2020 年 32 巻 188 号 p. J93-J98
糖鎖がもつ3次元立体構造(コンフォメーション)の多様性は、それらの生物学的機能に必要不可欠である。分子動力学—MD (Molecular Dynamics)—シミュレーションは、実験で捉えることが難しい生体分子の立体構造を原子解像度で描き出す。しかしながら、糖鎖の構造は際立って複雑かつ柔軟なため、MDシミュレーションも容易でない。本稿では、効率的な構造探索法を用いた糖鎖MDシミュレーションの最近の取り組みをまとめる。MDシミュレーションにより、糖鎖そのものに加え、複合糖質や糖鎖複合体の多様な立体構造が原子解像度で明らかになってきた。シミュレーションは、実験結果の解釈に留まらず、実験を予測し糖鎖構造–機能相関の研究を牽引する手段となりつつある。本稿が、シミュレーションと実験の新たな統合研究のきっかけになれば幸いである。