抄録
Pnaumocystis carinii (Pc) 肺炎の患者の喀痰, および気管支肺胞洗浄液 (BAL) と, Pc肺炎で死亡した患者の肺を, 喀痰液化剤・dithiothreitol (Sputasol・Oxoid) で処理した後, Gomori's methenamine silver nitrate (GMS) 染色を施し, 無処理のコントロールと比較検討した。方法 : (1) 喀痰の5倍量のSputasolを加え, 37℃の水浴中あるいは孵卵器内で10分間振盪して液化。BALでは直接3,000rpm, 10分間遠沈後多量の粘液性沈渣がある場合, これの5倍量のSputasolを加え喀痰と同様の操作を行う。肺は細切後ガーゼ濾過し, 充分量のSputasolを加える。 (2) 3,000rpm10分間遠沈。 (3) 沈渣をピペットでよく混和した後スライドグラスに塗抹し, 風乾後GMS染色を施して400倍と油浸下で観察。また, 肺の沈渣はグルタールアルデヒドで固定後, GMS染色を行い, オスミウムで後固定, ウラニル・鉛で重染し, TEMで観察。結果 : 嚢子壁およびPcに特異的に認められる括弧状構造物の染色性はコントロールに比べ差異はなかった。コントロールの喀疾およびBALの沈渣塗抹標本では, 厚い部位のPcの染色性は弱く, 同一標本上で染色性のぼらつきを認めたが, Sputasol処理標本では均一な厚さに塗抹されており, ばらつきは少なくPcを検出し易かった。Sputasol処理の沈渣塗抹量は, コントロールの直接塗抹量に比べ非常に少量になるため, 標本枚数が少数で済み, 鏡検時間が短縮された。GMS染色を旋したPc嚢子のTEM像では, 嚢子壁の内部への肥厚部に多くの銀粒子の沈着が認められ, この肥厚部が光顕で観察される括弧状構造物と一致するものと思われる。以上の結果から本法はPc肺炎患者の喀痰, 気管吸引物, BAL等の材料からPcを検出する場合, 集シスト法として操作が比較的簡単で良い方法と考えられる。