抄録
狂犬病ワクチンの接種を受けてなお発症した例では, しばしば潜伏期が短いという現象が知られておりearly deathといわれている。その機序解明のために, 本研究では, 実験動物を用いて感染後発病阻止実験を行い, この現象を再現し, 形態学的検討を行った。
街上毒狂犬病ウイルス (104.8LD50) を実験動物 (ハムスター, ウサギ)に感染後, ワクチンあるいは各種免疫段階の血清を一定期間毎に接種し, 明確な臨床症状を呈した時点で致死せしめ, ホルマリン固定後, 中枢神経各部位について, 螢光抗体法, HE染色法, LFB染色法による検索を行った。
その結果, ワクチン接種群では, ハムスター (P<0.01) ウサギ (P<0.05) ともに潜伏期の有意な短縮が認められ, この現象を再現することができた。免疫初期血清 (抗体価NT=102.2) 接種群では潜伏期の僅かな短縮が, 免疫後期血清 (抗体価NT=104.2) 接種群では延長の傾向が認められた。発症時点で螢光抗体法により検索した脳内ウィルス抗原量は, early deathを呈した動物では, 対照群に比し著明に低下しており, ウイルスによる直接的細胞障害の他に, 免疫学的機序による障害が関与していると考えられた。
組織学的検索の結果, early death群では対照群に比し, 灰白質の障害よりも, 髄膜, 血管周囲への炎症所見が強く認められたが, 封入体は少なかった。脱髄巣は認められなかった。補体C3の血管周囲への沈着が認められるものもあったが, 対照群に比し有意な差ではなかった。IgG, IgM, 補体C3の細胞内沈着は証明されなかった。