抄録
遺伝子変異によって糖加水分解酵素のアミノ酸配列に置換が起こると、酵素のフォールディングが正常になされず、本来機能する場であるライソゾームまで運搬されない。この結果、糖脂質などの基質が代謝されぬまま細胞内外に蓄積してしまい、さまざまな疾患を引き起こす。これはライソゾーム病と呼ばれ、有効な治療法が切に求められている難病である。変異酵素に可逆的に結合してその構造を安定化させる低分子(薬理学的シャペロン化合物)を投与し、ライソゾームへの運搬を促進することでライソゾーム病を治療しようとする、シャペロン療法が提唱され、研究されている。筆者らも薬理学的シャペロン化合物の一つであるバリエナミン誘導体を創製、開発してきた。しかし、当初の合成法は光学分割を必要とするものだったため、ヒドロキシ基の絶対配置がバリエナミン類のそれに類似している、光学活性なクエルシトール類を原料に用いる簡易合成法を開発した。一方、薬理学的シャペロン化合物は変異酵素にはまり込む必要があることから、これまでに発表されたシャペロン化合物の多くは糖加水分解酵素阻害剤を基にデザインされており、実際に阻害活性を有する。筆者らのバリエナミン誘導体も強い阻害活性を示している。酵素活性上昇を目的とするライソゾーム病治療薬としては、強力な阻害活性はできれば除きたいと考え、糖残基に対応する主環部分をバリエナミン構造からコンデュラミン構造へと単純化させることで、阻害活性の低減化を試みた。さらに、酵素活性上昇効果をより増加させるため、側鎖部分の構造活性相関を行った。結果、シード化合物よりも阻害活性が低下し、かつ酵素活性上昇効果がアップした新規薬理学的シャペロン化合物を見出すことができた。