東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: S-11
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主題演題
脂質代謝亢進時における下肢筋活動と歩行周期の変化による歩行継続への適応性の考察
*鈴木 啓介西田 裕介
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抄録

【背景】 歩行継続の阻害因子として、糖の枯渇が報告されている。長時間の歩行では糖代謝に代わるエネルギー供給として脂質代謝の亢進が認められる。脂質代謝は主にタイプⅠ線維にて行われ、筋によりタイプⅠ線維の含有量は異なる。つまり、エネルギー供給を維持するためには柔軟に筋の活動を変化させる必要がある。また、活動する筋の変化が動作に影響を与えている。そこで、本研究では脂質代謝の亢進を‘エネルギー効率の向上’と定義し、3人の対象者のデータを基に脂質代謝亢進前後の下肢筋活動、歩行周期の変化から、歩行継続への適応性について考察する。
【対象と方法】 対象は健常成人男性3名とした。なお、対象者には研究内容及び倫理的配慮について説明を行い、研究参加の同意を得た。プロトコルは安静座位5分、時速4.5㎞/hでの練習歩行5分行い、同速度にて90分間の歩行を実施した。代謝の分析には呼気ガス分析装置を使用し、呼吸交換比を算出した。筋協調性と筋活動量の分析には表面筋電図を使用し、前頸骨筋、内側腓腹筋、ヒラメ筋、大腿直筋、内側広筋、半腱様筋、中殿筋を対象筋とした。計測したデータより構成要素の数と、解剖学的筋グループの一致率を筋協調性の指標として用いた。また、筋活動量の指標として筋積分値を算出した。歩行周期の分析には3軸加速度計を用い、重心の左右、上下、前後の最大リアプノフ指数を算出した。データ解析は歩行開始10分間と歩行終了前10分間のデータを用い、筋積分値と最大リアプノフ指数は開始10分間を基準とし、変化率を算出した。
【結果】 呼吸交換比は歩行開始10分=0.85、終了前10分=0.81となり終了前では脂質代謝が亢進した。構成要素の数は歩行前後共に4であり、変化は認めなった。解剖学的筋グループの一致率は大腿四頭筋にて歩行開始10分=77.7%、終了前10分=88.0%、下腿三頭筋にて歩行開始10分=94.4%、終了前10分=96.0%と歩行終了前では各筋グループの協調性が亢進した。筋積分値の推移は、大腿直筋=-24.7%、内側腓腹筋=-8.3%、と2筋にて低下し、終了前10分の筋活動量が低下した。最大リアプノフ指数の推移は左右=-8.7%、上下=5.1%、前後=-10.3%であり、左右、前後で低下し、終了前10分の歩行の周期性は安定化した。
【考察】 本研究において脂質代謝亢進時には解剖学的筋グループの筋協調性亢進、大腿直筋、腓腹筋の活動量低下、歩行周期の安定化が認められた。歩行継続時には脂質代謝を亢進させるために、筋の協調性を亢進させ、必要な筋力を相補的に補うことで、糖代謝を行うタイプⅡ線維が豊富な大腿直筋や腓腹筋の活動量を低下させ、相対的にタイプⅠ線維の豊富な内層筋の筋活動を向上させたと考えられる。また、筋協調性を亢進させ動作の自由度を制限することで、歩行周期を安定化させたと考えられる。
【まとめ】 歩行の継続時には、エネルギー効率を向上させるために解剖学的筋グループの協調性を亢進させ、適応している可能性が示唆された。また、筋協調性の亢進に伴い、歩行の周期性が安定化する可能性が示唆された。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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