時間学研究
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「ヴァナキュラーな暦」としての自然暦
杉原 学
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2016 年 7 巻 p. 47-56

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抄録

日本において、近代的な暦として太陽暦が導入されたのは1873年の改暦からであり、現在も定時法とともにこれが用いられている。だがこの均質的な時間は、人間を「労働力商品」として交換可能な存在にし、産業社会における人間疎外の問題を生み出している。  一方で、人類にとって最も原初的な暦と言われるのが自然暦である。自然暦は地域ごとの自然と人間の共同性に基づいた「風土的な暦」であり、バーナード・ルドフスキーやイヴァン・イリイチらによって提示された概念を用いれば「ヴァナキュラーな暦」として読み直すことができる。  ヴァナキュラーは「風土的」「土着的」などと訳され、商品の対立概念として用いられる。よって「ヴァナキュラーな暦」としての自然暦の時間は、商品化されない時間を意味する。それは非均質的な時間であり、交換不可能な時間である。地域ごとの風土性に由来する「ヴァナキュラーな暦」としての自然暦は、市場経済によって疎外された人間性を回復する可能性を内包しているように思われる。  本稿では産業社会批判の用語としてのヴァナキュラーの概念を援用し、自然暦を「ヴァナキュラーな暦」として読み直すことで、現代社会における自然暦の意味を改めて問い直したい。

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© 2016 日本時間学会
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