東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-70
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治療にあわせて理学療法を実施し自宅退院に至った高齢者非Hodgkinリンパ腫症例
*森坂 文子森嶋 直人岩崎 年宏
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抄録

【目的】 非Hodgkinリンパ腫(以下NHL)の局所侵襲による症状として上大静脈症候群、下腿浮腫、胸・腹水、神経症状などがある。通常、機能障害やADL・QOLの低下をきたすとリハビリテーションが依頼される。当初はNHLと診断されておらず、リンパ浮腫や廃用症候群に対してリハビリテーションが開始されるケースや診断後でも治療段階であることが多い。今回、NHLにより下腿浮腫を生じ、疼痛・可動域制限・筋力低下・ADL制限を呈した症例の入院中、自宅退院までの理学療法(以下PT)を経験した。治療経過・PT進行状況に考察を加え報告する。
【方法】 NHL(diffuse large B cell)と診断された79歳女性。既往歴は頚椎症性脊髄症(保存療法)がある。3年前より両下肢の腫脹・浮腫が出現、近医受診し抗性剤内服にて経過観察を続けていたが改善しないため当院心臓血管呼吸器外科を受診。リンパ浮腫・蜂窩織炎・うっ滞性皮膚炎として治療開始され、全身状態不良のため当院入院となった。入院1週間後にリンパ生検にて悪性リンパ腫疑いとなり、ステロイド投与が開始された(第1病日)。以後血液内科管理下となり、上記診断されCOP療法施行。第8病日よりPTが依頼され、NHL・廃用症候群に対してPT開始となった。NHLの病期stageⅣB、Performance Status3、LDH1,982と高値であり、国際予後因子が4点と高危険群であった。発熱(38.8℃)や右鼠径リンパ節・傍大動脈リンパ節の腫脹、肝・脾の腫大が認められていた。両下腿以遠の疼痛、両下肢の筋力低下(MMT1~2)を認め、Barthel Indexは初回評価時20点でありほぼ寝たきりの状態であった。第17・第36病日にR-CHOP療法が施行され、自宅退院を目指したADLの向上が求められた。PT施行時は、全身状態・血液検査の結果・自覚症状などを考慮しながら、関節可動域・筋力訓練、離床訓練、車椅子乗車・立位・歩行訓練を進めていった。
【結果】 初回R-CHOP療法施行前に歩行訓練まで開始することができた。その後も化学療法の副作用に注意しつつ全身状態に合わせてADL訓練を実施した。Barthel Index75点、屋内伝い歩きレベルとなり、第51病日に自宅退院した。
【考察】 本症例のPT開始時のADLが低下していた要因として廃用性要素、疾患による発熱、両下肢浮腫などが考えられる。宇田川らの報告では高齢者NHLの予後不良例は多く、stageⅣの4症例の経過として一時はADL訓練を進められていたが状態悪化にて全例が入院中に死亡している。今回、疾患に対する治療効果の発現にあわせPTを施行でき、ほぼ寝たきりの状態から屋内伝い歩きレベルとなり自宅退院に至った。PT実施時は化学療法開始前から活動量を高めておくこと、発熱や感染など化学療法による副作用に注意することを念頭におき、重篤な合併症を生じることなく行えた。
【まとめ】 国際予後因子が高危険群であったNHL症例の入院中のPTを経験した。全身状態、治療効果に合わせてPTを進行し自宅退院に至った。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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