代謝亢進前後の下肢筋活動、歩行周期の変化から、歩行継続への適応性について考察する。
【対象と方法】 対象は健常成人男性3名とした。なお、対象者には研究内容及び倫理的配慮について説明を行い、研究参加の同意を得た。プロトコルは安静座位5分、時速4.5㎞/hでの練習歩行5分行い、同速度にて90分間の歩行を実施した。代謝の分析には呼気ガス分析装置を使用し、呼吸交換比を算出した。筋協調性と筋活動量の分析には表面筋電図を使用し、前頸骨筋、内側腓腹筋、ヒラメ筋、大腿直筋、内側広筋、半腱様筋、中殿筋を対象筋とした。計測したデータより構成要素の数と、解剖学的筋グループの一致率を筋協調性の指標として用いた。また、筋活動量の指標として筋積分値を算出した。歩行周期の分析には3軸加速度計を用い、重心の左右、上下、前後の最大リアプノフ指数を算出した。データ解析は歩行開始10分間と歩行終了前10分間のデータを用い、筋積分値と最大リアプノフ指数は開始10分間を基準とし、変化率を算出した。
【結果】 呼吸交換比は歩行開始10分=0.85、終了前10分=0.81となり終了前では脂質代謝が亢進した。構成要素の数は歩行前後共に4であり、変化は認めなった。解剖学的筋グループの一致率は大腿四頭筋にて歩行開始10分=77.7%、終了前10分=88.0%、下腿三頭筋にて歩行開始10分=94.4%、終了前10分=96.0%と歩行終了前では各筋グループの協調性が亢進した。筋積分値の推移は、大腿直筋=-24.7%、内側腓腹筋=-8.3%、と2筋にて低下し、終了前10分の筋活動量が低下した。最大リアプノフ指数の推移は左右=-8.7%、上下=5.1%、前後=-10.3%であり、左右、前後で低下し、終了前10分の歩行の周期性は安定化した。
【考察】 本研究において脂質代謝亢進時には解剖学的筋グループの筋協調性亢進、大腿直筋、腓腹筋の活動量低下、歩行周期の安定化が認められた。歩行継続時には脂質代謝を亢進させるために、筋の協調性を亢進させ、必要な筋力を相補的に補うことで、糖代謝を行うタイプⅡ線維が豊富な大腿直筋や腓腹筋の活動量を低下させ、相対的にタイプⅠ線維の豊富な内層筋の筋活動を向上させたと考えられる。また、筋協調性を亢進させ動作の自由度を制限することで、歩行周期を安定化させたと考えられる。
【まとめ】 歩行の継続時には、エネルギー効率を向上させるために解剖学的筋グループの協調性を亢進させ、適応している可能性が示唆された。また、筋協調性の亢進に伴い、歩行の周期性が安定化する可能性が示唆された。
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新津 雅也, 西田 裕介
セッションID: S-12
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【はじめに】 ミトコンドリアはエネルギー代謝に不可欠であり、その機能はエネルギー生成効率に反映される。生体組織において90%以上の酸素がミトコンドリアによって利用され、血流遮断時の筋酸素化(Oxy-Hb)の低下率(Muscle Oxygenation2:MO2)と遮断終了直後のOxy-Hbの回復率(Time Recovery:TR)は酸素利用能を反映することが報告されている。また、ミトコンドリアの機能と無酸素性作業閾値(Anaerobic Threshold:AT)は相関を示すことが報告されている。以上のことから、本研究ではMO2, TRとATの関係を明らかにし、MO2とTRがミトコンドリアの機能を反映する指標となりうるのか検証した。
【方法】 対象は健常男性8名(24±4歳167.5±7.5㎝、57.8±8.1㎏)とした。Oxy-Hbは背臥位にて股関節、膝関節を90度にしてヒラメ筋を対象にして測定した。5分間の安静後に3秒間で1回の足関節自動底屈運動と3秒間の休息をメトロノームに合わせて交互に3分30秒間行った。運動終了30秒前より30秒間血流遮断を行い、その後3分間の回復を図った。ATは自転車エルゴメータを用いたRamp負荷試験により測定した。解析について、MO2は安静時を基準とした運動時の変化量(%MO2 ex-rest)を用い、TRは遮断終了後のOxy-Hbが最大に達した時の回復率をそれに達するまでの時間で除した値を用い、これらをミトコンドリアの機能と定義した。なお、本研究は聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認のもと実施した。
【結果】 Oxy-Hbの推移において、全ての被験者で血流遮断時に低下を示した。%MO2(ex-rest)とATについてはr=0.58の相関を示した。一方、TRとATについてはデータにばらつきが認められたが、一部で相関傾向を示した。また、%MO2(ex-rest)とr=0.69の相関を示した。
【考察】 ATは酸素供給能と酸素利用能を反映するとされているが、健常者ではミトコンドリアの機能と相関することが報告されている。%MO2は血流遮断下での酸素消費量であるため、ミトコンドリアの機能として捉える事ができ、%MO2(ex-rest)とATとの関係からその可能性が示された。一方、TRについてはATと一定の関係を示さなかったが、一部で相関傾向を示し、%MO2(ex-rest)とも相関を認めた。TRはクレアチンリン酸の合成時間と関係しており、本結果と合わせてミトコンドリアの機能を反映しうることが考えられる。
【まとめ】 一時的動脈遮断時におけるOxy-Hbの低下率とその後の回復率をミトコンドリアの機能として捉え、ATとの関連性を検証した結果、相関が示された。よって、%MO2 ex-restとTRはミトコンドリアの機能を反映する指標として用いることができる可能性が示された。
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米田 嗣音, 土山 裕之, 山口 昌夫
セッションID: S-13
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 近年、脳卒中片麻痺患者における麻痺側下肢の機能を定量的に評価し、歩行能力とADL能力の関連性が検討されている。しかし、その測定には高価な機器を使用していることが多く、測定できる臨床の現場は限られている。そのため、本研究では市販体重計を使用して麻痺側下肢の筋出力を定量的に評価し、歩行能力やADL能力と関連性が高いBerg Balance Scale(以下BBS)との関係を検討することとした。
【対象と方法】 対象は当院にて理学療法が処方された脳卒中片麻痺患者のうち麻痺側下肢のBrunnstrom Recovery Stage(以下BRS)が3以上であり、意識障害、認知機能低下、高次機能障害、運動器疾患を認めない30名である。対象者には書面にて研究の趣旨を説明し同意を得た。麻痺側脚伸展筋出力の測定方法は、村田らの方法に準じて45㎝の治療台に端座位をとり市販体重計を用いて行った。2回の練習の後、3回測定した。測定3回における平均値(㎏)と体重で除した値を麻痺側脚伸展筋出力(㎏f/㎏)として算出した。統計処理は、測定3回における麻痺側脚伸展筋出力の再現性を級内相関係数(以下ICC)を用いて検討した。また、対象者のBRS別による各麻痺側脚伸展筋出力の平均値の差とBBSの合計点の平均値の差をみるために一元配置分散分析および多重比較検定を行った。そして、麻痺側脚伸展筋出力とBBSの合計点の相関をみるためにPearsonの積率相関関係の検定を行った。なお有意水準は5%未満とした。
【結果】 対象者の麻痺側脚伸展筋出力の再現性をICCにて検討した結果、0.945であった。BRS別の麻痺側脚伸展筋出力は、BRS3群に比べてBRS4群とBRS5群はそれぞれ有意に高値を示した(P<0.05、P<0.01)。BBSの合計点においてもBRS3群に比べてBRS4群とBRS5群はそれぞれ有意に高値を示した(両者P<0.01)。またBRS4群に比べてBRS5群でも有意に高値を示した(P<0.05)。BRS3、4、5の各群において麻痺側脚伸展筋出力とBBSの合計点との間にはそれぞれ正の相関を認めた(BRS3:r=0.787、P<0.05、BRS4:r=0.822、P<0.01、BRS5:r=0.600、P<0.05)。
【考察】 端座位での麻痺側脚伸展筋出力の測定は立位が困難な患者においても可能であり、ICCの結果からも高い再現性が得られた。本研究の結果からBRSの向上にともない麻痺側脚伸展筋出力が高値を示す結果が得られた。これに関しては、運動麻痺の回復により2関節筋の共働運動で関節の固定性が得られ筋出力が向上したものと考える。また、各運動麻痺の回復段階における麻痺側脚伸展筋出力とBBSには正の相関を認めた。麻痺側下肢筋力とバランス能力の相関関係は諸家によって報告されており、本研究でもその関係性を支持する結果を得た。これらのことから、端座位での麻痺側脚伸展筋出力はバランス能力における麻痺側下肢の支持性を簡便に且つ定量的に評価できる手段の1つであることが示唆された。
【まとめ】 端座位にて市販体重計を使用した麻痺側脚伸展筋出力の評価は立位が困難な患者にも使用でき、対象範囲が広いことが特徴的であった。また、バランス能力における麻痺側下肢の支持性を定量的に測定ができることから理学療法の効果判定や目標設定に活用できるものと考える。
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浅野 翔, 河尻 博幸, 三科 ひろみ, 林 博教, 木村 伸也
セッションID: S-14
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 病棟内歩行自立許可は脳卒中患者のリハビリテーションの過程で、最も重要な判断といえる。この判定方法に関しては、回復期リハ病棟入院患者など集中的リハビリテーション実施時期において、種々の運動機能評価に基づく判定基準が報告されている。しかし急性期リハにおける報告は少ない。今回我々は、過去の報告においてしばしば使用されてきた運動機能評価法と病棟内での歩行動作および関連動作の観察・評価の結果から急性期リハにおける病棟内歩行自立の判定方法について検討を行った。
【対象と方法】 病棟内1周(約50m)の連続歩行が可能で病棟内歩行未自立の入院脳卒中患者54名(男性41名、女性13名、年齢68.1±11.3歳、評価時点の発症後期間13.3±11.3日)を対象とし、以下の評価を行った。
1. 運動機能評価:(1)最大歩行速度(以下、MWS)、(2)Timed“up and go”test(以下、TUG)、(3)Berg balance scale(以下、BBS)。それぞれについて、過去10年間の報告に基づいて、歩行自立判定のカットオフ値を、MWS35.3m/min(伊集ら2009)、TUG15.3秒(高橋ら2008)、BBS33点(高橋ら2008)とし、各評価結果毎に対象を2群に分類した。
2. 病棟内歩行観察・評価:当院で作成した歩行自立アセスメントシートを使用して自室ベッドから起き上がり、病棟内を1周歩行、再び自室ベッドに戻り臥位をとるまでの一連の動作を観察し、病棟内歩行における問題を確認した。
全例の各運動機能評価に基づく歩行自立判定結果と病棟内歩行観察・評価結果を比較し、さらに自宅退院した44名については評価日から退院までの期間との関連を分析した。統計解析法はMann-Whitney検定(有意水準5%未満)、処理には、SPSS ver. 19.0を使用した。
【結果】 1. 各運動機能評価のカットオフ値を満たした者は、54名中、MWS44名、TUG38名、BBS48名であった。このうち、病棟内歩行観察・評価ではMWS17名、TUG12名、BBS21名に問題が確認された。一方、カットオフ値を満たしていない者ではTUG2名を除き、病棟内歩行観察・評価でも問題が確認された。
2. 自宅退院44名が退院までに要した期間は、各運動機能評価のカットオフ値により分類された2群間では有意差を認めなかった(MWS:p=0.949, TUG:p=0.694, BBS:p=0.870)。病棟内歩行観察・評価の問題の有無で分類した2群間では有意差を認め(p=0.021)、問題の無い者の方が早期に退院した(問題なし:9.6±8.9日、問題あり:14.0±6.4日)。
【考察】 広く用いられている運動機能評価であるMWS, TUG, BBSのカットオフ値を満たしているものであっても、病棟内歩行観察・評価では問題が確認された例が多く、既存の運動機能評価のみで歩行自立を判定することはできないと考えられた。また、MWS, TUG, BBSとは違い、病棟内歩行観察・評価の結果は、退院までに要する期間と有意に関連していた。
以上から、運動機能評価のみではなく直接病棟での歩行を観察することによって、問題点を明らかにすることが重要と考えられた。
【まとめ】 急性期脳卒中の病棟内歩行自立の判定には直接歩行動作の問題が明らかとなる病棟内歩行観察・評価の方が既存の評価法よりも優れていると考えられた。
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片山 脩, 壹岐 英正, 澤 俊二
セッションID: S-15
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 脊髄損傷、切断などにより感覚遮断が生じた四肢にしびれ感などの感覚を知覚する経験を幻肢と呼び痛みを伴う場合を幻肢痛と呼ぶ(住谷。2010)。幻肢痛については鏡療法やVirtual Visual Feedbackが緩和したとの報告がある(Catherine. 2009)。しかし、その多くは切断者や胸髄損傷者が対象であり高位頸髄損傷者の幻肢痛に対する介入効果の検討は少ない。そこで高位頸髄損傷により、幻肢および幻肢痛が生じた症例を対象に介入効果をシングルケースデザインにて検討したので報告する。
【方法】 対象は約4年半前に頸髄損傷(C2)完全四肢麻痺と診断された20歳代男性。左肩関節周囲に「後ろから引っ張られている」といった感覚(以下、幻肢)としびれを伴う幻肢痛(以下、幻肢痛)を訴えていた。シングルケースデザインの操作交代型デザインを用い鏡条件(以下、M条件)、Virtual Visual Feedback条件(以下、V条件)、コントロール条件(以下、C条件)の3条件で検討した。条件はランダムに1日1条件、週3日の頻度で各条件16日間行った。介入は10分間とし起立台75度立位でM条件では鏡を設置し自身の姿を見るように指示した。V条件では鏡に頸部から下が隠れるようにシーツを巻き付け、第三者が歩行している頸部から下の映像を流し「自分が歩いているかのように手足を動かすイメージをしてください」と指示した。C条件は何も設置しなかった。幻肢および幻肢痛の強さはVisual Analog Scale(以下、VAS)で評価し、介入前後のVAS減少率を算出した。効果判定は統計学的分析として一元配置分散分析と多重比較(Tukey、Games-Howell)を用い各条件を比較検討した。有意水準はすべて5%未満とした。なお、対象には研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。
【結果】 介入前の幻肢/幻肢痛のVAS平均値は、M条件72.7±5.6㎜/63.3±7.2㎜、V条件72.7±4.4㎜/66.6±6.7㎜、C条件71.6±3.6㎜/63.4±8.2㎜で各条件間に有意差はなかった。幻肢のVAS減少率は、M条件10.4±7.0%、V条件13.3±5.4%、C条件4.9±5.3%でM条件とC条件、V条件とC条件間で有意差を認めた(p<0.05)。幻肢痛のVAS減少率は、M条件10.3±11.7%、V条件13.1±8.2%、C条件3.2±8.4%でV条件とC条件間で有意差を認めた(p<0.05)。
【考察】 幻肢、幻肢痛ともにV条件で有意な改善を認めた。幻肢および幻肢痛は知覚-運動連関の破綻により生じることが示唆されている(Sumitani. 2008)。症例は頸髄損傷により感覚脱失したことで知覚-運動連関が破綻し幻肢および幻肢痛が生じたと考えた。V条件は映像に合わせ運動をイメージすることで運動指令と視覚入力による知覚-運動連関が可能となりVASの減少を認めたと考えた。M条件は視覚入力のみであったことからV条件に比べVASの減少が小さかったと考えた。しかし、V条件で有意な改善を得たものの幻肢および幻肢痛は残存した。これは幻肢痛だけでなく脊髄損傷による神経障害痛も混在しているためではないかと考えた。
【まとめ】 高位頸髄損傷者の幻肢および幻肢痛に対する介入効果をシングルケースデザインにて検討した。今回の結果から、映像に合わせて運動をイメージするVirtual Visual Feedbackの有効性が示唆された。
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深川 青海, 早川 友章, 河合 靖生, 甘井 努
セッションID: S-16
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【はじめに】 視神経脊髄炎は、視神経炎と横断性脊髄炎を繰り返す疾患である。中でも抗アクアポリン抗体陽性例は、無治療で高率に再発し、障害が増悪すると報告されている。今回、当院入院中に再発と、その後のステロイド剤服用中に感染を認めた抗アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎の理学療法を経験した。
【症例紹介】 76歳女性。[診断名]視神経脊髄炎(以下NMO)。[障害名]対麻痺。[現病歴]平成23年X月、吐気、嘔吐で近医入院。補液、抗生剤治療。12病日、乳頭から遠位にしびれ・脱力感あり。翌日症状悪化、歩行困難となり急性期病院に転院。腹部・両下肢随意性なし。ステロイドパルス療法の効果認めず。免疫吸着療法施行。115病日後、リハビリテーション(以下リハ)目的に当院転院。[血清]抗アクアポリン4抗体陽性。[服薬]ステロイド剤の服用なし。
【入院時現症】 視力低下、視野狭窄認めず。眼球運動正常。ASIA motor score(以下ASIA)55/100。触覚Th4以下中等度鈍麻。下肢運動覚中~重度鈍麻。MMT(右/左)股関節屈曲2/2-, 伸展1/1, 外転1/1。膝関節伸展2-/1。足関節背屈2/2-。体幹屈曲2。端座位保持は両上肢支持で軽介助。立位保持・起立全介助。移乗全介助。FIM Total 49点(FIM Motor 24点)。
【経過】 122病日、吃逆を認める。全身倦怠感の訴え強く、離床困難。ベッドサイドリハ中心。130病日、嘔吐・眼球運動障害を認める。体幹・下肢の麻痺増悪は認めず。再発(T2WIで橋被蓋、延髄被蓋に高信号)により転院。ASIA 51/100。ステロイドパルス療法後、PSL 20㎎/日服薬。161病日、当院再入院。ASIA 60/100.179病日、右短下肢装具(以下SLB)、左長下肢装具作成。平行棒内歩行訓練開始。184病日、左股関節運動時痛、左腰部痛を認める。起立・歩行訓練中止。191病日、体動困難。感染(左腸腰筋膿瘍、化膿性椎間板炎)により転院。ASIA 52/100。抗生剤治療後、261病日当院再々入院。ASIA 66/100。起立・歩行訓練中心にリハ実施。318病日、両側SLB着用し、前輪付き歩行器歩行自立。332病日、裸足での前輪付き歩行器歩行自立。356病日、自宅退院。
【退院時現症】 ASIA 76/100。触覚Th4以下軽度鈍麻。下肢運動覚軽~中等度鈍麻。MMT(右/左)股関節屈曲3/2。伸展3/2。外転3/2。膝関節伸展4/2。足関節背屈3/3。体幹屈曲3。端座位保持は上肢支持なしで可。立位保持・起立上肢支持なしで可。移乗自立。屋内前輪付き歩行器歩行自立。10m歩行24秒29歩。連続歩行距離300m。FIM Total 116点(FIM Motor 81点)。
【まとめ】 再発・感染症状出現に伴い、離床困難となる事で身体機能は低下した。症状が改善した後、装具を作成し、抗重力位姿勢を取り、積極的な運動療法を行う事で筋力増強を図った。これにより身体機能、歩行能力の改善を認めたと考える。再発・感染を認めたNMO症例に対し、症状が改善した段階で、積極的な運動療法を行う事は有効であると考える。
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古川 拓朗, 有薗 信一, 小川 智也, 渡辺 文子, 平澤 純, 三嶋 卓也, 深谷 孝紀, 谷口 博之, 近藤 康博, 田平 一行
セッションID: O-01
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 運動耐容能は呼吸機能と心機能、骨格筋機能に影響を受け、呼吸器疾患患者はこれら機能が低下し、運動耐容能を低下させる。特に骨格筋の機能低下が著しく、近赤外線分光法(NIRS)により、運動中の筋の酸素消費が低下するとされているが、最高酸素摂取量と局所筋酸素動態の関連は弱いとされている。血液組織脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy Hb)は酸素と結合していないヘモグロビンであり、安静時から運動時への変化量ΔDeoxy Hbは酸素の消費と供給のバランスの指標となる。そこで今回、ΔDeoxy Hbは有酸素能力を表す嫌気性代謝閾値(AT)と関連があるのではないかと考え、労作時低酸素血症が著しい間質性肺炎(IP)患者においてΔDeoxy HbとAT時、最大運動時の各指標との関連を検討した。
【方法】 対象はIP患者18例。内訳は年齢66.1歳、%VC94.3%、%DLco67.0%であった。対象に心肺運動負荷試験(CPX)を測定した。CPXは自転車エルゴメータを用いて10W/分のramp負荷を症候限界性に行い、呼気ガス分析装置を用いてAT時とpeak時のVO2と負荷量(Watt)、を算出した。CPX測定時にNIRSを用いて大腿四頭筋外側広筋で局所筋酸素動態を測定し、Deoxy Hbを測定した。AT時とpeak時のDeoxy Hbから安静時のDeoxy Hbを減算した値、ΔDeoxy Hb(AT-rest)とΔDeoxy Hb(peak-rest)を算出した。ΔDeoxy Hb(AT-rest)とAT時のCPXのデータ、ΔDeoxy Hb(peak-rest)とpeak時のCPXのデータの相関関係を検討した。
【結果】 Deoxy Hbは安静時は6.9±1.5 AU, AT時は6.7±1.9AU, peak時は7.3±2.3AUであり、peak時がAT時より有意に高値であった(p<0.05)。ΔDeoxy Hb(AT-rest)はAT時のVO2, Wattと相関関係を認めた(r=0.56, r=0.56, p<0.05)。ΔDeoxy Hb(peak-rest)はpeak時のVO2, Wattと相関関係の傾向を認めた(r=0.44 p=0.07, r=0.44 p=0.07)。
【考察】 IP患者の骨格筋の酸素消費はpeak時に最も高くなる。しかし、運動中のΔDeoxy Hbはpeak時の各指標と比較し、AT時の各指標との間に相関関係を認めた。中等度の運動強度であるAT時は、主に好気性代謝によるエネルギーを使用するため、ΔDeoxy Hbと関連を認めたと考える。一方peak時は、骨格筋の好気性代謝以外のエネルギー産生の影響も受けるため、ΔDeoxy HbとpeakVO2などの相関関係はAT時と比較して弱かったと考える。
【結語】 IP患者の骨格筋の酸素消費を表すDeoxy Hbは有酸素能力と関連があった。
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深谷 孝紀, 有薗 信一, 小川 智也, 渡邉 文子, 平澤 純, 三嶋 卓也, 古川 拓朗, 谷口 博之, 近藤 康博, 田平 一行
セッションID: O-02
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 間質性肺炎患者(IP)の運動耐容能と労作時低酸素血症は、予後予測因子である。また、経皮的酸素飽和度(SpO2)や骨格筋機能が運動耐容能に関連があると報告されている。しかし、IP患者における運動中の骨格筋の酸素消費とSpO2の関連については明らかになっていない。そこで、本研究の目的はIP患者における漸増運動負荷時の外側広筋の骨格筋酸素消費の指標と運動中のSpO2の変化の関連性を検討することである。
【方法】 対象は全身状態の安定したIP患者、男性20名(平均年齢:65.9±9.7歳、%VC:94.3±19.8%、%DLCO:67.0±21.9%)とした。自転車エルゴメータを使用し心肺運動負荷試験(CPX)を実施した。CPXは0Wで3分間のwarm upを行った後、10watt/分のramp負荷で症候限界性に実施した。CPX中にSpO2をパルスオキシメータにて測定し、同時に近赤外線分光法(near-infrared spectroscopy:NIRS)を使用し、外側広筋の組織酸素飽和度(tissue oxygen saturation:StO2)を測定し、骨格筋での酸素消費の指標(SpO2-StO2)を算出した。安静時と最大負荷時のSpO2とStO2を測定し、それぞれ最大負荷時の値から安静時の値を減算したΔSpO2とΔStO2を算出した。安静時と最大負荷時の間でSpO2, StO2, SpO2-StO2の比較と、ΔSpO2とΔStO2の比較を対応のあるt検定を用いて検討した。SpO2とSpO2-StO2の関係をピアソンの相関分析を用いて検討した。
【結果】 SpO2は安静時の95.8±1.8%に比べ、最大負荷時は88.7±6.0%に有意に低下した(p<0.05)。StO2は安静時の55.9±5.3%に比べ、最大負荷時は53.0±7.3%に有意に低下した(p<0.05)。安静時と最大負荷時の差であるΔSpO2は-7.1±5.5%であり、ΔStO2は-2.9±4.7%であり、ΔSpO2の方がΔStO2に比べ有意に高値を示した(p<0.05)。安静時のSpO2-StO2は39.8±4.7%で、最大負荷時のSpO2-StO2は35.9±9.7%と両者では差を認めなかった。SpO2とSpO2-StO2の関係では最大負荷時で相関関係を認め(r=0.676, p<0.05)、安静時では相関関係を認めなかった。
【考察】 StO2は安静時より最大運動時の方が低値を示したが、低下量はSpO2より小さかった。運動時に肺での酸素を取り込む能力が低下しても、骨格筋での酸素を抜き取る能力が補おうとしたと考えられた。骨格筋での酸素消費を表すSpO2-StO2と最大負荷時のSpO2との間に正の相関関係を認めた。これは運動終了時の労作時低酸素血症の程度が、骨格筋の酸素消費に影響することが示唆された。
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臼井 晴信, 西田 裕介
セッションID: O-03
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 慢性炎症は、生活習慣病を発症、進行させる一要因である。主に内臓脂肪中の免役細胞により慢性炎症が生じる。免疫細胞は自律神経の支配を受け、慢性炎症は一部自律神経活動により調節されると考えられる。心拍変動の周波数領域解析によるVLF(Very Low Frequency)の低下は、炎症反応や生命予後との関連が認められている。本研究ではVLFを慢性炎症に関与する自律神経活動の指標として用いる。
先行研究ではストレス負荷後30分以上遅延して炎症指標が増加し、その後持続することが認められている。本研究では心理ストレス課題により、VLFが課題後に遅延・持続して低下するという仮説を検証し、心理ストレスによる慢性炎症に関する自律神経活動の亢進を確認することを目的とする。
【方法】 健常成人男性10名(26.3±4歳)を対象に測定した。座位による安静10分(課題前安静)の後、Stroop課題を20分間実施し、その後2時間座位による安静(課題後安静)をとった。課題前安静から課題後安静終了までの間、心拍数計(RX-800 Polar社)にて心拍を計測した。心拍のR-R間隔データに周波数領域解析を行い(Memcalc/Tarawa)、課題前安静、課題時、課題後安静10, 20, 30, 45, 60, 90, 120分の各時間のVLF値を算出した。また、BMI、腹囲を測定した。VLF値の変化を課題前安静値で除し、VLF変化率とした。各時間のVLF変化率と身体計測値についてSpeamanの順位相関係数にて関連を検討した。課題後にVLFが課題前安静よりも低下した群をVLF低下群、低下しなかった群をVLF非低下群とし、身体計測値について対応のないt検定により群間で比較した。なお、本研究は聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認を得ており、対象者には口頭と文書にて説明し同意を得た。
【結果】 対象10名中7名において30分程度遅延したVLFの低下を認め、内6名においてVLFの低下は60分以上持続した。45分、60分でのVLF変化率とBMIには中程度の有意な負の相関を認めた(それぞれr=-0.69, p<0.05, r=-0.64, p<0.05)。VLF低下群はVLF非低下群に比べ、体重と腹囲が有意に大きかった(それぞれp<0.05)。
【考察】 7名で30分程度VLFが遅延して低下し、6名で60分程度低下が持続した。VLF低下の遅延・持続時間は、先行研究におけるストレス負荷後の炎症反応指標の遅延・持続した増加と類似している。ストレス負荷により慢性炎症を生じる自律神経活動が亢進したことを反映すると考えらえる。腹囲、BMIは内臓脂肪量と正の相関が認められている。課題後45分、60分のVLF変化率とBMIに負の相関を認めたこと、VLF低下群で体重と腹囲が大きいことより、内臓脂肪量とVLFの低下しやすさに関連があると考えられる。ストレス負荷による慢性炎症は、内臓脂肪の多い人で生じやすいという先行研究の結果と一致している。本研究の結果は、内臓脂肪の多い人は自律神経機能が低下していることを示唆している。
【まとめ】 本研究よりストレス負荷により慢性炎症を生じる自律神経活動が亢進することが示唆された。また、内臓脂肪の多い人は自律神経機能が低下している可能性を示唆したことより、理学療法士は自律神経機能の改善を目的とした介入をする必要があると考える。
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辻 量平, 杉原 奈津子, 寺林 大史, 森腰 恵, 大下 裕夫, 天岡 望, 種村 廣巳
セッションID: O-04
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 がん患者に対するリハビリテーション(以下リハ)は多くの施設で提供され、がん拠点病院や緩和ケア病床、ホスピスでの活動も活発である。当院のような施設基準を有さない民間病院であっても、がん拠点病院の指導を受けながら、がん緩和ケアについてより質の高い医療とケアを提供できるかを模索することは大変重要なことである。今回、術中に腹膜播種などが確認できバイパスのみとなった切除不能がん患者に対し、周術期リハチームの方から、緩和ケアチームに対し予後も含めた情報提供を行い、周術期リハチームと緩和ケアチームがともに早期介入ができ、良好なかたちで在宅へ移行できた症例を経験したので、当院の今後の方針も含めて報告する。なお、ご本人・ご家族に本件の主旨を口頭および当院所定の文書で説明し、署名による同意を得た上で病院長の許可も頂いた。
【方法】 症例は86歳男性。入院1か月前に食欲不振、嘔吐で近医受診し、当院紹介され、胃前庭部癌と診断され手術となった。手術1週間前のカンファランスにて手術方針や告知状況など情報を共有した。術前リハビリにより患者とのコミュニケーションを図り、患者が早い時期に在宅への移行を希望していることを知った。開腹の結果、腹膜播種が確認できたため、胃切除不能、胃空腸吻合に終わった。予後は3~6ヶ月との情報を得た。手術翌日に緩和ケアチームの早期介入を依頼した。
【結果】 緩和ケアチームの早期介入によって術後の苦痛緩和が図れ、周術期リハは効果的に進んだ。術後の食欲不振、摂食障害は緩和ケアチームの一員である管理栄養士による食事相談や内容変更により術後第14病日には全量摂取可能となった。患者からの在宅復帰への強い希望もあり周術期リハの実施と緩和ケアチームとの連携により、高齢でしかも切除不能胃癌患者の術後としては比較的早い術後26病日に退院できた。なお地域連携の看護師やMSWによって術後19病日から退院や退院後調整が行われた。
【考察】 当院では平成22年11月より緩和ケアチームが発足し、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、MSW、訪問看護師、理学療法士、作業療法士で構成されている。このような施設は少なくなく、がん緩和医療への質の高いリハの需要は高まっている。今回、進行胃癌患者に対し、術前からのリハを通してコミュニケーションがとれたこと、周術期に手術情報、予後情報、その他の患者情報をがん緩和ケアに携わる他職種と理学療法士とで共有でき、余命短い本患者が求める在宅へという希望を実現するため、早い時期から多職種が同じベクトルでそれぞれの専門職としての役割を果たすことで、患者の希望である早期在宅へ誘導でき、ひいては患者のQOLに益したものと考えられる。このような進行がん患者をケアするにあたり、それぞれの専門職でのチーム医療がいかに重要であるか痛感させられた1症例である。今後も本症例での経験を生かし、がん治療の早期から多職種が情報を共有することで、患者のQOLを高める実績づくりを行っていきたい。
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河合 賢太郎, 黒嶋 由紀, 石原 祐子, 成田 誠, 安部 崇, 進藤 丈
セッションID: O-05
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 近年、がんが不治の病であった時代から、がんと共存する時代となり、がん患者に対するリハビリテーション(以下:リハ)のニーズはさらに高まってきている。当院では平成23年より、がん患者リハビリテーション料の算定を開始した。しかし施行していく中で、全身状態や倦怠感の増悪などからリハ意欲が低下し、リハの目標設定に苦慮する症例がみられた。病状に見合わない高い目標設定は、患者の肉体的・精神的苦痛となりかねないため、経過に応じたプログラム選択が必要であると考えた。そこで本研究では適切に目標を設定するために、予後とADLとの関係について検討し、予後予測の有用性について報告する。
【方法】 平成23年1月から平成24年5月にリハを実施した、進行がん・末期がんの入院患者57例(平均年齢68.4±10.3歳)を対象とした。リハ開始時Palliative Prognostic Index(以下:PPI)とリハ開始時からの生存期間、リハ開始時PPIとBarthel Index(以下:BI)の最大向上値について、またBIが向上した群(n=26)、BIが向上しなかった群(n=31)に分け、リハ開始時からの生存期間との関連性について、Mann-WhitneyのU検定、ROC曲線を用いて解析した。有意水準は5%未満とした。
【結果】 PPI>6の場合、3週以内に死亡の感度61%、特異度80%、PPI>4で6週以内に死亡の感度60%、特異度79%であった。PPI≦4, 4<PPI≦6, PPI>6における、BI最大向上値の平均はそれぞれ9.5±10.7, 10.7±17.6, 5.3±9.0であり、有意差は認められなかった。BIが向上しなかった群、BIが向上した群の生存期間のカットオフ値は感度、特異度を元に9週と算出された(感度82%、特異度87%)。生存期間が9週より短く、BIが向上した患者(n=6)の平均年齢58.7±8.3歳、BIが向上しなかった患者(n=28)の平均年齢は71.2±9.6歳であり、年齢に有意差が認められた。
【考察】 本来、PPIは緩和ケア病棟で開発されたツールである。当院は終末期であっても放射線・化学療法により、生存期間の延長や症状の緩和を目指しているケースが多く、浮腫、食欲不振などの副作用によってPPIの評価項目に影響が現れ、先行研究と比較し感度が低く評価されたと考えられる。生存期間の短い予後不良群ではADL向上は困難であり、よりQOL向上を目的とする必要があり、がん患者のリハでは、Impairment, Disability, Handicapの評価に加え、目標設定には生命予後の評価が大切であると考えられる。また、生存期間が短い場合でも、年齢が低ければ短期間で機能、能力が改善しやすくADLが向上する可能性がある。がん患者のリハにおいてADL向上を予測するには、治療内容の把握や予後予測の正確性が必要であり、またQOL向上には要望の把握が不可欠であるため、適宜情報収集しカンファレンスを行うなど、経過に応じて最善なプログラム選択をするためには多職種チーム医療が大切である事が示唆された。
【まとめ】 目標設定の因子として、予後とADLとの関係について検討した。予後予測が重要な因子であり、他職種チーム医療が大切である事が示された。
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佐藤 武志, 眞河 一裕, 小田 知矢
セッションID: O-06
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 2010年の日本透析医学会調査では透析導入の原因疾患の第1位は「糖尿病性腎症」(1万6271人)である。
糖尿病合併症である腎症を発症し、透析導入になると身体活動量の制限と時間的制約が課され、生活の質が極めて低下する。
患者の機能維持のためには血糖コントロールと個々に見合った療養指導が必要になる。その中でも、運動指導は専門的な知識を必要とする。腎症の病期や身体機能レベルによって必要な運動量が異なる為、疾患の理解は必要不可欠である。
2012年の診療報酬改定により糖尿病透析予防管理料が新設された。当院は4月から透析予防管理を開始し、診療報酬を算定している。そのチームの一員として、理学療法士も参加し運動指導を行っている。今回、理学療法士の視点から導入に向けての取り組みについて報告する。
【運用方法】 糖尿病透析予防管理は外来通院をしている患者が対象である。そのうちHbA1cが6.5%(NGSP値)以上または内服薬やインスリン製剤を使用し、かつ腎症第2期以上の者に対し、医師が透析予防に関する指導の必要性があると認めた場合に実施する。必要な職種は専任の医師、専任の看護師(または保健師)、管理栄養士であり、加えて薬剤師、理学療法士が配置されていることが望ましいとされている。医師が運動指導の必要があると認めた患者に対しては理学療法士が個別で指導を行う。また、月に1度のケースカンファレンスを行い指導内容の問題点など抽出してチーム内での共通認識を持つようにしている。
【運用実績】 4月からの導入で6月末現在、全体の指導件数は266件でそのうち運動指導は20件であった。
【実績のまとめ】 糖尿病腎症に対する療養指導は病期によって内容が異なる。運動を推奨すべきか抑制すべきかは病期によって判断が必要になる。特に3-b期では個々の身体能力を見極めて運動量を設定することが大切である。
糖尿病ガイドラインでは3-b期は体力を維持する程度、4期はADL維持の為の運動と記載されている。しかし実際の臨床では具体的な指標を欲しているのが現状である。
三次救急病院である当院において理学療法士が外来で運動指導を行う例はほぼ皆無であった。今回、外来で潜在的に埋もれている非透析患者にフォーカスをあてることが可能になった。理学療法士はその患者群に具体的な運動療法を指導することで良好な血糖コントロールに寄与し、結果として合併症の進行予防に貢献できるのではないかと考える。
【今後の展望と課題】 糖尿病チームの中で運動指導を医学的観点から指導出来るのは理学療法士だけである。その為にチーム内での役割は大きい。
診療報酬上、透析予防管理料を算定した患者の1年間の総人数、HbA1cなどの状態変化の報告が義務となっている。その効果が認められればこの様な管理指導料は今後、増えていくのではないかと考える。
現在、糖尿病患者への理学療法は診療報酬では認められていない。その為、糖尿病運動療法の必要性は理解されているにも関わらず理学療法士の積極的活動が困難な病院は多い。この取り組みがきっかけとなり、糖尿病療養の重要性がさらにクローズアップされ、糖尿病の理学療法が算定可能となれば良いと考えている。
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合田 明生, 佐々木 嘉光, 本田 憲胤, 大城 昌平
セッションID: O-07
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 近年、運動が認知機能を改善、または低下を予防する効果が報告されている。運動による認知機能への効果を媒介する因子として、脳由来神経栄養因子(Brain-derived Neurotrophic Factor;BDNF)が注目されている。BDNFは、中枢神経系の神経活動によって神経細胞から刺激依存性に分泌される。そこで本研究では、BDNFと交感神経活動の関係に着目し、運動ストレスによる交感神経活動が、神経活動亢進を介して中枢神経系におけるBDNF分泌を増加させる要因であると仮説を立てた。よって本研究の目的は、健常成人男性を対象に、運動の前後でBDNFを測定し、運動が交感神経活動を亢進させることで、中枢神経系の神経活動を引き起こし、末梢血流中のBDNFを増加させるという仮説を検証することである。その結果から、運動によるBDNF分泌メカニズムの解明の一助とすることを最終目標とする。
【方法】 健常成人男性10名を対象に、30分間の中強度有酸素運動(最高酸素摂取量の60%)を実施した。運動の前後で採血を実施し、末梢血液中のBDNF、ノルアドレナリン(Noradorenaline:NA)を測定した。運動中の交感神経活動指標としてNAを用いた。また運動中の中枢神経活動指標として、前頭前野領域の脳血流量を用いた。以上の結果から、運動前後のBDNF変化量、交感神経活動の変化(NA)、大脳皮質神経活動の変化(脳血流量)の関連性を検討した。各指標の正規性の検定にはShapiro-wilk検定を用いた。血液検体の運動前後の比較には、対応のあるT検定を用いた。各指標の相関の分析には、Pearsonの相関係数を用いた。いずれも危険率5%未満を有意水準とした。
【結果】 中強度の有酸素運動介入によって、10人中5名では運動後に血清BDNFが増加したが、運動後のBDNFの値はバラつきが大きく、運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった(p=.19)。またBDNF変化量と交感神経指標の変化の間(BDNF-NA r=.38, p=.27)、中枢神経活動指標と交感神経指標の変化の間(脳血流量-NA r=-.25, p=.49)、BDNF変化量と中枢神経活動指標の変化の間(BDNF-脳血流量 r=-.16, p=.66)には有意な相関は認められなかった。
【考察】 本研究では、健常成人男性を対象に、30分間の中強度運動の前後でBDNFを測定し、運動が交感神経活動を亢進させることで、中枢神経系の神経活動を引き起こし、末梢血液中のBDNFを増加させるという仮説の検証を行った。その結果、中強度の運動介入によって、10人中5名は運動後の血清BDNF増加を示したが、運動前後のBDNF量に有意な差は認められなかった。この要因として、刺激依存性のBDNF分泌を障害するSNP保有が考えられた。また、BDNF変化量と交感神経指標の変化の間、交感神経指標と中枢神経活動指標の変化の間、BDNF変化量と中枢神経活動指標の変化の間には、有意な相関は認められなかった。この要因として、交感神経活動が急性BDNF増加に直接的には関与しないことが考えられる。
【まとめ】 健常成人男性における30分間の中強度有酸素運動は、末梢循環血流中のBDNFを有意に増加させず、運動によるBDNF変化には、交感神経活動や中枢神経活動は関連しないことが示唆された。
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瀧澤 ちなみ, 橋場 貴史
セッションID: O-08
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 トレッドミルを利用した歩行は、歩行分析および歩行訓練の手段として注目されている。しかしトレッドミル上の快適歩行速度は床上での快適歩行速度より速く感じられることがあり、歩行障害者にトレッドミル歩行練習を行う場合、速度設定を配慮しなければならない。本研究は視覚的情報を用い、トレッドミル歩行と平地歩行の快適歩行速度の差異を解消できるかを検討した。
【方法】 健常成人20名(男性11名、女性9名:平均年齢21歳)を対象とした。方法は、床上とトレッドミルで最も快適な速度で歩行するように指示し、両歩行の快適歩行速度を求めた。次に時速4㎞, 6㎞, 8㎞の3条件で撮影した映像を視覚的情報とした。その3条件の映像をスクリーン上に映したときのトレッドミル上快適歩行速度を求めた。トレッドミル上快適歩行速度と床上快適歩行速度の比較はt検定、トレッドミル上快適歩行速度と視覚的情報を用いた3つの条件での歩行速度は反復測定の分散分析を用い、多重比較(scheffe)を行った。有意水準は5%とした。
【結果】 床上快適歩行速度とトレッドミル上快適歩行速度を比較すると床上快適歩行速度はトレッドミル上快適歩行速度の1.88倍になり、床上が有意に速い結果となった。また視覚的情報を用いた全ての条件で、トレッドミル上快適歩行速度と時速8㎞時快適歩行速度以外は有意に減少した。
【考察】 トレッドミル上の快適歩行速度は床上での快適歩行速度より速くなるという従来からの報告と同様の結果が得られた。床上快適歩行速度とトレッドミル上快適歩行速度の差異を解消することは出来ず、むしろトレッドミル上快適歩行速度がより遅くなる結果となった。このことから時速8㎞時以上の映像を提示しなければ、体性感覚と視覚的情報の矛盾を解消できないことが分かった。今回、この矛盾を解消することは出来なかったが、視覚的情報によってトレッドミル上の快適歩行速度をコントロールできることが確認できた。また今回の研究では視界の端にまで映像を提示できなかったが、視覚的情報によって快適歩行速度は変化したことから視覚による情報量は大きく、平地歩行とトレッドミル歩行の相違点として大きな要因であると考えられる。体性感覚と視覚的情報の矛盾を解消し、トレッドミル上快適歩行速度を速くするためにはより速い映像を提示する、視界の端まで映像を提示することが必要であると考えられる。
【まとめ】 視覚的情報を用い、トレッドミル歩行と床上歩行の快適歩行速度の差異を解消できるかどうか検討した。床上快適歩行速度、トレッドミル上快適歩行速度、3つの視覚的情報を用いたトレッドミル上快適歩行速度を求め比較したが視覚的情報を用いても床上快適歩行速度との差異を解消することができなかった。
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舘 友基, 岩田 研二, 海野 智史, 山﨑 年弘, 木村 圭佑, 坂本 己津恵, 松本 隆史, 櫻井 宏明, 金田 嘉清
セッションID: O-09
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 臨床現場において特に歩行自立の判定には療法士の主観に頼ることが大きい。Berg Balance Scale(以下、BBS)は転倒リスクや歩行自立の指標として幅広く用いられ、回復期リハビリテーション病棟においても歩行自立の指標としての報告が多くされている。しかしながら、対象者の疾患、使用補助具、施設内環境、コンプライアンスなどにばらつきが見られることが問題点として挙げられる。そこで今回我々は当院における退院時歩行自立度を客観的に判定することを目的にBBSを用いて歩行能力との関連性について検討を行った。
【方法】 対象は2011年10月から2012年5月の間に当院回復期リハビリテーション病棟へ入棟し、退院時まで継続してBBSがフォローできた55名(脳卒中患者11名、大腿骨骨折患者24名、その他の疾患20名)。対象の内訳は男性11名、女性44名、平均年齢82.4±5.8歳、退院時の平均発症(受傷)後日数114.5±23.7日であった。歩行自立度の指標はFunctional Independence Measure(以下、FIM)6点以上を自立群、5点以下を非自立群とした。退院時の歩行自立群は35名、非自立群は20名であった。退院時BBS、FIM総得点および各項目得点、移動手段を当院データベースより後方視的に調査した。なおBBS検査の試行に困難をきたすような者は除外した。自立群は補助具別に検討するために、独歩群、杖群、walker群(シルバーカー含む)の3群に分類した。統計処理はIBM SPSS Statics18.0を用いて、自立・非自立群の検定にはMann-WhitneyのU検定を、補助具別の3群間比較には多重比較検定(Tukey-Kramer法)を用い、有意水準5%とした。さらに自立を予測する為のカットオフ値を、Receiver Operating Characteristic Curve(以下、ROC曲線)を用いて検討した。なお、本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】 退院時BBSは自立群48.2±7.6点、非自立群28.7±12.8点で有意差を認めた(p<0.05)。退院時歩行自立度のBBSカットオフ値はROC曲線より41点(感度86%、特異度80%)と判断した。補助具別では退院時独歩群4名、杖群13名、walker群18名となった。退院時BBS得点は独歩群54.3±1.3点、杖群52.2±3.5点、walker群44.0±8.0点となり、独歩群とwalker群、杖群とwalker群に有意な差を認めた。
【考察】 本研究では客観的指標であるBBSを用いて退院時歩行自立度の判断基準を検討した。望月の先行研究によると屋内歩行自立のカットオフ値は43点(得点範囲は36~56点)としているが、明確な歩行補助具の記載はされていない。本研究での退院時歩行自立度のカットオフ値は41点(得点範囲は25~56点)と先行研究よりやや低い値であるが当院では歩行器などのwalker群の対象者が多かった事が考えられた。今回の結果より自立度だけでなく、歩行補助具の選択時の一指標としてBBSが活用できると考えられた。今後は非自立群から自立群に移行した対象者のBBSの下位項目の検討を行っていく。本研究の限界としてはあくまで当院での結果であるため各病院・施設で検討を行う必要性があると思われる。
【まとめ】 当院回復期リハビリテーション病棟の歩行自立カットオフ値はBBS41点であった。
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岩ヶ谷 佳那, 西田 裕介
セッションID: O-10
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 心拍-運動リズム間の同期現象(CLS)は、運動リズムが心拍リズムを調節するという特徴から、運動に対する心臓の反応を示すものとして理学療法評価に用いることができる可能性がある。CLSの結合度は、位相コヒーレンス値を用いることで定量的に評価することができる。したがって、位相コヒーレンス値の変化が何を反映するのかを定義することができれば、CLSの評価指標としての有用性が高まると考えられる。また、我々は先行研究において、運動が体循環に与える影響の少ない足関節自動運動でCLSが発生することを示した。そのため本研究では、足関節自動運動を用いてCLSの結合度と生体反応の関連性を検討した。
【方法】 対象は、非喫煙者で呼吸循環器疾患や足関節疾患の既往のない健常男性16名(年齢:22±3歳)とした。対象者は背臥位となり、8拍毎の平均心拍数のブザー音に合わせて、利き足で5分間の足関節底屈自動運動を行い、CLSを発生させた。負荷強度は足関節底屈最大随意収縮力(MVC)の10%とした。CLSの発生に伴う生体反応を確認するために、測定肢の腓腹筋の筋血流量(Total Hb)を測定した。CLSの結合度は、CLSの発生が安定した2分間の位相コヒーレンス値の平均値を算出して求めた。統計学的分析として、位相コヒーレンス値と筋血流量の変化量との関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。有意水準は危険率5%未満とした。本研究は、聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認のもと実施し、対象者には口頭ならびに書面にて同意を得た。
【結果】 16名中12名の対象者でCLSが発生した。位相コヒーレンス値と筋血流量の関係は、位相コヒーレンス値が高い対象者ほど筋血流量が増加するという、正の相関関係を示した(r=0.70, p<0.05)。
【考察】 CLSの生理学的作用として、心臓収縮期と筋弛緩期が同期することにより、筋内圧が低いときに筋血管に血液が流入するため、活動筋の血流量が増加することが報告されている。本研究では、心拍リズムと運動リズムを1:1で同期させたため、心臓収縮期と筋弛緩期が一致して筋血流量が増加したと考えられる。位相コヒーレンス値が高い対象者ほど筋血流量が増加した要因としては、結合度が強いほど2つのリズムの不一致が少なく、適切なタイミングで活動筋へ血液が流入したことが考えられる。位相コヒーレンス値と筋血流量の関連性から、CLSの結合度が強い人は活動筋への血液供給が十分にでき、循環効率が良いと考えられる。したがって、CLSの結合度が示す生体反応は循環効率の良さであると示唆される。
【まとめ】 位相コヒーレンス値が高い対象者ほど筋血流量が増加したことから、CLSの結合度が示す生体反応は循環効率の良さであることが明らかになった。この成果から、10%MVCの足関節自動運動によるCLSの結合度を用いて、循環効率の程度から運動に対する心臓の反応を評価できることが示唆された。
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山﨑 一史, 西田 裕介
セッションID: O-11
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
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【目的】 インターバルトレーニング(IT)は運動期(Ex)と回復期(Rec)が混合する運動様式であり、中等度の持久運動と比べて優れた身体機能の改善が報告されている。心疾患患者においても同様の報告がなされているが、実際にITを心疾患患者に行う際には運動中・後の過剰な交感神経活動による心血管イベントなどのリスクを考慮した運動負荷強度と回復方法の設定が必要である。効率のよい回復とは交感神経活動の抑制と酸素負債の減少である。交感神経活動の亢進は運動時の代謝動態を変化させる。そのため、本研究では運動時の代謝動態の変化から過剰な交感神経活動を定義すると共に、同等の心拍出量を維持し、自律神経反応の異なるActive Cycling(AC)とPassive Cycling(PC)を用いて、効率の良い回復方法を4名の測定結果から考察する。
【方法】 対象は健常男性4名。心肺運動負荷試験を行い、嫌気性代謝閾値(AT)を測定した。ITにおけるExは80%AT負荷強度で6分間とし、3分間のRecを挟んで2度実施した(Ex1, Ex2)。Recは安静座位(CO)条件、10wのAC条件、PC条件とした。Exの酸素摂取量の時定数(V(ドット)O
2τ-off・on)および緩成分(Slow Component:SC)は指数関数モデルにフィットさせて算出した。交感神経活動は心電図のR-R間隔より心拍変動解析を用いて低周波成分を高周波成分の比(LF/HF)を算出した。LF/HFの経時変化とV(ドット)O
2τ-off・on, SCを3条件間で比較した。尚、本研究は聖隷クリストファー大学大学院の倫理委員会の承認を得ており、対象者には十分な説明を行い同意を得た上で実施した。
【結果】 以下に各条件の平均を示す。回復期LF/HF(CO:0.49, AC:0.30, PC:0.33)、Ex2LF/HF(CO:3.67, AC:1.81, PC:1.44)、Ex1V(ドット)O
2τ-off(CO:41.6, AC:46.8, PC:45.5)、Ex2V(ドット)O
2τ-on(CO:51.9, AC:42.5, PC:41.0)であった。COでは回復期LF/HFが高値の場合、Ex1V(ドット)O
2τ-off, EX2V(ドット)O
2τ-onが遅延し、ACではEX2V(ドット)O
2τ-on, PCではEx1V(ドット)O
2τ-offが加速した。Ex2においてSCが出現したものはCOの1名のみであった。
【考察】 運動後の回復期と次運動中の交感神経活動の関連が示唆された。V(ドット)O
2τ-off・onの速さとSCの有無は酸素負債、酸素不足を表す。COにおいてV(ドット)O
2τ-offは速いがV(ドット)O
2τ-onは遅く、次運動中の交感神経活動が高値を示したことは、増加した酸素負債が次運動中に代謝受容器反射を惹起し、交感神経活動の亢進を誘発したと考えられる。PCにおいてはV(ドット)O
2τ-on・offも速く、機械受容器を介した心拍出量の増加反応による運動後の酸素負債の減少と運動開始時の酸素不足の減少により、次運動期の交感神経活動が低値となったと考えられる。
【まとめ】 ITにおける回復期のPCによる他動的な血流の促進が酸素負債と交感神経活動を減少させる手段としての有効性を示唆する傾向が示された。
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松田 真, 島田 隆明, 高橋 和久
セッションID: O-12
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
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【目的】 静止立位姿勢の安定性は、支持基底面(以下、BOS)内で身体の質量中心の鉛直投影点である重心(以下、COG)を制御する能力であり、足圧中心(以下COP)により表せるといわれている。身体の位置と運動に関する情報は、視覚、体性感覚、前庭感覚の3つの感覚から中枢へ提供されるといわれている(Gurfinkel&Levick、1991;Hirschfeld、1992)。1つの感覚情報が低下すると、他の感覚情報の感受性を増加させ、静止立位姿勢を保持すると思われる。そこで今回は、外乱刺激によって各感覚情報を低下させ、感受性が増加した感覚戦略によるCOPの軌跡を分析することとした。また、各感覚によるCOP軌跡の再現性についても検討する。
【方法】 対象は健常成人男女24名(男性17人、女性7人、平均年齢21.5±4歳)とした。対象者には、本研究の趣旨を説明し、文書にて同意を得た。静止立位姿勢の評価としては、Balance Master(Nerocom社製)を使用し、静止立位姿勢を10秒間、3試行を1条件とし、合計4条件の開眼・閉眼時のCOPの計測を行った。測定条件は、(1)平地での静止立位姿勢、(2)身体動揺を伴う柔らかいフォーム上での静止立位姿勢、(3)被り物をかぶせ、視覚に外乱を加えた静止立位姿勢、(4)フォーム上で被り物を被せた静止立位姿勢とした。加えて、各条件の測定はカウンターウエイトをとり測定を行った。各条件で測定後のCOPの前後・左右方向の軌跡データと、統計学的分析として、前後・左右方向の軌跡をフーリエ変換(以下、FT)にて周波数に変換した。各被験者の各条件の軌跡データの平均と、FTに変換後の平均データに対しICCを求めた。
【考察】 各測定条件における、COPの軌跡データのICC(1.1)は低値となり、再現性は低い結果となった。これは、静止立位姿勢を保持する上で、3つの感覚を脳内で統合する必要があり、時間的な変化により評価を行うことは難しいためと思われる。しかし、FT変換後のCOPの再現性は高い値であった。これは、姿勢制御は、3つの感覚から求心性入力された情報を脳内で処理を行った後、身体部位に対して出力され、結果を求心性に入力する、フィードバックループによる制御が行われているためであると考える。フィードバックループのうち、閉ループに対する評価方法は、周波数によるCOPの軌跡解析を行うことで、より明確に比較することでき、再現性が高くなったと考える。脳内での情報処理は各個人により異なるため、出力された経時的な変化での比較は困難である。COPの軌跡解析は、周波数を主軸にした評価を用いた方が評価方法として適している可能性が示唆された。
【まとめ】 本研究では、静止立位姿勢のCOPの移動の軌跡を周波数に変換して分析した。周波数に変換したデータでは、再現性が高くなることが確認できた。今後の展望として、周波数解析を用い、各感覚器による静止立位姿勢のバランス調節の比較をしていきたいと考える。
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小林 大起, 成瀬 宏司, 江西 一成
セッションID: O-13
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
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【目的】 脳血管障害患者のADL低下の原因に高次脳機能障害があり、構成イメージ能力低下はその一つである。その検査として立方体透視図模写課題があり、現在、脳血管障害患者の半側空間無視や構成イメージ能力の評価バッテリーとして用いられている。しかし、構成イメージ能力がADLのどの部分に影響を与え得るのか検討した研究は少ない。そこで本研究では脳血管障害患者において立方体透視図模写を用い、その結果とADLの関係から理学療法場面での意義を検討することを目的とした。
【方法】 検査の理解が困難な者を除外した脳血管障害片麻痺患者23名(男性12名、女性11名。年齢41歳~91歳。罹患期間1カ月~240カ月。麻痺側は右8名、左15名。脳梗塞14名、脳出血4名、クモ膜下出血4名、頭部外傷1名)を対象とした。立方体透視図模写課題を制限時間3分、検者には検査用紙に描かれた立方体透視図を空いたスペースに模写するように指示した。立方体透視図模写の採点は大伴らの基準に従い採点した。他にも線分二等分試験(1㎝以上偏移を陽性と評価)と10m歩行時間の測定を行い、ADL評価はFunctional Independence Measure(以下FIM)を用いた。以上の各値から立方体透視図模写課題とFIM得点、歩行時間、線分二等分試験との関係、さらに線分二等分試験とFIM得点との関係について検討した。統計処理には対応の無いt検定とχ二乗検定、回帰分析を用い危険率5%未満を有意とした。
【結果】 立方体透視図模写課題とFIM総得点には関係を認めなかった。しかし立方体透視図模写課題の採点項目の奥行き線に着目しその得点から減点群と満点群に分類しFIM合計点との関係を見ると、満点群(112.7±9.6点)の方が減点群(94±20点)より高得点であった。さらにFIM各項目では更衣・移動で満点群(更衣上6.6±0.9点、更衣下6.5±1.1点、移動6.4±0.5点)の方が減点群(更衣上5±1.9点、更衣下4.6±2.2点、移動4.5±2.1点)より点数が高かかった。一方、立方体透視図模写課題と10m歩行時間は関係を認めなかったが、立方体透視図模写課題と線分二等分試験では満点群(8%)に比べ減点群(45%)で1㎝以上の偏位を認めた対象者が多かった。しかし線分二等分試験とFIMには関係を認めなかった。
【考察】 立方体透視図模写課題は、線分の向き、その中でも奥行き線に着目する事が重要で、その結果は10m歩行時間等で評価される量的要因よりも、FIMで評価される介助量や自立度等の質的要因に反映される傾向が確認できた。一方、線分二等分試験とADLに関係が認められなかったが、立方体透視図模写と線分二等分試験の間には有意な関係が認められた事から、線分二等分試験のみでは症状の検出が出来ない軽症例等の患者に対しても検出可能となる可能性があり、線分二等分試験の補助的検査としても用いる有用性が示唆された。
【まとめ】 構成イメージ能力は更衣や移動に影響し、歩行では歩行時間等の量的要因よりも自立度や介助度等質的要因の評価に影響する事が確認された。立方体透視図模写を行う際には、奥行きを示す斜め線に注目することが重要である事が確認できた。立方体透視図模写は線分二等分試験の補助的検査としての有用性が示唆された。
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田口 大樹, 鈴木 一弘, 杉浦 紳吾, 中山 善文
セッションID: O-14
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
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【はじめに】 今回、小脳梗塞により体幹失調を呈し在宅生活においても転倒を繰り返す症例を経験した。体幹失調による動揺に対して体幹バンド装着下での体幹協調性の改善、反復的なステップ動作練習を施行した結果、転倒予防に効果的であったと考えたので文献的考察を交えて報告する。
【症例紹介・経過】 80歳代の女性である。平成22年に小脳梗塞を発症し、その後在宅生活にて転倒を繰り返していた。平24年1月上旬に糖尿病による高血糖と乏尿にてA病院入院した。同年2月上旬にリハビリ目的にて当院へ転院し、翌日より理学療法を開始した。
【初診時理学所見】 コミュニケーション良好、訓練に対して協力的であった。ROMに著明な制限はなく、MMTは両股関節屈曲4、外転3、両膝関節伸展3、両足関節背屈3、底屈2+、体幹屈曲2であった。座位および立位において体幹の立ち直り反応は陰性、立位における踏み出し戦略も陰性であった。四肢失調認めず、体幹協調機能ステージ2、ロンベルグ徴候陽性であった。ADLは起居・移乗動作自立、T字杖歩行軽介助(10m歩行18.66秒)であった。
【理学療法】 週4回の理学療法を3ヶ月間施行した。主に筋力強化、体幹協調機能改善を目的として、筋力強化練習、閉眼端座位にて前後左右方向への外乱・内乱負荷を加える練習を各方向10回施行した。また平行棒内立位で前後左右への踏み出し動作練習を各方向50回施行した。また体幹失調の抑制目的で、練習時に体幹バンドを常時装着して行った。
【現在の理学所見】 MMTは両足関節底屈3、体幹屈曲3と筋力の改善を認めた。座位および立位において体幹の立ち直り反応及び踏み出し戦略が出現した。体幹協調機能はステージ1と改善を認め、ロンベルグ徴候は陽性と変化を認めなかった。歩行時の動揺性は減少し、T字杖歩行監視レベルとなった。
【考察】 小林らは小脳失調に対して求心性入力を考慮した練習の必要性を述べており、森らは体幹バンドは動揺性の減少、立ち直り反応の誘発に効果的であると述べている。本症例においても体幹バンド装着下にて運動療法を行う事で固有受容器が刺激され、脊髄オリーブ小脳路、登状線維を介した小脳プルキンエ細胞への求心性入力有利の下運動プログラムが補正され体幹協調機能の改善、重心動揺の減少、立ち直り反応の改善が得られたと考えた。丸山は筋疲労や運動学習は運動皮質内抑制の低下を導くことができ、大脳の運動皮質内の可塑的変化を引き起こす可能性があると述べている。本症例においては反復練習が大脳皮質で統合されている踏み出し戦略の運動プログラムを再構築し、さらに運動学習によって動作の迅速性が得られたと考えた。体幹運動失調に対して小脳系ループの強化を図りつつ、大脳皮質レベルでの踏み出し戦略を改善したことで効果的に運動学習が得られたと考えられた。
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宮田 伸吾, 寺田 茂, 山根 和子, 本口 美沙紀, 松井 伸公, 内山 圭太, 池谷 亮, 早川 省三, 大酢 和喜夫
セッションID: O-15
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
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【はじめに】 脳卒中片麻痺の歩行の特徴として、歩行速度低下、歩幅減少、前足部外側接地などがある。停滞した歩行は活動範囲の狭小化を招き、予後を悪化させる要因となる。Yamamotoらが開発した油圧制動継手付短下肢装具(GS)は底屈制動と背屈フリーの機能を持ち、片麻痺患者のヒールロッカーとアンクルロッカーを改善させると報告されている。ただし、GSでは立脚終期における下腿三頭筋の補助は期待できないため、運動療法が重要視されている。今回、歩行能力の改善を目的にGSと下腿三頭筋に対する運動療法を中心に行ったのでその効果を検証する。
【倫理的配慮】 今回の報告に際して、患者本人に説明し、同意を得た。
【症例紹介】 65歳の女性で発症後5カ月経過した脳梗塞左片麻痺である。ニーズは左上肢機能向上、歩行能力向上であった。
【初期評価】 身長147㎝、体重47㎏であった。Brunstrom stage上肢3、下肢4、手指2、Modified Ashworth Scaleは足関節底屈筋2、関節可動域は足関節背屈10度、中足趾節間関節(MP)伸展60度、股関節伸展10度、MMTは膝関節伸展4、足関節底屈2であった(すべて麻痺側)。歩行は屋内T字杖歩行自立で、左初期接地で前足部外側接地、左立脚中期で距骨下関節(ST)過回内、左前遊脚期でMP伸展の不足が認められた。歩行速度は18.2m/min、歩幅は31.3㎝であった(最大歩行条件)。
【初期問題点】 左下肢筋力低下、左足関節背屈可動域制限、歩行障害を挙げた。
【初期治療】 左下肢筋力低下に対して筋力強化運動を、歩行障害に対して歩行運動と装具療法を行った。GSの設定は底屈制動力2.7、初期背屈角度5度、内側縦アーチ載距突起部にアーチ形成、MP伸展3°とした。頻度は週2回であった。
【結果】 GSにより即時的に踵接地、前脛骨筋の遠心性収縮補助、ST過回内防止を実現した。これにより歩行速度が21.9m/minから25.4m/minに改善した。歩幅は25.6㎝から30.3㎝に増加した。さらにGS着用10日後に43.8 m/min、38.5㎝に改善した。
【残存する問題点と治療】 下腿三頭筋の筋力低下と立脚終期における踵離地欠如を挙げた。これに対して、足関節背屈20度位のくさび上でゆっくりとした足関節底背屈による下腿三頭筋強化運動とステップ運動を開始した。結果、GS着用99日後で歩行速度46.2m/min、歩幅43.5㎝に改善した。
【考察】 GSにより、即時的に歩容、歩行速度が改善した。これは、前足部外側接地の是正、前脛骨筋の遠心性収縮補助、ST過回内防止を実現したためと考えた。さらに、GS着用10日後の評価で、歩行速度、歩幅がさらに改善した。これはGSに慣れたことや荷重応答期から立脚中期にかけて身体重心が上昇する歩容に変化したためと考えた。しかし、その後改善がみられず、その原因を立脚終期での下腿三頭筋の機能低下と考え、筋力強化運動とステップ運動を追加したところ、軽度の歩行能力改善が認められた。今回、くさび上でゆっくり足関節底背屈運動を行ったが、今後、筋力強化運動時の運動速度、筋収縮形態、体幹と下腿の位置関係などを再検討する必要があると考えられた。
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古川 未来, 渡邊 充, 戸田 恵美子, 中村 美穂, 太田 進
セッションID: O-16
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
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【目的】 脳卒中片麻痺症例における歩容の特徴として遊脚期フットクリアランスの減少、麻痺側膝関節屈曲角度の減少が報告されている。脳卒中片麻痺症例の歩行能力を改善するためには、遊脚期のそれらの要因の改善も重要となる。本研究の目的は、新規開発された膝関節屈曲アシスト装具(支柱付軟性膝装具にゴムによる屈曲アシストを加えたもの)の脳卒中片麻痺症例への効果と適応の検討をすることとした。
【方法】 対象者は介護老人保健施設の利用者と回復期病院に入院している脳卒中片麻痺症例、計16名とした。歩行路は9m、歩行路中央から水平方向に4m離れた位置にビデオカメラを設置した。反射マーカーを6ヶ所(肩峰、上前腸骨棘、大転子、大腿骨外側上顆、外果、第五中足骨頭)に貼付し、膝装具なし、膝装具のみ、膝関節屈曲アシスト装具ゴム弱、中、強(以下、ゴム弱、中、強)の5条件の至適歩行を2回ずつ動画撮影し、下肢関節角度、フットクリアランス、ストライド長、ステップ長、ケイデンス、歩行速度を算出した。歩行後に5条件の歩きやすさの順位を聴取した。また、筋緊張や下肢運動機能等の検査測定も実施した。
【結果】 膝装具なし群と比較して、膝装具のみ、ゴム弱、中、強の装着により遊脚期膝関節屈曲角度の変化量は、16名中13名の増加がみられた(膝装具のみ12名、ゴム弱10名、ゴム中9名、ゴム強7名)。また、16名中14名の歩行速度が速くなった(膝装具のみ11名、ゴム弱10名、ゴム中10名、ゴム強8名)。しかし、膝装具なしと4種類の装具との間には有意差はなかった。
歩行速度改善症例数が多かったゴム弱群に着目すると、膝装具なしより歩行速度が速くなった症例は10名、遅くなった症例は6名であった。歩行速度が速くなった群はストライド長とケイデンスが有意に増加し(p=0.03, p=0.04)、ゴム弱の歩行速度増加群では、遊脚期膝関節屈曲角度変化量の増加傾向(p=0.07)がみられた。
【考察】 今回用いた軟性膝装具のみにおいても、膝関節屈曲角度や歩行速度の改善が認められた。また、装具のみで膝関節屈曲角度の減少や歩行速度の低下が起きた症例において屈曲アシストを用いると膝関節屈曲角度が改善し歩行速度が改善する症例も散見された。4種類の装具の適応を検討したが個人差が大きく、膝関節屈曲アシスト装具に各々適応があることが示された。何らかの装具の装着により遊脚期膝関節屈曲角度の変化量と歩行速度が増加したが、それぞれ歩きやすさの順位とは相関せず、対象者がより歩きやすい装具条件を考慮する必要がある。
【まとめ】 これまで片麻痺患者への装具療法として足関節へのアプローチは多く行われてきたが、膝関節へアプローチした研究の報告は少ない。今回使用したいずれかの装具を用いると、対象者の約81%の遊脚期膝関節屈曲角度変化量が増加し、約88%の歩行速度が改善したが、その適応は明らかにはできなかった。
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三浦 央, 吉田 千尋, 塚本 彰, 糸川 秀人
セッションID: O-17
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
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【目的】 末梢性顔面神経麻痺(以下、顔面神経麻痺)の理学療法として近年、病的共同運動や顔面拘縮の予防を目的とした顔面筋体操や顔面筋ストレッチが推奨されている。当院では2004年4月より日本顔面神経麻痺研究会の麻痺スコア40点法(以下、柳原法)を下に顔面筋体操と顔面筋ストレッチのリーフレットを作成し理学療法を施行している。今回、当院での顔面神経麻痺の理学療法を紹介し、治療結果とその検証から今後の課題について考察を加えて報告する。
【当院での取り組み】 顔面神経麻痺と診断され入院した全症例に対して入院時より薬物療法と理学療法を施行している。理学療法ではリーフレットに沿って顔面筋体操と顔面筋ストレッチを施行後、温熱療法としてキセノン光治療器を施行している。
【方法】 2009年4月から2012年5月までに当院で顔面神経麻痺と診断され理学療法を施行した入院患者20名(男性11名、女性9名、年齢57.7±18.4)を対象とした。
治療結果として柳原法を用いて、入院時と退院時にそれぞれ評価した。また、治療結果の検証として、退院時の柳原法の点数と(1)理学療法開始時の柳原法の点数、(2)眼輪筋のElectroneurography(以下、ENoG)、(3)口輪筋のENoG, (4)年齢との関係をスピアマンの積率相関係数を用いて検証した。なお、相関係数が0.4以上もしくは-0.4以下をもって相関ありとした。
【結果】 入院時の柳原法は9.5±18.4点、退院時の柳原法は18.1±9.6点であった。退院時の柳原法の点数と各因子の関係では、入院時の柳原法の点数とr=0.59で正の相関関係、眼輪筋のENoGとr=0.67で正の相関関係、口輪筋のENoGとr=0.6で正の相関関係にあり、年齢とはr=0.26で相関関係になかった。
【考察】 今回の結果より、当院の顔面神経麻痺患者に対し薬物療法と理学療法を施行することで病的共同運動や顔面拘縮を予防し、顔面神経麻痺改善の効果があると考えられた。また、結果の検証より顔面神経麻痺の予後予測因子としては報告されている通り、入院時の柳原法の点数やENoGが関与すると考えられた。当院ではこれまで原則として顔面神経麻痺の理学療法は入院中のみ行なっており、希望者のみ外来にて実施していた。しかしながら、入院時の柳原法の点数が低い方や、ENoGが低い方は、短期ではなく長期的な数か月単位での回復が見込めるという報告もある事から今後、長期的な対応が必要な症例に対しての関わりが必要と考えられた。
【まとめ】 当院の顔面神経麻痺への理学療法の紹介と取り組みの結果について報告した。結果より、当院の顔面神経麻痺への理学療法は他の報告と同様の効果があると考えられ、課題として長期的なフォローをどうするかが挙げられた。
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中井 貴大, 木村 圭佑, 岩田 研二, 山崎 年弘, 坂本 己津恵, 松本 隆史, 櫻井 宏明, 金田 嘉清
セッションID: O-18
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
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【はじめに】 脊髄損傷、脳卒中片麻痺、パーキンソン病(以下:PD)患者に対するトレッドミル歩行訓練(以下:TT)効果についての報告は数多くあり、高いエビデンスを認めている。そこで、今回Th11破裂骨折にて下肢に不全麻痺を呈したPD患者に対して、自宅内での歩行再獲得にTTが有効であった症例について報告する。
【症例紹介】 症例は70歳代女性で、腰背部痛の増悪により歩行困難となりTh11破裂骨折の診断を受けた。急性期病院にて硬性コルセットを作成し保存療法となり、発症42日後に当院回復期リハビリテーション病棟に入院し、自宅復帰に向けたリハビリテーションの介入を開始した(患者1日あたりの単位数7単位)。病前は夫と二人暮らしで、既往歴にPDがあったがADLは自立レベル、IADLも一部自立していた。なお、本研究は当院の倫理委員会が定める倫理規定に従い実施した。
【初期評価】 Hoehn-Yahr重症度分類はStage3レベルであり、動作時に姿勢反射障害を認めた。また、入院時は座位保持で腰背部痛が増悪(NRS8/10)し、座位時間は約30分程度であった。さらに右下肢には軽度から中等度の表在感覚低下を認め、入院時下肢筋力は右下肢がMMT2~3レベル、左下肢が3~4レベルであった。病棟での移動手段は車椅子で、介助者による駆動の介助が必要であった。歩行は疼痛が強かったため行っていない。入院時機能的自立度評価法(以下、FIM)は64点であった。
【経過・アプローチ】 腰背部痛の軽減、座位時間の延長に伴い、入院約2週間後平行棒内歩行訓練を開始した。当初は平行棒を両手で把持した状態でも膝折れが生じるため監視レベルに留まり、入院約1ヶ月で住宅評価を行ったところ短距離を独歩で移動しなければいけない区間が存在したため、歩行能力向上を目的にTTを開始した。TT開始初期は設定速度0.5㎞/hとし、前方両手支持での環境設定とした。歩行能力向上に伴い難易度調整を行った。TT開始から約1ヶ月で速度2.0㎞/h、支持物なしにて約3分間連続歩行が可能となった。TTの効果判定として、10m歩行を測定し、速度、歩行率、介助数の側面から訓練効果について検証した。TT開始当初は10m最大歩行速度0.59㎞/h、歩行率0.88step/sec、介助数3回であったが、約1ヶ月のTT訓練介入で速度2.02㎞/h、歩行率1.68step/sec、介助数0回と歩行速度、歩行率、介助数において改善を認めた。TT開始約2週間で病棟内シルバーカー歩行自立となり、退院時には約50mを介助なしで独歩にて移動可能となったが、自宅環境との違いより、病棟内歩行はシルバーカーに留まった。なお、退院時FIMは99点と向上した。
【考察】 TT開始当初の歩容は、PD特有の体幹前傾位で小刻み歩行であった。さらに破裂骨折の影響のため下肢筋出力低下を認め、支持性が低く歩行速度も低下していた。また左右動揺が大きく、バランスを崩した際は姿勢制御が困難であった。TTの導入により、能力に合わせた高速度での歩行を繰り返し行うことと股関節伸展を意識した立脚後期を作ることでCentral Pattern Generatorが賦活し、歩行時の筋活動パターンが学習され、歩行能力向上につながったのではないかと推察された。また、動作特異性から一定量の歩行訓練を行うことで、実動作への転移が高く、短期間での訓練効果が得られたのではないかと考えられた。
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水谷 仁一, 大家 紫, 川本 友也, 筒井 求, 伊藤 岳史, 花村 浩克, 岩堀 祐介
セッションID: O-19
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 腱板断裂に対する腱板修復術(RCR)の治療成績は多数報告されている。一般に治療成績の指標として、JOAscore(JOA)やUCLA Shoulder rating scale(UCLA)などが用いられているが、これらは肩関節の主に機能面を評価しており、Quality of life(QOL)の評価は含まれていない。
今回、RCRを施行した症例に対し、復職の目安である術後6ヶ月においての、機能およびQOLの評価を試みたので報告する。
【方法】 対象は、2009年4月から2012年11月までの間に当院でRCRを施行した106例のうち、6ヶ月以上経過し、機能とQOLの評価が可能であった20名20肩(男性15肩、女性5肩)である。手術時平均年齢は60.9±9.59歳であった。断裂サイズは術中鏡視所見から分類し、小断裂6肩、中断裂7肩、大断裂6肩、広範囲断裂1肩であった。手術は鏡視下修復術が16肩、直視下修復術が4肩で、追加処置は、上腕二頭筋長頭腱(LHB)固定3肩、LHB切離2肩、授動術1肩、鏡視下Bankart修復術1肩、SLAP修復術1肩であった。方法は術前と術後6ヶ月時に、機能評価としてJOA, VAS(安静時・夜間時・動作時)とROM-T(屈曲、外転、下垂位外旋・内旋、外転位外旋・内旋、屈曲位内旋、背面内旋)、肩関節筋力(外転筋、外旋筋、内旋筋)を測定した。筋力は3回測定し、最大筋力を分析対象とした。さらに、QOL評価としてShort-form36(SF36)ver2を用い、8つの下位尺度(身体機能、日常役割機能、体の痛み、全体的健康感、活力、社会生活機能、日常生活機能、心の健康)を分析した。検討は、上記評価項目に対し、術前と術後6ヶ月の比較をWilcoxon signed-ranks testで、ROM-Tと筋力は術後6ヶ月の患健側の比較をMann-Whitney U testで分析した。さらに術前と術後6ヶ月のSF36と国民標準値(NBS)の差を確認した。
【結果】 術前と術後6ヶ月の比較は、JOAが総合平均72.7点から82.6点と有意に改善した。VASも安静時が1.3㎝から0.3㎝、夜間時が1.9㎝から0.6㎝、動作時が4.5㎝から1.6㎝とすべて有意に改善した。ROM-T、筋力はすべての項目に有意な改善はみられなかった。SF36では体の痛み(BP)のみ改善傾向(0.06)がみられた。術後6ヶ月の患健側の比較は、ROM-Tが、下垂位内旋以外の方向で有意に患側の可動域低下を認め、筋力は患側の外転筋、外旋筋で有意に低下していた。また、術前と術後6ヶ月のSF36をNBSと比較すると、全尺度において標準値を上回っていた。
【考察】 RCRの治療成績としてJOAやUCLAが用いられており、良好な成績が報告されている。本研究の結果では、術前よりJOA, VASは有意に改善がみられたが、ROM-T、筋力とも健側レベルまでは改善をえられなかった。これは、評価を術後6ヶ月と短期に行ったことが影響していると考えられ、さらに長期での評価や断裂サイズ別の検討が必要である。また、SF36では、術前後の比較において、BPのみ改善傾向がみられ、他の尺度に有意差はみられなかった。これらのことから、復職の目安である術後6ヶ月では疼痛に比し、可動域、筋力は十分に改善がえられず、その結果、SF36にも変化がみられなかった事が考えられた。また、NBSとの比較では術前からNBSを上回っており、RCR症例のQOL評価にSF36が妥当なのか再検討も必要である。
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奥山 智啓, 見田 忠幸, 清水 恒良, 奥山 あずみ
セッションID: O-20
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【はじめに】 膝内側側副靭帯(以下MCL)損傷の治療は、早期運動療法を基本とした保存療法で良好な成績が示されている。一方、十分な初期治療が行われないと関節不安定性が遷延し、靭帯の機能不全等を引き起こす頻度が高くなるとの報告もある。
靭帯の修復については、動物MCL損傷モデルを用いた研究により損傷後6~8週で成熟が著明となるが、修復靭帯は力学的強度が低下している。つまり早期運動療法では、修復靭帯への過負荷に注意が必要であると考えられる。
今回、新鮮MCL単独損傷の症例に対して、超音波画像診断装置(以下エコー)を用いて靭帯の修復過程に着目し、理学療法を実施した。症例の経過を踏まえ報告する。
【症例紹介】 症例は40歳代男性である。現病歴は自動車事故にて受傷し他院へ救急搬送された。画像所見から左膝MCL損傷(第2度)と診断された。他院にて保存療法が施行された後、受傷後3週にリハビリ目的にて当院を受診し、受傷後5週より週2回の理学療法を開始した。エコーはMylab five(株式会社日立メディコ社製)を使用した。
【初期理学所見】 視診・触診では左膝関節周囲に腫脹を認め、MCLに圧痛が著明であった。関節可動域(以下ROM)は左膝屈曲120°、伸展-15°、徒手筋力テスト(以下MMT)は大腿四頭筋が3であった。膝靭帯損傷治療成績判定基準(JOA score)は36点であった。
【理学療法および経過】 本症例ではエコーを用いてMCLの修復過程、炎症所見、ストレステスト時のMCLと内側半月板の動態、周辺軟部組織の滑走性を画像で描出して評価を行い、画像所見と合わせてROM訓練、筋力強化を進めた。受傷後6週では、左MCL浅層の大腿骨側においてfibrillar patternの不明瞭、腫脹した低エコー像、カラードプラにより血管増生を認めた。この時点ではMCLへの機械的ストレスに配慮し、徒手的に膝関節深屈曲に必要な軟部組織の柔軟性や滑走性維持、内側広筋の強化を図った。受傷後8週では、腫脹の改善、血流量の減少が確認され、外反ストレステストにより画像上MCLの弛緩性は認めなかったことから、積極的なROM訓練を行った。9週目で全可動域を獲得、大腿四頭筋のMMTは5となった。受傷後12週では、ストレステストにてMCLは緊張を保ち内側半月板が関節内に押し込まれる動態が確認された。この時点で正座・しゃがみ込みを許可、JOA scoreは100点となり職場復帰が可能となった。
【考察】 靭帯損傷後の理学療法において、靭帯修復の経過観察は医師の指示、受傷からの時期、理学所見により行われることが一般的である。本症例においては、エコーを所見の一つとして利用し、画像上の腫脹・血流量の減少、ストレステスト時のMCLの動態、健側エコー像との比較から、おおむね8週で靭帯のある程度の成熟が得られたと考えられた。エコーにて早期より靭帯の修復状態や周辺軟部組織の状態を観察できたことにより、関節不安定性に対するリスク管理を行いながら積極的な運動療法が実施でき、良好な機能獲得に繋がったと考える。
【まとめ】 靭帯損傷の保存療法においては、損傷の部位や程度、複合損傷の合併等により靭帯修復の経過が異なるため、今後症例数を増やし更なる検討が必要である。
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池田 潤一, 天木 充, 飯田 文彦, 堀内 統
セッションID: O-21
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 肩関節周囲炎に総称される肩関節の痛みの原因として肩峰下インピンジメント症候群、肩関節拘縮、腱板断裂など様々な病態が存在する。臨床症状として疼痛、関節可動域制限、筋力低下、ADL障害などが挙げられ、これらを定量化する目的で機能評価を点数化して用いることも多い。数値化することで、より客観的な患者評価が可能となり、治療効果の判定や問題点の把握に役立つ。当院では保存療法に抵抗する難治性の肩関節疾患に対して肩関節鏡視下手術を施行しており、術前の患者評価に日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下JOAスコア)を実施している。今回、手術前後に実施したJOAスコアを異なる病態ごとに比較検討し、各病態の特徴について若干の知見を得たので報告する。
【方法】 対象は2011年1月より2012年5月に当院で肩関節鏡視下手術を受け、術後3カ月以上を経過した37例40肩(男性21名、女性16名、62.1±9.2歳)である。全例、術翌日より当院の術後スケジュールに沿って理学療法を実施した。内訳は肩峰下インピンジメント症候群8肩(男性4名、女性4名、62.1±6.4歳、以下インピンジ群)、肩関節拘縮14肩(男性7名、女性7名、57.7±9.8歳、以下拘縮群)、腱板断裂18肩(男性10名、女性7名、65.5±8.4歳、以下腱板断裂群)である。術前および最終調査時のJOAスコアの疼痛、総合機能、日常生活動作、可動域、合計点数について比較検討した。統計学的解析として手術前後はMann-WhitneyのU検定、3群間はSteel-Dwass法を用いて比較した(P<0.05)。
【結果】 JOAスコアの合計点数は、術前はインピンジ群65.3±11.3点、拘縮群55.8±10.3点、腱板断裂群61.8±12.0点で、最終調査時はインピンジ群85.6±4.6点、拘縮群79.1±7.8点、腱板断裂群73.5±9.5点であった。腱板断裂群は他の2群に比べ、疼痛、総合機能、日常生活動作、可動域の全てのスコアで改善が小さかった。
【考察およびまとめ】 近年、肩関節鏡視下手術は急速に普及している。その特徴は直視下手術に比べ患者負担が少なく、術後早期の機能回復と社会復帰が期待できることである。一方、病態により回復の程度に差が出ることも予測される。今回調査したJOAスコアでは合計点数の改善はインピンジ群、拘縮群で大きく、腱板断裂群で小さかった。肩峰下インピンジメント症候群や肩関節拘縮に比べ腱板断裂は肩関節鏡視下手術後の機能回復に時間を要すことが示唆された。とくに総合機能や可動域のスコアは他の2群と比べ、改善が小さく、筋機能や関節可動域(とくに回旋)の回復が十分でないことが推測される。これは術後の外固定や修復腱板のhealingの問題が影響するためと考えられ、リスク管理を踏まえた上で時期に応じた段階的な理学療法の必要性が伺える。このように術前および術後評価は治療効果の判定および問題点の把握において重要であると考えられる。
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西島 晃一
セッションID: O-22
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 木藤らは、「Lateral thrustは、脛骨の内反・外旋・内側移動の現象と報告されており、脛骨の外側不安定性を制御できずに起こる。」としている。しかし、実際の臨床の場面ではLateral thrustの起こり方は様々であり、両膝に出現していても大きく異なることが多いように感じる。今回、その左右に違いが起こる原因の一つとして、「骨形態」、特に「脛骨の彎曲」に着目し、考察したので以下に報告する。
【方法】 両変形性膝関節症を呈し、歩行時に左は大腿後外側面から殿部にかけての張り感、右は大腿骨内顆の関節面に疼痛を訴える患者様一例の脛骨の形態を検討した。次に、歩行の動画を静止画像で細分化し、どの相のどの部位からLateral thrustが起こっているか確認した。又、ROMなど理学療法評価を行い、その評価結果と骨形態・動作を比較検討した。なお、患者様には今回の発表にあたり口頭で説明し同意を得た。
【結果】 立脚踵骨中間位での客観的な内彎の測定法では、左右とも角度に大きな差はなかった。しかし、同肢位で脛骨の形態をよく観察してみると、右は下腿の外側傾斜が大きく、左は脛骨近位での捻れが大きいように観察された。また、非荷重位での粗面膝蓋溝(膝関節90度屈曲位でのQ角)において、左には大きな増大がみられている。歩行時のLateral thrustは、右では立脚初期から中期前半にかけて下腿を中心に起こり、左では立脚中期前半に大腿骨を中心に起こっていることが確認された。加えて理学療法評価では、両膝関節伸展・屈曲、右股関節屈曲・内旋、内転に可動域制限、両大腿四頭筋、右長腓骨筋・大・中殿筋・腸腰筋、左大腿二頭筋・下腿三頭筋・後脛骨筋に筋力低下がみられた。また、両膝とも外反ストレステスト30度屈曲位で不安定性がみられたが、脛骨を内旋位にすることで不安定性は減少した。アプローチとして、右は下腿の外側傾斜を防ぐ腓骨筋と大腿四頭筋、左は大腿の外側傾斜を防ぐ大腿二頭筋と大腿四頭筋の同時収縮を行った。訓練後、膝関節伸展可動域は改善し、歩行では疼痛の減少とLateral thrustの減少が確認された。
【考察】 症例の膝関節ではLateral thrustが確認された。しかし、その過程は両側とも異なり、可動域や筋力にも差がみられる。右は下腿の傾斜を大腿四頭筋と長腓骨筋、左は大腿骨の傾斜を大腿四頭筋と大腿二頭筋で制動が可能であり、両者ともLateral thrustの減少が確認された。以上の結果を脛骨の形態と比較すると左右ともに形態変化の大きい部分でLateral thrustが観察された。すなわち、右は下腿の傾斜と下腿を中心に起こるLateral thrust、左は下腿近位部の捻れと大腿を中心としたLateral thrustである
【まとめ】 骨形態は応力を反映する。Lateral thrustの起こり方が左右異なるということは、左右にかかる応力が異なるということである。以上から骨形態をもとに理学療法評価を行うことが重要であると考えられ、治療の方向性が見定められることが考えられる。今後は、脛骨の彎曲のみにとらわれないことと、データ解析なども行っていき、より客観性を持たせていきたい。
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竹中 裕人, 水谷 仁一, 鈴木 達也, 大家 紫, 清水 俊介, 伊藤 岳史, 筒井 求, 岩堀 裕介
セッションID: O-23
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【背景】 青少年スポーツ選手において、傷害予防、パフォーマンスの視点から柔軟性は重要である。このような視点から青少年野球選手の肩関節、股関節の柔軟性は重要であるが、青少年野球選手の股関節内旋可動域に着目した研究は少ない。
【目的】 股関節90°屈曲位内旋可動域(以下:股関節内旋)について、青少年野球選手とサッカー選手を比較し、野球選手の特徴を調査すること。
【方法】 メディカルチェックで投球障害を認めない野球選手106人(以下野球群:小学生52人・中学生27人・高校生27人)とサッカー選手52人(以下サッカー群:小学生14人・中学生15人・高校生23人)を対象とした。
測定項目は、軸脚とステップ脚(サッカー群:利き足側と非利き足側)の股関節内旋可動域とし、ゴニオメーターを用い2人1組で計測した。
統計学的解析は、まず、軸脚とステップ脚の比較を、t検定を用いて行った。この2群に有意な差はなく、また、先行研究を参考に、以下の対象をステップ脚のみとした。ステップ脚の2群間の年代別の比較を、t検定を用いて行った。2群内の年代間の比較をone-way ANOVAを行い、多重比較検定としてbonferoni法を用いた。次に、年齢と可動域の関連度をみるためにSpearmanの順位相関係数を求めた。
【結果】 年代別に2群間の比較を行った。高校生では、サッカー群に比べ、野球群で有意な可動域の減少を認めた(p<0.01)。小学生・中学生において、野球群とサッカー群に有意な差は認めなかった。
次に、2群内の年代間の比較を行った。野球群では、小学生・中学生に比べ、高校生で有意な可動域の減少を認めた(p<0.01)。サッカー群では各年代間に有意な差は認めなかった。
最後に、年齢と可動域との相関を検討した。野球群(r=-0.52, p<0.01)に強い負の相関を認め、サッカー群(r=-0.24)には相関を認めなかった。
【考察】 股関節内旋可動域について、米国プロ野球選手(投手)のステップ脚の可動域の減少が報告されている(AJ. Robb, AJSM, 2010)。今回の対象では、軸脚とステップ脚の有意な差は認めなかったが、先行研究を参考に、ステップ脚に着目した。
野球群は、サッカー群に比べ高校生で股関節内旋可動域の減少を認めた。また、野球群内では、小中学生間で可動域の変化はなかったが、高校生で股関節内旋可動域の減少を認めた。加えて、年齢と股関節内旋可動域に強い負の相関を認めた。一方、サッカー群において、年代別に差を認めたかった。以上の結果から、野球群の高校生以降で股関節内旋可動域の減少が生じていることが分かった。
股関節内旋可動域減少は、投球動作における骨盤回旋運動を低下させ、パフォーマンスを低下させる可能性も報告されている。この股関節内旋減少が、骨性要素、筋を含めた軟部組織要素のいずれが主体なのか。なぜ、野球選手の高校生において減少したのかについて、今後追跡調査が必要である。
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小松 淳太, 浅井 友詞, 仁木 淳一, 岡田 真実, 佐藤 行祐, 柴田 達也, 酒井 成輝, 水谷 武彦, 水谷 陽子, 今泉 司
セッションID: O-24
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 投球動作の評価において、三次元動作解析装置などを利用した評価が可能となっているが、3次元動作解析装置は高価であることや室内の広さなどの理由により臨床現場で扱うことは難しいとされている。また、投球障害では、後期コッキング期から加速期にかけて生じる肩関節外旋運動に伴って症状を呈することが多い。これは、肩関節外旋筋力によってのみ誘導される運動ではなく、下肢・体幹から肩・肘に至る運動連鎖により生じているといわれている。そこで、我々は、簡易小型無線式の6軸加速度計を利用し、投球動作時の体幹運動に注目した評価を試みたので紹介する。
【方法】 対象は、外来にて来院中の右上腕骨離断性骨軟骨炎患者(年齢:12歳、野球歴:5年、ポジション:投手、内野手、右投げ右打ち)とした(以下本症例)。なお被験者には、主旨を説明し同意を得ている。加速度計での計測は、十分なウォーミングアップのあと投球動作を行い、小型無線式ハイブリッドセンサ(Wireless-T社製WAA-006)を用いて、頭頂、胸骨部、仙骨部、足部に装着した。投球フォームはJobe分類を用いてワインドアップ、前期コッキング期、後期コッキング期、加速期、フォロースルー期の5相とした。投球動作開始時の設定には、フットセンサを非投球側の床上に置き、足底離期にランプの消灯を確認した。また、動作確認のため側方及び後方から家庭用ビデオカメラにて撮影した。さらに、今回の指標として健常な野球経験者(年齢:20歳、野球歴11年、ポジション:投手)の測定を行い対照者とした。
【結果】 加速度計を用いた評価では、foot plant時の胸部上下角速度(体幹回旋)は、本症例1468deg/sec、対照者4140deg/secであり、本症例は対照者と比べ、コッキング期での非投球側への体幹回旋が遅い傾向にあった。また、本症例では、対照者に比べ前期コッキング期に投球側への体幹回旋がみられなかった。
【考察】 本症例では、コッキング期での非投球側への体幹回旋(胸部上下角速度)が対照者と比較し遅かった。角速度の波形、動画から非投球側への体幹の早期回旋(体の早い開き)が観察された。体幹回旋速度が遅かった理由は、体幹の大きく素早い回旋運動には、股関節など下肢の動きが関与しているといわれているため、体の早い開きなどにより、下肢から体幹への運動連鎖に問題が生じていたためと考えられる。今後は、健常者での検証を重ね、さらに症例数を増やし体幹、下肢との関連や球速などの影響も含めて検討していきたい。
【まとめ】 加速度計を用いた投球フォームの評価を行い対照者と比較検討した。投球動作は下肢から上肢への運動連鎖であるため、カメラ撮影と簡易小型無線式加速度計を用いることで、各phaseでのタイミングなどの傾向をより簡便に評価できる可能性があると考える。
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高崎 憲博, 村上 忠洋, 山中 主範, 小林 道生(OT)
セッションID: O-25
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
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【目的】 リハビリテーションの目標は対象者の生活機能の向上であるが、生活期(維持期)における重度障害者に対しては、介助者の負担を軽減することもその目標の一つと考える。我々はこの身体的な負担の程度を介助者の主観により段階づけする基準を作成し、これを身体的介助負担度の検査として臨床で用いている。本研究の目的は、移乗動作の介助においてこの主観的な身体的介助負担度と、その際の介助者の腰部脊柱起立筋の筋活動量との関係を検討することである。
【方法】 1名の作業療法士(以下、介助者)に、老人保健施設に入所中で、機能的自立度評価表のベッド・椅子・車椅子移乗の項目が5点以下の者(以下、被介助者)17名(男性2名、女性15名)のベッドと車椅子間の移乗動作の介助を行わせた。その際の介助者の身体的介助負担度(以下、介助負担度)と腰部の筋活動量を測定した。介助負担度の判定は、「0:身体的な負担を全く感じない」「1:すこしの身体的な負担を感じる」「2:中等度の身体的な負担を感じる」「3:かなり身体的な負担を感じる」「4:非常に身体的な負担を感じる」の5段階とし、移乗介助をした後に介助者が行った。筋活動量の測定は、表面筋電計(Noraxon社製)を使用し、左右のL3レベルの腰部脊柱起立筋(以下、脊柱起立筋)から活動電位を導出した。ベッドと車椅子の座面に設置した圧感知センサーの信号を用いて、被介助者の殿部がベッドから離れ車椅子の座面に着くまで、および殿部が車椅子の座面から離れベッドに着くまでの区間を確認し、この区間における単位時間あたりの積分値を算出した。統計処理は、介助負担度と脊柱起立筋の筋活動量の関係をスピアマンの順位相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。
【結果】 介助負担度が1であった3名の介助時における脊柱起立筋の積分値の中央値は132.5μV(最小96.1μV~最大158.1μV)であった。介助負担度の2であった7名の積分値の中央値は211.1μV(144.1μV~249.2μV)で、3であった7名の積分値の中央値は222.9μV(189μV~283.7μV)であった。介助負担度と脊柱起立筋との間には正の相関関係(r=0.56, p=0.019)を認めた。
【考察】 今回使用した介助負担度は、ADL評価が全介助であってもその負担度を詳細に段階づけられるのが特徴で、重度障害者のリハビリテーションの効果を判定する検査法として有用と考えている。しかしながら、主観的な検査法でありその妥当性に疑問があり、今回、介助負担度と脊柱起立筋の筋活動量との関係を検討した。その結果、移乗介助での脊柱起立筋の筋活動が高くなるにつれ、主観的な介助負担度も高くなっていた。したがって、身体的介助負担度の検査を用いることで、移乗介助時の負担の程度を適正に捉えることができると考える。
【まとめ】 今回、移乗介助において介助者の介助負担度と脊柱起立筋の筋活動を検討し、それらの関係を認めた。身体的負担度の検査を用いることで、介助者の身体的な負担の程度を適正に捉えることが可能で、リハビリテーションの効果判定の指標になると考える。
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木村 圭佑, 太田 喜久夫, 岡崎 洋一, 青木 佑介, 角屋 恵, 角谷 孝, 上村 恵子, 仲 美和子, 中田 早織
セッションID: O-26
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 松阪・多気地区地域リハビリテーション連絡協議会(以下、協議会)では、地域における通所リハ事業所の現状と課題の把握目的に、会員施設向けに毎年度アンケート調査を行っている。今回、今まで得られた結果の経過、及びH24年度の介護報酬改定に伴う影響を踏まえ、当該地域における現状と課題を検討したので報告する。
【方法】 三重県二次保健医療圏に属する松阪市、明和町、多気町、大台町、大紀町の5市町村に所在する通所リハ16事業所に対し、記入式アンケート用紙を郵送にて配布・回収している。今回は得られた結果のうち、H19~24年度までの1)療法士の人員配置、H19~23年度までの2)総利用者数、3)個別リハ実施率、4)短期集中リハ加算算定割合、5)短期集中リハ加算算定不可の理由、H21~24年度までの6)1~2時間未満利用の有無、7)事業所区分、そしてH22~24年度までの8)訪問指導等加算について用いた。尚、会員施設数が年度により異なる為、項目により母数に差異がある。本研究は花の丘病院の倫理委員会の承認を得て行い、会員施設には協議会に参加する際に書面にて同意を得、結果の公表にあたり事業所の特定ができないよう十分配慮している。
【結果】 1)療法士の人員配置は15事業所以上が対象となったH21年度以降では、H21年度43.1名、H22年度42.1名、H23年度52.0名、H24年度55.4名であった。同様に2)総利用者数H21年度13,451名、H22年度14,703名、H23年度14,283名、3)個別リハ実施率H21年度71.0%、H22年度67.9%、H23年度80.0%、4)短期集中リハ加算算定割合H21年度90.6%、H22年度96.5%、H23年度89.7%であった。5)短期集中リハ加算算定不可の理由は、H20~23年度までの各年度において「週2回以上」の条件が、「利用者本人、家族の希望による利用回数や利用時間の制限があるため」が一番多かった。H19年度のみ後者は「療法士不足による提供時間の確保困難」が1番多かったが、その後同理由は減少していた。6)H21~23年度までは1~2時間未満利用を実施している事業所は20%弱であったが、H24年度の介護報酬改定後は約43%に増加した。7)事業所区分では通常規模が半数以上を占めているが、大規模ⅠからⅡへと移行する事業所が増えていた。8)H22年度約53%、H23年度約68%の事業所において訪問指導を実施していたが、その内半数は病院・診療所併設のため無算定であった。病院・診療所併設の通所リハにおいても算定が認められ、かつリハビリテーションマネジメント加算(以下、リハマネ)の算定要件になったH24年度では約87%の事業所で算定されていた。しかし、そのうち1/3の事業所では、リハマネ算定目的の利用開始後1か月以内に実施される1回のみしか行っていなかった。
【考察】 当該地域における高齢化率・要介護者の増加により通所リハの需要は増えており、療法士の配置数を多くすることで、短期集中リハ加算や個別リハを提供できる体制を強化している。一方で、外来リハ終了後等の受け皿としての機能、訪問指導の実施においては今後の課題と考える。特に後者は通所リハの療法士が利用者の生活・ケアのマネジメントを考えていくためにも重要であり、協議会主催の研修会等を企画し質を高めていく。
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古田 大貴, 木村 圭佑, 海野 智史, 大倉 由加, 松本 郁子, 松本 隆史
セッションID: O-27
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 高齢化が進む中、多様化する通所リハビリテーション(以下、DC)利用者のニードに対応して行く事が必要である。当法人は、定員40名のDCを2事業所展開している。そして、新たに定員10名の少人数DC『ハッピースタジオ』を平成23年4月に開設した。『ハッピースタジオ』は診療所の有床部分である2階に開設し、個室(病室)をそのまま残し、認可を受けたDCである。この個室に、作業室・パソコン室・カラオケ室・ゲーム室のようにコンセプトを持たせる事により、個別のニードに対して適した環境を提供する事が可能となっている。また、利用時間も1日利用・半日利用を設ける事で、1日利用が難しかった利用者や、比較的若い世代の利用者の選択の幅を広げている。今回、少人数DCにおける取り組み内容を症例1名を通して紹介する。
【方法】 対象は、当院の倫理委員会の承認を得て、口頭にて十分な説明を実施し、書面にて同意を得ている60歳代男性、要介護2、当DCを利用している利用者である。
現病歴:平成22年11月脳梗塞発症、急性期リハビリ実施、発症32日後に回復期病棟転院、発症79日後に自宅退院。約半年間自宅にて生活を送るも、外出機会は少なく徐々に機能低下を起こしたため、介護保険を申請し発症232日後に当DC利用開始となる。利用時間は、午前中の半日利用(2時間以上3時間未満)週3回となる。麻痺は、SIAS-m4-4-4-4-4、屋内外T字杖修正自立。ケアプラン内容として、機能回復・自主トレの再指導、閉じこもり防止があげられている。リハビリ、自主トレ以外の時間は、利用者様と相談した結果、以前から興味があるも操作方法が全く分からなかったPCを行うこととなる。最初は、セラピストにてPCの操作方法、動作指導を行い、徐々に介護士へ移行していった。
【結果】 PCの操作にも慣れ始め、病前の趣味である旅行の想い出を他の利用者に伝えたいとのニードがあった。花の名所回りが好きとの事で、月毎の名所案内をPCで作成して頂き、展示コーナーを設ける支援をした。これにより、自ら花の名所に行き写真を撮影したいとの訴えがあり、発症後初めて家族で旅行するきっかけとなった。また、PCを購入し、旅行での写真を管理するようになり、より旅行へ行く楽しみを見つける事が出来た。その後、介護保険の見直し時期の担当者会議で、ケアプラン内容にPC操作が盛り込まれた。
【考察】 少人数DCでは、多様化するニードに対して、より個別に対応する事が可能となっている。また、個室の特性を活かす事により、ニードに対して適した環境を提供できると考えられる。リハビリにおいても、社会参加・動機付けを行う事により、活動量が増加し、機能維持に繋がるのではないかと考える。
【まとめ】 今回、少人数で、個室があるDCである『ハッピースタジオ』の特色を活かし、利用者様の主体性を尊重する事でより良いサービス提供をするとともに、活動量も増加し機能維持に繋げる事が出来た。今後、さらに多様化するDC利用者のニードに対し、新しい支援システムを考えていく必要がある。
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久保 勇輔, 高木 大輔, 森上 亜城洋
セッションID: O-28
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 転倒セルフエフィカシーとは、転倒しないで日常生活をどのくらい行えるかという見込み感であり、セルフエフィカシー(自己効力感)や自信は身体機能と強く結びついている。自己効力感と身体活動量には関係性があると報告されているが、一方で身体活動をどのように維持するかという問題点も浮上している(竹中ら、2002:加藤ら、2006)。谷本ら(2010)によると、加齢に伴う身体組成の変化は、高齢者の生活機能障害に深く関わり、加齢に伴う筋肉量の減少と基本的ADLの障害は関連し、高齢期の健康づくりにおいては下肢筋肉量に着目した支援の必要性が報告されている。そこで筋肉量の増減が、高齢者の生活機能への変化を通して、自己効力感に影響を及ぼす可能性が推測されるため、本研究では加齢、筋肉量、自己効力感との関係性を検討した。なお本報告は、対象者に紙面、口頭にて説明し同意を受け、公立森町病院倫理委員会の承認を得た。
【方法】 対象は、地域在住女性高齢者24名とし、年齢は71±9歳、身長は148.9±5.6㎝、体重48.4±7.4㎏であった。全身筋肉量は、BIA法(生体インピーダンス法)でデュアル周波数体組成計(TANITA:DC-320)を用いて測定した。Brown et al(1998)は、BIA法で推定した筋横断面積とCT法で測定した筋横断面積に有意な相関があることを報告している。転倒セルフエフィカシーに対しては、竹中ら(2002)が開発した転倒セルフエフィカシー尺度(FES:falls efficacy scale)を用いた。加齢、筋肉量、転倒セルフエフィカシー尺度の各々の関係において、Pearsonの積率相関係数で検討し、有意水準は、危険率5%未満にした。
【結果】 加齢と全身筋肉量の間に、有意な負の相関を認め(r=-0.57, p<0.05)、加齢に伴い全身筋肉量が減少していた。また、筋肉量とFESには有意な正の相関を認め(r=0.44, p<0.05)、筋肉量が多い対象者は、動作に対して自信を持っていることが示された。
【考察】 全身筋肉量が自己効力感に影響を及ぼす可能性が示唆された。高齢者では加齢に伴い筋肉量が減少し、身体活動量が減少することで自己効力感が低下することが推測される。自己効力感は多くの研究において運動参加への定着についての重要因子とされている。そこで本研究より高齢者においては、まず筋肉量を増やすことが生活機能障害、ADL障害を改善し、結果身体活動を通して自己効力感を向上できるのではないかと考える。一方で今回は、全身筋肉量について検討したが、加齢ではサルコペニアにより速筋線維は萎縮し(河野ら、2011)、遅筋線維は影響を受けない(Fujiwara et al, 2010)。高齢者では特に筋線維間の分布に差異を認めるため、今後は筋線維組成からの検討もしていきたい。また身体活動量に影響を及ぼす要因として、認知機能の低下や環境因子もあるため合わせて検討する必要がある。
【まとめ】 今回、全身筋肉量と自己効力感に関係性があり、高齢者では筋肉量を増やすことが生活機能の改善を通して、自己効力感を変化させる可能性が示唆された。
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原田 佳澄, 木村 圭佑, 岩田 研二, 河村 樹里, 古田 大貴, 坂本 己津恵(MD), 松本 隆史(MD), 櫻井 宏明, 金田 嘉清
セッションID: O-29
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 回復期リハ病棟で歩行を含む日常生活活動が改善し退院に至るも、退院後の不活動により再入院という例が存在する。しかし、回復期リハ病棟退院後の活動量を定量的に測定した研究報告は少なく、具体的な予防策がない。そこで、活動量の計測方法として使用される歩数計に注目した。本研究の目的は回復期リハ病棟退院前後における歩数の変化を明らかにし、入院時、退院後の運動指導に役立てるものである。今回は活動量計を用いて入院時から退院後3か月間の活動量の変化について経過を追った一症例を報告する。
【方法】 症例は70歳代女性で当院回復期リハ病棟の入院患者である。左被殻出血を発症、右片麻痺を呈し、発症30日後当院回復期リハ病棟に転院し、発症115日後自宅退院となり、週2回の頻度で当院通所リハ短時間利用を開始した。評価より、当院入院時SIAS-m3-4-4-4-3、退院時SIAS-m5-4-5-5-4であった。移動手段は、入院時病棟内歩行器歩行自立、入院2週間後院内歩行器歩行、病棟内T字杖歩行自立、入院1か月後院内T字杖歩行自立、退院後屋内は独歩自立、屋外はT字杖歩行自立となった。また、退院後の目標歩数を退院直前の平均歩数5,000歩とした。計測は、パナソニック社製アクティマーカーを非麻痺側腰部に装着して行った。計測期間は、入院時、入院1か月後、入院2か月後(退院直前)、退院1か月後、退院2か月後、退院3か月後に各4日間、入院時は9時~17時、退院後は9時~就寝まで計測を行った。今回は各期間4日間の平均歩数のみとし、データ解析は、アクティマーカー解析ソフトを用いて行った。
本研究は当院倫理委員会の承認を得て行い、対象者には口頭にて十分な説明を実施し、書面にて同意を得た。
【結果】 9時~17時までの平均歩数は、入院時2,609±521歩、入院1か月後5,168±317歩、入院2か月月後(退院直前)4,636±1,034歩、退院1か月後3,135±435歩、退院2か月後2,684±853歩、退院3か月後3,360±1,076歩であった。退院後の17時~就寝までの平均歩数は、退院1か月後595.5±8歩、退院2か月後1,475±16歩、退院3か月後2,392±27歩であった。
【考察】 先行研究では、回復期リハ病棟入院中の平均歩数は、2,483歩(9時~17時)と報告している。今回、入院中の平均歩数は先行研究を上回っていた。また、退院1か月後の歩数が減少した理由は、冬季であったため屋外での活動が減少し、屋内中心の活動になったと推察された。そのため、気候や天候に合わせて対応可能な指導が必要になる。また入院時より定期的に歩数計測を行うことで、運動に対する動機付けができモチベーション維持につながったと推察された。退院後、17時以降に歩数の増加がみられた理由は、入院生活は非日常的な生活であり、退院後の活動時間と相違があったと推察された。そのため、退院後の1日の生活リズムに合わせて、運動指導を行っていくことが必要である。
【まとめ】 活動量を意識させる上で、入院中より歩数計を使用し、目標歩数の設定、及び病棟と共通の活動量指標としての活用が重要である。今後は、対象者を増やし、退院後の活動量を維持するために必要な退院時の活動量、また退院後の介護保険サービスの種類、頻度を明らかにし、リハビリ介入の頻度調整に繋げていく。
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曽我部 知明, 曽我部 芳美, 川崎 貴覚
セッションID: O-30
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【はじめに】 今回の診療報酬・介護報酬の同時改定により、在宅生活支援への加算が増え理学療法士(PT)の在宅支援への必要性が高まっていることが伺える。住宅改修にPTが関わる機会は多いが、身体面へ注意が行き過ぎ精神面への配慮が十分になされていない場合がある。今回、演者が所属するボランティアサークルの高齢者と障がい者の住まいと暮らしの相談会へ相談があった脊髄小脳変性症患者に対し、身体面の予後予測と、精神面に配慮した住宅改修を行うことで在宅生活が継続できたため報告する。
【方法】 平成21年1月住宅改修完成時点の情報として、対象は40代男性、3人暮らし。社会資源は身体障害者手帳2級、介護保険要支援1、介護サービスとして週1回半日のデイサービスを利用していた。生活状況として、ADLは完全自立、自宅内移動は膝装具を両膝に装着し4点杖歩行自立。外出は自分で車を運転し行い、外出先では車椅子を使用し移動していた。転倒歴は多く、月に1回以上転倒していた。平成20年8月食堂にて転倒し腰椎の圧迫骨折をしたことにより転倒への不安が更に増加したため、住宅改修を行うこととなった。相談者の希望は、プライバシーを確保したい、安心して生活できる環境を獲得したい、車の運転が継続したいであった。
【説明と同意】 研究協力症例に対し説明を行い、文章にて同意を得た。
【結果】 改修前の居室は来客の多い台所横であったため、プライバシーに配慮し居室の位置を移動した。床面は滑りやすい畳から、保温と転倒時の衝撃の緩和を考慮し杉板に変更した。新しい居室から浴室までの段差解消を行った。外出を容易にするため玄関の形状の変更と手すりの設置を行った。また、身体機能が低下し、車椅子生活となった場合の段階的な改修の提案も行った。以上により改修後3年以上経過した現在もADL自立の状態で車の運転も継続できている。身体機能にも大きな低下はなく、新たな住宅改修も行っていない。社会資源に関しても全く変化はない。
【考察】 今回の住宅改修により生活動線は長くなっているが、プライバシーは確保され外出もしやすくなったことで活動性の高い前向きな生活が保たれ、身体機能の低下を最小限にできた。身体機能の予後予測に基づいた段階的な住宅改修を提案したことで、車椅子生活になっても在宅生活が継続できるという安心感を与えることが出来た。
【まとめ】 PTの行う身体機能評価、予後予測、動作分析は利用者の生活の自立度、満足度を高めるための住宅改修や福祉用具の導入にあたり重要な情報である。在宅生活を継続するためには身体面のみならず精神面への配慮も重要であり、それを実現するために専門職が連携することが要求される。生活の多様化により、PTに求められるサービスの質はますます高くなっている。
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加藤 勇気, 小山 総市朗, 平子 誠也, 本谷 郁雄, 田辺 茂雄, 櫻井 宏明, 金田 嘉清
セッションID: O-31
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【はじめに】 動的バランス能力低下を引き起こす要因として、足底感覚の低下が報告されている。その機序の一つとしては、機械的受容器の非活性化が示唆されている。臨床では、機械的受容器の賦活にタオルギャザーや青竹踏みが用いられている。しかし、刺激量が定量化できない事、随意運動が不十分な患者では施行できない事が問題となっている。近年、経皮的電気刺激(transcutaneous electrical stimulation以下TES)を用いた機械的受容器の賦活が報告され始めている。本手法は、刺激量が定量化でき、随意運動が不十分な患者でも施行できる利点がある。過去報告では、下腿筋群に対する運動閾値上のTESによって、足底感覚と動的バランス能力の改善を認めている。しかし、感覚鈍麻を認める患者においては、可能な限り弱い強度での電気刺激が望ましい。本研究では、足底に対する運動閾値下のTESによって動的バランス能力が向上するか検討した。
【方法】 対象は健常成人17名(男15名、女3名、平均年齢24.6±3.2歳)とし、10名をTES群、7名をコントロール群に分類した。TES装置はKR-70(OG技研)を用いた。電極には長方形電極(8㎝×5㎝)を使用し、足底、両側の中足骨部に陰極、踵部に陽極を貼付した。TESは周波数100Hz、パルス幅200us、運動閾値の90%の強度で10分間連続して行った。コントロール群は10分間安静を保持させた。動的バランス能力の評価にはFunctional Reach Test(FRT)を用いた。FRTの開始姿勢は、足部を揃え上肢を肩関節90°屈曲、肘関節伸展回内位、手関節中間位とした。対象者には指先の高さを変えない事、踵を拳上しない事を指示し、最大前方リーチを行わせた。測定は2回行い、その平均値を算出した。統計学的解析は、各群の介入前後の比較に対応のあるt検定を用いた。本研究の実施手順および内容はヘルシンキ宣言に則り当院倫理委員会の承諾を得た。対象者には、評価手順、意義、危険性、利益や不利益、プライバシー管理、目的を説明し書面で同意を得た。
【結果】 TES群は介入前FRT 34.6±3.2㎝、介入後36.9±3.2㎝と有意な向上を認めた。一方で、コントロール群は介入前34.3±1.9㎝、介入後34.6±2.0㎝と有意差は認められなかった。
【考察】 足底に対する運動閾値下のTESは、動的バランス能力を向上させた。過去の報告で用いられた下腿筋群に対する運動閾値上のTESの作用機序としては、筋ポンプ作用によって末梢循環が改善され、機械的受容器が賦活されたと示唆されている。したがって、本研究における運動閾値下のTESの作用機序は異なるものであると考えらえる。運動閾値下のTESは、刺激部位の機械的受容器や上位中枢神経系の賦活が報告されている。機械的受容器の感受性改善は、足底内での細かな重心位置把握を可能とし、上位中枢神経系の賦活は、脊髄反射回路の抑制によって協調的な動作を可能にすると考える。今後、足底に対する運動閾値下のTESと重心動揺、上位神経系との関係を明らかにすることで、動的バランス能力向上の機序がより明確になると考える。
【まとめ】 本研究によって足底に対する運動閾値下のTESが動的バランス能力を向上させることが示唆された。
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畔川 慎一, 北澤 修一, 中川 香, 松本 和真, 上田 佳苗, 中川 一博, 北出 一平
セッションID: O-32
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 直線偏光近赤外線(Linear Polarized Near-infrared Ray:LPNR)照射は、鎮痛等を目的とした星状神経節照射・局所照射の効果や皮膚創傷の治癒促進効果が報告されており、整形外科やペインクリニック等の領域で多く利用されている。しかしながら、これまでの研究報告は疼痛緩和等に関するものが多く、関節可動域が改善するか否かに関して検討した報告は少ない。今回、慢性腰痛疾患患者3例の圧痛部位に対してのLPNR照射を介入することで腰椎および股関節の可動域に変化を認めるかをsingle case designを用いて検討した。
【方法】 対象は、脊柱の手術既往や急性腰痛をのぞいた慢性腰痛疾患患者3例とした。症例1(34歳、男性)、症例2(64歳、女性)および症例3(71歳、女性)の3症例にはABA’B’デザインを使用し、1週ごと(3回/週)に腰部伸展筋群に対するストレッチングと腰椎椎間関節に対するモビライゼーションを加えた治療(SM)とSMにLPNR照射を加えた治療(SML)を交互に全4週間施行した。治療時間は両治療いずれも計20分間とした。LPNR照射は、スーパーライザーPX Type2(東京医研株式会社)を用いて、プローブC type、出力80%および照射時間7分間の設定で腹臥位にさせた対象者の圧痛部位に対して照射を加えた。関節可動域測定は、腰椎および股関節の屈曲伸展とした。疼痛の評価は痛み対応電流値およびnumerical rating scale(NRS)にて評価した。従属変数は各評価項目、独立変数はA、A’期をSM、B、B’期をSMLとした。各測定は、各介入前の3回/週とし、計12回とした。解析は各評価項目と時間経過をグラフ化し、slope分析を使用して、従属変数の変化傾向と定量的数値を判定した。なお、対象者には実験の趣旨を十分に説明し、同意を得た上で行った。
【結果】 全症例ともにAA’期に比べBB’期で痛み対応電流値およびNRSのslope値は低値傾向を認め、股屈曲および腰椎屈曲角度のslope値は高値傾向を認めた。しかしながら、腰椎伸展および股伸展角度に関しては、全症例ともに全期において著しいslope値の変動は認めなかった。
【考察】 先行研究では、温熱刺激またはストレッチングのみではコラーゲン線維の伸張性を認められず、温熱刺激とストレッチングの併用により有意な伸張性向上を認めたと報告されている。今回、徒手療法にLPNR照射を加えたことにより、組織が加温され疼痛の軽減とともに徒手療法による筋伸張効果が増幅され屈曲方向への可動域の改善を認めた可能性が考えられる。
【まとめ】 筋筋膜性腰痛患者に対する徒手療法にLPNR照射を加えることで、疼痛緩和とともにより腰椎および股関節の可動性の向上を図ることができたと考えられる。
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吉田 千尋, 水口 且久, 菱田 実, 塚本 彰, 開 千春, 長谷田 泰男
セッションID: O-33
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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【目的】 急性期の入院患者に対し、ベッドをギャッチアップ(以下、G-Up)する事が早期離床や呼吸ケアの観点から重要だとする報告は多い。しかし、褥瘡の発生要因は「応力(圧縮応力、せん断応力、引っ張り応力)×時間×頻度」とされ、特に圧縮応力に関しては40㎜Hg以上の圧を長時間かける事が望ましくないとされていることから、G-Upが仙骨部の褥瘡の発生や悪化を助長するとして病棟で敢行されていないことがある。そこで今回、必要な患者に対し病棟で適切にG-Upを実施するために、G-Up角度と時間の経過が仙骨部の圧縮応力・ずれに与える影響について検証し、今後の課題について若干の考察を加えて報告する。
【方法】 本研究の趣旨に賛同し同意を得た健常者12名(男性5名、女性7名、年齢27.9±5.3)を対象とした。マットレスには株式会社八神製作所のサーモコントアマットレス(ウレタンフォーム製)、仙骨部の圧測定には株式会社ケープ社の携帯型接触圧力測定器PalmQを使用した。足側拳上角度を20°とし、頭側拳上角度を30°、45°、60°でそれぞれ2時間行い仙骨部にかかる圧を測定した。なお、圧測定は3回測定し平均値を記録した。また、ずれの測定は乳様突起と足関節外果にランドマークし、頭側のずれをベッド上端から乳様突起、足側のずれをベッド下端から足部外果までの距離を測定した。手順は被験者の上前腸骨棘とベッドの屈曲点を揃えた位置で背臥位となり、足側拳上→頭側拳上→背抜き→頭側下降→足側下降→背抜きの順で行なった。
【結果】 仙骨部圧が40㎜Hgを超えたのは、背臥位時もしくは足側下降時のみであり、どのG-Up角度においても2時間以内に40㎜Hgを超えることはなかった。ずれの距離はG-Up角度が大きい方が頭側、足側ともに増加する傾向にあった。また、どの角度でも背抜きの前後で被験者の疼痛の訴えが軽減し、仙骨部圧の有意な低下がみられたが、40分以降には踵や殿部、肩甲骨での疼痛の訴えがみられた。
【考察】 今回の結果、本研究のG-Up方法では、2時間以内に仙骨部に褥瘡発生の危険性があるとされる40㎜Hg以上の圧がかかることはなかった。しかし、G-Up角度の増加によりずれの距離が増加した事から、ずれ力による褥瘡発生の危険性が示唆された。また、背抜きにより仙骨部圧が軽減した事や40分以降に疼痛の訴えがみられた事から、40分以内であれば病棟でもG-Upを敢行できる患者がいると考えられた。今後は、疼痛の訴えがあった部位の圧の把握と、対象を患者とした場合の検討が必要と考えられた。
【まとめ】 G-Up角度と時間の経過が仙骨部の圧縮応力・ずれに与える影響について健常者を対象に検証した。結果より、2時間以内のG-Upでは仙骨部圧は40㎜Hgに達しないが、ずれの増加がみられた。本研究のG-Up方法では40分以内であれば、病棟でもG-Upを敢行できる患者がいると考えられた。今後は、疼痛部位の圧の把握と、対象を患者とした場合の検討が必要と考えられた。
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鈴木 健規, 佐々木 嘉光, 松浦 康治郎, 小澤 太貴, 榑林 学, 高橋 正哲
セッションID: O-34
発行日: 2012年
公開日: 2013/01/10
会議録・要旨集
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整形外科領域における体外衝撃波療法(ESWT)は、1988年にドイツで初めて偽関節に対する治療が行われ、1990年代には石灰沈着性腱板炎、上腕骨外上顆炎、足底腱膜炎などの難治性腱付着部症に対する除痛治療として、欧州を中心に普及してきた。本邦では難治性足底腱膜炎を適応症として2008年に厚生労働省の認可がおりて臨床使用が可能となり、当院では2011年10月に国内9台目となる整形外科用体外衝撃波疼痛治療装置を設置した。今回、足底腱膜炎に対しESWTを実施した症例を経験したので報告する。
【方法】 〈体外衝撃波疼痛治療装置の概要〉 体外衝撃波疼痛治療装置は、ドルニエ社製Epos Ultraを使用した。電磁誘導方式で照射エネルギー流速密度は0.03~0.36 mj/㎜
2と7段階に可変式である。照射方法は基本的に超音波ガイド下に正確に病変部(腱付着部)への照射を行う。Low energyより始めて徐々に出力を上げ、痛みの耐えられる最大エネルギーで照射を行う。当院では整形外科医師と理学療法士がチームとなり、Visual analogue scale(VAS)を、照射前、照射直後に測定した。
〈症例〉 58歳男性、運動は週3回行っており、平成23年1月にジョギング中に右足底に疼痛出現。同年6月に100キロマラソンに2度出場した結果、疼痛増悪。近医受診し、右足底腱膜炎と診断され、ステロイド注射等の保存的治療を受けた。また、接骨院へも通院したが改善せず、同年11月ESWT希望し当院受診。平成24年3月までに5回実施した。自己管理型質問票により疼痛と活動制限レベルを4段階で示したRoles and Mausdley score(以下RM score)では、最も低い活動レベルのPoorであった。1回目を照射レベル3、総衝撃波数5,000発、総照射エネルギー396mj/㎜
2で実施した。2回目以降、総衝撃波数を5,000発、総照射エネルギーを1,300mj/㎜
2までとし、2回目を照射レベル5で実施。3~5回目を照射レベル6で実施した。
【説明と同意】 ESWT実施前に期待される治療効果と副作用の報告について口頭および書面を用いて説明し、本人の同意を得た。
【結果】 歩行時VASは、照射1回目の治療前42㎜、治療後26㎜。2回目は治療前10㎜、治療後9㎜。3回目は治療前10㎜、治療後4㎜、4回目は治療前10㎜、治療後2㎜、5回目は治療前0㎜であった。朝の1歩目のVASは1回目聴取できず、2回目17㎜、3回目10㎜、5回目14㎜であった。また、3回目以降では連続歩行可能となった。4回目以降は15㎞程度のランニングが可能となっている。最終的なRM scoreはGood(時折不快感)であった。
【考察】 先行研究によると、足底腱膜炎に対する除痛効果は1回照射より複数回照射の方が除痛効果は持続するとされており、本症例においても同様の結果であった。今回、RM scoreでGoodとなったが、朝の1歩目の疼痛は残存した。足底腱膜へのストレスが増大する要因として下腿三頭筋の疲労による伸張性低下もそのひとつとして考えられるとされており、ESWT実施後、下腿三頭筋のストレッチを行うことで朝の1歩目の疼痛が軽減するか否かが今後の検討課題として挙げられた。
【まとめ】 足底腱膜炎に体外衝撃波を行い、ランニング可能となった。
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