抄録
カンテツFasciola Repaticaについては, 初回の感染によって, 宿主動物の再感染に対する防御免疫が強く発現されることが知られている。しかし, 分類学的位置づけが未だ不明確な日本産カンテツに対する宿主の防御免疫についての研究は極めて少ない。今回は, 日本産カンテツによる初感染後6~11週目にラットを再感染させたところ, 6~9週目の再感染群では, 対照群 (Challenge control) に比べて, 有意の虫体排除が認あられた。しかし, この防御免疫能は初感染から10週以降になると次第に低下し, 11週後では対照群との間に差異を示さなかった。この防御免疫効果を調べるたあ, 幼若虫体をDiffusion chamberに入れ, ラット腹腔内移植による感作を行い, 移植3週後に再感染を試みたところ, 防御効果が観察された。しかし, 虫体のみの移植群に比べると, その効果は低い傾向を示した。このことは, 虫体のみ移植群において, 移植虫のラット肝臓内穿入による刺激が, 何らかの形で強い防御免疫の発現に関与していることを示唆するもので興味深い。また, これらのラット血清をOuchterlong法で調べたところ, 虫体のみ移植群ではChamber移植虫群より, 多くの沈降線が出現し, 抗体産生の面でも両群間に違いがみられた。一方, 血清蛋白画像は両者間で大差なく, いずれも虫体移植, 再感染を通して, かなりの変動を示した。次に, ラットの再感染防御免疫に対する免疫抑制剤 (DexamethazdneとPredonisoloneの併用) の影響を調べた結果, 免疫抑制群では, 対照群と同様の虫体回収を示した。したがって, これらの抑制剤は今回の防御免の発現を著しく抑制することが明らかになった。また免疫抑制群では, Ouchterlongによる沈降線の出現は皆無であったのに対し, 非免疫抑制群では, 初感染から2週目以降に多数の沈降線が出現した。免疫抑制群の蛋白分画ではr-globulin値が著しく低下し, 非抑制群との間に大差を示した。以上の結果は, ラットのカンテツ再感染防御機構を調べる上で, 一つの手がかりを与えるものといえよう。